事情説明
赤豚を取り逃せば碌な事がありませんし、クズを仕留めた方が後々楽になると思ったからですぞ。
「エクレアって人が捕えられてる?」
「女騎士と未来のお義父さんは呼んでいる亜人優遇を謳う貴族の娘ですぞ。ちゃんと名前を覚えておけと言われましたが……はて? エクレアはなんと言う名前でしたかな?」
「セーアエット嬢ですか……わかりました。すぐに釈放する様に命じましょう」
女王がテキパキと配下に指示を出して行きますぞ。
おお、俺が名前を思い出す前に女王が察してくれました。
便利ですな。
「セーアエット嬢がいれば少しは亜人友好の地も復興が出来るかもしれませんね」
「その先を聞く前に……なんで俺の事をお義父さんって呼んだ訳?」
「それはお義父さんがフィーロたんのお義父さんだからですぞ」
「は?」
ああ、これは説明が難しい話でしたぞ。
前回のお義父さんに沢山注意されています。
手順を守れば納得してくれるそうですぞ。
「まずはフィーロたんの説明から入りますぞ」
「う、うん」
俺はお義父さんとの馴れ初めをゆっくりと説明して行きました。
最初の世界で道化を演じ、お義父さんを苦しめた張本人であり、好き勝手やった結果、国の真実に気づかずに暴れた事。
三勇教に嵌められ、お義父さんを追い掛けた挙句、教皇の罠に掛けられた事。
そして……霊亀に敗れて赤豚に裏切られた絶望の淵にいる時に、お義父さんが育てたフィロリアルであるフィーロたんに慰められた事を俺はありありと説明しました。
ついでに俺の目には女と思っていた生き物が豚にしか見えない事、言葉もわからない事を話しました。
以降、お義父さんが代弁してくれると助かる、という旨を伝えると了承してくれました。
「豚とか……」
「なんか反応がおかしいとは思っていたんですよね……」
「ループする時の代償か?」
「違いますぞ」
「まあ理由はともかく、わかったよ。……あれ? 女王様は?」
「あれは豚じゃないですぞ」
「いや、お前の説明だと女は全部豚なんじゃないのか?」
その辺についても説明しなければいけません。
前回のお義父さんや錬、樹達にこう言えと言われているので、そのまま言いますぞ。
「つまりフィーロたんですぞ! フィーロたんと関わりのある者は豚ではないのですぞ!」
わかりましたかな?
まあ女王の様な一部例外もいますが。
ああ、今でも思い出すだけで心が震えますな。
フィーロたんに会いたいですぞー!
「……尚文」
「なに?」
「なんでコイツがループしてるんだ?」
「そんな事言われても……」
「ループの影響で人格が壊れているんじゃないですか?」
「あー、ループモノの王道だね」
なんて感じでお義父さん達は納得してくれました。
さすが前回のお義父さん達ですな!
「つまり尚文をお義父さんと呼ぶのは尚文が育てたフィロリアル……が人化して仲間になっているからか」
「尚文さんが育てたという所からお義父さんと……」
「実の子とかじゃない訳ね。で、フィロリアルって一昨日の夕食に出たあの肉で、馬車を引く鳥型の魔物だよね? 城下町で見たよ」
「そうだな。仲間が居なかった尚文が魔物を育てるのは道理なのかもしれない」
「だからお義父さん……ですか。話はわかりましたよ。他にも色々とあるんですよね?」
「もちろんですぞ。錬も樹も知りたがっている俺の強さの秘密もみっちりと教えていきますぞ。早めに教えないと信じてくれませんからな」
俺の返答に錬と樹は若干嫌そうな顔をしましたぞ。
ですが拒否感は無い様ですな。
「早めに? その理由は何ですか?」
「錬も樹も見知ったゲームだと勘違いしているんですぞ。その思い込みが強さの障害となるのですな。最初の頃は半信半疑だったと前回のループで本人が語っていますぞ」
「勘違いですか……」
「違うと言われても困るのだが……」
ピンとこない様子ですぞ。
この反応も予想通りですな。
「教えるのが遅れると自分の知るゲームの世界に来たのだと思い込んだまま、中途半端な強化方法だけで進んだ結果、強敵を相手に手も足も出なくなるのですぞ」
「似たゲームだと思い込んで説明書を読まずに進んで躓く感じかな? ほら、2とか3になると1の知識が役に立たなくなるゲームとかあるじゃないか」
お義父さんが的確な事を言いますぞ。
前回も似た様な感じでしたな。
「俺の知るゲームであるはずなんだと意固地になって、強化方法を実践出来ずに進んだ錬と樹に今までのループで何度も会いましたぞ。その場合は、俺やお義父さんをチートと呼んで蔑んできましたな」
「……気持ちはわからなくもないな」
「そうですね。ループなんて十分チートですよ。ですが、強化方法が間違っていると言うのなら、これだけの証拠があるんです。信じるべきでしょう」
錬と樹が納得した様に頷きました。
物分かりが早くて助かりますぞ。
「強化方法とかは教えてくれるんだろ?」
「もちろんですぞ。Lv上げも全面バックアップもしますぞ。勇者同士は近くにいると成長阻害……Lvアップを妨げますが、仲間はその限りではありません」
「パワーレベリング完備の環境か……悪くは無い」
「ですが、楽しみも減りそうではありますね」
「戦いを楽しむのは悪くは無いですが、これは現実ですぞ」
「わかっている……さっきの悲鳴を聞いたらな……」
あー、確かに燻製はうるさかったですな。
なにやら、その事がトラウマになっている様子。
「あ、あれはすごかったね……」
「夢に見そうですよ……」
まあ前回も似た様な事を言っていましたからな。
問題無いでしょう。
「と、ともかく強い事を悪いとは言いませんよ」
「えっと……どっちにしても強くならなきゃいけない訳だね」
ユキちゃんを始めとしたフィロリアル様の協力は必要不可欠ですな。
その為にユキちゃん達を早めに購入したいとは思いますぞ。
「で、陰謀を跳ねのけた俺達がしなきゃいけない事は強くなる事だけなのか?」
錬の問いに俺は首を振りますぞ。
「もちろん、前回のお義父さん達に頼まれた事、助けないと行けない人々をすぐにでも助けに行かないといけませんぞ」
お義父さんに頼まれた事ですからな。
お姉さんや村の奴隷たちを一人でも多く助けて欲しいとお姉さんのお姉さんにも頼まれています。
出来ればメルロマルクの亜人狩りも止めて欲しいとも言われましたな。
これは女王が帰還して宣言しているのである程度は収まりますかな?
