大きな服
「フィーロ、元康の言う通りなのか確認だ。天使の姿とやらに変身してみろ」
「えー? わかったー」
フィーロたんはそう言うと……おお、神々しくも素晴らしき天使へと姿を変えて行きますぞ。
神々に愛された様な黄金色の毛髪。
空や海の様に青い……宝石すら見劣りする、青色の瞳。
純粋にして純白、背中の翼。
この世の至宝が遂に降臨したのですぞ。
フォオオオオオオオオオ!
そんな光景をお義父さんは無表情で眺めていますな。
やがてお義父さんはフィーロたんを上から下までしっかりと確認しました。
「ぜ、全裸……そうですよね。服なんて着てませんし」
「衣服はしっかりと準備しますぞー!」
「やだー! 槍の人が何か見てる気がするー!」
おや? フィーロたんの台詞が少々異なりますな。
フィーロたんはすぐにフィロリアル様の姿に戻ってしまいました。
今回のフィーロたんは少々恥ずかしがり屋さんの様ですな。
実に可愛らしいですぞ。
お義父さんは髪を掻きながら俺……の方の木とフィーロたんを交互に見ますぞ。
「一応、元康の言う通りになっちまったか」
「これでフィロリアル様を孵化させてもよろしいですな」
「それとこれとは別だ。それに問題はそこだけじゃねえ」
「段々と槍の勇者の優先する物が見えてきた様な気がします」
「こんな奴を率いてこの世界を生き残らないといけないのか……」
お義父さんが深く溜息を吐いていますな。
「何かお悩みですかな? この元康がズバッと解決して見せますぞ」
「お前だお前!」
「HAHAHA! 御冗談を、この元康、物分かりは良い男ですぞ」
「とてもそうは見えませんが……」
お姉さんが何やら呟いていますが、それは誤解ですぞ!
その内わかってくださる時が来るでしょう。
今はがんばる時ですぞ!
とはいえ、フィーロたんとお姉さんのお陰でお義父さんも順調にLvアップが進んでいるご様子。
中々に良い調子だと思いますぞ!
「とりあえず狩りはそこそこ上手く行った。フィーロの服の当ては……あるんだろ?」
「もちろんですぞ!」
「ごしゅじんさま、何するの?」
「服作りだ!」
「えー……」
などと言いながらお義父さん達は狩りを切り上げてゼルトブルに戻りました。
それから俺が準備させていた魔力を糸にしてくれる機材を持ち込んだ部屋に案内したのですぞ。
帰る道中でフィーロたんが珍しいと襲ってきた愚かな強盗がいましたが、即座に殲滅しました。
残念ながら金目の物を持っていませんでしたな。
「これが魔力を糸にする機材か」
俺が準備した機材を見ながらお義父さんが呟きました。
そう、これこそがフィーロたんやフィロリアル様達の衣類を作る最高の機材ですぞ。
一番良い物を購入したかったので中々に金銭の工面に苦労しました。
まあ必要経費という奴ですぞ。
これによってフィーロたんは更に至高の輝きを得るのですからな。
「そうですぞ」
「……ちょっと待て。この機材、値が張りそうな気がするんだが、レンタルでもしてきたのか?」
「HAHAHA! フィロリアル様達を育てるのですから買い取ったに決まっていますぞ!」
「どこにそんな金があるんだよ!」
「銀貨20枚で買えるとは思えませんよね。卵が何個もありますし……」
「そんなの稼いで買ったに決まっていますぞ。これがお釣りですぞ!」
お義父さんに俺の持っている全財産を渡しますぞ。
さすがにフィロリアル様の卵と機材を買った影響で中身は少ないですが。
「ああもう、渡した金額より増えてるじゃねぇか……小遣いの意味がねー!」
お義父さんが俺の有能さに驚きの声を上げておられますぞ。
とても誇らしい気持ちになりますな。
この調子でどんどん評価を上げていきますぞ。
「……もう気にするのはやめて話を進めるべきだな」
「何をするのー?」
「フィーロ、これでお前の魔力を糸にして衣服にするんだと。そうすれば人化した際に全裸にならずに済むんだ」
愛しいフィーロたんがクンクンと俺が用意した機材の匂いを嗅いでおりますぞ。
なんとも可愛らしい動作ですな。
「やだー、槍の人の匂いがする! フィーロ触りたくない!」
「ワガママ言うな! タダより高い物は無いんだぞ!」
「やー! ごしゅじんさまー別のが良いー! フィーロ触りたくなーい!」
「気持ちはわからなくもないですが……フィーロ、物が物なのでどうか我慢できませんか?」
「そうだぞフィーロ! じゃなきゃ元康と一緒の部屋行きだぞ」
おや? ご褒美ですかな?
フィーロたんが俺の方を盗み見ますぞ。
満面の笑みで親指を立てて応じます。
ウェルカムですぞ!
