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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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活発化現象

「キタムラ様、ビッチの名前を間違えてはいけませんよ」


 元康の奴、呆気に取られたように口をポカーンとしている。

 思い通りに事が運ぶとでも思っていたのだろうか。


「その子の名前は姫としてはビッチ、冒険者ではアバズレです」

「な……アンタ! 本当にマインの親なのか!」

「ええそうですよ。今、ビッチを前の名前で呼びましたよね」


 女王が目で兵士に指示を出す。

 ビッチが元康から引き剥がされた。


「ちょっと! 何するのよ! 私は――」

「ただの冒険者風情が何を言っているのです? 権威はありませんよ」

「彼女に何をするんだ!」

「キタムラ様……アナタが正しい名前を呼ばない限り、この子が背負う借金が増えていくという条件をここで追加します」


 信じられないという顔をして元康は女王を睨む。


「改名の理由は多々あります。まず、イワタニ様への冤罪、差別、そして妹のメルティが命の危機だったというのに我が身可愛さに便乗したことが理由です。むしろ甘い罰ですよ」

「何を言ってるんだ!」

「この程度の罰で許してもらっているイワタニ様の温情に感謝してもらいたい位です」


 元康の奴、思い通りに事が運べなかったからか俺を睨みつける。


「洗脳の――」

「そんな力は無いぞ」

「ええ、ありませんよ。三勇教のデマに騙されてはいけません。イワタニ様は自らの力で信頼を勝ち取ったのです」

「ああ」


 女王の奴、若干、苛立っているのがわかる。

 娘の暴走が限度を超えているからなぁ。

 懲りないのか。

 なんか完全には信じていないけど、女王が不憫だ。

 女王が扇子を上に掲げる。


「盾の勇者様であるイワタニ・ナオフミ様に掛かっていた、冒険者に強姦しようとしたという疑惑、それは狂言であることをここに宣言します!」


 喝采が起こる。

 元康の奴、広間の雰囲気にキョロキョロと信じられないという顔で振り返っていた。


「お前等、どこかおかしいぞ!」


 なんだ? 未だに俺が性犯罪者だとでも思っているのか?

 女ならば何でも良いとでも思っているようなハーレム願望の強い奴が?


「さあキタムラ様……この子の正しい名前を呼んで下さい。間違った名を呼んだ場合、この子の国への借金が増えていきますよ」

「ふざけるな!」


 元康の奴、メチャクチャ切れた表情で何故か俺を睨む。


「イワタニ様は関係ありません。さあ、呼ぶのです」

「だ、誰が呼ぶか!」

「ではこの子、ビッチとはお別れです。何をさせて借金を返させますかね。そうですね、イワタニ様?」

「なんだ?」

「この子を――」

「な、そんな――モトヤス様!」


 事態の悪化にビッチの奴、助けを請うように元康へ懇願する。

 しかし、それは保身でしかないのは元康以外のみんなが理解している。

 こういう回転の速さだけはあるようだし……。


「ぐ……」

「キタムラ様もご理解された方が良いですよ。この子は生来の卑怯者、誰かの影に隠れて他者を貶めるのが趣味なのですから」

「そんな子じゃない! コイツが悪いんだ!」


 元康が俺を指差して言い放った。

 信じると妄信の違いを理解しないと、いずれ足元を掬われるというのを理解していないな。

 女王に任せているのも良いが。暴力に出そうだよなぁ。


「良いだろう。そんなに勝負したいのなら相手になってやる」

「イワタニ様……良いのですか? 双方の正しさを証明するのは良いですが、殺し合いはダメですよ?」

「ああ、わかっている。だが、一対一だぞ」


 あっちは魔法援護がうっとおしいからな。


「当たり前だ!」

「まあ、お前が戦いたいのならしょうがない。だが考えて見ろ。今回の敵にトドメを刺したのは誰だ?」


 元康がハッと我に返るように俺の顔を見た。


「仲間無しで俺と本気でやりあって、勝てると思っているのか?」

「ぐ……」

「ちなみに俺は自分の傷を癒せるからなぁ……消耗戦でも勝てる見込みは高いぞ」


 あの時とは違ってこちらにも攻撃手段がある。

 さすがに分が悪いと察したのか元康の奴、戦意が喪失していく。


「ほら、諦めたんなら言えよ」

「くそ……」

「言わなければこの子とは別れさせます」

「ママ!」

「ア……」


 ビッチが悔しそうに女王に言い放ち。元康は苦渋に満ちた顔で小さく呟いた。


「アバズレ……」

「盾! 絶対に許さないわ!」

「言ってろ、ビッチ!」


 それを聞き届けると女王は指示を出してビッチを解放する。


「もう、過去のように権力を使ってイワタニ様に無茶な要求は出来ない事をご理解ください。勇者は平等に扱うのが私の方針ですので」

「どこが平等だ!」

「おや? 私が居ない間に随分とイワタニ様への不遇を見過ごしていたという話だったかと思いますが? まさか勇者様達の平等とは自分のみ優遇する事を指すのでしょうか?」


 不穏な空気を嗅ぎつけて錬と樹が近寄ってくる。


「剣の勇者様と弓の勇者様もご理解ください。我が娘、ビッチはイワタニ様に冤罪を被せました。その罪も兼ねてこの子はビッチという名前になったのです。例え泣き付かれても同情の無い様お願いします」

