フィロリアルロード
槍の勇者のやり直し最終話からの続きとなります。
真・チュートリアル編です。
「お義父さん! お姉さん! フィーロたぁああああん! 待ってくださいですぞぉおおおおおおおおおおおお!」
俺は爆走するお義父さんの荷車にやっとの事で追い付きました。
ですがお義父さんは苦虫を噛み潰した様な顔付きで俺を見た後、緊迫した表情で前を向きましたな。
「フィーロ! もっと早く走れ!」
「グ、グアアアアアア!」
フィーロたんがお義父さんに頼まれてガッツを見せました!
これはアレですな!
俺とのおいかけっこを楽しんでおられるのですな!
うぉおおおお、負けませんぞ!
そう思いながら俺の脚力をフィーロたんとお義父さんに見せているとガタンと荷車が揺れて荷台に乗っていた人影が転がり落ちそうになっております。
あ、あれはお姉さん!
ちょっと危ないのではないですかな?
「ラ、ラフタリア! 大丈夫か!?」
「う……うーん……」
お姉さんはぐったりとしており、今にも落ちそうになっております。
随分と調子が悪そうですな。
「とう! ですぞ!」
俺はお姉さんを軽く突き飛ばして荷車に戻し、乗り込みました。
「追い付きましたな! おいかけっこは俺の勝ちですぞ!」
「チッ……息すら切らしていやがらねぇ」
こうしてお義父さんが手綱を引っ張り、フィーロたんを止めたのですぞ。
そして盾を構えつつ、お姉さんの方に何度も視線を向けております。
これはどういう反応ですかな?
「どうしたのですかな?」
「ラフタリアをこっちへ寄こせ」
「はいですぞ。顔色が悪いですな」
お義父さんの指示通りお姉さんをお義父さんに預けますぞ。
俺のそんな態度にお義父さんが眉を寄せてから首を傾げておりますな。
「何なら酔い止めや回復魔法を掛けますかな?」
「ラフタリアに毒でも飲ます気か!?」
毒?
何故俺がお姉さんに毒を飲ませなければいけないのですかな?
飲ませるなら赤豚が良いですぞ。
アヤツがフレオンちゃんにやった様に、もがき苦しむ様な毒を飲ませたいですぞ。
まあ、既に奴はこの世にいませんがな。
HAHAHA。
「そんな事しませんぞ。あまり顔色がよろしくない様ですから休ませた方が良いですぞ」
「お前がそれを言うのか! 誰の所為で逃げる羽目になったと思ってんだ!」
考えて見ますぞ。
……どう考えても赤豚以外思い付きませんな!
「赤豚の所為ですな! アヤツ、絶対に許せませんぞ!」
「違う! お前がアイツを殺った所為だろ!」
「ははは、お義父さんが仕留めろと要求したからではありませんか」
「言ってねえよ! 心で思ってただけだ!」
おお、俺の記憶の中にいるお義父さんよりも敵意が強いですな。
ぼんやりとした記憶近くのお義父さんは俺と話をしていると溜息を良くしており、憂鬱そうにしておりました。
しかし、お義父さんの心の内を察する事が出来て、光栄の極みですぞ。
この調子でお義父さんの右腕になってみせますぞ!
「何、怠け豚には逃げられてしまいましたが、そんなのは瑣末な事ですぞ」
「何が瑣末な事なんだよ……お前、本気で大丈夫か? 色々と」
そう言いながらお義父さんは心配そうに俺を見ました。
この元康、感動で涙が溢れてきますぞ。
以前のループと違い、最初の世界のお義父さんに近くなろうと優しさを忘れない心をお持ちなのですな!
それでこそお義父さんですぞ。どこまでも付いて行きますぞ!
「おお! お義父さんの心配する眼差し! この元康、嬉しく思いますぞ!」
「だからふざけるのをやめろと言ってんだよ! ああもう!」
「グア?」
おや?
フィーロたんが俺達の様子が気になってこちらをキョロキョロと見ておりますぞ。
任せてくださいフィーロたん。
必ずやお義父さんと共に栄光の道……フィロリアルロードを歩ませて見せますぞ。
「うう……な、何かあったんですか?」
ぐったりとしているお姉さんが目を開けてお義父さんの方に顔を向けました。
それから俺がいる事に気付いて、よろめきながら急いで立ち上がろうとしております。
お姉さんの表情は辛いながらも警戒の色が強いですな。
う~ん……何故、俺はこんなにも警戒されているのですかな?