「やー!」
フィーロたんが機材に触ってグルグルと高速で回し始めました。
おお、凄いですな。
ギュルギュルと機材が高速でスピンしています。
なんと火花が散ってますぞ。
「……フィーロに言う事を聞かせる丁度良い罰になってませんか?」
「しょうがないだろ。駄々を捏ねても良い結果にはならん、と教える良い機会だ」
「ふぬー!」
フィーロたんが必死に機材を回しておりますぞ。
大丈夫ですかな?
「で、元康。糸はどれくらいあれば良いんだ?」
「衣服にするにはそこそこ必要ですぞ。もう少し必要ですな」
「ごしゅじんさま、フィーロ、フィロリアルの姿でも羽が見えない位、大きな服が欲しい!」
「聞くまでもないが、一応聞いておく。どうしてだ?」
「槍の人が変な目で見るから!」
変な目で見る?
そんな事あり得ませんぞ。
俺は常にフィーロたんを尊敬と情愛に満ちた、温かい眼差しを向けていますからな。
「ああ……そう。じゃあ衣服以外にマントも作るか……最初からマントだけでも良い様な……?」
「ナオフミ様、マントが風で揺らめくだけでも体が見える事になりますよ?」
「む……」
「ではおしゃれなマントを俺が縫いますぞ!」
ピタリとフィーロたんが機材を回すのをやめて俺達の方を見ますぞ。
「……槍の人がフィーロの服を作るの?」
当然ですな。
この俺がフィーロたんを最高にコーディネイトしてあげますぞ。
おや? お義父さんが即座に応えました。
「気にするな」
「やー! 槍の人が作ったのなんて着たくない!」
フィーロたんが駄々を捏ねましたな。
くー……可愛らしいですぞぉ。
「このばい菌扱いは元康的にどうなんだろうか……」
ばい菌?
フィーロたんにばい菌など付きませんぞ!
俺も平和になった後の世界でフィーロたんの握手会によく参加しましたからな。
ちなみに俺の番になるとフィーロたんは休憩に行く事が多かったですがな。
その際、お義父さんが『フィーロの休憩時間をお前が買って与えたんだ。よかったな』と仰っていました。
フィーロたんのお役に立てて光栄ですぞ!
しかも握手会の後、お義父さんがフィーロたんの羽を特別にくれたりしたので、何の不満もありませんでした。
「ああもう……わかった。後で洋裁屋にでも行って発注するから我慢しろ! ったく、無駄な出費が次々と出てきそうだな。ラフタリアの方が安く済んだぞ」
「私が安いみたいな言い方はちょっと……」
「お義父さん、フィーロたんの衣装を作らせてくれないのですかな?」
「そうだ」
「それは残念ですぞ! 是非とも俺が作りたいですぞ」
まあ、最初の世界のフィーロたんも俺が服を作ろうとすると拒否する程の恥ずかしがり屋さんでしたからな。
内緒で俺がデザインしたステージ衣装を寄付して着せたのは良い思い出ですな。
「我慢しろ」
「わかりました。この元康、耐えますぞ」
「えらく素直に引き下がったな……」
「何か裏がありそうで怖いですよね」
お義父さん達がしばらく俺を凝視しておりました。
俺が好むフィーロたんの服装も悪くはありませんが、俺はフィーロたんの全てを愛しているのですぞ。
今回のフィーロたんはどのような姿を見せてくれるのか、とても楽しみですな。
「うー……!? 背中がゾワゾワするー!」
それからしばらくフィーロたんは魔力を糸にする機材を回し続けました。
お姉さんが見張る中、お義父さんがゼルトブル内の洋裁をしてくださる店を周って話を付けてきましたな。
後は糸を布にする店に行って、しっかりと作ってもらえば完成ですぞ。
その為には洋裁屋でフィーロたんの寸法を測ってもらわねばなりません。
まあ、人種の坩堝であるゼルトブルではその辺りは金さえ積めばどうとでもなりますが。
俺は留守番を申しつけられたので宿で待っていましたが、お義父さん達の話では上手く行きそうだそうですぞ。
ついでにオススメの武具店に寄ってもらい、武器のコピーをしてもらいました。
お義父さんの盾が変わっておられますな。
アレは隕鉄の盾ですぞ。
「さて……日も沈んで来た。元康の話を参考に、ラフタリアの姉とやらを探さないとな」
「サディナ姉さんですね。本当にゼルトブルにいるのでしょうか?」
「これまでの事を考えると確率は高いだろうな……元康、どうやって探せば良いか知っているんだろ?」
「もちろんですぞ。俺の記憶が確かならお義父さんがゼルトブルの酒場を何軒か梯子しながら気の合う相手を勧誘すればきっとお姉さんのお姉さんですぞ」
以前のループ経験に基づく確かな方法ですぞ。
