夜泣き
どっちにしてもポータルのクールタイムを待つ必要がありましたな。
前回のお義父さんには侵入と撤退のタイミングを注意されていたのを忘れていました。
どうせデストロイをする気でしたから逆に穏便過ぎましたぞ。
とにかく、どうやら俺はお姉さんの救出には成功した様ですな。
これで少しは安心……出来るでしょうな。
その日の晩には女王が貴族の屋敷に抜き打ちで査察に向かい、真実を知ると反抗した貴族! と言う事でお姉さんを虐待していた貴族とその血族関係者を罰する事が出来たのですぞ。
良い名目でしたな。
もちろん、四聖勇者と同行した、を名目として付け加えましたが。
メルロマルクに到着すると同時にお姉さんとその友人は治療院に運び込まれました。
女王権限で治療師も真面目に仕事をしていたお陰でお姉さんと友人は助かったそうですな。
お義父さんがベッドで横になるお姉さんの友人の手をずっと握っております。
いや、手を離さないので握り返しているのですかな?
「ラフタリアちゃんだっけ? 君は大丈夫?」
「う、うん! 大丈夫」
しかしお姉さんはどうも変な笑い方をしているように見受けられますぞ。
これが拷問による後遺症でしょうか?
お義父さんもその辺りを察しているのか大きく指摘しませんな。
「居場所に困るな。なんて言うか尚文が本当に的確に行動していて、見てるだけになってしまった」
「ですね。迷いなく薬を飲ませる方を選んだ挙句、背負ってしまいましたから……僕達はどうしたら良いでしょうか?」
「下手に動いて元康から離れると危なそうだしな」
「何処から刺客が来るかわからない恐怖という奴ですね」
お姉さんの救出と治療をし終えたら日が傾いてきましたな。
考えてみれば今日は色々とありましたからお義父さん達もお疲れでしょうな。
「明日には行動を開始しますぞ。錬も樹も明後日には多少戦える次元になるでしょうな」
ちなみに女王は城の方で色々と指示を出している最中ですぞ。
出かける前に女王が婚約者を俺達に預けていきました。
「メルティ、マル……赤豚の代わりに勇者様方のサポートをするのですよ」
「はい。母上、姉上の代役……は嫌ですが、立派に勤めて見せます」
婚約者はお姉さんとその友人に事情を聞いている様ですぞ。
「えっと貴方がラフタリアさんで、貴方がリファナさんですね。住んでいた場所を教えてください。出来る限り力になれるよう努力します」
少々礼儀正し過ぎる気がしますぞ。
女王から命じられた事だからですかな?
「えっと……わたしの名前はラフタリアって言います。この子はリファナちゃんです」
「よく辛い事を耐えていましたね……メルロマルクの者として謝罪します」
婚約者がお姉さんとその友人に頭を下げましたぞ。
「我が国の貴族の暴走は引いては王族の責任、誠に申し訳ありません」
と婚約者に頭を下げられてお姉さんは困った様に首を振っていますぞ。
「た、助けて貰ったから大丈夫です! その……村に帰れるなら! ね? リファナちゃん」
「うん……村に帰りたいね。ラフタリアちゃん。あと……」
お姉さんの友人がお義父さんに顔を向けます。
「俺の名前は岩谷尚文って言うんだ。まだ実感は無いけど、一応盾の勇者って事になるのかな? 村に帰られる様に俺も力を貸すよ」
「なおふみ様……よろしくお願いします」
「うん。よろしくね」
女王は貴族への視察の結果を纏めて公表するそうですな。
で、エクレアが既に救助されて事情を聴いているとか。
着実に良い方向に動いていますぞ!
ひしひしと感じますな。
と俺が手ごたえを感じていると錬と樹は落ちつきなく辺りを何度も確認しています。
「今日の夜はどうしたものか……」
「そうですね。不安でしょうがないですよ」
「メルロマルクで寝るのが危険だと思いますかな?」
「まあ、三勇教の恐怖があるからな」
「ここまでの事を仕出かした訳だし、落ちついて居られませんよ」
「しょうがありませんな。三勇教も手を出しづらい所で今日は寝る事にしますぞ」
今回はゼルトブルで宿を借りれば良いでしょうな。
とはいえ、弱っているお姉さんの友人をどうしますかな?
んー……どちらかと言うとゼルトブルの宿が良さそうな気がしますな。
あそこは人種の坩堝。大抵どうにかなりますぞ。
「コホ……」
咳をまだしていますぞ。
さすがにそんな直ぐには治りませんかな?
衰弱が激しいとの事でベッドで休んでいますし。
「お義父さん、安全のために移動すべきだと思いますぞ」
「そうは言ってもリファナちゃんはまだ寝かしておきたいし……かと言ってこんな事をする様な貴族がいる国に亜人の子を滞在させたくないなぁ……」
悩む様な声を出しているとお姉さんの友人が必死に起き上がりましたぞ。
「大丈夫、です。なおふみ様たちと移動するなら行きます、ね。ラフタリアちゃん」
「う、うん!」
気力は十分にある様ですぞ。
「では移動しますかな?」
「女王様に言付けはしなくて良いのかな?」
そこで婚約者が一歩踏み出しますぞ。
「大丈夫です。母上は影が守ってくれます。そして勇者様方の補佐はわたしが一任されているので、人質の意味も兼ねて同行します」
「メルティちゃんだっけ? 良いの?」
「元より、国、父上と姉上が犯した不始末。母上の願いもあってわたしは引けません」
礼儀正しく答える婚約者から風格を感じますぞ。
さすがは俺の好敵手ですぞ。
フィーロたんとの婚約を許された相手ですな。
「じゃあ足早に元康くんが安全だと思う国へ移動しよう。話はそれからだね」
「分かりましたぞ! ポータルスピア!」
こうして俺達は三勇教が絶対に来れない……ゼルトブルへと移動しました。
宿はアッサリと借りる事が出来ました。
その日は色々とあったのでお義父さん達は直ぐに就寝しましたぞ。
もちろん、強化方法の講義を暇な時間にしました。これが終わったら未来の情報の開示ですぞ。
いや、ゼルトブルなのでお姉さんのお姉さんとの合流が先ですかな?
