頃合い
「今日はどうしましょうか? 復興も順調ですし、素材集めに狩りにでも行きますかね」
「だね。波もあるし……フォーブレイのゴタゴタもそろそろ終わったかな?」
なんて感じに村の広場にまで歩きながら雑談をしますぞ。
んー……と、樹を見つめながら俺は考えました。
「ああ、そろそろ頃合いですかな?」
前回や前々回を参考にすると時期的には問題ないと思いますぞ。
ちなみにそれとなく俺もどうなっているのかを聞いていますから問題ないでしょう。
三勇教の女王排斥運動時も大きく動かずに私腹を肥やしていた様ですからな。
と言うよりも援助をして自身の立場を守っていただけの様ですからな。
「何がですか?」
「樹、これからしばらく、お前はメルロマルクのこの辺りの町を巡回するのですぞ」
俺は地図を取り出して樹に周る地域を指示しました。
これは前回の樹に頼まれた事ですぞ。
「そこで樹の思うがままに行動するのですぞ。深く考える必要は無く、迷う必要も無いですぞ」
「凄い大雑把な指示だね。これも何かあるの?」
「いきなり何なんです? 何かあるんですか?」
お義父さんと樹が揃って俺に尋ねます。
「前回の樹に口止めされているので事が終わってからでしか言えませんな」
「はぁ……もしもやらなかったらどうなるんですか?」
「激怒した樹が俺の眉間、腹、股間に銃を三連射した後、トドメを刺そうとするくらい怒った案件ですぞ」
「どういう説明? とにかく、この様子だと樹は言われた通りに行った方が良いんじゃない?」
「理由の説明も無く行かされましても……とは思うのですけど、後悔をしない為に行くべきなんですね。わかりましたよ」
樹はそう言うとお姉さん達とじゃれあっているコウに手を振りますぞ。
「この説明で良く行く気になったね」
「尚文さんを助けた時みたいに何かあるんでしょう。やるしかありませんよ。ですがどう転んでも文句は言わないでくださいね」
「もちろんですぞ。読みが外れた場合は詳しく教えますぞ」
コウは呼ばれてトコトコとやってきました。
「なーに? カワスミー」
「少しの間、僕は出かける事になりますが、コウさんは付いてきますか? それともラフタリアさんやリファナさんと遊んでいますか?」
「んーじゃあカワスミと一緒に行くー」
「では行きますよ」
フィロリアル姿に変化したコウの背中に樹は乗りました。
前回と同じくコウが樹を手伝ってくれる様ですな。
「それじゃあ行ってきますね」
「ラフタリアーリファナー。帰ってきたらまた撫でてねー」
「うん」
「いってらっしゃーい」
コウは楽しそうに樹を乗せて走り去って行きました。
「なんだかなー……」
「ナオフミちゃーん、ラフタリアちゃんとリファナちゃーん」
そこに海からお姉さんのお姉さんがやってきますぞ。
どうやらお義父さん達もLv上げの時間になった様ですな。
そんな感じでその日も問題なく過ぎて行きました。
そして、数日後に樹はストーカー豚を救出して帰ってきました。
「ブブェ?」
「ええ、こちらが僕達が復興をしている村ですよ。リーシアさん」
「ブブブブ、ブブブブ!」
ストーカー豚が樹の帰還に集まって来た村の奴隷達の前で自己紹介らしき鳴き声を上げました。
「困っているようでしたから権力を使って助けたんですけど、これで良いんですよね?」
「やっぱり何かあったの?」
「ええ、どうしようもないテンプレートみたいな悪徳貴族がメルロマルクにまだいたみたいで、僕が助けたんですよ」
という感じで樹はお義父さんと錬にストーカー豚救出の経緯を説明しましたぞ。
で、助けてくれた恩からストーカー豚は樹の仲間になりたいと強い意志を見せたので、こうして村に連れて来たのですな。
「リーシアさん、世界の為に僕達は戦っていますが、この村の復興も手伝っているんですよ」
「ブブブブ?」
「それで元康さん、教えてくれませんか?」
