峠の怪物
その後もユキちゃん達の資質強化を施し、その日の夕方にはかなり強く成長させる事が出来たと俺も自負出来るほどになりましたぞ。
少々暴れすぎたかと思うくらいですな。
「グア!」
「グアグア!」
ユキちゃん達がそれぞれ楽しそうにじゃれあっております。
何処からともなく出現するヒールドッグファミリアを撫でる様に仕留められる程の強さを既に持っていますぞ。
とりあえず成長途中ですが、強さは十分な様ですぞ。
まだ第二形態の丸くて可愛らしい姿から第三形態になる途中ですな。
それでも走りたい、戦いたいと言うフィロリアル様の情熱が俺にはヒシヒシと伝わってきます。
俺は、ボスドロップ等の類を、それぞれのフィロリアル様の背の袋に入れて、吊るします。
「さて、それではみんな! その熱意を持ってお義父さん達の手伝いに行くのですぞ」
「「「グア!」」」
何故かユキちゃん以外のフィロリアル様が敬礼して走りだして行きました。
既にフィロリアル様達の中で誰の下へ行くのか決まっていた様ですな。
「さて、それではユキちゃん。お義父さん達の配下となる者達の為にドロップ品を集めますぞ」
「グア!」
俺の指示に応じるとばかりにユキちゃんは敬礼して付いてきました。
せっかくなのですからフィロリアル様の為に馬車を組みたてておきますかな?
そんな感じでその日は過ぎ、狩り場隣接の宿が用意した馬小屋でユキちゃんと就寝いたしましたぞ。
今頃お義父さんや錬、樹はそれぞれに派遣したフィロリアル様達とLv上げに行っていますかな?
翌日も俺は狩り場の奥地で戦っておりましたぞ。
もはやドロップは十分に確保できたでしょうな。手土産にボスやその他の魔物を解体してさっそく作った馬車に満載にして中央のホテルへとその日の昼には到着しました。
馬車はフィロリアル様の分用意していたら思ったよりも時間が掛ってしまいましたぞ。
ユキちゃんが馬車を四台引いて楽しそうにしておりましたな。
ああ、そう言えば明日の昼集合でした。
お義父さん達は誰一人帰っていませんでしたぞ。
「これは明日の事を考えると大変ですな」
「グア?」
ユキちゃんが首を傾げていますぞ。
今晩の夜から明日の朝頃にはフィロリアル様が天使の姿になってしまいます。
そこから考えるに、服を用意しないといけませんぞ。
忘れていた訳ではありません。婚約者にも確認を取らせたのですが、ドラウキューア山脈のホテルにある魔力を糸にする機材は少々古い物でした。
少々不安ですな。
「まだ時間がある今の内に調達に行きますぞ!」
「グア!」
走る事が出来る事を理解したユキちゃんの目がこれまでに無いほどにキラキラと輝いています。
そうですな。
ユキちゃんの足で移動してサクッとポータルを使って調達してきますぞ!
少々大きな機材ではありますが、持って来れないはずはありませんな。
という事で自作した馬車を案内員の伯爵に預けて俺とユキちゃんは魔力を糸化させる機材を調達に出発したのですぞ。
その日の晩、ドラウキューア山脈に新たな走り屋の伝説が出来ました。
タイムアタック更新ですぞ!