……よく考えたらお姉さんのお姉さんが何処に居るのか聞いてませんぞ。
その日の晩。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
突然の絶叫ですぞ!
「な、なんだ!?」
「一体何が起こったんですか!?」
錬と樹が悲鳴で起き上がりました。
もちろん、俺もフィーロたんと浜辺で追いかけっこをする素敵な夢から起こされてしまいましたぞ。
「な、何々!? ラフタリアちゃん!?」
「ラフタリア、ちゃんは深く眠ると叫んじゃうの……コホ……」
お姉さんの友人が戸惑いながら言いますぞ。
「お父さん、お母さん……いやぁ……いやぁああああああ……」
そこでお義父さんが眠っているお姉さんを抱き寄せました。
「大丈夫……大丈夫だから……ね……」
「う……うう……」
お義父さんに抱き寄せられたお姉さんは少しずつですが悲鳴が小さくなっていきました。
それから直ぐに部屋の扉がドンドンと叩かれ、隣の客や宿の主人がムッとした表情でやってきましたぞ。
「すいません。この子が夜泣きと言うか悪い夢を見てしまったようで」
と、お義父さんが代表してお姉さんを抱いたまま何度も謝っておりました。
婚約者が謝罪に出ようとしましたがお義父さんが率先して謝っております。
「あんたなー。寝てる人間が居る事を分かってるのか?」
「すいません。本当に申し訳ありません。安眠を妨害して申し訳ないです」
ペコペコと謝るお義父さんのその姿が何故か俺には商売をしている時の表情に見えてきましたぞ。
やがて言いたい事を言い終えた客と店主は渋々去っていきました。
何分、ゼルトブルは眠らない町の側面もありますからな。
「確かに絶叫は凄かったが、外はかなり騒がしいよな」
「盾の勇者の権限でシルトヴェルトとかの城に案内して貰えば良いんじゃないか?」
「あまり勧められませんな」
俺はシルトヴェルトの城に泊っていた周回の話をしますぞ。
サクラちゃんや俺をさりげなく暗殺しようとする連中の話ですぞ。
「何処も敵だらけ、強くならなきゃ自由に行動すら出来ないか」
「そう言う意味でゼルトブルはまだ比較的安全ですぞ」
「傭兵の国でしたっけ。ゲームだと賭博をする国ですね。コロシアムとかで稼ぐのを思い出します」
「ここを拠点にして行動か?」
「しばらくはメルロマルクでやる事をやっておきたい所ではありますな」
「ふう……やっと許して貰えたよ」
「尚文さんもよく率先して頭を下げてましたね。とても真似したいとは思えませんが凄いですよ」
「頭を下げるだけで許してくれるならこれくらいは楽な物だよ。アルバイトなんてしてたらクレーマーの処理なんて日常茶飯事だしね」
と言いながらお義父さんはお姉さんを寝かしつけています。
「した事無いな」
「僕もです」
「二人ともバイトせずにゲームってタイプか」
「良いじゃないですか!」
「元康くんは?」
「デート代を稼ぐために洋服店でバイトしてましたぞ!」
俺のファッションセンスで豚共が挙って買いに来ましたな。
まあ、金持ちの豚のお陰で欲しい物は大抵手に入りましたがな。
お姉さんの寝息が静かになりましたぞ。
「元康くんらしい……のかな?」
で、お義父さんがベッドで寝かせようと手を離すと。
「きゃ――」
言い掛けてお義父さんは抱き直しました。
「うーん……しょうがないか」
「ここで妥協する尚文さんが凄いですね。幼女と寝る事案発生」
「そこ、からかわないの。こんなに虐待されてたんだ。トラウマくらい出来るさ。リファナちゃんは大丈夫?」
「大丈夫です。ケホ……」
「そう? それなら良いけど」
と言う所でお姉さんの友人はお義父さんの服の裾を掴みます。
「一緒に、寝て良いですか?」
するとお義父さんは若干困った様な表情を浮かべた後に頷きますぞ。
「どうせベッドが少なくて雑魚寝状態だしね。良いよ」
「ありがとうございます。盾の……勇者様」
「名前で呼んでくれた方が嬉しいかな」
「はい」
と言いながらお義父さんはお姉さんを抱えたままお姉さんの友人と一緒に就寝し始めました。
「あー……なんて言うか、子守りが上手いという元康の話が分かった」
「ですね。この手腕……とても今日の朝に冤罪で世界を呪った顔とは思えない」
「錬、樹。静かにしようね」
と、返事をしてからお義父さんは寝始めました。
ま、俺達も素直に寝るとしますかな。
なんて感じに俺達は就寝したのですぞ。




