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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 槍の勇者のやり直し
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杖出現

「ルナはキールくんを守った! 可愛いキールくんは世界の宝! 絶対に怪我なんてさせられない!」

「やめろ! 抱きつくな! うお! 羽毛に埋まる! 誰か助けてくれ!」

「ルナちゃん、キールくんを放してあげてね。君は自由なキールくんが好きなんでしょ?」


 キールにじゃれつくルナちゃんをお義父さんが注意して止めました。


「知恵と力がある者は、雄々しく……他者を認める物ですわ。時代の流れに乗らず、古くて錆び付いた血生臭い伝統を守って、悲劇を舞いこんで誰が喜ぶのでしょう? 王が間違った指示を命じた事に異を唱えるのは臣下の責務ではありますが、好む選択をしなかったからと王を排斥するのは国への忠義等無いも同然ですわ」


 ユキちゃんは相変わらず難しい言い回しが好きですな。


「そう……かもね。三勇教という宗教は、自分達こそ国を動かしていると思って王族を蔑にしているのかもしれないね」

「難しい問題ですね」

「王が正しいのか、宗教が正しいのか……か」

「和解を聞き入れず、世界を滅ぼすかもしれない波を軽視して、勇者に世界を救ってと頼みながら世界支配を企む。とても正しい組織とは思えませんよ」


 樹の言葉にみんな頷きました。

 女王も何だかんだで和解の道を探ってはいたと言う事ですな。

 ですが、今までの周回で三勇教がその選択を取る道は一つとてありませんぞ。


「とにかく、ここが正念場です。城に乗り込んだ三勇教を……倒しましょう!」

「「「おおー!」」」


 樹の宣言に俺以外のみんなが雄たけびをあげました。

 なんとも物騒な話……なのですかな?

 やはり先手必勝で三勇教の教皇その他もろもろを皆殺しにしてやった方が早いと思うのですがなー。

 まあ、頭を潰すだけではダメだとお義父さんが仰っていましたし、前回の周回でも身に染みてわかった事なので、こうする事で頭が生えなくなるのならやる価値はありますぞ。


「お義父さん」

「何? 元康くん」

「三勇教を潰したとして、今回は頭が生え換わる事は無いのですかな?」

「頭が生え換わる? あー……なんとなく意味はわかったよ。まあ……無くは無いかもしれないけど、今回の場合、次の頭が生えるまでの時間は十分に稼げるんじゃないかな」


 なるほどですぞ。

 結局、何かしらの敵は存在し続けるという事なのですな。

 ですが、明確に暴れ出すまでの時間は稼げるし、大きくなる前に潰せる様になると。

 面倒な事ですが、勉強になりましたぞ。

 そんな感じで……城にポータルで移動しました。



「やっと来たのか……予測よりも遅い」


 ですが、三勇教は……教皇を含めて既に討伐されていたのでしたぞ。

 城下町と城を繋ぐ城門の上からクズが……杖を片手に、俺達に言いました。

 ガコンと門は開かれて、俺達は言葉を失いましたぞ。

 広場には死屍累々の三勇教徒と武器が砕かれて絶命している教皇が倒れておりました。


「こ、これは一体……」

「既に処分した。お前達の手を煩わせる必要も無い」


 そう言い放ったクズは城門から降りて……お義父さんの隣を通り過ぎて行きました。


「ふん」


 そんな声を漏らすと、クズはスタスタと城の中にある幽閉用の塔へと去っていきました。

 何があったのですかな?

