ひよこ
「これからお前等は城の方へ行き、ここで行われる奴隷紋の登録よりも高度で厄介な文様を刻み、俺達の奴隷として行動するんだ。覚悟していろ!」
ゴーンと魔物商の配下が銅鑼みたいな楽器を鳴らした様ですぞ。
キール以外の二人が怯えていますな。
「アレって本当なのか?」
「尚文さんがああしてるのは演技ですよ。昨日言っていたじゃないですか。商人相手には下手に出ると舐められるし、金だけ取られる事もあるって」
「なるほど……じゃあリファナはアドリブか。よくやるな」
「僕達も黒幕みたいに、とりあえず笑っておきましょう。保護しないといけない方々の今後の為に」
「演技とはいえ、勇者全員が悪人とか……救いが無いな」
などと錬と樹は内緒話をしてからニヤニヤと笑うフリを始めました。
もちろん、俺も最初から笑っていますぞ。
婚約者は何やら若干呆れているのか、それとも昨日の疲れが残っているのか、ぼんやりしています。
「『放して! いやぁ! 助けて! ふぐ――』」
お姉さんの友人は演技が上手い様ですぞ。
お義父さんの手を口元に当てて押さえつけられて暴れているフリをしています。
「さすがは偉大なる勇者様達! 私共はその手腕に脱帽です!」
魔物商は大興奮ですぞ。
これは多少演技だという事もわかっていそうですな?
「ブブブブウー!!」
キールの方はお義父さんに向かって飛びかかる勢いで暴れています。
ハハハ、今のお前では無理ですぞ。
「それじゃあそこの奴隷共は城で使う。連行を頼むぞ」
「わかりましたです。ハイ!」
「さ、これから存分にお前を使ってやる。精々生き残れるようにがんばるんだな」
「ブ!」
「え、えっと」
お姉さんの方は置いてかれている感じですな。
なので、箔を付けるために、俺が捕えた風にして笑っておきますかな?
お姉さんの後ろに立って逃げられないとばかりに笑い掛けますぞ。
「あわわ……」
お姉さんは張りつけた笑みを崩して腰を抜かしてしまいました。
まあ、そんな感じで奴隷達を檻付きの馬車に乗せて、ガラガラと城へ連行したのですぞ。
「それではまたの御利用お待ちしていますです。ハイ!」
魔物商が一礼してから城の庭を去っていきました。
「ああ、じゃあな」
とお義父さんと俺達は魔物商達が立ち去るのを手を振って待ちました。
「ふう……」
疲れたとばかりにがっくりとお義父さんはしました。
「もう大丈夫だね。演技を辞めていいよ。後元康くんはラフタリアちゃんを驚かせ過ぎ」
「これは失敬ですぞ」
お姉さんは腰を抜かして歩けなかったのでキールと同じく檻に入れて連行する事になってしまいました。
友人の方は演技でお義父さん達を罵倒していましたな。
恨みがましい目を向けていました。
迫真の演技でしたぞ。
「どうでしたか?」
「ちょっとやりすぎなくらいだったね。じゃあ檻の鍵を外すからね」
ガチャリと檻の鍵を外してお姉さん達を出しますぞ。
その直後、キールがお義父さん目掛けて飛びかかろうとしてお姉さんの友人に遮られました。
「キールくん落ちついて、この人達は悪い人じゃないから」
「ブブブブブ!」
「演技だよ。あのねキールくん、あそこでは悪い人のフリをしないと村の人達を集めてもらえないんだよ」
「ブ?」
「まだ自己紹介をしていなかったね。俺の名前は岩谷尚文、盾の勇者としてこの世界に召喚されたんだ。そっちいるのは剣の勇者である天木錬、弓の勇者である川澄樹、槍の勇者でみんなを早く助ける必要があるのを教えてくれた北村元康くん。で、一緒にいる女の子はメルティちゃん」
お義父さんが優しげな口調と表情でキールに自己紹介をしました。
「そう、あのね。勇者様達が私達を助けてくれたんだよ!」
お姉さんの友人が我が事の様に胸を張ってキールに言いました。
目を泳がせてキールが数歩下がりますぞ。
他の奴隷達も半信半疑ですぞ。
「ブブブヒ?」
「特殊な奴隷紋? アレは嘘」
「まあね。さすがにリファナちゃん達にそんな真似はね。幾ら能力の上昇が見込めるって言ってもさ」
「私は……なおふみ様が主人になってくれるなら良いな」
若干照れた様子でお姉さんの友人は両手を合わせて告げました。
それはどういう意味ですかな?
