地下水路
……寝ようと思った所で思い出しました。
「ちょっと夜風に当たってきますぞ」
「ん? ああ」
寝る前にしなくてはいけない事がありましたな。
推定ではそろそろやらかすのではないかと思いますぞ。
さりげなく俺は部屋を出てから宿の外に出て……ポータルで移動しますぞ。
そう、今夜辺りで何か仕出かすだろうと俺の予測がありますからな。
俺はポータルでメルロマルクの城に戻りましたぞ。
メルロマルクの城も既に夜ですな。
見回りの兵士が巡回しております。
女王への襲撃等の類は……まだ無さそうですな。
その辺りの警戒も懸念しておかねばなりませんが何分、女王派もいない訳では無いので大丈夫なのでしょうな。
と、まあ俺はメルロマルクの城内を隠蔽スキルと魔法で隠れながら進みます。
そしてある場所まで移動しました。
メルロマルクの城内で奴をぶちこんである場所など、数えるくらいしかないですからな。
念の為の監視……という事にしておきますぞ。
で、割とすぐに奴等は出てきました。
本当に出てくるとは思ってなかったので、こんな俺でも呆れてしまいますぞ。
「ブブー!」
「くそ! くそくそくそ! あの偽勇者共めぇええええ」
獲物と……燻製ですな。
その一派が今、旅支度をして兵士と共々逃げようとしている最中でした。
見張りの兵士は買収されているのですかな?
幽閉用の塔から出て赤豚達は地下監獄の方へと駆け足で向かって行きます。
やはりですな。
企みが失敗し、思った通りの結末にならなかった赤豚は今夜辺りに逃げると思っていました。
何せ女王の監視の元、保護してくれる相手がおらずワガママを寛容に許していたクズは権力を剥奪、復権するかどうかわからない状態で赤豚が大人しくしているとは到底思えませんからな。
女王も処分が甘い所がありますからなぁ。
上位の奴隷紋で縛りつけないからアッサリと逃げようとしているのでしょう。
「ブブ! ブブブ!」
燻製や配下の兵士共に命令しながら赤豚は地下監獄の先にある脱出用の水路の方へ走って行くようですぞ。
前々回も似た経路を取りましたな。
正面から逃げるのは無理だと悟ったのでしょう。
なんならこっちで見張っておくべきでしたかな?
そう思いながら赤豚達が地下監獄から水路の方へと移動した頃。
頃合いを見計らって赤豚を背後から、実験も兼ねてソウルイータースピアの技能を使って貫いてやりますぞ。
手に力を込め、鋭い槍の穂先で赤豚の背中を一突します。
「ブヒ!?」
ビクンと赤豚が一瞬立ち止まってから倒れる様に膝を突きました。
ゆらぁっと俺は姿を現しますぞ。
「お、王女?」
燻製と兵士が突然立ち止まった赤豚の方へ振り向き……そして俺を見て顔を青くさせました。
ははは、まさか俺が現れるとは思っていなかったのでしょう。
まるで化け物にでも遭遇したみたいな顔ですぞ。
「何処へ行くと言うのですかな?」
「お、お前は!」
燻製が青ざめた表情で俺を指差します。
ま、コヤツは強い奴の味方ですから、こんな反応をするのでしょう。
それよりも赤豚ですぞ。
「ブ、ブブブ、ブヒ!」
ソウルイータースピアで突いているのでそのまま魂が幽体離脱しておりますな。
俺の槍の穂先には貫かれて宙づりの赤豚の魂が呻いております。
やはり元気ですな。
貫かれたまま必死に抵抗しておりますぞ。
「ブヒブブブ!? ブヒ!」
何やら喚いておりますが、何を言っているかわかりませんぞ。
わかりたいとも思いませんがな。
「大方、居心地の悪い国から出て俺達に復讐とか浅はかな企みをしているのでしょうが、そうはいきませんぞ?」
「ブヒ!?」
霊体赤豚が驚きの表情を俺に向けました。
やはりですな。
コイツのする事はかなりワンパターンですぞ。
ま、他にも何パターンかやる行動が想像できない訳ではありませんがな。
「三勇教辺りと結託して女王を追い出す、もしくはフォーブレイに亡命でもしてタクトに頼るですかな?」
「ブ!?」
更に驚いていますぞ。
いい加減飽きてきましたな。
おや? 燻製は俺を見て腰を抜かしていますぞ。
朝の串刺しが効いているのですな。
