クレープの木の番人
俺はその晩、ポータルでバイオプラントを配布した村へと足を運びました。
もちろん、クローキングランスにリベレイション・ファイアミラージュを重ね掛けした隠蔽状態での行動ですぞ。
案の定、村はバイオプラントの浸食を受けて避難をしている様ですな。
しょうがないですな。
避難所で苦しんでいる者達には槍から出した治療薬を振り撒きながら進み、侵食された村の者達を全て治療して行きます。
お義父さんがやっていた植物系の技能系の武器は俺も解放済みですぞ。
パッパッパと薬を振った後、バイオプラントの根元にまで行き……。
「リベレイション・ファイアストームⅩ!」
「ギ――!?」
一気に焼き尽くしてやりますぞ。
それでもバイオプラントはしぶとく蠢き始めたので、こんな事もあろうかと用意しておいたお義父さん印の除草剤をばら撒いて根絶してやりました。
パラパラとバイオプラントの種が降ってきましたな。
飛び散る全てを回収し、適度に改造した安全なバイオプラントを無断で埋め直しておきました。
この辺りの配合比率は覚えていますぞ。
俺もフィロリアル様達の食料を簡単に調達できるように最初の世界のお義父さんから教わりましたからな。
「フィロリアル様ー! ご飯の時間ですぞー」
「「わーい!」」
俺の声に反応してフィロリアル様達が後からやって来てバイオプラントが残した食料を貪って行きますぞ。
「な、なんだなんだ!? フィロリアル達!?」
「いや、何か変だぞ?」
「な、何が起こっているんだ!?」
「まさか伝説の神鳥が俺達を救ってくれたとでも言うのか?」
「槍の勇者が持ってきた実をフィロリアル達が……」
「こんな事が起こるのか……まさに神鳥の奇跡じゃないか!」
「神鳥だ! 神鳥様だ!」
何やら村人達が騒いでいますが今はフィロリアル様達ですぞ。
「それではフィロリアル様達、ここから撤退しますぞ」
「うん!」
「かえろー!」
「ごー!」
ドドドと土煙を上げて俺達はその場を後にしますぞ。
後々お義父さんが解決した様に見せるために俺は出来る限り隠れてその場を後にしました。
さて、バイオプラントの回収は簡単に済みましたな。
「さあお義父さん、これで食料問題は一挙解決ですな」
そんな訳でお義父さんにバイオプラントの素材と種を提供しました。
「こんな物どこから仕入れてきたのか……いや、未来の知識で場所がわかっているからなのはわかるが」
「ははは!」
「笑ってないで答えろよ」
「……ブー」
「何? 元康がメルロマルクにばら撒いた植物で困っている村がある?」
お義父さんがバイオプラントの素材と魔物を指差すので俺は頷きました。
ですが怠け豚、俺の立場が悪くなる様な事を言うなですぞ。
もちろんバイオプラントは俺が行なってしまった罪の一つですが、お前に糾弾される謂れは無いですぞ。
「出来る限りばれない様に村の者に治療を施し、処理してからフィロリアル様達に運ばせました」
「幾らアレがばれてないと言ってもポンポン出歩くんじゃない!」
「大丈夫ですぞ!」
「良いから安易にメルロマルクに出入りするな! はぁ……まあ、事が解決してから色々とやって行けば良いか……」
お義父さんは最終的には拠点にしている家の庭にバイオプラントを植えて皆に世話をさせましたぞ。
「さて、お前等! 働かざる者食うべからず。しっかりと強くならなきゃ搾取される立場から抜け出せないぞ」
それからお義父さんは村の奴隷達にお姉さんのお姉さんとフィロリアル様達直伝のスパルタ強化を施しはじめました。
俺はそんな光景を眺めながら……ルナちゃんへ向きました。
キールと思わしき豚と一緒に居ますな。
「じゃあキールくん……ルナと一緒に強くなって変身を覚えよ?」
「ブ? ブブブブブブブヒ」
ルナちゃんがキールを後ろから抱え上げていると、キールが何やらお姉さんに声を掛けて助けを求めるように手を伸ばしていますな。
「えー……ルナさん、どうしてそんなにキールくんに擦り寄るんですか?」
「ん? キタが可愛くなるって教えてくれたから」
「ブブブブ!」
「えーっと……キールくんは男の子ですよ? カッコよくなるんじゃないんですか?」
おや? お姉さんはキールの秘密を知らないご様子。
では話しておいた方が良いですな。
情報は共有しておくべきですぞ。
「お姉さん、キールは豚に変身する犬獣人ですぞ。今は呪われて豚の姿なのですぞ」
「豚……キールくん、嫌な予感がするのでちょっとルナちゃんとこっちへ来てください」
「ブヒ!? ブブブブ! ブヒヒヒブヒ! ブヒャアアア!」
何やらキールが暴れておりますがお姉さんとルナちゃんに連れられて行きました。
どうやら別室で検査される様ですな。
しばらくしてお姉さんが慌てた様子でやってきました。
「ナオフミ様! キールくんが女の子でした!」
「そうなのか? まああの年齢……いや、外見だと性別の差はわかりづらいものだが……」
「槍の勇者が豚と言っていたので確認した所……ナオフミ様もなんとなくわかっているんじゃないですか?」
「……まあな、とりあえず確認しておくか」
お義父さんが何やら興味を持った様に俺の方に来ますぞ。
なんですかな?