翌日の昼の事。
「あ、元康くんおかえりー」
「クエ!」
ユキちゃんは既にフィロリアルクイーンの姿に成長なさっていましたぞ。
天使の姿になれる頃なのですが、他のフィロリアル様と一緒に変化したいのかならずにいます。
俺の意図を察したのか既に機材で糸、そして生地までは先に作っております。
「さっき噂を聞いたんだけどこの山脈へ来る道を謎の幽霊とか化け物が、高速で通り過ぎて行ったっていう話があるんだって」
「ほう、そんな噂があるのですかな?」
「うん。昨日、複数の人が目撃したらしいよ。まだ夜でも無いのに白い……何かが高速で通り過ぎて行ったんだって」
そう言いながらお義父さんはユキちゃんを凝視して指差していますぞ。
「ユキちゃんでは無いですぞ」
「え……まあ、そうだよね。元康くんも狩り場にいたはずだし」
「いませんぞ。昨日の午後は魔力を糸化させる機材を調達しにユキちゃんと峠を越えましたからな」
「いや、それって……元康くん達が楽しいなら、それでいいか」
お義父さんが無言で半眼になって呆れた様な視線を向けていますぞ。
そうですぞ。
フィロリアル様を育てるのはいつも楽しいですぞ。
「そちらはどうですかな?」
「ん? まあ順調かな。俺を含めリファナちゃんもラフタリアちゃんも十分に育ったよ。最初はメルティちゃんの監視の下、コツコツとやっていたけどすぐにサクラちゃんが来て、あっという間にLvは上がったね」
「それは何よりですぞ」
「強化方法も殆ど実践出来たし、解放された盾が多くて、今は処理に追われてる感じかな」
おお、これで一安心ですな。
ここまで強化出来れば並み大抵の事でお義父さん達がやられる事は無いでしょうな。
何時、三勇教の刺客や転生者、転移者に襲われるかヒヤヒヤしていましたからな。
「まあ、サクラちゃんを凶悪な魔物と勘違いした冒険者が数名いたけどね」
「それでサクラちゃんは何処ですかな?」
「今はメルティちゃんと一緒にいるよ」
「なおふみ様ー」
お姉さんの友人がなんとなく歩き辛そうにやってきましたぞ。
「あ、リファナちゃん。大丈夫なの? 成長痛がきついって話だけど」
「大丈夫ですよ。ね、ラフタリアちゃん」
「う、うん。骨がボキボキ鳴るだけだから……」
「それは大丈夫に見えないけどなー……熱とか無い?」
お義父さんはお姉さんの額に手を当てますぞ。
「んー……熱は無いから大丈夫かな?」
「は、はい」
お姉さんが若干恥ずかしそうに、それでありながらやはり無理して笑っていますぞ。
心配されるのも嫌なのですかな?
なんとなくですがお義父さんと距離感がある様な気がするのは、気の所為ですかな?
「そうそう、元康くんから聞いていたけど実際に目の当たりにするとやっぱり驚くね。あんなに可愛かった雛が凄い速度で大きくなって人型になるんだもの」
「それがフィロリアル様の素晴らしい所ですぞ」
「異世界ってすごいな」
という所で婚約者がやってきますぞ。
その後ろには……背が高い大人形態のサクラちゃんが眠そうな顔で歩いています。
「あ、モトヤスー」
「はいですぞ」
先に天使の姿になっていた事にユキちゃんが絶句して、すぐに光と共に天使の姿になりました。
サクラちゃんに張り合っているのですかな?
「早く変化し過ぎですわー! あ、元康様に第一声を言いたく思っていたのに、思わず言ってしまいましたわ!」
ユキちゃんがサクラちゃんを指差してから後悔した様に俺に振り返って言いました。
「大丈夫ですぞ。ユキちゃんの初めての変化は目に焼き付けましたからな」
「なんか表現がアレだね……」
「元康様……昨夜の走り、とても楽しい時間でしたわ。私、もっと走っていきたいと思っておりますわ」
「もちろん、ユキちゃんが満足に走れる環境を整えて行きますぞ」
前回の周回でもユキちゃんは楽しそうにフィロリアルレースに参加していましたからな。
今回も参加させる方向で行きますぞ。
まあ、ユキちゃん自身はレースよりもサクラちゃんやコウ等の俺達が育成したフィロリアル様とのレースの方が歯ごたえがあるとおっしゃっていましたがな。
今回はクロちゃんもいますぞ。
思えばどんな個性のある子なのか確認する前にループしていましたからクロちゃんの分析もしたいですな。