茶番
ポータルでメルロマルクの城下町に戻った俺は魔物商に顔を出しに行きました。
「では本日、再度接触を試みますです。ハイ」
「お願いしますぞ。おと――盾の勇者は海岸沿いの廃村に移動した様ですな……ただ、獣人と一緒にいますぞ」
確かお姉さんのお姉さんの目的はお姉さんを見つけることですぞ。
ここでお姉さんを斡旋しようものなら、お姉さんのお姉さんはどういう行動に出ますかな?
目的を達成したお姉さんのお姉さんはそれとなく立ち去ってしまう気がします。
それはお義父さんへの裏切りを意味する気がしますぞ。
その方向は避けるべきですな。
「一緒にいる獣人は放すか、いなくなるのを確認してから俺が斡旋する奴隷を売りつけて欲しいですな」
「わかりましたです。ハイ」
で、魔物商と打ち合わせをした後、赤豚達に朝の挨拶をしました。
く……今日は狩りをしないとさすがに怪しまれますぞ。
その日の昼過ぎまで俺達は国の仕事とLv上げの狩りをしました。
赤豚に経験値を献上していると思うと胃に穴が空きそうですぞ。
戻ってくるとお姉さんのお姉さんとお義父さんが若干打ち解けた様な空気を纏っておりました。
何Lvなのかとか話していたのですかな?
「ナオフミちゃんLvが上がったかしら?」
「……ああ」
何かお姉さんのお姉さんが親しげな印象を覚えるのは何故ですかな?
意図がよくわかりませんが、ゼルトブルでお姉さんのお姉さんと出会った時の印象と重なる気がしますぞ。
何か企んではいるのですが、それを匂わせない……そんな雰囲気ですぞ。
「じゃあ魚を港町に卸しに行きましょうよ。お姉さんも持つわね」
「……」
という感じにお姉さんのお姉さんとお義父さんは港町の方へと移動をして行きました。
「ナオフミちゃんは疑い深いわねー。お姉さんがそんなに信用できない?」
「さっきの事は礼を言うし、あってからずっと俺に害は及ぼしちゃいない。だが、なんでそんなに付いてくる?」
「んー。なんか放っておけないっていうのは理由にならないかしら?」
「……はいはい」
毒気を抜かれた、という様子でお義父さんはお姉さんのお姉さんを無視し始めました。
「そんなにお姉さんの事が信用できないなら、お姉さんに奴隷紋を刻ませる? ナオフミちゃんにならお姉さん染められても良いわよ?」
「奴隷紋?」
お姉さんのお姉さんはお義父さんにこの世界の奴隷がどういう物で、逆らえないかを説明しました。
「そんな物が? じゃあ俺が死ねと命じれば……」
「出来るでしょうねー」
「……なんでそこまでして俺の奴隷になりたがる?」
「ナオフミちゃんなら信用出来そうだからかしら? まあ、お姉さんにも色々と理由があるのよー」
奴隷紋の話を聞いて、お義父さんは再度考え込みました。
きっと裏切れない、というワードから仲間にするのもありだと考えているのですぞ。
「一応、奴隷商人とやらの所へ聞きこみに行くか」
「あら、紹介するわよ」
「お前の紹介した奴なんて信用できん!」
お義父さんはそう言ってから港町の奴隷商人を探して、奴隷紋とはどういう物かを聞いて裏取りをした様ですな。
念の入り用で酒場や買い取り商人に金を握らせてまで聞いてました。
お義父さんの情報収集が終わる頃には、既に夕方になっておりました。
「どうやら本当の様だな。街を歩く亜人や獣人が揃って奴隷の紋様があるから確かみたいだ」
「そうよー」
「……鬱陶しかったら殺すぞ」
「あらー」
陽気な様子でお姉さんのお姉さんはお義父さんの奴隷になる事を選びましたな。
港町の奴隷商人に儀式を頼んでお義父さんの奴隷となりました。
もちろん、魔物商がさりげなくすり替わって自己紹介をしておりましたぞ。
「ああ、ナオフミちゃんの愛が刻まれたのねー」
バチッと奴隷紋が作動して、お姉さんのお姉さんが仰け反りました。
「あん。どうしたのナオフミちゃん」
「……効いてはいる様だな。その気持ち悪い言い回しをやめろ」
「わかったわナオフミちゃん。まあ、この奴隷紋があれば、ナオフミちゃんの寝込みに物を物色して逃げるなんて事を出来ないのは理解したわよね?」
「……ああ」
「じゃ、お姉さんと一緒に村に戻って就寝しましょうか。寝てないから辛いんでしょ? ほら、背負って上げるわ」
「やめろ気色悪い! だが、まあ寝るのは賛成だ」
なんという事でしょう。
お姉さんのお姉さんがお義父さんの奴隷となってしまいましたぞ。
お姉さんをお義父さんに渡せなくなりました。
お姉さんのお姉さん、目的はなんですかな?
