絶叫
「い、一体なにが……」
「詳しい説明は後でしますぞ。ただ、手短に言うのでしたら全て俺は経験しているのです。お義父さん」
「お義父さん?」
やっと慣れた呼び方が出来ますぞ。
「さっき元康さんが言ってたじゃないですか、説明は後でしてくれるそうです」
「ああ。そうだな……敢えて言うならゲーム知識を元康は知り尽くしている様なもんだ。尚文、お前を助けたいんだとさ」
「はぁ……とりあえず。わかった」
お義父さんは問題を保留にしてくれる様ですぞ。
それからお義父さんは涙ぐみながら頷きました。
「そっか……なんか元康……くんの目が俺を詰問する割に同情的というか変だなと思ったけど、演技だったんだね」
「敵を炙りだす為には必要な事でしたからな」
「尚文はやってない。ただ寝ていただけだ」
「尚文さんは無実ですよ。僕達が保証します。そのくさりかたびらは盗まれた物だと信じますよ」
「うん……うん。ありがとう」
前にも見ましたがお義父さんは溢れだす涙で、顔がぐちゃぐちゃですぞ。
信じてもらえてうれしいという思いが伝わってきます。この時の出来事を糧にお義父さんはとても優しくなってくださるのですぞ。
錬も樹も悪くないと、少し照れてますな。
「ブブブブ! ブブヒブブブブ!?」
赤豚が何やら騒ぎ始めました。
凄く醜い泣き顔ですな。お義父さんとはまさに天と地程に差がありますぞ。
実に白々しいですぞ。
本当に無実を訴える者と虚言を言う奴とではこんなにも差があるのですな。
嘘泣きが上手くても真実を知る俺達の前には無意味ですぞ。
錬も樹もその違いをちゃんと理解した様ですな。
「とても軽い涙ですね。尚文さんの訴えの方が心に響きます」
「そうだな。俺達にお前の虚言が通じると思うな」
「元康さんに教わっていなかったら信じていたと思うとゾッとしますね」
「綺麗な花には毒があると言うが……とんだ猛毒だ。しかも人が苦しむのをほくそ笑んでいるとなると性質が悪い」
「言われて僕も確認してましたよ。貴方が尚文さんに向かって隠れて挑発した事を」
おお、樹も気づいたのですかな?
どうやったのでしょうか?
そう俺は疑問に思っているとお義父さんを抑えていた兵士を指差しますぞ。
「反射ですよ。注意深く探していたら見えました」
「器用ですな」
樹は命中の能力者ですから目が良い様ですな。
意識して探せば見つかるのでしょう。
やがて錬と樹は武器を持って構えますぞ。
俺がストーキングしていた訳では無いので少しはLvがあるでしょうな。
ま、更に強くなった俺の前に例えどれだけの敵が現れようとも錬も樹も傷など付けさせませんがな。
「アマキ殿、カワスミ殿、キタムラ殿、一体どうしたというのじゃ。そこの盾の勇者が仲間を強姦しようとしたのに擁護しようと言うのですかな? 幾ら心の知れた異世界人同士と言えど庇って良い事ではないのじゃ」
「代理の王だったか。今ならまだ間に合うぞ? 素直に謝れば見逃してやる」
「そうです。もはや恥の上塗りです。諦めてください」
クズは苛立ちを隠しながら立ち上がって弁明しますぞ。
「アマキ殿、カワスミ殿、キタムラ殿! 一時の感情に惑わされてはいかん! そんな恩知らずを信じては世界を救う事など出来ないのじゃ!」
「恩知らずとは滑稽ですね。召喚しておきながら都合の悪い勇者が呼びだされるなり、冤罪を被せて罰しようとしているのですから」
「ふん、何も知らないと思っているから勝手な事を言って……知っているんだぞ。この国が盾の勇者を宗教上の敵として認識しているという話を」
「宗教上の敵!?」
お義父さんが驚き、俺に向けて視線を向けます。
俺は頷きましたぞ。
「盾の勇者はこのメルロマルクにとって都合の悪い勇者なのですぞ」
お義父さんは唖然としながらも納得した様に何度も頭を上下しました。
「なるほど、不自然な視線の正体はこれだったのか……挙句、この陰謀……」
「召喚してすぐにお義父さんを秘密裏に殺そうものなら俺達に警戒される。勇者という立場上、そんな真似をしようものなら諸外国からの非難も避けようがないですぞ」
「何処までも救いようがないですね。いい加減、諦めなさい。勇者の前には通じないんですよ!」
「黙って手厚く保護すれば逃げられずに済んだものを……呆れて物も言えないな」
錬がバッサリとクズを口で切り捨てますぞ。
「とにかく、茶番はこれまでだ。俺達はお前等の操り人形になるつもりはない」
「そうです。貴方達の悪行を僕達は見ました。素直に心を入れ替えなさい!」
樹がズバッとクズを指差して断言しましたぞ。
前回とは台詞が若干違いますな。
女王が来て罰すると分かっているからですな。
「ブヒッ!」
赤豚が嘘泣きをやめて何やら吐き捨てましたな。
前回と同じく正体を現しましたな。
お前は仕留めても良いそうですぞ。
いつ殺しますかな?
