料理チート
途中の峠の移動に随分と時間が掛っていますぞ。
ちなみに活性化時期は大気の流れが悪くなるので空を移動して活性化地へ行くのは困難だとかですぞ。
その途中の休憩所で一泊し、明日の朝には到着する予定だそうですぞ。
「ねえラフタリアちゃん」
そんな、そろそろ奴隷達と食事をしようとしていた時ですぞ。
お義父さんがお姉さんに声を掛けます。
「なんですか?」
「その……前々から言おうと思っていたし、みんなも気を使って黙っていたんだけどね……」
お義父さんの言葉に錬も樹も、その場に居た殆どの者達がお義父さんを注目し始めましたぞ。
「無理して笑わなくて良いよ?」
心配そうにお義父さんはお姉さんに言いました。
ですが、お姉さんはまたも張り付いた笑みを浮かべております。
「だ、大丈夫ですよ! ね、みんな!」
「ラフタリアちゃん……」
お姉さんの友人が張りついた笑みでキョロキョロとするお姉さんを心配そうに答えます。
そうですな。
確かに少々気にはなっていました。
「どうしたの? ねえ。みんな?」
「ブ、ブー」
「い、や……まあ、ね……」
居心地が悪そうにみんな視線を逸らして答えます。
確かこういうのは覚えがありますぞ。
召喚される前……中学や高校の頃、豚の尻を追っていた俺は豚が何か壁にぶつかった時にこういう空気がありました。
「みんな奴隷だった経験や波での被害を受けた時の話を今日聞いたよ。俺も想像する事しか出来ないし、言う資格は無いかもしれないけど、悩みの相談くらいは出来るよ」
錬も樹もその辺りは協力的な体勢を見せているようですな。
話相手とばかりに奴隷達と雑談をしていました。
「悲劇を起こさせないために波に挑もうって思えるほどには、考えが出来ましたね」
「話を聞いて……傷だらけのお前達を見ていたらゲームじゃないんだって実感した。もちろん、一番はここ数日の出来事だがな」
錬も樹も思う所があったのですな。
なんと言うか、覚悟が前回よりも早く身についている様な気がしますぞ。
錬も樹もゲーム感覚が抜けるのにも少し時間が掛った覚えがありました。
奴隷達との付き合いでそれもすぐに抜ける事が出来るのですな。
これは発見ですぞ。
おそらく、奴隷達が受けた現実を目の当たりにした影響でしょうな。
「や、やだなぁ……わたしは大丈夫ですって」
「……とてもそうは思えないんだ」
お義父さんはお姉さんと視線を合わせて真剣な表情で見つめます。
お姉さんの方は居心地が悪そうに張り付いた笑みでお姉さんの友人やキール達の方を見ます。
それからお義父さんはお姉さんを抱きしめて優しく撫でます。
「ラフタリアちゃん。強要はしないよ。だけど……悲しいなら泣いて良いんだよ? 無理して笑う君を見ていると……心配してしまう」
お姉さんの友人もお義父さんに合わせてお姉さんの肩に手を置きます。
「村は復興させようと国の人達ががんばってくれているし、俺達も協力する。だから……一人で抱え込まずに頼って欲しい」
「だ、だから大丈夫ですって」
お義父さんはお姉さんの顔を見つめますぞ。
これは説得ですかな?
「世の中、とても酷い人達でいっぱいかもしれない。俺が信じられないのはわかる。まだ数日の関係だしね。だけど信頼できる……村の子達には頼っても良いんじゃないかな?」
「ブブ、ブブブブ!」
そこで意を決したようにキールが何か言いました。
きっと話が好転する事でしょうな。
キールは結構役に立つのですぞ。
「うん。ラフタリアちゃん、みんな同じ思いだよ」
「……」
友人達にそう言われると、お姉さんは考える様に黙りこみました。
これ以上の説得は無理だと察したのか、お義父さん達は心配しながらも立ち上がります。
「じゃあみんな、ご飯を食べに行こうか」
と、休憩地の宿に隣接する食堂にみんなで行きましたぞ。
先客が食事を取っている中、団体で俺達は席へと案内されます。
お義父さんは配膳される他の客の食事を見つめていました。
食事をする客はまばらですな。
むしろ酒場の方がガヤガヤと騒がしい感じですぞ。
冒険者が集まっている感じですな。
「あの……」
「あ、はい! 御注文はなんでしょうか?」
店員にお義父さんが声を掛けてみんなが欲しがるメニューを聞きますぞ。
とは言っても読み書きがそこまで達者では無い奴隷の方が多いのでどんなメニューなのか想像出来ていない様ですな。
「無理を承知でお願いします。厨房の一部を貸してくれませんか? 料理をしたいんで」
「は?」
おや? お義父さんが何かする気ですかな?