きっとお義父さんの正体に気づき、お姉さんの捜索を手伝ってもらうつもりですぞ。
確かに獣人のお姉さんのお姉さんが探しまわるよりも盾の勇者とは言え人間であるお義父さんが奴隷を探す方が効率的だと判断したのでしょう。
策士ですな。
ですがそれは余計な策なのですぞ!
それからお義父さんとお姉さんのお姉さんは一緒に行動する事が増えた様ですぞ。
Lvは海の方が上げ易いですからな。
金銭に関してもお姉さんのお姉さんさえいれば、ある程度どうとでもなりますからな。
村にいないのでお姉さんのお姉さんの秘密基地の方へポータルで移動するとお姉さんのお姉さんとお義父さんが飲み交わしている光景に遭遇しましたぞ。
奴隷紋を刻んでいるから余計な事を出来ないとお義父さんは思っているご様子。
で、何やら倉庫を漁って飲み明かしている内にお姉さんのお姉さんの視線が熱くなっているのに俺は気づきましたぞ。
既にルコルの実を服用済みですかな?
なんて感じに日々は過ぎて行ったのですぞ。
ああ、お姉さんの方は俺が密かにちゃんと世話をさせていますぞ。
あんまり俺を覚えられても困るので、他人任せではありますがな。
宿の店主も金をもらっている手前なのと、お姉さんの状況からある程度事情は察して、甲斐甲斐しく世話を焼いてくださっておりますぞ。
とりあえず……時間は稼げているのではないですかな。
なんて感じに波までの時間が近づいて来ている所で、お義父さん達は城下町へと向かいました。
「ナオフミちゃん、まずは波に備えて装備を揃えるのかしら?」
「ああ、サディナが用意した鎧よりも良い物があるかもしれないしな」
なんて感じにお義父さんは武器屋に顔を出しました。
「おお、アンちゃんじゃねえか。久しぶりだな。随分と……変わった仲間を連れてるじゃねえか」
「強引な奴が勝手にな……まあ、助かってる。で、多少金が集まったから装備をだな」
ここは変わりばえはあるかわかりませんが、次は波に備えて龍刻の砂時計に行くのでしょうな。
しょうがありませんぞ。
もはやお姉さんのお姉さんという不安要素がありますが、お姉さんの代わりとしてがんばってもらいますぞ。
失敗したら錬か樹を仕留めましょう。
で、赤豚達を連れて偶然を装い、俺達はお義父さんと邂逅、お義父さんはお姉さんのお姉さんを突き飛ばして草原の方へと歩いて行きました。
後はやるだけですぞ。
という感じで波が到来しましたぞ。
最初の世界の通り、俺は猪突猛進に波のボス目掛けて走り、思い切り手加減しながら次元ノキメラと戦いました。
後方をチラッと見ていると、お姉さんのお姉さんの雷魔法が炸裂している様に見えましたな。
お義父さんもそれなりに善戦出来たのではないでしょうか?
きっと、Lvはお姉さんと一緒よりも高いでしょう。
何せ、お姉さんのお姉さんの方が強いですからな。
という感じに、波を終えて城での戦勝会になりました。
そこで赤豚とクズは裏で打ち合わせをしたように俺に向かって声を掛けて来ましたな。
「ブブブ、ブブブブブ、ブブブ!」
おそらく最初の世界の様に俺にお義父さんの近くにいるお姉さんのお姉さんは奴隷である事を説明したのでしょう。
「なんと……信じられませんな! 確かに変わった獣人ではありましたが、奴隷だったとは……許せませんぞ!」
怒ったふりをして俺はお義父さんの方へと歩いて行きます。