まず間違いなくお姉さんのお姉さんを見つけてくださるでしょうな。
「そんなあやふやな……」
「ラフタリアの話を聞く限りだと、シャチ獣人で一発なんじゃないのか?」
「お姉さんのお姉さんは亜人姿もありますからな」
「そんな姿を見た覚えがないんですけど……」
お姉さんが半信半疑と言った様子で俺に答えますぞ。
確かにお姉さんのお姉さんは亜人姿でいる事は珍しいですな。
お義父さんの村で生活する様になってからはほとんど獣人姿だったので、俺達がこの世界に来る以前もそうだったのでしょう。
「よくわかりませんが、お姉さん達の前では亜人姿にあまりならない方でしたな」
「……場所が場所だとか、人付き合いの観点とかから考えれば理解が出来ない訳じゃないな」
「と、言いますと?」
お姉さんが理解を示すお義父さんに尋ねますぞ。
「盾の勇者としてメルロマルク内を活動しなきゃいけない場合、都合良く姿を変えられるなら、俺なら隠蔽する為に姿を変える」
「風聞と言う事ですか?」
「ああ。ラフタリアの姉がどんな精神で獣人姿でいる事が多いのかは知らんが、亜人姿を隠しておいた方が行動しやすかったって事だろう。逆にゼルトブルでは亜人姿でいる事の方が有利に働く……とかな」
「二面性……ですか」
お姉さんがフィーロたんを見ながら呟きました。
二面性……あれですな。
フィロリアルクイーンモードと天使モードの差ですな。
どちらも素晴らしい、最高のお姿ですぞ。
「それでだな。ラフタリアの姉を探すのは良いとして、ラフタリア達を酒場に連れて行くのはな……」
「んー?」
「えーっと……亜人姿のサディナ姉さんを私は見ていませんし、サディナ姉さんも成長した私を見て、すぐに見つける事は出来ませんよね」
「そんな雲を掴む様な所で、しかも酒場を何軒も回るのは子供には良くない」
「こ、子供じゃないです!」
おお、お義父さんがお姉さん達を子供扱いしておりますな。
カルミラ島の酒場でお姉さん達とお食事していたとは思いますが、確かにお姉さん達はお義父さんからしたら子供でしたな。
あまり連れて行きたくないのでしょう。
「かと言って……」
お義父さんが俺の方を見ますな。
「ご命令とあらばこの元康、お義父さんの警護をしますぞ」
「過剰防衛で相手を殺しかねないだろ」
おや? 何か悪いのですかな?
悪は一人でも多く消すのが後世の為ですぞ。
「せめてラフタリアを連れて行ければ話が早いかもしれないが、場所が場所だからな。元康とフィーロを二人っきりにさせかねん」
「やー!? フィーロも行くー!」
フィーロたんが駄々をこねておりますな。
微笑ましいですぞ。
「大丈夫だ。ラフタリアがいるだろ」
「えー……ラフタリアお姉ちゃんー?」
「フィーロ、その態度に関して色々と質問しても良いですか?」
おや?
フィーロたんはお姉さんに何か不満でもあるのですかな?
「ラフタリア、お姉ちゃんになったんだからフィーロの面倒をしっかりと見るんだぞ」
「は、はい……? なんでナオフミ様がお父さんみたいな台詞を?」
「お義父さんはお義父さんだからですぞ!」
「槍の勇者は黙っていてください! ややこしくなりますから!」
お姉さんに叱られてしまいました。
未来の経験から来る言葉でしたが、言い方が不味かったですな。
将来フィーロたんとの仲を認めてもらう為にも、お姉さんとより良い関係を築く為に努力しますぞ。
「とりあえず……俺もそこそこ強くなっているし、強化も順を追って実践中だから、もう刺客が来ても逃げ回る位は出来る。さすがに人通りの多い所を突っ切れば追っても来れないだろう」
「ご命令とあらば仕留めますぞ」
「その辺りは……まあ、どうとでもなるだろう。お前等がいるからな」
そうしてお義父さんが出発の準備を始めました。
これでお姉さんのお姉さんが仲間になるのは確実ですな。
「やー! フィーロも行くのー!」
「ワガママ言うな! これ以上騒ぐと本当に元康に預けるぞ」
「やだー! ごしゅじんさま、フィーロを置いていかないでぇええええ!」
フィーロたんが張り叫ぶような声で言いますぞ。
もしや魔物商の所に預けられた際に、フィーロたんはこのように叫んでおられたのですかな?
「うぐ……」
お義父さんが後ろ髪を引かれる様な顔をしております。
そうですとも。
このようなフィーロたんの魂の叫びを聞いて、従わない者はいません。
しょうがない事なのですぞ。
お姉さんのお姉さんは諦めましょう。
もしくはみんなで行くのですぞ。
「だ、ダメだ!」




