血祭り
「というか俺からするといきなりクライマックスになった打ち切り寸前の物語みたいだぞ。突然の新事実に始まり、急展開過ぎてついて行けん」
そう呟いた後、お義父さんは深く溜息をしましたな。
「メタ過ぎる発想だな……そもそもゲームでもアニメでもないだろ」
「今回もループをした影響なのか記憶が少々曖昧な所がありますな。ただ、何かと戦って敗れた覚えはないですぞ」
「どうだかな……後は、並列分岐する世界の通り、並行世界……単純にリプレイや過去の残滓の様な世界かもしれないな」
お義父さんが面倒そうに舌打ちしておりますぞ。
リプレイとやらはよくわかりませんが、過去の残滓とやらは想像出来ますな。
「そうなるとお手上げだな。解決の手立てが見えないのは元より、この世界の全てが偽りである可能性だってある」
どちらにしても俺はお義父さんの命令を聞いて未来を切り開きますぞ。
そう……フィーロたんと歩む、真なる平和へのロードへ!
「悪いまま何か固定でもされてみろ。悲惨極まりない。ループ当事者以外は認識出来ない事柄なんだからな」
「嫌な想像ですね」
「とはいえ……ここで全てを投げだせる理由になる訳じゃない」
そこでお義父さんは俺を見て、何やら遠い目をしておりますぞ。
この目は以前受けた事がありますな。
以前のループでお義父さんや錬、樹が偶に向けてきた目ですぞ。
「どうしてその役目が元康なんだ」
「例え何があろうとも俺はお義父さんの味方ですぞ」
「いきなり俺を糾弾してきた癖に何を言ってんだ」
「それは遥か過去の俺ですぞ。今の俺は違いますぞ!」
「さっきも問題を起こしてるだろ! ああもう面倒臭い! 答えが出ないなら後回しだ」
「ではどうしますかな?」
「……波の限界とやらを迎えさせて世界融合が起こるか試す手もあるにはあるが……それって実質滅ぶような事だしな。試す訳にはいかない……か。当面は波が発生する度に鎮めて行けば良いか」
さすがお義父さんですな!
確かにそれが無難だと思いますぞ。
「で、元康。お前の目的は何なんだ?」
またそれですかな?
何度聞かれようと俺の返答は一つだけですぞ。
「世界を平和にし、フィーロたんと幸せになる事ですぞ!」
「グア!?」
「元康、この鳥のどこにそこまで執着する要素があるんだ? まるで理解が出来ないんだが……」
「ハハハ! お義父さんは冗談がお上手ですな。フィーロたんは直に天使の姿に成長し、しっかりと言葉をしゃべるようになるのですぞ」
「……まあ、それが真実かどうかは後で確かめるとして、現実を見るぞ」
俺は常に現実を見ていますが?
おや? 記憶の中のお義父さんが『お前は夢しか見ていないだろ』と言っていますぞ。
違いますぞ。俺は現実を、フィーロたんを見ていますぞ!
チラ、チラチラチラ……ジー!
などとフィーロたんに視線を送っていると、お義父さんが仕切りなおしました。
「あの女を殺した所為でメルロマルクで活動するのは無理だな。かと言って、ここからどうやって逃げ切るか……まあ、元康のあの切り札があれば何処へでも物理的に逃げれそうだが……」
「そんな事簡単ですぞ。お義父さん、俺をパーティーに入れて欲しいですぞ」
「……あんまり入れたくはないが」
お義父さんが渋々と言った様子で俺をパーティーに勧誘しました。
後はポータルスキルで好きな所に行けば良いですぞ。
「ではお義父さん、行きたい国はありますかな?」
「この世界の事なんてそんなに知らねえよ」
「では……確かお義父さんのお話だとこの時期に滞在していた村に飛びますぞ。そこまで距離は無いですし、荷車は後で取ってくればいいですからな」
「は?」
「ポータルスピア!」
槍を掲げて俺は転移スキルを唱えますぞ。
もちろん、お義父さん達を指定します。
一瞬でリユート村に到着しました。
「グア!?」
一瞬で景色が切り替わってフィーロたんを始めとしたお義父さん達が驚きの表情をしております。
どうやら今回はポータル位置は据え置きの様ですな。
スキルポイントを振っているので、かなりの位置を記憶していますぞ。
「な、何ですかこれ!?」
「転移スキルがあるのか……」
「再使用にはクールタイムがありますが、他国にも一瞬で行けますぞ!」
「そうか……それなら一瞬で高飛び出来るな」
なんとも最初の世界のお義父さんらしい言い方ですな。
高飛びして面倒な事からおさらばですぞ。
「それまでに荷車の回収や……復興の手伝いですかな? 木材の調達が必要ですな」
「そ、そうだな。あんまり復興作業を手伝えないのがわかったから、元康からもらった金を寄付しておこう。あまり人里に居たくない。いつ捕まるかわからんからな」
「では作戦開始ですな!」
これから忙しくなりますぞー!
