フィロリアルとイタチ
「どう? キールくんの変化は知ってる?」
「もちろん知ってますぞ。もう豚から犬に戻れる様になったのですな」
「豚から犬って……」
おや? 何か違うのですかな?
そこに錬と樹がやってきましたぞ。
「女性が豚に見えるんでしたっけ?」
「確か村の連中は例外だとか言ってなかったか?」
「キールくんが温泉に入る時に女の子なのは判明したけど……豚から犬に戻るって」
「変身したんだよ! 戻ったんじゃねえよ!」
キールがワンワンと喚きながら抗議しますぞ。
知りませんな。
「つーかラフタリアちゃん達は変身しないで槍の兄ちゃんに見てもらえるんだ! 不公平だぞ!」
ワンワンとキールが吠えます。
ははは、冗談の上手な犬ですな。
フィーロたんのお姉さんとその友人を豚と間違えるはずがないですぞ。
「まあまあ……元康くんって独自の価値観で生きてるみたいだから何か理由があるんだよ。今までのループとか総合的な意味で」
「うー……釈然としねー!」
「ところでですぞ。元に戻る方法はどうやって習得したのですかな?」
確かキールは前々回の時はシルトヴェルトでパンダに教わって戻れる様になったはずですぞ。
「私が教えたのよー資質があったから」
お姉さんのお姉さんが奴隷達をあやしながらやってきましたぞ。
「へへーん! これで俺達もっと強くなれるぜー!」
「そうだね。とはいえ活性化イベントはまだ先かな?」
「何もLv上げを活性化イベントだけでする必要はないだろ?」
錬の言葉にお義父さんは頷きましたぞ。
「そういえばそうだね」
そこで……お姉さんがイタチ獣人と一緒に手を繋いでやってきました。
イタチ獣人の身長は犬状態のキールと同じくらいですぞ。
イタチだと思いますが、俺の判別ではよくわかりませんな。
そういえば前回、どこかでイタチの魔物を見た気がしますな。
ま、偶然の一致でしょう。
「槍の勇者様、おかえりなさい」
「おかえりなさい、です」
お姉さんとイタチ獣人が俺に挨拶をしますぞ。
「いつの間にか人員が増えたのですかな?」
俺はイタチ獣人を指差しますぞ。
するとお義父さんは手を振ります。
「違う違う」
「あら、これは失念していました」
と答えたイタチ獣人は光を放って変身しましたぞ。
するとそこにはお姉さんの友人が立っていました。
「キールくんと同じくリファナちゃんにも資質があるんだってさ」
「もっと素早く動けるようになりました」
誇らしげに胸を張ってお姉さんの友人は答えますぞ。
ほう……こんな資質を持っていたのですな。
「さっきラフタリアちゃんを背に乗せて走ってたよね。どうだった?」
「えっと……重かったよね?」
「私が言ったんだから大丈夫!」
キャッキャとお姉さんとその友人がじゃれておりますぞ。
外見で言えば……ルナちゃんが喜びそうな変化ですな。
「リファナちゃんも大分戦えるようになってきたよね」
「そうだな。村の中じゃ速さはあると思うぞ。フィロリアル共と比べたらわからないが」
「さっき、コウとじゃれていたよね」
コウは村でお姉さん達の手伝いがしたいと、サクラちゃんと一緒に留守番をしたのでしたな。
「うん! 模擬戦してたの! 見る?」
「やるー?」
コウが呼ばれて楽しげにスキップ交じりにやってきます。
「じゃあ見せてもらおうかな?」
「はーい!」
コウがフィロリアル様の姿に変わり、お姉さんの友人もイタチ獣人の姿になって構えます。
どうやらツメを出して戦うスタイルみたいですぞ。
じり……じりっとコウとお姉さんの友人は距離を詰めます。
コウは獲物をみつけたという目をしている様な気がするのですが気の所為なのですかな?
