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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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スピード出世

 お義父さんをお見送りした後、俺はフィーロたんの方を見ますぞ。

 するとフィーロたんは小走りに部屋へと走って行ってしまいました。


「槍の人以外の誰か! フィーロと一緒に寝よー!」

「ブー……」

「ええ、そうでしょうね」


 く………怠け豚が何を言ったのかわかりませんぞ。

 こうして俺達はお義父さんが出かけたのを見届けた後、家で留守番をする事になりました。


 お出かけを禁止されたのでコレと呼べるほどする事は無く暇ですな。

 なので俺はフィーロたんが入って行った部屋の前に椅子を配置して待機しますぞ。


 懐かしいですな。

 フィーロたんの愛に初めて気付いた晩……お義父さん達が出て来るのを今か今かと待ったあの日を思い出しますぞ。


「あの……槍の勇者、何をしているんですか?」


 お義父さんが帰ってくるまで待つ事にしたお姉さんがやって来て、俺に尋ねました。

 最初は腕立て伏せや懸垂をしておられたのですが……その訓練は終わったのですかな?

 最近のお姉さんはお義父さんの行商の手伝いとして魔物の素材の加工等にも携わっている様でした。


 そう言えばお姉さんは行商時の余裕がある時はその辺りの作業をしていたとか聞きますな。

 後は魔法の訓練ですが、それも最近は大分軌道に乗ってきておりますぞ。

 お義父さんは俺の翻訳した文字を習得し、魔法に関しても勘を掴んでおられます。

 お姉さんは、お姉さんのお姉さんのお陰で素早く習得出来たのですぞ。


「フィーロたんをいつでも守れる様に待機しているのですぞ」


 今回のループは何かもが謎に包まれています。

 いつ何が起こるかわかった物ではないですからな。


 おや? 室内から何かドタバタと言う音が聞こえますが、大丈夫ですかな?

 入るなと注意されているので俺は入る事が出来ませんぞ。

 前に覗こうとしたら怒られましたからな。

 お姉さんが室内に入って行きますぞ。

 聞き耳を立てますかな?


「部屋の前に槍の人がいるの!?」

「ナオフミ様の指示で部屋に入って来ませんから……我慢してください」

「やー!」

「フィーロ、駄々をこね過ぎるとまた悪い結果になりますよ。だから穏便に……」

「うー……」


 一体どうしたのですかな?

 あれですかな? お義父さんが居ない事で不安なのかもしれません。

 ですがご安心を。俺がどんな災いからも守って見せますぞ!

 やがてお姉さんが部屋から出てきました。


「槍の勇者、ここから離れる事は出来ますか?」

「無理ですな。俺は愛の狩人ですぞ。お義父さんのいない間、フィーロたんの危機に駆けつける義務がありますからな」

「機会を窺うという意味で狩人なんですね……」


 お姉さんが深いため息を漏らしました。

 仰っている意味がよくわかりませんな。

 機会を窺うとはどういう意味ですかな?


「フィーロの安眠を刺激しない様にお願いしますね」

「もちろんですぞ!」


 俺はフィーロたんを守りたいのであって、害を与えるつもりなどありません。

 むしろ害を与える存在を排除する為にここにいると言っても過言ではありませんぞ。

 そうしてお姉さんは戻って行きました。

 コッチコッチと時間は流れて行きますぞ。


 ああ……フィーロたんの近くに居られると思うと、それだけで楽しい時間ですな。

 フィーロたんは見えませんが、室内でフィーロたんがどのような事をしておられるのか、想像するだけでワクワクしてきますぞ。

 スヤスヤと寝息を立てているのか、それともお義父さんが帰ってくるまで窓辺で憂鬱そうな顔で夜空を見上げておられるのか。

 確認するまで中がわからない。

 ウフフ、ですな。


 そんな楽しげな時間はあっという間に過ぎ、朝靄が漂い始めた頃……お義父さん達は帰ってきました。

 静かに家の扉を開けて入ってきましたな。

 就寝中の者達へのお義父さんが無意識に行っている配慮ですな。

 こう言った些細な気遣いが出来るのがお義父さんの素敵な所ですぞ。

 ですがお姉さんや怠け豚を初めとした一部の者達は起きて待っていた様ですな。


「ただいま」

「おかえりなさい。ナオフミ様、サディナ姉さん」

「お義父さん、お帰りなさいですぞ」


 俺はお義父さんが帰ってくるのを確認してからフィーロたんの部屋の前から去って出迎えました。

 ちなみにフィーロたんは御一緒に添い寝(羨ましい)をした村の者達曰く、何やらうなされていたらしいですな。

 怖い夢なら起こして上げれば良かったのではないですかな?