「あの……当然の様に槍の勇者を仲間にしていますが、良いんですか?」
「……こんなスキルを持ってる奴から逃げろとでも言うのか? どこへ逃げても地の果てまでも追ってくるぞ」
何やらお義父さんが諦めに似た溜息を漏らしております。
「だが、あの女が死んだのは事実だ。この事実を奴が知ったらと思うと……ふふふ」
クククとお義父さんはしばらく邪悪な笑みを浮かべておりました。
お姉さんは若干溜息交じりに頭に手を当てて、嘆いておりましたな。
「ところで元康」
「なんですかな? なんでも聞いてくださいですぞ」
「じゃあ聞くが……お前は何であの女を恨んでいるんだ? 理由を教えろ」
「大切なフィロリアル様を殺されたのですぞ!」
ああ……フレオンちゃん。
俺の無知が貴方を死なせてしまったんですぞ。
だから、何度ループしようと赤豚は地獄に送ってやります。
などと考えているとお義父さんが言いました。
「質問を変える。お前が騙されたと気付いた瞬間はどうだった?」
騙されたと気付いた瞬間ですかな?
あれは……アヤツを最後まで信じようと必死になっていた頃ですぞ。
今考えても腸が煮えくり返りますな。
そう……赤豚は錬に取り入っていたのです。
「霊亀から敵前逃亡をした挙句、それでも信じようとしていた俺を裏切り、錬に取り入ろうとしていたんですぞ!」
「霊亀、ね。何故いきなり四瑞が出て来るのかはこの際置いておく。まあ強い敵という認識で行こう。それで?」
「錬にある事ない事吹き込んで、俺が全て悪い事になっていたんですぞ」
「なるほどな……ざまぁ」
お義父さんが邪悪な笑みを浮かべました。
なんで笑っているんですかな?
とはいえ、お義父さんが楽しそうなので俺も楽しくなってきました。
真似して笑ってみましょう。
「HAHAHA!」
するとお義父さんは苦虫を潰した様な顔になりました。
「ちっ……あの女がやりそうな手口だな。それで恨んでいるって訳だ」
「そうですぞ」
本当、あの赤豚は害悪ですぞ。
何度出て来ようと消し炭にしてやります。
「まあいい。とりあえずやる事をやるか」
「グア!」
「さあフィーロたん! 先ほどの荷車の場所に戻り、復興の手伝いをするのですぞ!」
なんて調子で俺達は小一時間程、復興の手伝いをしたのですぞ。
荷車を回収し、復興を手伝った後、俺はお義父さんに話しかけられました。
「それで元康、どの国へ逃げれば良いんだ? 潜伏しやすい所が良いだろう」
「そうですなーシルトヴェルトやシルドフリーデンは嫌なのでしたな」
「ああ」
「となると……」
フォーブレイが良いですかな?
ですがあそこにはタクトが居ますな。
更に今はフィーロたんの大事な時期ですぞ。
サクラちゃんが怪我をさせられた時の様に、お義父さん達と逃げるにはよくない場所ですな。
どこにタクトの豚がいるかわかりませんぞ。
となると潜伏しやすそうな場所であり、お姉さんにとっても良い場所が良いでしょうな。
「ではゼルトブルはどうですかな? 傭兵と商人の国ですぞ。お姉さんのお姉さんがいずれ来る場所ですし、割と中立ですぞ」
「わかった。それで話は戻るが、俺がメルロマルクで活動しなかったらどうなるんだ?」
「どちらにしてもメルロマルクの本当の王である女王がいずれ戻って来て、お義父さんの冤罪が晴れると思いますぞ。物分かりが良い女王ですし、赤豚を仕留めても怒りませんぞ」
「ループ中にあの女を殺した事があるのかよ」
「もちろんありますぞ! ほとんどの世界で血祭りに上げていますからな」
俺が素直にそう言うと、お義父さんは笑みを浮かべた後、ちょっと嫌そうな顔になりました。
やがて別の事を考え始めたのか、お義父さんは言いました。
「親にも軽蔑されているとか終わってんな、あの女……」
ですな。
赤豚はオワコンですぞ。
まあアヤツに需要があった事など一度もありませんがな。
「まあいい。その女王が帰って来た後、大事な娘を目に掛けていた勇者に殺されたと知って激怒しつつ権力を失うクズを見る未来を想像する事で怒りを抑えるとしよう」
「あまり良い想像じゃないですね……」
そんな事はないですぞ。
悪逆非道を繰り返す連中が罰を受けるのですからな。
胸がスカッとする思いになるのが自然ですぞ。
「……とりあえずお前が真実を言っているかもしれないと思った理由を教えてやる」
「ハハー! それはなんですかな?」
俺は地面に膝を付き、大地に頭を擦り付けながらお義父さんのお話を聞きますぞ。
すると何やら嫌そうな口調でお義父さんは教えてくれました。
「あのクズ王をクズと呼んだからだ。内心で呼んでいたはずなのにお前が知っていたから、多少は考える余裕が出来た」
おお! 思わぬ情報ですぞ。
しかし、何故嫌そうな口調なのですかな?
