廃村にて
やばいですぞ。
お姉さんのお姉さんは隠蔽スキルを見抜く勘の良さを持っております。
これは更に隠蔽魔法も掛けて密度を増す必要がありますな。
「お前は何者だ!」
お義父さんは更に警戒を強め、お姉さんのお姉さんに盾を向けて叫びました。
「それはこっちの台詞かしら? ここは私の住んでいた村よ? 見知らぬ旅人ちゃん」
「……こんな廃村にか? というか言葉が通じるって事は、お前は……魔物じゃないんだな?」
「波の被害を受けてね……獣人を知らないのかしら?」
「獣人……ああ、そういう種族がこの世界にいるのか」
お姉さんのお姉さんはのしのしとお義父さんに一定距離まで近づいて話をしている様ですぞ。
人間不信のお義父さんにそこまで近づけるのも中々難しいのですが、そこはお姉さんのお姉さんという事ですかな?
「この世界? なんか変わった旅人ね。あなた」
お姉さんのお姉さんは陽気な様子でケタケタと笑い掛けますぞ。
「……ああ、俺はこんな世界になんて来たくなかった。知りたくもない!」
お義父さんの方も吐き捨てるように答えます。
「私の名前はサディナって言うのよ、旅人ちゃん。貴方はどうしてこの村に来たのかしら?」
「別に……海岸沿いで釣りをしていたらこの廃村を見つけたから野宿しようと寄っただけだ」
「あらー……この辺りはまだ魔物がいるから気を付けなきゃダメよ」
「……一応、礼を言う」
「で、釣り人ちゃんの名前はなんて言うのかしら?」
お姉さんのお姉さんはお義父さんに名前を何度も聞こうとしてきますぞ。
お義父さんもお姉さんのお姉さんが声は女性でも姿が人とはかけ離れているからか若干警戒を解き始めました。
「岩谷尚文……尚文が名前だ」
「そう、ナオフミちゃんって言うのね。ナオフミちゃんは釣り目的でここに?」
「……ああ」
しばし考えた後にお義父さんは頷きました。
嘘を吐こうとしている様にも見えますな。
お姉さんのお姉さんには通じなさそうですが。
お姉さんのお姉さんは酒瓶を軽く口に付けてからお義父さんを見つめ、焚き火に近寄って座り込みます。
「いやぁ、村で火を囲って飲むのは懐かしい気持ちにさせるわねー」
「ここはどうして廃村になったんだ?」
「ナオフミちゃんは知らないのかしら? 波の被害を受けたからよ」
「……やはりそうか」
と、お義父さんとお姉さんのお姉さんは淡々と話をして行きました。
で、お義父さんは礼とばかりに釣った魚を調理してお姉さんのお姉さんに差し出しましたな。
お姉さんのお姉さんも無下にせずに受け取って食べ始めました。
「出会いに乾杯よー」
「ああ、乾杯」
お姉さんのお姉さんが差し出す酒は断った様ですが、お義父さんはお姉さんのお姉さんと雑談をしていました。
「……サディナだったか、お前は知らないのか?」
「何をかしら?」
お姉さんのお姉さんは首を傾げますぞ。
おそらくこの問いはお義父さんの中で試す意味があるのでしょうな。
きっと国中に知られている強姦魔という噂の話でしょう。
「……知らないならいい。で、なんで当たり前の様にここで飲み食いしてるんだ?」
「良いじゃないのそれくらいー。せっかくの出会いなんだしー」
「ああ、はいはい。俺を騙そうとしたってそうはいかないからな!」
お義父さんは随分と警戒心が強くなっておられますぞ。
ああ、あの時助けないとこんなにも殺伐とした表情を浮かべるのですな。
お義父さん……頼まれた事とは言え、申し訳ありませんぞ。
というか……お姉さんのお姉さんはここにいるのですな。
知りませんでした。
「警戒心が強いのねー。魚釣りが目的みたいだけど釣った魚は食べる専門かしら?」
「そんな事を知ってどうするんだ!」