「ぐぬぬ……!」
クズが苛立ち混じりに呻きましたな。
さて、ここで素直に諦めますかな?
絶対に諦めないでしょうな。
後少しで浮かぶお前の表情が見物ですぞ。
「ワシ達の思い通りに動けば良いモノを……もうよい!」
やはりクズが立ち上がって、高らかに宣言しましたぞ。
「者共! この偽勇者達を即刻皆殺しにせよ!」
「ブヒィ! ブヒブヒ!」
赤豚、お前を殺すのは確定事項なのですぞ。
お義父さん達の信用を得るために利用させて貰ったのですな。
もう充分ですぞ。
ですが、赤豚をここで仕留めたら女王に注意されそうですな。
いや、娘の不始末と許してくれますかな?
ああ、そういえばやって見たかった事がありましたな。
ここで赤豚を殺したらクズがうるさそうですしな。
女王の制止を無視しそうですぞ。
それは避けた方が良いかもしれませんな。
「なに、次の勇者召喚の儀式をやればよい。今度こそ、本物の勇者を呼び出すのじゃ!」
「命令とあらばしょうがありません」
と、錬と樹の仲間達も各々俺達に向けて武器を抜きました。
錬と樹が半ば呆れる様な表情をしていますぞ。
他に兵士共がぞろぞろとやってきて俺達を取り囲みます。
「……本当、何から何まで元康さんの言う通りになりますね」
「そうだな。打ち合わせたかのようにな」
もはや茶番ですな。
女王、そろそろですぞ?
そう思ったのですが、全然来ませんな。
「元康さん」
樹が焦った様に俺を見ますぞ。
「あの方が来るんじゃないんですか?」
「まさかそこだけ外してるとかじゃないよな?」
「な、何かあるの?」
おかしいですな。
そろそろ女王が来るはずなのですぞ。
俺が辺りの気配を察すると、部屋の外で魔法の気配が感じられますな。
少し離れた所でガヤガヤと戦闘音が聞こえる様な気がしました。
もしや女王が来る事への足止めか何かですかな?
「ブヒヒヒヒヒィ! ブブブ!」
「そうじゃ! 低Lvの偽勇者など赤子も同然じゃ!」
とクズが言い放った所で、クズの隣に影が出てきましたぞ。
そして耳元で囁きます。
「ふん。ミレリアは遠方で外交中、影武者が権利を濫用をしようとしておるだけじゃ。早く捕まえよ!」
おお、おそらく外での騒ぎは女王ですな。
現場を押さえようとして阻止されたと言う事ですな、きっと。
三勇教の妨害ですな。
この辺りはお義父さん達も女王も想像とのずれと言う事でしょう。
「どうやら元康さんの話は正しいみたいですね」
「ああ、名前から確信した」
「な、何が……? というか大丈夫なの!?」
「大丈夫ですぞ。その気になればこの場の連中は皆殺しに出来ますからな」
「いや、それは盛り過ぎだろ」
錬が呆れたように俺に言いますぞ。
盛って無いですぞ。
「女王がくるまで時間を稼いだ方が――」
樹が俺に提案するよりも先にクズが宣言しますぞ。
「盾をその手で殺すのなら、まだ許してやろう」
「黙れ! お前等に利用されるくらいなら、ここでやられた方がマシだ!」
「ええ、錬さんに同意します。世界が滅びへ向かっているというのに差別をしている様な方々の為に僕は戦いたくありません」
もはや俺達が女王の方へ行くしかなさそうですな。
まさかここに来て女王を偽者と、妨害するとは……呆れますな。
「では行きますぞ。お前等、勇者を相手にした事の愚かさをその身をもって理解しろ! ですぞ!」
「錬、樹、元康、ありがとう……」
俺とお義父さんが視線を交差させていたその瞬間。
「隙あり! しねえええええ!」
燻製が襲いかかってきました。
交渉が面倒になるので殺すなと言われているのが面倒臭いですぞ。
「エイミングランサー! ブリューナク!」
槍を高らかに……とは言っても天井があるので調整しながら燻製から順に戦闘不能にしてやります。
お義父さんに冤罪を掛けた罪、償わせてやりますぞ。
「「「ぐああああああああああああ!?」」」
「「うわあああああああああああ!?」」
「な……なんで……低Lvじゃ……無かったのか」
「こ、これが異世界人の……強さ……」
「いたい……うう……た、たすけて……」
兵士共が各々今際の台詞を吐いておりますな。
死なない程度の攻撃で、そこまで騒ぐなですぞ。
面倒ですな。今からでも一人一人トドメを刺しますかな?