「ミッションコンプリートですぞ!」
大きな声で賞賛する様に言うと、樹を初め、お義父さん達が揃って半眼になって俺を見ました。
そんなに注目されると照れてしまいますな。
「では詳しく話しますかな? 確か前回の樹には話す時には勇者達だけでと言われていますぞ」
「そうなんですか?」
「えーっと、とりあえず勇者だけで話をしようか」
そんな訳で俺達は家に入って話す事になりました。
ストーカー豚はお姉さんの友人とサクラちゃんが対応して村の事情を説明しております。
俺は前回の樹に聞いた通りに、全てを話してから助けに行くか、知らずに行かせるかの二択の話をしました。
「まあ……確かに知っていて行ったら凄く白々しいですよね」
「結果良ければ全て良しかもしれないけど、樹自身の罪悪感を天秤にしたら、どう?」
「そうですね。手のひらで踊らされた様な気がしますが、リーシアさんを助けた事を悪いとは思えませんよ」
「で? 話によると最初の世界の樹はアイツをこっぴどく罠に嵌めて捨てるんだったか」
「どんだけ最初の世界の僕は歪んでいたのでしょうね」
「捨てられても一途に強くなって呪いで廃人になった樹の介護をしてくれると……」
「一定Lvを越えると化けるそうですぞ。しかもエネルギーブーストの資質は十分にありますぞ」
「大器晩成って奴だね。信用出来る人みたいだし、がんばってもらえば良いんじゃない?」
窓からお姉さん達と話をするストーカー豚をお義父さんは見つめますぞ。
「樹の運命の相手だったか……」
錬が何やら羨ましそうに樹を見ますぞ。
「なんですか? 確かに可愛らしい方だとは思いますけど」
「いや、尚文はラフタリアとサディナで、元康はフィーロ……フィロリアルで、樹はそのリーシアって奴だろ。じゃあ俺はどうなんだ?」
ああ、やはり錬も疎外感があるのですかな?
前回の錬はそれ程気にしていなかった様ですが。
「元康。今までの周回で俺の仲間はいなかったのか?」
「錬にはクロちゃんとキールくんがいるじゃない。凄く仲良さそうにしてるのは知ってるよ?」
「う……そうじゃない! そもそもクロは雄だろ、キールは……まあ、論外だ」
「なんとも悲しくなる話ですね。まあ、キールさんに恋愛は遠そうですし、クロさんは男の娘って外見ですものね」
「樹、少し静かにしていてくれ。お前の能力は言葉にも作動するんだから」
おお、お義父さんが良く注意する事ですな。
樹の命中の能力は言葉にも作動して相手に刺さるそうですぞ。
「錬の相手ですかな? というとエクレアと助手だと思いますぞ」
最初の世界では割と一緒に居る相手でしたな。
真面目になった錬は良く一緒にいました。
前回も似た感じでしたが距離感がありましたぞ。
「エクレアってエクレールさん? え? 錬の仲が良い相手ってエクレールさんなの?」
「凄く真面目そうな方でしたよね? 錬さんと一緒というのが想像できないんですが……」
「あの、女騎士って感じの奴と?」
「ですぞ。何やら呪いで暴走していた錬を止めたそうですぞ」
「うーん……それならありえそうだけど、その縁で……か」
「ちなみに前回はそこまで仲良くありませんでしたな」
「あんまり最初の世界を参考にしなくても良い所かもね。で、助手はどんな子なの?」
「錬が親の仇ですぞ」
俺の言葉にお義父さんと樹が錬を見ますぞ。
「親殺しとは随分と酷い事をする様ですね」
「ち、ちが! 俺は血も涙も無い人間じゃない」
「しかも疫病を流行らせて東の村で大量の死者が出ますぞ」
樹が半眼で錬を睨みます。
「違う! 俺はそんな事をしない! 信じてくれ! 元康もちゃんと説明しろ!」
「とは言いましても……って前回も話して怒られた覚えがありますぞ」
「何を言ったんだお前は!」
おや? 話して良いのですかな?
まあ前回も言ったので問題無いでしょう。




