乗りかかった舟
そうしてメルロマルクへ移動した訳ですが……。
「ねえ元康くん……」
「はいですぞ」
「あらー?」
「サディナさんってメルロマルクにいるじゃん……」
メルロマルクに戻った俺達は女王と謁見しました。
女王は俺達がドラウキューア山脈の方に遠征をしている間に抜き打ちで国内の貴族の下へと影と共に一斉訪問して奴隷達を解放、俺達が帰還するまで信用できる貴族の下で保護をしていたとの話ですぞ。
で、ゼルトブルでお姉さんのお姉さんを見つけると説明していたのですが、婚約者が気を利かせて女王の方でも捜索を指示していたそうですぞ。
エクレアも名前とどんな者かは覚えていたので、国内で人探しをするとアッサリと見つかったとか何とか。
という訳で俺達が帰還すると同時に、お姉さんのお姉さんはメルロマルクで出会う事が出来ました。
シャチ獣人形態で案内された貴族の領地内で村の奴隷達と一緒に生活していたのですぞ。
で、見つかったのでこうして会いに来ました。
「サディナお姉さん!」
お姉さんがお姉さんのお姉さんに抱きつきましたぞ。
「ラフタリアちゃん! 大きくなったわねー……」
お姉さんのお姉さんはお姉さんをとても大事そうに抱き抱えました。
お姉さんのお姉さん、約束は果たしましたぞ。
「お久しぶりです。サディナお姉さん」
お姉さんの友人がお義父さんの隣で一礼しますぞ。
「リファナちゃんもお久しぶりね。色々大変だったわね。大丈夫だった?」
「はい。四聖の……勇者様達に助けてもらえました」
「ええ、私も話は耳にしたわ。勇者様達のお陰でこの国が大きく暴走するのを抑える事が出来たって」
お姉さんのお姉さんは深々と俺達に頭を下げましたぞ。
「ブブー!」
キールも我が事の様に興奮しながらお姉さんのお姉さんに近寄ってアピールしていますぞ。
まずは豚から犬に変身する事が始まりではないですかな?
「それでラフタリアちゃん達を勇者様達はどうして連れ回していたのかしら?」
「それは……思い通りの結末に行かない事を不服に思う派閥の方達から私達を助けてくれたんです」
「あらー……そうだったの」
お姉さんのお姉さんはそう言いながら俺やお義父さん、錬や樹を見ますぞ。
「何から何までありがとうございます。勇者様達のお陰で無事にみんなに会う事が出来たわ」
「いえ……当然の事をしただけですから……」
「とはいえ」
おや? お姉さんのお姉さんの反応が変ですな。
「ラフタリアちゃん……御両親の代わりに私がラフタリアちゃんのお世話をするわね」
「あ……?」
お姉さんが首を傾げていますぞ。
「村の子達は領主さまやメルロマルクの貴族達がお世話してくれるし、後は任せて安全そうな土地を求めて出発しようかしら」
おやおや? なんとも予想外の展開になりそうな気がしますぞ。
お姉さんのお姉さんはお義父さんの仲間として戦ってくれるようになるのではないのですかな?
お姉さんを保護し、奴隷達の身柄が安全だと分かったら出国して何処かへ雲隠れしてしまうのですかな?
「い、いや!」
お姉さんがまたも張りつけた様な笑みをしてお姉さんのお姉さんを拒絶します。
「村を……村を復興させなきゃ! あの日の旗に決めたの」
今にも泣きそうな笑顔でお姉さんはお姉さんのお姉さんに大きく意志を伝えますぞ。
「じゃなきゃお父さんもお母さんも悲しむもん!」
泣きそうには見えますが、決意は強いとばかりの顔でお姉さんは言い切りました。
「良いんじゃないかと俺は思いますよ。サディナ……さん」
お義父さんがそこでポツリと言いました。
お姉さんもお義父さんの同意に、便乗してお義父さんの手を握ります。
「奴隷になっていた子達を保護してLvを上げたのも最低限身を守れる様に、という意味もありましたし」
「ブブー!」
キールがそこでアピールしてお姉さんのお姉さんに何やら説明していました。
「村の復興ですよね。俺達も出来る範囲で手伝いますから」
「やるんですか?」
「やっている暇なんてあるのか?」
そこで樹と錬がそれぞれ異議を唱えますぞ。
何か不満でもあるのですかな?
