演技
合流地点で落ちあった俺達はその足で宿に戻りましたぞ。
「錬や樹、お義父さん達。調子はどうでしたかな?」
「悪くは無いな。強化を実践している影響か、初期Lvとは思えない位行けた」
「ええ、言われた通りの強化方法を使ったら少し強めの魔物と戦えましたし」
「そうだね……とはいえ、俺の方はラフタリアちゃんとリファナちゃんに依存するからどうなのかわからないけどね」
お姉さんとその友人が頷いていますぞ。
「ラフタリアちゃんもがんばろうね」
「で、でも……」
どうもお姉さんの友人の方がやる気を見せている様に見えますぞ。
何でもお姉さんは魔物を怖がって何も出来なかったそうです。
おかしいですな。最初の世界の勇ましい姿が嘘の様ですぞ。
「リファナちゃんも大分風邪が治って来たみたいだね」
「はい」
逆にお姉さんの友人はお義父さんの力となるべく、善戦してくれたそうです。
お姉さんが落ち込んでいますぞ。
それをお義父さんは優しく微笑んでいます。
「見知らぬ人達と一緒に強引に戦わせられるって怖いもんね。まあ、Lvだけでも上げておくのが目的だから気にしないで良いよ」
「う……ううん」
迷いのある返事をお姉さんはお義父さんにしております。
なんとなくですが本当にお姉さんなのですかな?
不安に思えてきましたぞ。
「それで元康くん、メルティちゃんがぐったりとしてるけど……大丈夫?」
「体に異常は無いですぞ。むしろLv的に言えばピンピンですな」
既にクラスアップは目前ですぞ。
お義父さん達直伝の特殊なクラスアップをさせたい所ですな。
ですがフィーロたんやユキちゃん達がおりませんからな。
資質向上をさせたいのですが何故か婚約者に掛ける事が出来ませんでした。
もう少し時間が必要なのですかな?
「……何処まで行っていたんだか」
「お土産に素材の一部やドロップ品を渡しますぞ。ここではなんですから宿の部屋でですな」
今回も中々の逸品が出ましたぞ。
婚約者やお姉さん達に持たせるべきですかな?
装備品の類はLvや能力に合わせてお義父さん達に渡さないと動けなくなるのが前回の周回で判明していますので注意しないといけませんな。
「あー……うん。じゃあ……宿に戻ろうか。少し疲れたしね。メルティちゃんを休ませた方が良いだろうし」
「わっかりましたぞー」
なんて感じに宿に戻ってから俺はお義父さん達に土産を槍から出して渡しました。
良い感じの繋ぎ装備が欲しかったのですが、やはりお義父さん達にはまだ使いこなせそうにないそうですぞ。
「メルティちゃん、大丈夫?」
「……う」
ビクンと婚約者は震えていましたな。
何か怖い物でも見たのでしょうか?
俺が倒してあげますぞ?
お前はフィーロたんの婚約者。
俺がお前からフィーロたんを譲って良いと認めさせるのが目的でもありますからな。
で、休憩を終えた後、夕食をとり、お義父さんはお姉さんとその友人と一緒に、お姉さん達が眠くなるまで酒場でお姉さんのお姉さんを待っていました。
結局、その日の晩、お姉さんのお姉さんは発見出来ませんでした。
お義父さんは夜泣きが激しいお姉さんの為に早めに切り上げたのが敗因だと思います。
宿に戻り、悲鳴を上げかけつつ熟睡するお姉さんを抱きしめながらお義父さんは俺達を見ますぞ。
「明日はどうしようか?」
ちなみに連日武器の強化方法を教えており、現在、錬も樹も強化方法の実践をしている最中ですぞ。
「女王の話じゃ例え近くに行けるとしても、そろそろドラウキューア山脈に行かなきゃ間に合わないって話をしていたな」
「かと言ってサディナさんって人は見つからなかったし……」
「どちらにしても僕達が十分に強くなってからでも良いんじゃないですか?」
「ああ、元康の話ではラフタリアとリファナみたいな拷問をされている訳じゃなさそうだしな。急いで助ける訳じゃないんだろ?」
「確かに、お姉さんのお姉さんは拷問されている訳じゃありませんな」
前回の世界では死にかけていましたが、それは精神的な問題だったみたいですし、その時期とは大きく異なりますぞ。
「一、二週間遅れても問題ないだろ。女王が色々と手回ししてくれるらしいしな」
「そうなんだろうけど……」
「尚文、そいつらを心配するのは良いが、俺達は強くならなきゃいけない。じゃなきゃ死ぬぞ」
「ええ、サディナさんという方を探して前に進めないのは本末転倒です。仮にラフタリアさんとリファナさんを見せた時に誤解して襲ってきたらどうするんですか?」