「実はさっき……フィーロがゲラゲラ笑っている元康を蹴り飛ばしたら、元康の奴が壊れて妙な事を口走りながら、あの女を俺の目の前でぶち殺しやがった」
「え!? ほ、本当ですか!?」
「ああ、表現でもなんでもない。本当にあの槍でぶち殺した」
お姉さんが驚いた表情でこちらを見てきました。
なので、俺はしっかりと頷きますぞ。
紛れも無い事実ですからな。
赤豚はこの世に生きている価値の無い存在ですぞ。
むしろ生存時間が長くなればなる程、世界から元気が失われていくのですぞ。
「嘘ではありませんぞ? この世の害悪、赤豚をぶち殺してやりました!」
驚いたお姉さんがお義父さんの顔を見ると、お義父さんは無言で頷きました。
お姉さんは相変わらず信じられない、と言った顔で俺を見ています。
よし、これで俺が味方である事は伝わったはずでしょう。
ここから更に俺が信頼出来る人物である事を証明していきますぞ。
「お義父さんの命令は絶対ですぞ。それが仲間にしてくれる条件ですからな」
「お義父さん? ナオフミ様、仲間にするのに条件を言ったんですか?」
「言ってねえよ! さっきからずっとこんな調子なんだ。どうにかならないか!」
お義父さんが髪を掻き毟っていますぞ。
そんな事をするとキューティクルが傷みますぞ?
「な、何が何やら……妙な事とは?」
「俺は未来からやって来て、全てを知っているのですぞ。先程の衝撃で思い出したのですぞ」
「未来……?」
お姉さんが眉を寄せつつ俺を見ますな。
まあ簡単に信じてもらうのは難しいでしょう。
しかし、俺は以前のループの様に根気良く話し続けますぞ。
それこそが真なる平和への道だと信じていますからな。
「知っててアイツを殺したのかよ」
「奴は害悪、生かす必要など微塵もありませんからな」
「まあ、それには同意するが……あの女を殺した責任を俺が被る事になるだろうが!」
「責任を被って何かあるのですかな?」
「ない訳ねぇだろ! また俺に冤罪を被せるつもりだな!」
おや?
このお義父さんの反応……ああそう言えばお義父さんが冤罪を被っている正しい理由を知らないのですな。
ならばそこから説明していくのが良いでしょうな。
「あの、お義父さんとは?」
「フィーロたんのお義父さんだからですぞ」
「グア?」
「フィーロの……まあ、確かにナオフミ様との関係で言えば、フィーロの育ての親になるとは思いますが……」
お姉さんも大分乗り物酔いから回復しつつある様ですぞ。
「それでお義父さん、何故強姦冤罪を掛けられたのか、その理由を知りたいとは思いませんかな?」
俺の問いにお義父さんは思い切り俺を睨みつけながら拳を握り締めました。
そして言葉を選ぶ様にお義父さんは言いました。
「……何を知っている? そのふざけた態度で何を言う気だ?」
「未来で得た真実ですぞ。もちろん、俺が知らず知らずにやった事は変えようの無い事実ですが、俺はとても反省しているのですぞ」
「良いから話せ。そうだな……アイツを消し飛ばしたからな。少しくらいは聞いてやっても良い」
「信じるんですか!?」
「目の前であんな殺戮をやらかして『へへへ、冗談ですぞ』で済む訳ないだろ。少なくとも、これまでの元康があんな事をするはずがない」
「それは……そうですね」
さすがはお義父さん。
俺の事をよくわかっていますぞ。
お姉さんも納得している様ですな。
確かに未来の記憶を思い出す前の俺であれば、赤豚を殺すなんて事はしなかったはずですぞ。
ここを突破口に信頼を得るのですぞ!
「また何かをやらかすにしてもこのまま逃げ切るにしても、フィーロの足に走って追いついて来やがったし、話を聞く以外の選択肢がない」
状況判断が早いですな。
俺も見習いたいですぞ。
「では話しますぞ。この国、メルロマルクは盾の勇者を敵とする宗教を国教とする国なのですぞ」