 そう後日言ったら起きても悪夢だったからと返されてしまいました。

 何が悪夢なのでしょう?

 その原因を俺がぶっ飛ばしてやりますぞ?


「ブー」


 怠け豚が欠伸交じりにお義父さんに尋ねますぞ。

 お義父さんは手土産とばかりに夜店で売っていたらしき蒸し饅頭を沢山持って来てドンとテーブルに置きました。

 一人一個と言った感じでしょうな。

 俺の分をフィーロたんに捧げれば好感度アップになりますかな?


「ああ、行く時に話した通りの内容だった。ただ、悪い方のニュースは事件性の高い物だった。ゼルトブルも物騒だな」

「というと?」


 お姉さんが尋ねますぞ。


「何でもゼルトブルで奴隷商とライバル関係にある権力を持った奴隷商人が殺されて発見されたらしい。かなり権力を持っていた奴だから、しばらくはこの事を伏せて後処理が終わってから公表されるそうだ」


 お義父さんの話はこうですぞ。

 何でも今日の夕方頃、ゼルトブルに豪邸を築く商人が屋敷内で惨殺されて発見されたそうですぞ。

 この商人はかなり用心深く、名のある傭兵を何十人も雇って護衛にしていたのだとか。

 その護衛すらも同様の末路を歩んだそうですぞ。

 沢山の護衛を抱えている名のある商人が短い時間で犯人に惨殺された、という事件故に闇の商人ギルドに震撼が走り、こうして緊急会議が開催されて情報の共有が行われたとの話ですな。


「随分と恨みを買っていそうな方ですね」

「ブー」

「まあ……お姉さんも風聞を聞いたけど良くは無いわねー。ただ、お金には素直で度量もそれなりにあったそうよ」

「あって当然だ。それくらいでなければゼルトブルで一目置かれる様な奴にはなれないだろう。で、俺はその後釜と言うか、空席に置かれるのが決まったって話でもあるんだが……」


 おお、大出世ですな。

 予定通りクラスアップ祭が開催される事になるという事でしょう。


「奴隷商とアクセサリー商、それとエレナの所の家に上手い事担がれた感が拭えんが……利用しない手は無い。明日からクラスアップし放題だ」


 何と言うスピード出世。

 やはりお義父さんはゼルトブルでの商売で大きく稼げる御方ですぞ。

 一生付いて行きますぞ!


「って俺の方は良いとして、話を戻すぞ。殺された商人の件なんだが、状況が不可解でな」

「不可解?」

「ああ、怨恨にしては殺され方に恨みらしき形跡が薄く、かと言って強盗にしては貴金属や金銭の類はほとんど盗られていない」

「怨恨でも金銭目的でもなく、武装した傭兵がいる屋敷に乗り込んで商人を殺して行った人がいる、という事ですか?」

「それが妙だって事で闇のギルド内での会議になった訳だ。同様の犯行が行われる可能性があるかもしれないってな」


 明日は我が身。

 謎の殺人鬼に商人が脅えていると言う事ですな。

 少なくとも、このゼルトブルで活動する以上、多かれ少なかれ誰かに恨みを買っている、という事でしょう。

 何より闇のギルドですからな。


「世界の闇に詳しい商人連中の話だと、他国の騎士団に摘発された場合の殺され方に似た手口だって話だ。作業的な殺しとでも言えば良いのか? だが騎士がやったなら誰がやったのかわかるはずだ」


 騎士は国の犬ですからな。

 連中が動いた時点で関係各所が動いているという事でもあります。

 その動きを闇のギルドが察知出来ないはずが無い、というのがお義父さんの考えらしいですぞ。

 それから何故かお義父さんは俺の方を見ました。


「なんですかな?」

「まあ……元康はありえないな。犯行時刻前後はこの辺りで悪ふざけをしていたし、仮に元康が犯人だったらそんな殺し方はしないだろう」


 ですな。商人を殺す理由なんてありませんからな。

 それこそループなどでお義父さんやフィーロたんを傷付けた、などの蛮行が無ければ殺しまではしませんぞ。

 商人は盗賊の次に金を持っている資源ですからな。

 殺したら意味がありませんぞ。


 仮に殺すとしても、俺なら証拠を残したりはしません。

 ブリューナクで消滅させるか、バーストランスで爆殺してやります。

 あるいは魂だけ滅殺して、抜け殻にしてやりますぞ。

 この三つの手段であれば死体という証拠は出ませんぞ。


「嫌な信頼のされ方ですね」

「俺は無実ですぞ」

「第一声が無実という所に狂気を感じるな」


 お義父さんと怠け豚が揃って溜息を漏らしますぞ。

 なんですかな?

 俺は誠心誠意がんばっているのですぞ!