まさか奴隷願望でもあるのでしょうか?
「リ、リファナちゃん?」
お義父さんの方が驚いた表情をしています。
キールや村の発見された奴隷達はその様子を見て困惑の色を見せていますな。
そんなキール達にお義父さんは諭す様に言いました。
「まだ信じてくれなくてもいいよ。信頼なんて押し付けられるものじゃないし……かと言って付いて来てもらった方が良いんだけど」
お義父さんは唸りますぞ。
「私達がキールくん達を説得しますからなおふみ様達は安心してください」
「そう?」
という所で婚約者の隣に影が現れて何やら囁きますぞ。
「勇者様方……母上からの伝言です。そろそろ出発すべきだと」
「そっか、了解。ラフタリアちゃん、リファナちゃん、出かけるついでに事情の説明をお願い出来るかな?」
「はい! 任せてください」
「は、はい……」
お姉さんとその友人がキール達に説明を始めました。
奴隷達はポカーンとしておりますな。
まあ、どちらにしても勧誘しないとポータルで移動できませんぞ。
「とりあえずみんな! あのね。勇者様達が私達を助けてくれたの……で、村の復興もしてくれるんだけど、私はそれまでの間に勇者様達と強くなりたいと思うの。奴隷狩りに全てを奪われない為に」
「ブブ……」
キールが苦々しいとばかりに呻き声を出していますぞ。
「もちろん、戦いたくないって人はいると思うし、強要はしないって勇者様達も言ってるよ。だけど、Lvくらいは上げてもらうのは良いかも。だから少しの間、勇者様達と一緒に行かない?」
「勇者様、新たに仲間が加入する事が予測されていたので、前日、武器屋の方に初心者用の武具を発注しておきました」
婚約者は気を利かせたのか運ばれて来る武器を奴隷共にそれぞれ渡した様ですぞ。
おお、さすがはフィーロたんの婚約者なだけはありますな。
奴隷達は渡された武器を見て目を丸くしております。
「まだ奴隷紋も主登録してないでしょ?」
「解除をした方が良いんじゃない?」
お義父さんが言うとお姉さんの友人は頷きます。
「それも自由だと思う。ね、ラフタリアちゃん」
「村へは……戻れるんだよね」
お姉さんが確認のために尋ねました。
「もちろんだよ。だけど復興……というか人が集まるのに時間が掛ってしまうから、その間は城の……エクレールさんだっけ? って人の所か俺達と一緒だってさ」
お義父さんがお姉さんの友人の質問に答えます。
「ね? 何もしないでいるより良いんじゃないかな?」
「ブブ……」
「まあ、リファナちゃんがそう言うなら……」
「やっと再会できたのに、別れるのは……」
と言った様子でキールと他の奴隷達はお姉さんの友人の提案を受け入れた様ですぞ。
まあエクレアは信頼できる奴ですが、足りない部分もありますからな。
その点で言えばお義父さんと一緒にいるのが一番ですぞ。
「なおふみ様。という訳で、よろしくお願いします」
ペコリとお姉さんの友人は頭を下げました。
ふむふむ、説得完了ですぞ。
お姉さんの友人は中々役に立ちますな。
「うん。よろしくね」
そんなタイミングで、俺の胸元とお義父さんが持っていた卵が動き始めました。
これは!
「あ……」
お義父さんが卵を出し、俺も手頃な場所に置きます。
「「「「ピイ!」」」」
次々と元気よくフィロリアル様の雛が卵から顔を出しましたぞ。
錬も樹も興味があるとばかりに顔を覗かせます。
「これがフィロリアルの雛か」
「最初からひよこみたいな感じなんだね」
サクラちゃんは元気よくお義父さんが伸ばした手の上に乗っかります。
可愛らしいですな。
ま、フィロリアル様は等しく、どの時期でも可愛らしいですが。




