特産品
「うーん……クロはどんなのを付けたいんだい?」
お義父さんがクロちゃんに聞いております。
クロちゃんはかっこいい名称が好きみたいですな。
俺にはその名称の良さがわかりませんが、きっと素敵な事なのでしょう。
「じゃあなおはねー……絶対防壁浮沈艦<イージス>で、いつはー手加減上等<クエッション>」
「その喧嘩買いますよ!」
樹が不快そうにクロちゃんを睨みました。
ははは、樹に相応しいネーミングですな。
笑おうとしたら睨まれたので黙っておきますぞ。
「まあまあ……クロちゃんは随分と個性的な名前を付けたがるね」
「そういえば樹は最初の世界でパーフェクト=ハイド=ジャスティスという二つ名を使ってましたな。意味はそれぞれ完璧、隠蔽、正義ですぞ」
「かっこいいー! じゃあこれから完璧隠蔽正義<クエッション>ね」
「なんでクエッションが付くんですか! というかパーフェクト=ハイド=ジャスティスって何ですか!?」
「樹のゼルトブルでのリングネームだそうですぞ」
「僕は最初の世界でどれだけ歪んだんですか!」
樹が髪をくしゃくしゃにして怒りを押し殺しています。
「モジャモジャー!」
コウが樹の髪を大興奮で見ておりますぞ。
このままでは今までの様になってしまいそうで怖いですな。
「凄いセンスだね……」
「ああもう! 尚文さん、やっちゃってください! クロさんに恥ずかしい中二病な名前を付けるんです!」
「ど~れ、じゃない! やっちゃってくださいじゃないよ! なんで樹の配下みたいになってるの。それに付けても喜ぶだけだよ?」
「その割に乗ってきましたね……」
「しゃきーん!」
クロちゃんが変な角度で肘を上げて右目を開いた手で隠す様にカッコつけております。
表情は勝利を確信した様な顔ですな。
何かのアニメで見た様な気がしますぞ。
「どうして俺の所に来たフィロリアルはこんな性格になったんだ……?」
「元康くんから聞いた研究記録だと産まれてからの環境とかでも影響があるらしいし……錬の態度をカッコいいとか思っちゃったんじゃない?」
「そういえば、錬さんは黒いというだけでクロさんが雛の時に可愛がっていましたよね。貴方の所為ですよ!」
「元康が飼い主のはずだろ! うるさいぞ完璧隠蔽正義!」
「貴方まで言う気ですか!」
俺もそこまで個性に関しては知りませんぞ。
ですが錬が雛の時にクロちゃんを気に入っていたのは事実だと思いますぞ。
それを覚えていたクロちゃんが錬を気に入り、言葉の端々やさりげなく呟いた事で好きな事だと思ったのでしょう。
「うーん……」
お義父さんとお姉さんの友人、そして婚約者が揃って腕を組んでフィロリアル様達を見ます。
「随分と個性的な子が揃ったね」
「んー?」
サクラちゃんが婚約者とお義父さんの背後を守る様に立ちます。
で、ユキちゃんは俺の隣。
コウはお姉さんの友人と樹の近く。
クロちゃんは錬とキール相手にじゃれています。
他にも奴隷が数人いるのですが完全に影に隠れていますな。
むしろお姉さんが地味すぎますぞ。
「ラフタリアちゃんも元気だしてねー」
「だ、大丈夫です!」
サクラちゃんに後ろから抱き寄せられてお姉さんが抗議していますぞ。
やはり張り付いた笑みを浮かべる時がありますな。
頻度は大分減った様ですが。
なんて感じにフィロリアル様達が喋りはじめた後に、服の生地を作るために魔力を糸にして布へと変えて貰いましたぞ。
クロちゃんはカッコいい服装を欲しがったので作るのに苦労しそうですな。
最初の世界のお義父さんの服装をモデルにしますかな?