「あ……ああ」

「わ、分かりました」

「後、イワタニ様を優遇しているように感じたのなら、今までの分をイワタニ様に返しているだけだとお思いください。勇者様方は既にイワタニ様よりも多くの優遇を受けられていますので」


 俺を最優先で優遇すると言いながら、女王の奴……ま、こうでも言わないとあいつ等は納得しないだろう。

 女王の返答に元康は不快な表情を浮かべながらビッチを心配して立たせる。

 騒ぎが収拾したのを確認した錬と樹達も納得しかねる表情だったが、事情が事情なのか、特に不満は無い様だ。

 むしろ、元康が今まで優遇され過ぎていた事に対して『確かに……』とまで洩らしている。


「ビッチ。これ以上、イワタニ様への騒ぎを起こすようだったら、改名と罰金程度では済まない罰を与えますよ!」

「うるさい! 私をビッチと呼ぶな!」

「反省が微塵も無いようですね……しょうがありません」


 女王は手を叩く、すると城の魔法使いが見覚えのあるインク瓶を持ってきた。


「な、何をするつもりだ!」


 元康が、場の不穏な空気に気付き、声を上げる。

 城の兵士が元康とビッチを遮って、魔法使いがビッチに儀式を始める。

 女王が針で自らの指を刺し、血を滲ませ、インクに血を落とす。

 あれは……何をするのか分かった。


「い、いや! 放しなさいよ!」


 さすがのビッチも、何をされるのか察したのだろう。

 一生懸命暴れるが、兵士達がそれを許さない。

 逆に元康は何をするのか理解していないが、取り返しの付かないことが起こるのだと理解して槍を構える。


「やめろおおおおおおおおおお!」


 させるか。


「シールドプリズン!」


 ここぞとばかりに盾をラースシールドに変えて怒りを抑えつつ、というか怒りをコントロールして元康を閉じ込めた。


「い、いや! 来るな! 私を誰だと思ってるの!」

「ただの冒険者ではないですか。いや、罪人ですね。イワタニ様に毒を盛った暗殺未遂に対する罰です」


 そう言うと女王は片手を下げて、命令した。

 ビッチの胸にインクが落とされ、紋様が全身に向かって刻まれる。


「キャアああああああああああああああああああああ!」


 しばらくビッチが絶叫を上げた後、紋様は何事も無かったかのように消え去る。

 ラフタリアのとは違うな。ラフタリアのは刺青みたいだけど、ビッチのは何も残っていない。


「高度の奴隷紋です。普段は見えませんが条件を満たすと浮かび上がり、対象に罰を与えます」


 フィーロの魔物紋の人用みたいな物か。


「条件はイワタニ様への攻撃です。毒物でも魔法でも直接攻撃でも発動しますので、絶対に手を出すのではありませんよ!」


 ビッチが涙目でキッと女王を睨みつける。


「マイ……アバズレ、大丈夫か!」


 プリズンから解き放たれた元康がビッチに駆け寄って、抱きかかえた。

 何とも晴れやかな裁きだろうか。無茶が通らない挙句、手痛い反撃を受けて元康とビッチは悔しそうにしている。


「さて、それではそろそろ、本題に入りましょうか」

「……何かあるのか?」


 切り替え早いな。

 これが女王の威厳なのか?

 ちょっと嫌な威厳だな。

 錬と樹の表情が引きつってるぞ。


「ええ、勇者様方にはとても良い話だと思いますよ」


 女王の奴、どんな話をするつもりなんだ?

 疑問を抱きながら俺は女王の話を聞き入る。


「近々、この国の近海にある……カルミラ島が活発化するようです。勇者様方には振るってご参加くださるようお願いします」


 ……何その島? 活発化って何?


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」」


 俺以外の三人が大興奮している。

 元康……ビッチの事、忘れてないか?

 あれだけ悔しそうにしていたのに。


「なんだ? 何があるんだ?」

「イワタニ様はご存じないようなので説明しますね。活発化というのは10年に1度、その地域で手に入る経験値が増加する現象です」


 女王の話を掻い摘むとこうだ。

 カルミラ島という島は保養所として有名であり、同時に場所によって様々な魔物が密集して生息する地であるらしい。

 Lvを上げたい冒険者も時々来訪する有名な地であり、特に10年に1度の活発化する時期となるとかなりの人がなだれ込むらしいのだ。

 今回の事件で勇者四人のLv上げを損ねてしまった事への補填だそうだ。


「もちろん、生息地の借り上げは済んでおります。皆様、振るってご参加ください」


 オンラインゲームとかでいう所のイベントダンジョンとかそんな所か?