「なんか様子が違う気がしたから聞いただけよー」
なんて様子でお姉さんのお姉さんはぐいぐいとお義父さんに雑談をして行きますぞ。
「別に……売って金にするだけだ」
お義父さんもウンザリとした様子をしておりますが、夜間の移動は危険だと判断したのか苛立ちながらも答えております。
「あらあら、私も漁師だったからその辺りは知ってるわよ。卸すなら――」
なんて感じに会話の取っ掛かりを見つけたお姉さんのお姉さんはお義父さんに親しげに話をして行きました。
「高めの魚は何か知ってるか? 釣り上げて売ろうと思うんだが」
「あら? 取って来てあげようかしら?」
「金を払う気は無い」
「タダで良いわよーその代わり、お金を手に入れて何をしたいか教えてほしいわね」
「……ふむ」
お義父さんが考え込みましたぞ。
「装備を揃えたいだけだ」
「装備? 武器とかかしら?」
お姉さんのお姉さんはお義父さんの盾に視線を向けますぞ。
逆にお義父さんは盾を隠す様にしております。
「……話す気は無い」
「疑い深いのね」
「俺の勝手だろ。さっきから鬱陶しい!」
「あらー……じゃあ約束通りに取ってくるかしらね。まだ魔物がくるかもしれないから気をつけて」
とは言いつつ、お姉さんのお姉さんは陽気に海岸の方へ行き。
泳いで行ってしまいましたぞ。
「なんなんだアイツは……まったく」
お義父さんはそう愚痴った後、寝る準備を始めておりました。
が、30分くらいした所でお姉さんのお姉さんが高価な魚を取って来てドンとお義父さんの前に置きましたぞ。
「はい。約束の魚よ」
「あ、ああ……」
「あら? 寝るの? 見張り番して上げようかしら?」
「そう言って俺から盗む気だな!」
お義父さんはこれまでに無いほどの警戒心を強めて答えます。
「何を盗むのかしら?」
「色々あるだろ、服とか荷物とか釣り具とか!」
「あらー。じゃあお姉さんが先に寝るからナオフミちゃんは見てたらどうかしら?」
そう言ってお姉さんのお姉さんは横になって眠り始めました。
完全に警戒心が無いご様子。
お義父さんは呆れる様な眼をお姉さんのお姉さんに向けておりました。
そんな感じにお義父さんは眠ることなく、朝日が昇って来ましたな。
「寝なきゃ倒れちゃうわよ?」
「うるさい」
お姉さんのお姉さんはお義父さんについて行くような素振りですぞ。
「ついてくんな!」
「心配だからに決まってるじゃない」
「あーもう……」
ウンザリした様子でお姉さんのお姉さんの相手をするお義父さん。
何か独自の雰囲気が夜間に出来た気がしますな。
「ねえねえ、ナオフミちゃん。ここで知り合ったのも何かの縁、一緒に海釣りをしないかしら? 魔物はお姉さんが倒してあげるわよ」
小舟を指差してお姉さんのお姉さんはお義父さんを誘いますぞ。
「そう言って船に乗せて落として殺す気だな!」
「そんな気は無いわよ。あら?」
という所でモスグリーンウルフと言う魔物数匹が現れましたぞ。
お義父さんが戦闘態勢に入ります。
「ナオフミちゃん、どうせ戦うんだし、経験値が勿体ないからパーティーを組みましょ?」
お姉さんのお姉さんも銛を持ちながら答えます。
「あ?」
「リーダーは私がするかしら? ナオフミちゃんにする? とりあえず、すぐに終わらせるから私が送っておいた方がいいかしら」
そう言ってお姉さんはお義父さんにポーンと……きっと申請を送ったのでしょうな。
やばいですぞ!
ここに俺がいるとお義父さんに経験値が入らないから話が拗れますぞ。
しょうがないですな。お姉さんのお姉さんがいるなら大丈夫でしょう。
俺はポータルスピアを唱えて一時離脱しました。