やがて両者共に動きだし、ぶつかりました。
「お! お! く! とお!」
コウがお姉さんの友人を避けて蹴ろうとしましたが、サイドステップしながら飛びかかったお姉さんの友人のフェイントに引っ掛かり、あっさりと飛びかかられてしまいました。
コウの蹴りがむなしく空を切り、お姉さんの友人はコウの翼に飛びついて軽く羽毛に手を入れます。
ふさぁ! っとお姉さんの友人はコウの羽毛を手櫛ですいてから、反撃をしようとするコウから離れます。
「これで翼に一撃!」
「うー……でも負けてないもん!」
コウは諦めないとばかりに再度突撃しますぞ。
お姉さんの友人は四足形態に移行してからぬるっとコウの背後に回り込んで背中に乗りました。
かなりの早業だったと思いますぞ。
「コウくんゲットー」
そしてお姉さんの友人はコウの首に抱きついて顔をうずめました。
「やー! コウ負けたー!」
「なんともほのぼのとしながらも野性味を感じさせる模擬戦でしたね」
「そうだな……なんて言うかニワトリを狙うイタチみたいな構図だったぞ」
「ですね。最初の衝突でリファナさんが翼を切り裂き、弱ってやけくそに飛びかかった相手に回り込んで背後から飛び乗って首筋に一撃! って感じです」
「あはは……」
仲良くじゃれていますが、確かにコウはお姉さんの友人に狩猟された様に見えましたな。
「リファナちゃんすっげー! 俺だって負けねーぞ!」
「んー? キールくんもやるー?」
「おう! やってやるぜー!」
コウがキールの全身を獲物を見る目で見ている様な気がしますぞ。
注意するべきですかな?
お義父さんに叱られない様にした方が良いでしょうな。
「コウ、キールの尻尾を、食べたいと狙ってはいけませんぞ。じゃないとお義父さんに叱られてとても怖い思いをしますからな」
「え!? コウは俺の尻尾を餌と思って狙ってんのか?」
キールが俺の方を見ますぞ。
「なんて言うか……元康くんの話だとキールくんって狙われる体質なのかな?」
「絶対餌になんかならねーぞ!」
そう抗議するキールですがコウは首を振ってますぞ。
「んー? しないよーそんな事をしたらリファナとラフタリアに怒られるー」
もふぅっとコウはお姉さんとその友人を抱き締めます。
なんとも楽しげな顔をしていますぞ。
「くすぐったいよコウー」
「えへへー」
「あ、あはは」
お姉さんも照れる様にコウを撫でておりますな。
何が原因か分かりませんが今回のコウはキールの尻尾やモグラと似た様なイタチ獣人化するお姉さんの友人を獲物と思わない様ですぞ。
「リファナにカブっとされたら怖いもんー」
との事ですぞ。
「まあ、こんな感じで割と平和かな。それでね元康くん、なんかエクレールさんが元康くんを呼んでいたから後で会いに行ってくれると良いんだけど」
「わかりましたぞ」
俺はその足で隣町に居るエクレアに会いに行きました。
用件はそろそろ三勇教を追い詰める証拠として砦に乗り込む作戦を組むとの事でした。
そうそう、そういえばすっかり忘れていましたな。
俺はその足でポータルを使用しました。
その日の夕方。
お義父さん達を村に置いて俺は塔で幽閉されているクズの元へとやってきましたぞ。
クズは俺を見るなり怒りの形相を浮かべ、拳を握りしめてツカツカと歩いてきます。
力を溜めているとばかりですな。
「よくもおめおめとワシの所へやってこれたな! 槍の偽者め!」
「俺は愛の狩人ですぞ。お前等の陰謀など、全てお見通しですぞ!」
お義父さんを罠に嵌めた事に関して全く反省の余地は無いようですな。
前回は殺した事で余計な問題が起こってしまったので見逃してやってますが、本来は仕留めてやりたいですぞ。
「盾は悪! それがわからん奴は等しく死ぬべきなのだ! どうしてそれがわからん! マルティがあのようになってしまったのも全てはお前等のせいじゃ!」
「お門違いも甚だしいですな。お義父さんを罠に嵌めるのは間違っても正しい事ではありませんぞ」
四聖勇者は波と戦う貴重な戦力であり世界の希望なのですぞ。
にも関わらず、その勇者の一人が気にくわないからと他の勇者も一緒に騙して迫害するなど愚の骨頂。
お前等は俺達を召喚して世界を救ってくれと頼んだ立場なのですぞ。
調子に乗るなと何度だって言ってやります。
そして赤豚は何があろうとも殺すのは絶対の真理、俺達の所為? 奴が生きている事自体が間違いなのですぞ。
「まあ、今回はクズ。お前と言い争いをする為に来た訳じゃないのですぞ」
「言い争い? 何を言っておるのじゃ! ここに貴様がいるのは、ワシが貴様を殺す為じゃろ!」
どうやらクズは何処までも争うつもりの様ですな。
とはいえ、俺も暇ではないのでささっと用事を済ませますぞ。
「とりあえず手土産ですぞ」
「おい! なんでこんな騒がしいジジイの所に俺達を連れて来たんだ!」
フォウルが異議を唱えながら俺の後ろから顔を出しました。