 よく見ると城の中庭など各所に倒れた兵士がおり、その兵士達を他の兵士が運び出している様ですぞ。

 やがて女王がクズとは入れ違いにやってきました。

 微笑を浮かべている様な気がするのは気の所為じゃないと思いますぞ。


「勇者の皆さま、打ち合わせ通りに来て頂き、ありがとうございます。運はこちらに味方した様です。後は城下町を荒らす邪教徒の捕縛だけとなっています」

「あの……何があったのですか?」


 お義父さんが恐る恐る女王に尋ねます。

 すると女王は幽閉用の塔を見つめながら答えました。


「私もクズから聞いたに留まるのですが……」


 城内にも三勇教派の兵士がおり、今日は三勇教が女王を排斥しようと行動する。

 信頼できる者で固めてはいましたが、三勇教はクズが味方になってくれると考えたらしく、幽閉用の塔へと乗り込んで行ったそうですな。


 で、これまでの経緯としてハクコ兄妹がクズの世話係をしておりますぞ。

 妹の方はクズの話し相手になっていたようですな。

 ハクコ兄妹を見てからは窓際で外をぼんやりと眺めているのが常だったクズは、兄妹と生活をしている内に少しずつ表情が穏和になって行っていたそうです。


 とはいえ、窓際からあまり動かなかったクズですぞ。

 三勇教の兵士が女王排斥の旗頭になると思っていたクズの元へ赴き、ハクコ兄妹に出会ってしまいました。

 で、ハクコ兄妹を見て、宿敵と思い……各々武器を引き抜いて。


「死ね! 盾の悪魔に付き従う悪魔共めぇえええええ!」

「いきなりなんだ、お前等は!」


 フォウルが応戦しますがLvも低く多勢に無勢、事態に困惑しオロオロとしていた役立たずのクズは茫然と見ているだけ。

 とはいえ、僅か1、2分の事だそうです。

 そんな状況の中、弱そうな妹に兵士の意識が向くのは当たり前の結果だったのでしょうな。

 フォウルの守りを抜けて妹に剣を振りかぶりました。


「ハハハッ! ハクコよ! くたばるがいい!」

「きゃあああ!」


 悲鳴を上げる妹を見てクズは我に返り、駆け出しました。


「や、やめろぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


 そこでクズは自分が何をしていたのか、何を成さねばならないのか、私情で何をしたのか、と様々な事が脳裏に過ったのかもしれませんな。

 確かクズとハクコ兄妹は血縁なのでしたかな?


 大事にしていた妹の忘れ形見が、目の前で殺されそうになっている。

 そんな時に、自分は何も出来ない。

 命令も三勇教徒の兵士は聞き入れる気配は無い。

 何が正しくて、何が間違っているのか。

 自分が望んだシルトヴェルトへの恨みを晴らすという事も、今は遠く。


 ハクコ兄妹と話をしている間に、事情を察したクズ。

 今はただ、目の前にいる大切な妹の忘れ形見を守りたい。


 その想いに応えたのか――クズの目の前に杖が姿を現したそうですぞ。


「おお! 英知の賢王様!」


 そんな奇跡を目の当たりにして三勇教の兵士共は何か勘違いをした様ですな。

 女王と俺がクズに苦痛を与えるため、強引に、クズが何よりも嫌うハクコに世話をさせている。

 自分達が乗り込んで来た事で、好機と見たクズが杖を取り出して加勢しようとしている。

 ならばハクコの処分はクズに任せるべきだと兵士は一歩引いたそうですぞ。


「アトラ!」


 フォウルが妹の方に回り込んで体を張って守ろうと立ちはだかりますぞ。


「ささ、英知の賢王! 今こそ偽者と売国女王の放った陰湿な嫌がらせであるハクコを仕留めましょう!」

「……」


 クズは目の前に浮かぶ杖を握りしめ、軽く振りまわした後に無言でハクコ兄妹の方へと歩いて行きました。

 ちなみにここに至る前の間に時々面会に来ていた女王からは勇者達の事を多少は聞いていたそうですぞ。

 強化方法を僅かに。


「さあ! これが新生メルロマルクの誕生の瞬間なのです!」


 高らかに宣言した兵士、ハクコ兄妹を見つめるクズ。

 ここに三勇教にとって最大の味方が女王とハクコを倒し、偽勇者共を倒す英知の賢王が再び蘇る。

 そう思った瞬間。


「はぁ! ドライファ・ライトニングボルトⅩ!」


 クズは兵士達の方に杖を向け、魔法を放ったそうですぞ。


「「「ぎゃあああああああああああ!」」」


 高電圧の雷の魔法を受けて兵士たちは揃って倒れ伏しました。


「え、英知の賢王……」

「な、なぜ……」


 クズは険しい表情を浮かべながら倒れ伏す兵士共を踏みつけました。

 そして優しげな笑みを浮かべてハクコ兄妹に手を差し出しますぞ。


「大丈夫じゃったかな?」

「あ、ああ……」

「大丈夫ですわ」


 そうハクコ兄妹の言葉を聞いたクズは兵士共を部屋の外に魔法で浮かせて追い出したそうですな。

 剣戟の音が塔の外……城内に響き渡っているのをクズは耳にしたようですぞ。


「少し外が騒がしい様じゃ。ここで待っておれ。ワシが片付けてこよう」

「だが、それは――」


 フォウルが異議を言う前にクズは振り返って答えます。


「おそらくミレリア……女王も槍の……勇者もそれを望んでいるじゃろう……」


 クズはこの時、杖が出た意味を自問自答し、自分が何を成さねばならないのかを察した様ですぞ。


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[一言] クズに虎兄妹を会わせる役は尚文にすれば良かったんじゃない?
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