代わりが居たとしても
なんと! お義父さんがフィーロたんの願いを断りました!
お義父さんはフィーロたんの魂の叫びを耐えきったのですかな!?
なんという精神力!
盾の勇者が持つ、深遠の様に深い底力を垣間見ました。
さすがお義父さんですぞ。
「ごしゅじんさまー!」
「今日だけでも随分とワガママを聞いただろうが! フィーロ、お前はラフタリアを姉として信用出来ないと言ってるんだぞ? そんなワガママはお前の為にもならない。俺が言うのもどうかと思うが、ラフタリアを信用しろ」
「やだー!」
「えー……」
フィーロたんの拒絶を聞いて、お姉さんが言葉を失っております。
何故、フィーロたんはお姉さんを信頼しておられないのでしょうか?
「……元康、命令だ。フィーロを取り押さえるなり眠らせるなりしろ」
なんと言う残酷な命令ですかな!?
そんな真似を俺にしろと言うのですかな、お義父さん!
「で、ですが――」
「元康、お前の愛とやらは甘やかすだけなのか? 時には厳しくしないとワガママな性格に育って、碌な事にならんぞ? それはフィーロに取っても良くない事だ」
そう言えば以前、最初の世界のお姉さんにも似た様な事を言われた様な気がしますぞ。
言葉自体は強い物でしたが、お義父さんの話は非常に正しい事でした。
確かに以前のループでもコウなど、我が侭を言う子はいました。
他にもブラックサンダーになったクロちゃんは大きなフィロリアル様に教育的指導をされたとか、聞いた事があります。
なのでお義父さんのお言葉は間違っていません。
「く……わかりました。フィーロたん、本当に申し訳ありません。ですが、これもフィーロたんの為なのですぞ」
お姉さんが微妙に呆れるかのような目で俺達を見ていますな。
きっと気の所為でしょう。
「や、やー! フィーロに何するのー!? ごしゅじんさま助けてー!」
お義父さんが凄く険しい顔をしておりますな。
心を鬼にして、フィーロたんに愛を教えようとしているのでしょう。
しかし、このシチュエーション……なんかゾクゾクしてきますぞ。
……ハッ! 危ない兆候ですな。
何故か俺の脳内で最初の世界のお義父さんが現れ『自制しやがった……』と言っていますが、今はそれ所ではありませんぞ。
「ではフィーロたん、先に謝りますぞ! 申し訳ありませんのスリープランスⅤですぞ」
チクっと俺はフィーロたんを槍の先で少しだけ突きました。
フィーロたん! 少しでも君を傷付けてしまいました。
くっ……胸が張り裂けそうですぞ。
この罪は一生を掛けて償うので、今は耐えて欲しいですぞ。
「や、やー……フィーロは……ごしゅじんさまとー……ぐー……」
ドサッとフィーロたんが夢の世界に旅立って行かれました。
「大人しく留守番をしていたら土産くらいは買って来てやる。今晩くらいはしっかりと留守番するんだぞ」
そう呟きながらお義父さんはフィーロたんの頬を優しく撫でておりました。
「凄く……心が抉られる出来事でしたね」
「かと言って、ラフタリアまで信用できない、みたいな態度でワガママを言われてはな」
「気持ちはわからなくもない様な気がしますけど……」
「ラフタリアもフィーロ……と元康を見張っておいてくれ」
「はい。私もフィーロに信頼される姉になれる様にがんばります」
「任せたぞ。しかし……ぐずる子供を無理矢理抑え付けて酒場に行くのって相当な碌でなしじゃないか?」
などと呟きながらお義父さんは出て行きました。
やがて俺とお姉さんの間に静かな沈黙が支配して行きますぞ。
……そうですぞ。
ここはお姉さんとの関係を強化するべく、コミュニケーションを取りましょう。
何事も積み上げた物が後々響いてくるのですぞ。
「お義父さんが帰って来るまで、この元康、フィーロたんとお姉さんを必ず守り切りますぞ」
「よ、よろしくお願いしますね」
そう誓った後……すやすやと寝入るフィーロたんの寝顔へと視線が釘付けになりますぞ。
フフフ、フフフフフ……フィーロたんの寝顔は飽きませんな。
何年でも何百年でも、ずっと見て居られると思いますぞ。
眠り姫のフィーロたんですな。
「そういう態度が……」
「お姉さん、態度がなんですかな?」
「いえ、もう少し落ち着いた方がフィーロも安心出来ると思っただけです」
「なるほど! 落ち着いた男になれる様に努力しますぞ!」
フィーロたんと付き合っていく上で大事な事なのでしょうな。
考えてみれば現代の地球でも落ち着いた年上の男性というのは女性に好かれると聞いた事がありますぞ。
さすがフィーロたんのお姉さん!