お義父さんが俺に興味を持っているのはなんとなく気恥ずかしくなりますな。
思わず照れてしまいますぞ。
「気持ちの悪い顔をするな! で、元康、お前は豚を見抜く自信はあるか?」
「もちろんありますぞ! 豚が多い世の中ですからな」
「エレナは豚なんだったか?」
「そうですぞ」
「で、今のキールも豚と?」
「ですぞ」
……お義父さんは何故か俺を家の外へと案内し、ゼルトブルの商店を指差しますぞ。
それから商人の男を指差しました。
「あれは?」
「人ですな」
次に通りかかる籠を頭に載せた豚を指差しますぞ。
「あれは?」
「豚ですな」
それから今度は亜人の冒険者を指差しますぞ。
「あれは?」
「亜人ですな」
その後ろにいる魔法使い風の衣装を着た豚を指差しますぞ。
「アイツは豚か?」
「ですな」
そして先頭を歩いているハイエナ獣人を指差しますぞ。
思えばゼルトブルは人種の坩堝ですな。
「アレは獣人ですな」
で、最後にフィロリアル様を指差しました。
バイオプラントの実を精一杯食べているプラムちゃんですぞ。
「プラムちゃんですな」
「ふむ……大体基準はわかった。前々から豚とか言っていておかしいとは思っていたが……打ち所が悪いのか、それとも何らかの呪いか、ループの代償かは知らんが……」
「なんですかな?」
「いや……話が通じないのは豚だからなんだな?」
「そうですぞ」
「ラフタリア達と話が通じるのはなんでかわかるか?」
これは以前ループした頃に優しいお義父さんから助言されていますぞ。
なので俺はその通りに言う事にしました。
「フィーロたんの関係者だからですぞ!」
ずばりと答えると何やらお義父さんが深いため息を漏らしました。
「エレナ、フィーロにしっかり餌付けして懐かせろ。じゃないと元康とはもう話が通じないぞ」
「ブー……」
「面倒臭がるな! それとフィーロ、元康の名前を聞いて逃げるな!」
「ぶー!」
何やらお義父さんが怠け豚を俺に認識させようとしている気がしますぞ。
お義父さんには申し訳ありませんが、そんな事をしても無駄でしょうな。
「豚は豚ですぞ。フィーロたんを懐柔しようとしても薄汚れた豚の匂いを俺はしっかりと嗅ぎ分けますぞ!」
「あーもう……面倒くせぇな」
「ナオフミ様、エレナさんと同じ事を言ってます」
「そうだったな……はぁ」
「あらー朝から賑やかね」
どんどん賑やかになってきておりますが、些か家が手狭になりつつある気がしますな。
迅速に新たな拠点の確保が必要だと思いますぞ。
しょうがないのでフィロリアル様達の家はゼルトブルの野山に生息する盗賊の家を借りるとしますかな。
そんな感じで俺達のゼルトブルでの生活は軌道に乗って行ったのですぞ。
お義父さんはその商才を発揮し、立ち所にゼルトブル内で新手の商人として名を馳せて行きました。
いつの間にかフィロリアル様達が目を輝かせて近寄るアクセサリーを販売する商人とも知り合っていましたな。
他にも魔物商とは贔屓の間柄になっている様でしたぞ。
まだゼルトブルに来てそんなに時間が経っていないと思いますがな。
後の問題はそうですなー……。
「お前等は昨日サディナ姉ちゃんと狩りに行っただろ? 今日は俺達だ!」
「いーや! 今日も俺達に決まってるだろ!」
「あらー……」
村の奴隷達がお姉さんのお姉さんを巡って白熱した狩りへのやる気を見せておりますぞ。
これはどういう事ですかな?