店員が困っていますぞ。
「お願いします。ここに書かれている持ちこみ食材の料理の為の厨房の貸し出しをお願いします」
「あ、わかりました」
婚約者が店員にお金を渡すと店員は店主へ相談に行きました。
しばらくすると店員が戻ってきますぞ。
「幸い、今夜は他に使用しているお客様はいないので使用可能です。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます」
お義父さんは一礼して店の厨房の方へ店員に連れられて行きますぞ。
「あ、手伝います」
お姉さんの友人が立ち上がって付いて行きました。
ふむふむ、お義父さんを手伝うとは中々に殊勝な心がけですな。
最初の世界のお姉さんの様に……おや? お姉さんがお義父さんの料理を手伝っている所を見た事が無いですぞ?
まあ、俺が見た事無いだけでしょうな。
「ありがとう。じゃあ手伝ってもらおうかな」
やがて厨房の方で料理をする様な音が聞こえてきました。
これは今夜のディナーは期待出来ますな。
「尚文さんって元康さんの話では料理がとても上手なんでしたっけ?」
「召喚初日に妙に詳しく説明していたよな」
「奴隷だったみんなに労いの食事を出そうとしているのでしょうか?」
「そうなんじゃないか? 随分と連中を気にかけているみたいだしな」
おお、お義父さんなりの真心という奴ですな。
……なんでコックが青ざめて店内の席の方に来て座り込んでいるのですかな?
「アレは良い意味で絶句しているのか? それともゲテモノ料理に酔って逃げてきたのか、どっちだと思う?」
「元康さんの話を信じるなら前者だと思いますが……」
錬と樹はそっちの方に視線が釘付けですぞ。
なんて話をしていると、割とすぐに店員が唖然とした表情のまま料理が運び込まれてきました。
運び込まれて来たのはお子様ランチですな。
チキンライスに旗が刺してあり、他にハンバーグやパスタが添えてあります。
旗は木製の串を弄った物みたいですぞ。
キールを含めた奴隷達が興奮しているのがわかりました。
そういえば最初の世界でお子様ランチが云々という話を暇な時、お義父さんにしましたな。
奴隷達が好きな料理なのですぞ。
俺が言った話を覚えていてくれたのですな!
「よし、完成。みんな先に食べててね。じゃんじゃん作っていくから」
と、お義父さんが厨房から顔を出して食べる様に指示を出します。
ドンドンと、今度は俺達への料理が出されますぞ。
「お? これは初日に食べた料理だな。うわ、俺達好み……日本人向けって言うのか? そんな味になってるぞ」
「ええ、元康さんの話は本当の様ですね。しかも僕等と違って、みんなにはメルロマルク風の様ですよ?」
「これが料理チートか……味付けを食べる人の故郷に合わせてくるとか……」
パクパクと運ばれてきた料理を錬と樹が食べて行きますぞ。
もちろん、俺も食べています。
すると突然、顔を青くさせていたコックがガタンと立ち上がって厨房に走って行きました。
大丈夫ですかな?
お義父さんに危害がない様に後を追いますぞ。
下手にお義父さんに襲いかかったら殺しますぞ。
そう思っていたら、コックがお義父さんに張り合う様に何やら料理をしている様でしたぞ。
視線はお義父さんの手つきに釘付けですぞ。
「あの……別に張り合う程、俺は料理上手じゃないんだけど……」
無言でお義父さんを睨むコックとの料理対決が始まっているのではないですかな?
お義父さんは異世界の料理が珍しいんだと決め付けていましたな。
なんて感じに運び込まれた料理で俺達は舌鼓を打ちました。