「死ね! 偽勇者! はああああああああ!」
お? 燻製が起き上がって突っ込んできましたぞ。
意外とタフですな。
前回は動きの良い騎士でしたが、今回は燻製ですか。
動きの良い騎士に意識を向け過ぎましたな。
「遅すぎますな」
前回は胸を串刺しにして仕留めてやりましたが、今回は加減しなくてはいけませんぞ。
では腹にしますかな?
死なない様な場所を突いてやりましょう。
「ぐあ!?」
腹を串刺しにされた燻製が自身の腹部を見て唖然としています。
やがて――
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
つんざくばかりの絶叫を放ちましたぞ。
うるさいですな。
トドメを刺してやりたくなりますぞ。
前回の騎士は唖然としながら死んだのですがな。
さすが燻製、なんと生き汚い。
「い、いたあああああああああああああああああああああ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅううう! た、助けてぇええええええええええ!」
突かれた直後なのですから痛みなんて麻痺しているはずですぞ?
これは目で錯覚しているのですな。
まあ、燻製は目で語るタイプに見えたから当たり前の反応かもしれませんな。
お前が俺達に向かってやろうとした事はこういう事ですぞ?
いや、殺そうとしたのですからコレよりも悪いですな。
「ヒィ!?」
絶叫する燻製を見て錬と樹、お義父さんが声を上げますぞ。
燻製の声があまりに大きいので驚かせてしまった様ですな。
「お、俺達を殺そうとしてきたんだから、しょ、しょうがない……な」
「そ、そうですね。降りかかる火の粉は払わないと……戦いとはこういう物ですよね。相手も人間で死んだら血くらい……でますよ……」
「あわわ……」
「まだ死んでませんぞ? 殺すなと注意されていますからな」
現に周りに居る連中は全員、戦闘不能で収まっていますぞ。
まあ燻製がうるさいですがな。
「うるさいですぞ。いい加減黙れですぞ」
槍を振りまわして燻製を振り払い、パラライズランスで飛ぶ前に突いてやります。
壁にぶつかって倒れた燻製は痺れてピクリとも動きません。
これで少しは静かになるでしょう。
「さてと……ですぞ」
相変わらず赤豚とクズは避けるのが上手いですな。
狙いを若干外していたのでしょうがないですが騎士共を盾にして無事な様ですぞ。
赤豚が器用にも逃げ出し玉座の間を出ようとしたその時、扉が開かれ、影と共に女王が姿を現しました。
「……何処へ逃げようと言うのです? マルティ?」
「ブ!?」
赤豚が驚きの声を出しました。
そしてクズも同様……いえ、僅かばかり余裕が見えますな。
「そやつは偽者だ! 影よ! 女王を騙る裏切り者の影武者を捕まえよ! そして偽勇者共を殺すのだ!」
思わぬ援軍に勝利の笑みを浮かべているようですが、影程度では今の俺を止める事は不可能ですぞ。
「誰が偽者ですか」
女王の怒気が辺りの温度を下げていく気がしますぞ。
「ではオルトクレイ、本物か偽物か、その身で受けて見ると良いでしょうね」
『力の根源たるが女王が命ずる――』
「ぬお!? この詠唱はまさか――」
信じられない者を見る目でクズは女王を見て絶句しておりました。
辺りの者も呻きながら目を皿の様にしております。
『真理を今一度読み解き、彼の者に氷結による拘束を生み出せ』
「ドライファ・アイシクル・プリズン!」
そして女王の唱えた魔法によってクズと赤豚が捕えられましたぞ。
喋られる様に頭だけ残して氷漬けですな。
「まったく……どこまで愚かになったのですか……皆の者! 宣言します! 今すぐ戦いをやめるのです!」