お姉さんの助言通り、俺もこれから落ち着いた言動を心掛ける様にしましょう。
「……」
やがて、視線がフィーロたんのスカートに向かいました。
位置的にもう少し屈めば中が見えるかもしれません。
いえ、しかし……そんな不誠実な事……いや、もうちょっと……もうちょっと……。
などと葛藤しているとお姉さんが静かに言いました。
「……槍の勇者」
ギクッですぞ。
違うんですぞ、違うんですぞ。
これはちょっと俺の愛が暴走してしまっただけなんですぞ。
仮に見えてしまっても、そこから先は何もしません。
そこまで俺はクズじゃないですぞ!
「な、なんですかな?」
「貴方は未来から来たと言いましたよね」
おや?
これは俺の邪な衝動を咎めている訳ではない、という事ですかな?
とりあえず聞かれた事を素直に答えましょう。
「はいですぞ」
「その未来で私達は……幸せでしたか?」
幸せ、ですかな?
そう聞いて、未来のお義父さん達の姿が浮かんできました。
「もちろんですぞ」
これだけは誰に否定されようと頷きますぞ。
お義父さん達と共に手に入れた平和な世界ですからな。
「それで……ナオフミ様は、波が終わったら……帰ってしまわれたのでしょうか?」
お姉さんが何やら真剣な眼差しで俺に尋ねてきますな。
「少なくとも俺の覚えている範囲ではお義父さんは帰ってませんな」
波が終わってからも、この世界にずっといたと思いますぞ。
波の去った後、戦後処理や復興支援、視察、行商など、ご多忙な様でしたが、この世界に永住していました。
「そうですか……ですが、今のナオフミ様は……波が終わったら、残ってくれるでしょうか?」
「きっと大丈夫だと思いますぞ!」
俺は元気良く答えました。
ですが、お姉さんの表情は晴れませんな。
「私がナオフミ様に出来る事は、何かあるのでしょうか。引き止められるだけの事を出来る自信がありません」
お姉さんがお義父さんの事をとても大切にしていらっしゃるのは知っています。
そして、その気持ちはお義父さんも同じだと思いますぞ。
最初の世界でのお義父さんとお姉さんはとても仲がよろしかったですからな。
俺もフィーロたんとお義父さん達みたいになりたいですぞ!
「槍の勇者が言っていた、私でなくてもナオフミ様は立ち直ったと言う話……あの、奴隷紋を解除された時の事ですよね?」
「そうですな。お姉さん以外でも奴隷となった者はお義父さんを励ましたのですぞ」
「……」
お姉さんは何やら思い詰めた表情で胸に手を当てて目を瞑っております。
もしや、俺は気付かずにお姉さんを傷付けていたのではないですかな?
考えてみれば最初の世界のお姉さんがアレ等の光景を見た時、かなりうろたえていました。
それこそ俺をハンマーで吹っ飛ばす程ですぞ。
この世界のお姉さんが同じメンタルダメージを受ける可能性はかなり高いですぞ。
「私自身もわかっています。あの時、あの場所でなら誰だってナオフミ様を励ませる……ですが、それでも私はナオフミ様の支えに、剣になりたいと誓いました」
この手の話に関してはお姉さんも随分と強い意志を見せますな。
最初の世界のお姉さんもかなり気にしていた事のはずですぞ。
そして俺は、こんなお姉さんの崇高な誓いを尊敬しているのですぞ。
守るだけで攻撃する術を持たないお義父さんには、お姉さんの様な方が必要ですからな。
「この想いに偽りは無いです。それを忘れないでください。例え私の代わりが居たとしても、譲る気はありません」
素晴らしい忠誠心ですな。
俺もお姉さんの様にがんばっていきましょう。
「ちなみにお義父さんが奴隷を買わなかった場合、お姉さんのお姉さんがその役目を引き継ぎましたな」
あの時は大変でした。
何せラストチャンスでしたからな。
それなのに、あの赤豚が……!