 そこの所だけでも理解して欲しいですぞ。


「元康が何らかのスキルで分身して俺の出世のために商人殺しをする可能性を僅かに考えたが……」

「必要とあらばやりますぞ」

「するな。そんな手を使う必要性が全くない。どうせ事が収まったら龍刻の砂時計なんて使い放題だし、金を稼ぐのだって今後の事を考えた布石でしかないんだ。ゼルトブルの頂点に収まるつもりは無い」


 お義父さんはあくまで波から世界を救う事を目的にする御方ですからな。

 元々勇者と言う肩書をしっかり使えるようになればゼルトブルでの地位など不要と判断しているのでしょう。


「と言うか分身出来るのか?」

「そのようなスキルに覚えはありませんな」


 あったら強化された霊亀なども俺一人で倒せますぞ。

 残念ながらそんなスキルはありませんがな。


「なら言うな!」


 お義父さんに怒られてしまいました。

 俺は素直に答えただけですのに。


「俺も疑われそうになったが、そこは色々と誤魔化す事は出来たし、腹に一物抱えて無い商人なんていないからな。確実な証拠が無い状況で踏み込む様なヘマをする奴はさすがにいなかった」


 お義父さんが邪悪な笑みを浮かべますぞ。

 とても楽しそうですな。

 お姉さんが心配そうにしております。


「あの……それで、ナオフミ様は何か気になる所があるんですか?」

「まあな。この手口から考えて元康の話す樹に似てる様な気がしてな。元康、心当たりは無いか?」


 お義父さんに尋ねられて俺は今までの記憶などを思い出して考えますぞ。

 樹は正義の味方が好きですからな。

 こうして隠れて悪徳商人を殺すなんて手口をする可能性はゼロでは無いですぞ。

 最初の世界や俺達の仲間ではなかったループなどで悪徳貴族などを退治して周っていた、というのは後々に本人が語った話ですぞ。

 ですが……。


「樹だったら悪さをする商人を勇者の権限で捕縛すると思いますぞ? 実は勇者だった! が樹の手口ですからな」

「そうか……」


 樹にしては手口が残忍過ぎると思いますぞ。

 あやつは正義大好きっ子ですからな。

 他人に悪く見られる様な事をするとは思えませんぞ。

 言ってはなんですが樹の正義はどこか夢を追っている所がありますからな。

 どうしようもないこの世の邪悪の様な存在がいる事を度外視した自称、正義の味方ですぞ。


「まあ、捜査資料と言うか現状で消失しているのが、奴隷やその経歴、契約書類だってのがやや心配すべき案件だが、サディナ曰く村の連中はいなかったらしいから良しとするか」

「奴隷商人を殺して奴隷を奪って行ったのですかな?」

「そうなる。現状だと価値のある奴隷を奪う事が目的って事になるな」


 しかし、メリットは少ないそうですぞ。

 少なくとも闇のギルドに所属している名のある商人を殺してまでする事ではないでしょうな。

 むしろデメリットの方が多いのではないですかな?


「行方の分からない奴隷に関しても、因果応報な奴が商品化されていたらしい」


 お義父さんの話ではこうですぞ。

 ゼルトブルの近隣にある国のとある金遣いの粗い没落貴族が自らの爵位や土地、屋敷などを担保に見栄を張った贅沢の限りをしていたそうですぞ。

 領民から重税を徴収して借金を工面していたのですが、波の影響などもあり、借金を返済できなくなったそうですな。

 しょうがないので領民を売り飛ばそうとした所、領民経由で国の監査が入って犯行が露見、賠償として奴隷商人が借金のカタに引き取ったのだとか。


「ま、そいつは捕縛命令が下っている。奴隷商人繋がりで借金分は働かせなきゃいけないそうだ。他にも女奴隷が重点的にいなくなっているらしい」

「男奴隷はどうなのですかな?」

「護衛代わりに使われていたから全滅だと」


 ふむ……なんともキナ臭い事件ですな。

 ゴシップに使われそうな話ですぞ。


「……ゼルトブルで商人をしていたらそんな奴が乗り込んで来るかも知れないから、十分気を付けておこうって話だ。犯人に関しては独自に調査が入っているし、すぐに特定されるだろう」

「わかりました。私やフィーロ、キールくん達も波は元より、自らを守れる様にがんばりますね」

「それで良い。俺の方も大分稼いだしな。残りの期間はLv上げに専念するとしよう」


 こうしてお義父さんがゼルトブルで出世した件に関してはかなり纏まりましたな。

 クラスアップが出来る様になった以上、後は強化がメインになっていくでしょう。

 ついに俺の槍がみんなのLvを上げる為に火を吹く感じですな。


セブンオールのヒロインの数 +4

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