後は勇者同士で連携の為に戦闘を行いました。
俺は前回の周回で教えられた事をお義父さん達に説明しましたぞ。
樹の後方援護能力の高さや錬に当てそうで怖いと言っていた件、お義父さんの硬さや戦い方なのです。
練習の意味も兼ねて若干弱めにした武器で魔物と演習して行きました。
お姉さんも戦わせたいと思ったのですが、見ているだけでしたぞ。
むしろお姉さんの友人とキール達の方がやる気を見せている始末……ああ、最初の世界のお姉さんが遠いですな。
フィーロたんと同じくらい、あの雄姿のある姿になるのは難しいのでしょうか?
まあ、フィロリアル様達とじゃれあっている時は楽しそうにしていましたな。
「リファナちゃんやラフタリアちゃん、キールくん達の成長痛がきついみたいだね」
それから数日は割とゆっくりとした滞在の日々が過ぎましたぞ。
お姉さん達はLvの上昇に合わせて成長期に突入、急激なLvアップの所為で戦い辛いと言う事でホテルで休んで貰っております。
空腹になる事も多いので大変ですな。
「みんなよく食べるよ」
「尚文、また飯を作らないのか?」
ちなみにホテルでもらえる食事をみんなで食べております。
確かにお義父さんの食事が恋しいですぞ。
「ホテルのご飯があるから良いんじゃないの?」
「だが奴隷共は尚文の料理の話をよくしてるぞ。凄く美味しかったって」
「……むしろ錬や樹が食べたいんじゃないの?」
お義父さんの質問に錬も樹も視線を逸らします。
「まあ異世界だし、日本基準で言えば少し薄味で合わない料理もあるけどさ」
お義父さんがため息交じりに言いましたぞ。
「ちなみに前回の周回では錬も樹もお義父さんの料理の奴隷みたいでしたぞ。何かあると所望しましたな」
そう、だからこそ、前回のお義父さんがあんまり餌付けはさせない方向でとおっしゃっていました。
ですがこの前、作った料理で錬も樹もお義父さんが料理が上手なのを知ってしまったのでしょうな。
「わからなくもない」
「ここの料理って変わってるのありません?」
「ああ、毎晩出るブラッドソーセージみたいなのが特産品らしいね」
「これがちょっとな……」
「飽きたと言いますか、くどいと言いますか……」
「食えない訳じゃないんだが、血生臭くてな」
要するにお義父さんに料理でどうにか出来ないかと相談している訳ですな。
「あ、あの……」
お姉さんが手を上げます。
「良かったら手伝います……その……何にもお役に立てていませんから」
おや? 何でしょうか。
お姉さんがモグラと重なって見えますぞ。
何故ですかな?
「ラフタリアちゃんも料理、お母さんから教わってたもんね」
「うん。その何かお手伝いしたいと思って」
ここ数日のお姉さんの活動と言うと、聞いた限りだといるだけだそうですぞ。
まあ、お義父さんも見ているだけで良いとおっしゃっているからしょうがありませんな。
「わかったよ。じゃあ今日は俺とラフタリアちゃんが料理する事にしようか」
錬と樹が小さくガッツポーズをとります。
「ブラッドソーセージ類に飽きた訳だから野菜類……後は魚とかの料理が良いかもね」
「魚料理は知ってます。海が近かったのでよく食べました」
「うん。じゃあ一緒にやろうか」
お義父さんはお姉さんが頑張れる所を見せるために敢えて合わせたのでしょう。
しかし……お姉さんはこう言う方でしたかな?
お義父さん達は買い出しに出かけました。
「良かった。ラフタリアちゃん……何か居心地悪そうにしてたから……」
「確か皆さんは読み書きの勉強を始めたのですよね?」
「はい……メルティちゃんが丁寧に教えてくれています。成長痛で戦えないなら文字を読めるようになろうと、後々魔法を教えてくれるって言ってました」
「魔法か……俺達も覚えないとな」
「錬も樹も勉強は好きでは無いですからな」
前回も読み書きには時間が少し掛りました。
俺の言葉に錬と樹がムッとしました。
「異世界文字理解という技能がないかと思いますよね」
「そうだな……」
「ありませんぞ」
俺の返答に錬も樹も深いため息を吐きます。
そういえば滞在中に魔法の習得を目指すのでしたな。
メルロマルクの文字で良いですから覚えないと魔法を使うのは難しいですぞ。