幸運にもお姉さんのお姉さんのお陰でどうにかなりましたがな。
お姉さんのお姉さんには感謝ですぞ。
ズルッとお姉さんは転びそうになった直後、部屋を出ようと駆け出しました。
「サディナ姉さん!」
「お姉さん! どこへ行くのですかな!? フィーロたんと留守番をするのですぞ!」
駆け出したお姉さんの手を掴んで引き止めますぞ。
「ナオフミ様がサディナ姉さんを探しに行ってしまったんですよ!? 大変な事になるんじゃないですか!?」
「大丈夫だと思いますぞ? 最初の世界のお義父さんも後に再会したお姉さんのお姉さんとは、あの世界ほど仲良くはなっていなかったと思いますからな」
俺の言葉にお姉さんが何やら気を噴出させた様に、顔に影を出しながら静かに睨んできました。
なんですかな? この気配、背筋がぞくぞくして来ました。
ふと昔、この世界に来る前に刺された時の事が脳裏を掠めますぞ。
ストーカー豚と話をした際の寒気と同じですな!?
「槍の勇者……私で遊ぶのはやめてください。本気で怒りますよ」
「じょ、冗談ではないですぞ。俺は誠心誠意、聞かれた事を答えているだけですからな!」
「……はぁ」
やがてお姉さんはお疲れの様子で備え付けの椅子に腰かけました。
「この話題はやめましょう。では、世界が平和になった後の事を聞きますね」
「何でも答えますぞ」
「じゃあ、平和になった後……私達はどんな生活をしていたんですか?」
「お姉さんの故郷である、復興させた村で生活をしておりましたな。毎日楽しく過ごしたのですぞ」
「村の復興ですか……」
お姉さんが遠い目をしました。
俺の記憶が確かなら、村の復興はお姉さんの夢だったはずですが。
「とある周回ではお姉さんを保護した際に、妙な笑みを浮かべて夜泣きが激しかったですな」
「そう……ですね。自覚はあります。ナオフミ様のお陰で立ち直れました。あの村を復興出来る日が来るんですか……それは素敵だと思います」
「この世界でもきっと出来ますぞ」
「……それを貴方が言うんですか? あの方を殺して、本気で出来ると思っているんですか?」
お姉さんが眉を寄せつつ言いますな。
何を疑っているのかは知りませんが、十分可能ですぞ。
所詮は赤豚。
女王と話を付ければ領地取得など一発ですぞ。
「もちろんですぞ」
「どこまで能天気なんですか……良いです。ナオフミ様とサディナ姉さんにも相談してみましょう」
お姉さんは若干幸せそうな表情をしております。
何だかんだお姉さんは未だに村を復興させる夢を持ち続けているのですな。
「じゃ、じゃあ敢えて、その聞きますけど……私と、ナオフミ様は……け、結婚とか、したんでしょうか?」
「どうでしたかな? 確か……したとは思いますぞ」
「なんでそこだけ曖昧なんですか?」
この辺りの記憶はおぼろげなんですぞ。
波が完全に終わってから結構経ってからなので、記憶が何やら靄が掛ったかのように曖昧なのですぞ。
飛び飛びと言うのですかな?
子供の頃の記憶みたいに日常のワンシーンがチラホラ思い出せる程度で、波から世界を救う時ほど明確には思い出せません。
しかし、流れ的に結婚していたとしてもおかしくはないですぞ。
「ただ、世界を救った盾の勇者なので、そこそこ他の女性との関係を許容はしていた覚えがありますな」
「そ、そうですか……」
「お姉さんともしっかりと子供が居た様な気がしますが……すいません。おぼろげですぞ」
男か女かすら思い出せませんな。
ただ……あの村には幸せが溢れていたのだけは覚えております。
この世界もあんな風にするのが俺の目的の一つですぞ。
「……いえ、それが聞けただけでも十分です。私も、そんな未来に辿り着けるように、がんばらないといけませんね」
それでこそお姉さんですぞ。
やがてお姉さんはやる気が出たのか、腕立て伏せを始めました。
そういえばカルミラ島での仲間交換の時もお姉さんは鍛錬をしておりましたな。
このような弛まぬ努力が、お義父さんの右腕としての頭角を現す秘訣だったのでしょう。
常に尊敬できる人ですな。
なんて感じで俺達はお義父さんが帰ってくるのを待ったのですぞ。
たっぷりとフィーロたんの寝顔を拝見させていただきました。
ごちそうさまですぞ。