「あー……強いならありえるかもね。先手必勝とか……考えて無かったよ」
お義父さんはお姉さんを宥める様に背中をとんとんと叩いて子守唄を歌っています。
本当に面倒見が良いですな。
「わかったよ。じゃあ明日、頼んだ子達が見つかったら出発しよう」
「了解ですぞ」
お姉さんのお姉さん。少し辛抱して欲しいですぞ。
約束通りにお姉さんの保護は致しました。
お姉さんと再会する頃にはきっと最初の世界のお姉さんみたいに強く育て上げて見せましょう。
翌日ですな。
魔物商の所や女王の指示の下、お姉さんの村の奴隷達が少し集まった様ですぞ。
まずは魔物商の所へ行きますぞ。
お義父さんが負けないとばかりにスイッチを入れて来店しました。
「昨日もそうですけど、尚文さんって商売をするのが上手ですよね?」
「舐められない様に状況分析って奴か? 面倒だな」
「参考にするのも良いかもしれませんよ? ゲームとは違ってシステムで値引き出来ないでしょうし」
「国が援助してくれるんだろ? 気にする必要あるのか?」
「援助金自体は上限がありますよ。今、僕達が持っているのはクズ王の事での賠償金なんですし」
「ふむ……」
錬と樹はその様子を見てヒソヒソと相談していますぞ。
お義父さんを参考にする話ですか。
とても良い傾向ですな。
ですが、錬や樹風情がお義父さんの真似事とは……片腹痛いですな。
「これはこれは勇者様方、よくぞ私共の店に来てくださいましたです。ハイ」
「ああ、それで? 頼んだ奴隷は取り寄せられそうか?」
「はいはい。幸いにして同業者が買い取った直後でしたので、すぐに用意出来ましたです。ハイ」
「ブブブ!」
お? キールがいますぞ。
他に二人ですかな?
キールを代表として手始めって感じに奴隷商が見せます。
お前は前回、何処に行っていたのですかな?
前々回と同じく魔物商の隣で暴れてますな。
「こちらの者でよろしいですか? ハイ」
「あ、ああ……じゃあ幾らだ?」
「この奴隷は既に国から金銭を頂いていますです。ハイ」
「というか……没収されたんじゃないのか」
「伝達不備もありますが、今は泳がせている段階です。ハイ」
「そうか……」
お義父さんはキールに近寄りますぞ。
ああ、そうでしたな。
錬も樹もいますから丁度良いですぞ。
「お義父さん、奴隷登録に使うインクもついでに少しだけ譲ってもらうと良いですぞ。その素材で奴隷の能力と成長補正を引き上げる武器が出るのですぞ」
「え? まあ……そうだが」
演技が入りながら迷う様に視線を錬と樹にも向けます。
「一応、素材として武器を得ておくか……」
「奴隷を使うんですか?」
「状況次第だろ」
錬と樹が応じます。
キールやその他奴隷達は処刑の時を待つように各々異なる反応をしているみたいですな。
もちろんキールは抵抗の意志を見せております。
「ふむ……コイツがキールか」
「ブブブブブブー!」
相変わらずの台詞ですかな?
一応クズが処分されてエクレアの領地の奴隷達は解放が宣言されている状況ですぞ。
知らせていないのでしょうな。
「少々気性に問題があるようですが、本当によろしいのですね? ハイ」
「ああ……まあ」
という所でお姉さんの友人がお義父さんの後ろからひょっこりと顔を出します。
「キールくん」
「ブブブヒ!?」
おや?
前々回は敵意を見せていましたがお姉さんとその友人の顔を見て驚いている様な顔をして大人しくなります。
やはり同郷の者がいると思う所でもあるのでしょうな。
「大丈夫だから落ちついて、もうすぐ自由になれるんだよ!」
「ブヒ?」
キールはお義父さんとお姉さん達を交互に見ていますな。
「ところでなおふみ様」
「な、なんだ?」
「さっきの……奴隷になるとより強くなれるっていう話は本当なんですか?」
「そうらしい」
お姉さんの友人はそこで指を口元に当てて唸りますぞ。
「強くなるなら利用した方が良いですか?」
「い、いや……」
お義父さんは目を泳がせながら魔物商の顔を見ます。
ここで弱みは見せると舐められると考えているのですな。
それを察したのかお姉さんの友人はお義父さんの手を握ってから手繰り寄せられた振りをしてお義父さんの前に立ちます。
「『キャア! 私達に嘘を言ったんですね! このうそつき!』」
「う、うわ! ――ふふ、騙されるのが悪いんだ!」
お姉さんの友人の演技にお義父さんは便乗して魔物商の反応を見ています。
キールに関しては身を乗り出して抗議をしていますぞ。