「助けなきゃいけない人?」
「前回の周回で色々と頼まれていますぞ」
「そうなんだ? じゃあがんばって……強くなってから助ける感じ? それとも女王様が帰還したお陰で大丈夫になるのかな?」
「出来る限り早く助けて欲しいと頼まれましたな」
「仲間の確保か」
「早めに助けられるなら優先すべき問題でしょうね」
肩に力を入れた様子で樹がやる気を見せております。
「勇者の問題としてフォーブレイに行かなきゃいけないけど、その為にはある程度強さが必要」
お義父さんがまとめようとしております。
錬が後に続く様ですぞ。
「メルロマルクの問題を放置するのは、それはそれで問題があるので女王への協力はした方が良い」
「波に挑むのはどうなんですか? そもそも波とは何なんですか?」
「俺もその辺りは記憶が曖昧ですが、前回のお義父さん達は神を僭称する者が関わっているのではないかと言っておりました」
俺は前回の周回で、この世界で暗躍する転生者や転移者の話をしましたぞ。
ループ前の女神様云々も含めていますぞ。
「そんな連中がいるのか!? とんだPK共だな」
PKですか。
若干ゲーム感覚が残っていますな。
「つまり刺客が潜んでいる訳ですね。ならば確かに急いで強くならなきゃいけないですね」
「フォーブレイに行くのが十分に強くなってからなのも転生者の罠を乗り越えるためですぞ」
「俺は守るしか出来ないっぽいけど……」
「最初の世界のお義父さんはとても勇ましくみんなを導いていました。俺も導かれていたのです。前回も……錬や樹は面倒事を全てお義父さんに一任していましたな」
それを言った瞬間、お義父さんが若干距離を取った気がしますぞ。
まあお義父さんは面倒臭がりな所もありますからな。
最初の世界とか、結構な頻度で面倒を誰かに押し付けていました。
俺もカルミラ島やフォーブレイなどおつかいをよく任されたものですぞ。
「助けた恩で雑務を? まあ、信じてくれたならやっても良いけど……」
「誤解だ! 俺は面倒臭がりじゃない! 何か理由があるはずだ!」
錬がどん引きするお義父さんにクールの仮面が剥がれ気味で説明しますぞ。
「そうですぞ。お義父さんは元々居た世界で遊んでいたネットゲームだとサーバー三位のギルドを経営していたそうですぞ」
「よく知ってるねー。やっぱりループしてるんだ?」
お義父さんが感心したように答えますぞ。
「それだけではありませんがお義父さんはとても面倒見が良い方ですからな。自然と雑務をやってくれるようになった結果ですぞ」
「そうなんだ……」
「それは後々決めて行けば良いですよ」
樹が纏めるように言いましたぞ。
それから俺の方を見ます。
「理由はわかりました。半信半疑な所はありますが、信じるに値する話だと思って行きましょう」
「まだまだ細かく説明して行きたいですが、日が暮れてしまうでしょうし、詰め込み過ぎると覚えきれないだろうと前回のお義父さんも言っていました」
その為に優先順位を指示されていますからな。
まずはお義父さんの無実の証明をして錬や樹、お義父さんに信用して貰う事。これにはメルロマルクの出来事全てが含まれます。
そしてLvを十分に上げて強くさせる事。
強化方法の実践ですな。
「了解。俺達は元康くんの言う通りに試して行けば良い訳だね」
「決まりましたね。じゃあどうしましょうか? 先ほどの話をまとめますと前回のループで頼まれたという仲間の確保ですか?」
「ですぞ。ではお義父さん、錬と樹、準備は良いですかな?」
「僕達、冒険出発二日目ですが大丈夫なんですか? なんていうか不吉な雰囲気がありますよ?」
不安そうに言う樹に俺は胸を張って頷きますぞ。
「大丈夫ですぞ」
それまで黙っていた女王がそこで扇を一度閉じてから口を開きました。
「勇者様方、それは私共が力を貸した方が良い案件でしょうか?」
俺は女王に尋ねられますぞ。
そうですな……。
「では――」