最初の世界でお義父さんはやり遂げていましたぞ。
「乗りかかった舟でしょ。錬も樹も村の子達と随分と仲良くしてたじゃないか」
「まあ……」
「そうだが……」
お義父さんの説得に錬も樹もアッサリと同意していますぞ。
「元康くんは?」
「もちろん協力しますぞ。最初の世界でもお義父さんはやっていましたからな。何より今までの経験から自由に動かせる拠点があった方が何かと便利だと思いますぞ」
これまで各地を転々としていましたが、最初の世界の様に拠点があった方が良いかもしれません。
前回は事故の所為で紛失してしまいましたが、バイオプラントを植えるのも良いですな。
そうすれば食料事情も改善できますぞ。
「という訳で、勇者としての仕事はあるけど、手伝うよ」
お義父さんの言葉にお姉さんが嬉しそうに笑みを浮かべました。
「ありがとう……ございます」
お姉さんの笑顔にお義父さんは満足そうですぞ。
「そう……ならしょうがないわねー、ラフタリアちゃんがそこまで言うならお姉さんも協力するわ」
「うん!」
「ブブブブヒ!」
「そうだよね。今度こそ悪い人達にみんなを連れ去られる様な事はさせないよね。もっと強く……平和な村を取り戻そう!」
お姉さんの友人が決意を胸にとばかりに言い切ります。
「じゃあこれからよろしくお願いするわね。四聖の勇者様方」
とまあお姉さんのお姉さんがこうして村の奴隷達と共に配下に加わったのですぞ。
その日の内にお義父さん達はフィロリアル様達が引く馬車に乗って、お姉さんの村へと移動する事になりましたぞ。
開拓の手伝いですぞ。
女王も援助をしてくれるとの話で、亜人友好派の兵士も派遣するとの話。
きっとエクレア辺りでしょうな。
「四聖の勇者の皆さま」
ここで婚約者が手を上げますぞ。
「何? メルティちゃん」
「一度フォーブレイへと謁見をして頂けないかと母上から提案をされています。何分、我が国が四聖勇者を独占しているのではないかと各国が騒ぎ、風当たりが強くなっている次第でして」
婚約者の話ではこうですぞ。
俺のお陰で国に戻る事が出来た女王ですが、その代わりに外交がおろそかになってしまっているとの事。
俺達が強くなるまでの時間を稼ぐ事は出来たので、強くなったのなら一度で良いのでフォーブレイに赴き、事情の説明をしてもらわないといい加減危ないそうですな。
「あー……そういえば行かなきゃいけない問題だったね」
「元康さんがすぐに行くのは勧められないという話でしたからね」
「既に十分に強くなったと思うが、まだ足りないのか?」
錬が俺に尋ねてきます。
「フォーブレイ近隣には敵である転生者や転移者が多いんだっけ? その懸念もあってだよね?」
「そうですな。まあ、強さの面で言えば今のお義父さん達で楽勝だと思いますぞ」
事情の説明も出来なくは無いはずですぞ。
あの豚王は、割と知恵は回る方ですからな。
「ただー……」
問題はタクトの取り巻きにいる竜帝の処分ですな。
応竜になる前に今回も仕留められるかがネックですぞ。
他に助手とその親のスカウトをしないと限界突破のクラスアップも出来ません。
ライバルですかな?
奴とは遭遇しない方向で行きたいですぞ。
第二のライバルなど見たくもありませんな。
ですが……後回しでも良いのではないですかな?
何せユキちゃん達を初め、勇者以外の戦力はまだ40前後ですぞ。
100を超えたLvアップは十分に資質を伸ばしてからでも遅くはありません。
錬がいるので助手の親も死ぬ可能性は限りなく低いですし、何より第二のライバルが産まれてしまう可能性が否定できませんぞ。
間違ってもお義父さんを狙う様なライバルにさせる訳にはいきませんぞ。
むう……限界突破とお義父さんの安全。
難しい問題ですな。
どちらにしてもタクトのドラゴンは仕留めた方が良いですな。
核石さえ確保しておけば後はどうにかなるでしょう。
いえ、ライバルの親に手土産として持っていきますかな?
「まあ、問題は無いですな。ですが開拓の方はどうしますかな?」