「良いんでしょうか? その……色々と目まぐるしく状況が変わってますが?」
「気持ちはわかるが、現状俺達はこの国に居られない。何より、元康がここで嘘でしたと言い出しても追われる羽目になる」
「……そうですね」
お姉さんが諦めたように頷きました。
安心してください。
俺は逃げも隠れもしませんぞ。
「グア?」
ああ、フィーロたん。
そのような純粋な眼差し、この元康、嬉しくて色々と漏れそうですぞ。
「では行きますぞ! ポータルスピアー!」
という訳で俺達はゼルトブルへと飛んだのですぞ。
「おお……随分と景色が変わるもんだな」
転移後にお義父さんが目を凝らす様にして、ゼルトブルの首都の……フィロリアル競馬場関連施設前で呟きました。
ここは俺にとって中々に思い出深い場所ですからな。
ループ時代はユキちゃんが大会に出場し、平和になった世界ではフィロリアルクイーン&キング杯があった、懐かしい場所ですぞ。
「グア?」
フィーロたんはよくわからないと言った様子で首を傾げながら辺りを見渡しております。
きっとフィーロたんも気に入る事でしょう。
ここはフィロリアルの夢が詰まっている地ですからな。
主にレース的な意味で、ですが。
「ここがゼルトブルの首都……あっちが市場でしょうか?」
お姉さんが来た事のない町故に、若干尻込みしている様子で尋ねてきますぞ。
「あそこは表通り、市場と言うよりも露店街ですぞ」
「メルロマルクにもあるな。市場となるとまた別の場所だろう……潮の匂いがするんだな」
「ゼルトブルは海運業も盛んな国ですぞ。なので海沿いに建てられた都市なのですな」
「ほー……」
お義父さんが辺りをキョロキョロと見渡しながら呟いております。
一流の商人であり、料理人でもあるお義父さんが気にならないはずがないですぞ。
これからの商売には事欠かない場所ですからな。
「あの大きなコロッセオ……闘技場みたいな建物は?」
「お義父さんの印象通り、表の闘技場ですぞ。傭兵の国ですからな、戦いを見せる事で金になるのですぞ」
話によると裏の闘技場もあると聞きますな。
「表、ね。治安が悪そうではあるが、隠れるにはもってこいな国なのは確かだな」
金、名声、地位……それ等が己の力一つで手に入る国ですからな。
雑多な人種が集まるのも隠れる場所としてもってこいですぞ。
「大丈夫なんでしょうか?」
「そこは……まあ、何処かで妥協しなきゃ始まらないだろ。信じるかどうかは別として、元康が色々と説明するんだ。聞くだけなら損じゃない」
仰せと在らばいくらでもご説明しますぞ。
俺はコミュニケーション能力が高いので、観光案内の仕事も向いていると思いますぞ。
「それでお義父さん、これからどうしますかな?」
「どっちにしてもこの国に潜伏する為に金が必要だ。それとメルロマルクの連中が俺達の所在を嗅ぎ付けてくるまでにどれだけ上手く立ちまわるかも掛かっているだろ」
おお、さすがお義父さん。
これだけの情報で既に適切な行動を想像しておられる様ですな。
「その為にも最低限の強さが必要だしな……」
「お姉さんとフィーロたんの強化は任せて欲しいですぞ」
「お前にラフタリアやフィーロを預ける訳ないだろ。そのまま何処かに連れ去られたらたまったもんじゃない」
おや? お義父さんは随分と疑い深いですなぁ。
もはや一蓮托生ですぞ。
「ならば俺とお義父さんは勇者同士なので一緒に居ては経験値は入りませんが、お姉さんとフィーロたんのLv上げと資質向上をするのは良いのではないですかな? お義父さんも一緒にこの元康と狩りに行きますぞ」