「みんな、お姉さんを奪い合うのはやめてー」
「心にも思って無さそうな声音で言うのをやめろ」
「はい。一度言ってみたかったって顔に書いてありますよ。サディナ姉さん」
「そう言いつつラフタリアちゃんもお姉さんと一緒に行きたがるじゃないのー」
「う……」
「ブー……」
なんでこんなにお姉さんのお姉さんの奪い合いが起こっているのかと言うと、Lv上げの狩りに行く際にフィロリアル様達の背に乗って素敵なドライブをするか、お姉さんのお姉さんと一緒に海での狩りをするかの話ですな。
当然、俺はフィロリアル様を推しますぞ。
精神的にもLvの上昇速度からしても、やはりフィロリアル様が一番ですからな。
「俺はフィロリアルは嫌なんだ!」
「フィロリアル様達のどこに不満があるのですかな!?」
「あるに決まってんだろ! あんなん乗ってたら死んじまうよ!」
「フィロリアル様の数奇な乗り心地で昇天してしまう気持ちはわかりますが、それは楽しむ物ですぞ!」
「槍の兄ちゃんは黙ってろ!」
ちなみにキールはLv上げをしてから数日で豚化の呪いを克服して犬になりましたな。
やはりお姉さんのお姉さんがいると覚えが早いですぞ。
しかし、相変わらず口が悪い犬ですな。
俺がせっかくフィロリアル様の良さを語っているのに酷い言い様ですぞ。
「キールくんスリスリ」
そんなキールを見てルナちゃんは一目で気に入り、大満足で日々構っておられます。
ルナちゃんは本当にキールの事が大好きですな。
俺の記憶の中でも平和になった村でキールを胸の羽毛で埋めていたのを覚えております。
真冬の本当に寒い時期限定でキールはそんなルナちゃんの胸から顔だけを出していました。
「うお! はなせ! ルナ! 頬ずりすんな!」
ちなみにキールはルナちゃんの事をちゃん付けで呼ばないのは、先に俺達の仲間としてルナちゃんが加入していたからの様ですぞ。
思えばルナちゃんはいつもキールの後に加入していましたからな。
しかし……フィーロたんがサクラちゃんらしいのですが、ルナちゃんは余り差が出ないのはなぜなのですかな?
生まれ持った資質とかでしょうか?
思えばモグラ辺りを可愛いとジャレていた事もありました。
精々今回のルナちゃんと今までのルナちゃんの違いは……最初のルナちゃん以外だとあんまり楽しくなさそうだった位ですな。
それもキールの犬姿を見てから差は埋まりつつありますぞ。
今度お義父さんに相談してみるか考えておきましょう。
「ルナちゃんって呼んで……キールくん、かわいい」
「かわいいじゃねぇ! カッコイイだ!」
「キールくん、大好き」
「うお! だ、誰か助けて!」
おお……キールがルナちゃんに抱き締められて埋もれて行きますな。
なんとなく満たされない表情をしていたルナちゃんの姿はもう昔ですな。
しかし……本当、ルナちゃんとキールはセットでいる姿が絵になりますなぁ。
そう言えばフィーロたん親衛隊と同じ様にキールにも同じ様に忠誠を誓った者達が居たのを覚えていますぞ。
波が終わった後の世界ではフィーロたんがアイドルとして各地で活躍しておりましたがキールがフィーロたんのライバルとして争っていましたからな。
ルナちゃんはキール派閥の初期メンバーだったはずですな。
凄く微かな記憶ですが、奴等の会合の話を耳にして少し騒ぎになった覚えがありますぞ。
確か名目は……キールの相手は誰にするのが一番か?
だったかと思います。
この辺りがかなりキールの親衛隊内で派閥があったと耳にしますぞ。
どうしてこんな話が浮上したのかの理由が印象的でしたな。
理由はキールの子供もきっと可愛い。
ではどうしたらいいか? が発端だったとか。
この話を聞いた樹が、『アイドルに恋人が居たらファンが荒れそうなのに、キールさんのファンは恋人が出来る事を期待しているんですね。これが異世界の認識でしょうか』と言ってましたな。
すかさず錬が俺やフィーロたん親衛隊の方を見て首を振って『アレはキール限定だから参考にすべきじゃない』と言ってましたが、どういう意味だったのでしょうか?
考えが逸れましたな。
キールの配偶者候補ですぞ。
候補は二人いましたな。
お義父さんと虎男ですぞ。
何でもお義父さんの子供ならば箔が付くのは元より、混血であっても亜人獣人の特徴が濃く遺伝しやすいと言う歴代の盾の勇者の特徴から来ているのだとか。
つまりお義父さんとの子供であるなら犬姿もきっと同じ……素直にキールが増えるかもしれない派閥がお義父さんを推進していたのですな。
とても失礼な派閥ですぞ。
次に虎男の派閥……これは単純にキールの虎バージョンの子供が出来るかもしれないとの目論見から議論された派閥ですぞ。
キールが虎男に懐いていたのも理由ですが犬では無く猫の様な虎が出来上がる事を期待していたのでしょう。
失敗してもキール似の子供が出来る可能性も推しになった様ですぞ。
虎男のような犬が産まれる可能性は度外視されていますな。
キールの血筋とはそんなにも濃いのですかな?
あのクレープの木の番人がフィーロたんのアイドルとしてのライバルとは……認めませんぞ!
とは言えフィーロたんとキール自身は仲が良かったので俺はキールを嫌いではないですぞ。
所詮キールはフィーロたんが輝く前座ですぞ。
永遠の天使たるフィーロたんと経年劣化するキールとでは結果はわかり切っていますからな。
そうそう、極少数派閥に錬を推している勢力が居た様な気がしますが……そんな小さな派閥など無視しておけば良いですぞ!
ちなみにルナちゃんはどこの派閥に属していたかと言うと傍観勢、誰とキールがくっついても等しく愛でる派閥におりました。
さすがはフィロリアル様であるルナちゃん。
愛とはどこにあるのかわかっていると言う事でしょう。
ルナちゃんの博愛精神に溢れた心に、俺の心が洗われる様ですぞ。