 経験値の倍率がよくなり、敵も手ごろか。

 ゲーマーなら喜ぶイベントだな。

 何とも……。


「前々から準備が進んでおりまして、このカルミラ島の参加に対し、勇者様方に一つ、大きな催しを受けてもらいたいと私は考えております」

「催し?」

「何をするんだ?」


 俺達の問いを聞いてから女王は答える。


「勇者様方の情報交換とカルミラ島に駐在する半分の時間を人員交換をしてみてはどうかという話です。もちろん四方の同意の下に、ですが」


 ………………。


「「「「何ーーーーー!?」」」」


 とんでもない話を女王は持ってくるのだった。




 翌日。


「ぬおおおおおおおおおおお!」


 女王はクズに氷漬けの拷問を俺の目の前で披露した。

 クズの嫌がる顔を見れて朝から爽快な気分だ。


「まったく……イワタニ様への妨害だけは知恵が回りますね」


 カルミラ島へ行くと言う話を聞いて、Lv上げに丁度良いと俺も頷いた。

 女王の話だと、カルミラ島は温泉地でもあるのでゆっくりするには良い場所だそうだ。しかも温泉には俺が受けたような呪いを癒す効果も期待できるらしい。

 だが、ここで大きな問題があった。

 俺は良いとしてもラフタリアやフィーロはクラスアップが出来ていないので打ち止めのような状態だ。

 それを女王に伝えると、女王はクズを連れてきて事情を聞いた。

 するとクズは言い訳を繰り返し、結局、氷漬けにされた形で白状した。


「しょうがありませんね。では出発前に龍刻の砂時計で同行者のクラスアップを済ませてから旅立ちください」

「お前は来れないのか?」

「内政がありまして。代わりに影を遣わします」


 まあ、そうだよなぁ。


「所で、情報交換と人員交換だが……」


 何とも嫌な空気が立ち込めているのだが。


「悪い話では無いと思いますが?」

「いや、俺はあいつらが嫌いだし」

「そこはそれ、情報交換によって、他の勇者様しか知りえない強くなる方法を聞き出せるかもしれませんよ」

「まあ……」


 それも一つの可能性だよな。

 なんていうか、カースシリーズを使わないと、あいつ等には勝てないというのも問題だ。

 いずれ当たり前のようにカースシリーズ並みの武器を奴等が手に入れたら、それこそ俺は大きく出遅れる事になるし。

 不服だが、受け入れるのも手か。


「人員まで交換するのはなんでだ?」

「戦い方を参考にさせるというのと仲間にもそれぞれの勇者がどんな戦い方をするのかを見てもらうのですよ」

「それだけじゃないだろ?」

「ええ、情報交換の裏取りも兼ねてます。ついでに仲間の方からポロッと強くなる方法を聞きだせるかもしれません」


 なんともよく考えている手だこと。逆もありえるがな。

 とは言っても波の事を考えれば、誰か一人が強いだけでは最終的に問題が出てくる。

 それに後々、アイツ等と戦う事になった場合を想定すれば、奴等の仲間の状況を知っておいて損は無いか。


「このクズも名案を閃くことですよね」

「クズが提案したのか!?」

「ええ、本来はキタムラ様を優遇する為に考えていたプランのようですが」


 なるほどねぇ。

 他の勇者から情報を引き出す為に考えていたのか。

 本当に悪知恵の回るジジイだな。このクズは。

 おそらくだが、もしもこの状況にならなかったら、俺はカルミラ島に行けなかったんだろうな。


「という事で、行ってみてはどうです?」

「そうだなぁ。それも良いかもしれないな」

「とりあえず国庫の計算がまだ済んでいないのでイワタニ様への援助金がどれだけ出せるか分かりません。帰ってきてからの楽しみにしていてください」

「滞在費はそっち持ちだよな」

「もちろん、あちらでの経費もこちらで持ちます。では、龍刻の砂時計に行きましょうか。準備が済んだので、魔法契約もそこで行いましょう」

「分かった。じゃあ行くぞ」

「はい」

「はーい!」


 ちなみにフィーロは昨夜、メルティと一緒に寝た。

 メルティが最後の楽しみというかのようにフィーロを魔物の姿になるように頼み、羽毛の中で寝たとか……朝起こしに来た教育係が悲鳴を上げていたのを俺は覚えている。

 という事で、俺達は女王とメルティと共に龍刻の砂時計へと向かった。

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