パンと女王が手を叩くと駆けつけて来た兵士を始め、呻いている連中も一様に戦意を喪失させましたぞ。
「ブブブヒ!? ブブブ!」
「馬鹿な! 何故ミレリアがここにいる!? 遠方の国に出向いていたはずではないか!」
「槍の勇者であるキタムラ様の力によって遥か遠い距離を一瞬で移動して来たのですよ」
「なんじゃと!?」
クズが俺を睨みつけますぞ。
俺は挑発気味に中指を立ててやります。
それから女王はクズの前に立ってパァンとクズの頬を叩きます。
「ぐふぅ!」
「勝手に四聖勇者召喚を行った挙句、陰謀を張り巡らせて盾の勇者様に冤罪を被せようとは、呆れて物も言えません! 貴方は国の事をちゃんと考えているのですか? いい加減、広い視野を持ちなさい!」
それから言い訳とばかりにブヒブヒ鳴き喚く赤豚の頬を殴打します。
「マルティ、貴方が悪いのはこの場にいる誰しもが理解していますよ。いい加減諦めなさい」
「ブヒィ! ブヒブヒブヒ!」
「俺はやってない!」
「ええ、尚文さんはそんな事をしてませんよ」
「ああ、間違いない」
赤豚はお義父さん達の言葉を聞き入れず、嘘泣きをしながら女王に鳴き喚きます。
なんて言っているのですかな?
お義父さんも説明する余裕がありませんぞ。
あ、そういえば俺が豚の言葉を理解できないのを説明していませんでした。
「それがどうかしたのですか?」
「ブヒ!? ブヒブブブブブヒブフフフヒィ! ブブブブブ!」
「元々処女ではないでしょう? 私が知らないとでも思っていたのですか? アナタは娼婦と大して差が無いと思ってますよ?」
「親にここまで思われている娘というのも果てしないですね」
「マルティがそんな事をするはずない! ミレリアよ! 認識を改めるの――ふべ!」
クズが女王の扇で叩かれますぞ。
「オルトクレイ。いい加減、マルティへの幻想を捨てなさい。この子は何処までも救いようのない子なのですよ」
「ブヒィ!」
「心にも思っていないオルトクレイの心配をする振りをするのはやめなさい」
そして赤豚に返す手で叩きます。
「ブヒブブブブ!」
「私が知らないと思ったのですか、おこがましい。そもそも、盾の勇者様であるイワタニ様と本当に関係があったというのなら、まだ救いがあったでしょうに……ええ、ちゃんとイワタニ様を離さなかったら評価をしてあげましたよ」
「凄い事を言い始めたぞ」
「やめてくれ!」
お義父さんが怒鳴りました。
もはや関係の改善は不可能ですな。
「ブブブ!」
「本当に、酔ったイワタニ様が貴方に?」
赤豚が何度も頷きました。
ありえませんな。
女王はふかーく溜息を洩らしました。
「メルティ」
「はい」
「見てきた事を全て証言しなさい」
「はい。母上……母上が勇者様方と出かけて行った後、盾の勇者様はずっと眠っておりました。間違いありません」
「ブブブブブヒ!? ブブブ!」
赤豚が婚約者を罵倒するように何やら騒いでおりますぞ。
きっと自分を貶める為に婚約者が嘘を吐いているとでも言っているのでしょうな。
「貴方じゃないのですからメルティがそんな事をするはずないでしょう。私もちゃんと見ていましたよ。貴方が寝入ったイワタニ様の部屋に侵入し、金目の物と服、そしてくさりかたびらを盗み出して去り際に『フフフ……馬鹿な男、騙されちゃって……明日が楽しみだわ』と嘲笑う所を――」
「ブブブブブヒ!?」
赤豚が驚きの声を上げて遮りますぞ。
「何故、ですか……それは貴方の犯行を屋根裏から覗いていたからですよ。私も今日が楽しみでしたよ。貴方をこうして叱りつける時が来るのを待っていたのですからね」