「ブブブ――」
「お前と問答する気はありませんぞ。朝はお義父さん達やクズ、更に女王などの手前、手は出せませんでしたが、赤豚、俺はお前の存在をみすみす見逃す気はありませんぞ」
そう……お前はフレオンちゃんの仇であり、お義父さん達が俺を信じてくれるための捨石なのですぞ。
役目を終えたお前に存在価値などありません。
これ以上面倒な騒ぎを起こす前にこの世から消し飛ばしてやりますぞ。
魂を、ですがな。
「では消えされですぞ! バーストランスⅩ!」
「ブヒ――!?」
最大出力のバーストランスで赤豚の魂を消し飛ばしてやりました。
汚い粒子でしたな。
「さて……」
俺は槍を軽く振りまわしながら形状を変化させますぞ。
腰を抜かした燻製とやる気な兵士が俺を睨んでおります。
「ここでお前等に逃げられたら俺の計画が露見してしまいますからな。目撃者は等しく消えてもらいますぞ」
そう、赤豚が悪さをする前にこの世から消えてもらう計画ですぞ。
腐っても奴は姫ですからな。公に消せば女王との軋轢になりかねませんな。
女王自体は諦めてくれるでしょうが、お義父さん達も若干俺への警戒を強める可能性があります。
「ヒ、ヒィ! お、俺は勇者様達の味方です! どうか、助け――」
燻製が何やら命乞いをしていますぞ。
ですが知りませんな。
今日この場に居たのが運の尽きですぞ。
自分の領地にでも引き篭もっていれば生き長らえたものを……ですな。
「命乞いなど聞きませんぞ。では揃って死ねですぞ! ブリューナクⅩ!」
「うわ――」
「や、め、わぁあああ――!」
地下水路をぶち抜かない範囲で燻製と兵士共にぶちかましてやりました。
跡形も残さず、燻製と兵士共を抹消してやりましたぞ。
念の為に魂まで処分すべきですかな?
なんて思っていると地下水路の奥から何か淡い光が漂っているように見えますぞ。
アレは何ですかな?
確かメルロマルクの地下水路にはゴースト系の魔物が出現するのでしたかな?
おそらく、俺が仕留めた燻製や兵士共の魂を求めて群がって来ようとしているのでしょう。
おっと、それよりも実験結果ですな。
俺は魂を抜かれて膝を付いて茫然と座る赤豚を確認しますぞ。
「……」
赤豚は茫然と刺された時に見た方角のまま焦点が定まらないまま放心しています。
これは魂が抜けだしたままと言う事ですな。
前回戦った、憑依して乗っ取っていた豚を倒した時の反応とは大きく違いますぞ。
実験結果が出ましたぞ。
赤豚はお義父さん達が話していた、誰かが憑依して今の人格になったのではなく、最初から腐りきった赤豚だったのですな!
まあ残りカスは生かしておいてやりましょう。
「では撤収しますかな」
俺は槍を収め、赤豚をその場に置いて地下水路から脱出し、何食わぬ顔でゼルトブルのお義父さん達の下へ戻ったのですぞ。
ちなみに後日、逃走した赤豚の追跡をする為に派遣された追跡部隊が、地下水路で茫然としている赤豚を発見したそうですぞ。
逃げた赤豚が地下水路に住み着く悪霊の類に襲われて恐怖のあまり、廃人となったという事になりました。
これでこの世のゴミが少し消えたという事ですな。
ハハハ、ですぞ!
翌朝ですぞ。
城へお義父さん達を連れて行くと女王が出迎えてくれました。
玉座の間で謁見と共に今後の方針を話す予定ですぞ。
「おはようございます。四聖勇者の皆さま」
「あ、はい。おはようございます」
お義父さん達はそれぞれ挨拶をしますぞ。
そこでバーンと俺達の後方にある扉が開け放たれました。
振り返ると肩で息をしているクズが凄い形相で睨んでおりました。
おや? 幽閉を突破してきたのですかな?
赤豚に逃げられたりと、まだ女王の包囲網は完成していない様ですな。
まあ女王が帰還したのは昨日の今日なのでしょうがないでしょうが。
「お前等が! お前等がやったんじゃな! 許さん、許さんぞぉおおおおお!」
「は?」
クズが今にも殴りつけようと拳を作って駆けてきます。
女王が手を上げ、兵士共に命じてクズを取り押さえますぞ。
お姉さんとその友人が脅える様にお義父さんの後ろに隠れますぞ。




