四度目
俺達はその足で既に閉店している武器屋の扉を叩きます。
まだ就寝はしていないのか薄らと明かりがもれていますぞ。
「なんだ? もう寝ようかと思っていたのに……ってアンタ等は昼間のアンちゃん達じゃないか。槍持ったアンタは初めての客だな。後は……」
女王がローブから顔を覗かせますぞ。
「アンタは!? いや、貴方は!?」
武器屋の親父さんが深々と頭を下げますぞ。
「な、なんで貴方がここに!?」
「少々お忍びで調査をしている所なのです。どうか頭を上げ、普段通りに接客をして下さい」
武器屋の親父の態度に錬と樹が納得したように頷きました。
「夜分遅くに申し訳ないですぞ」
「そ、それでこんな遅くに何の用……なんだ? 武器が欲しけりゃ明日にして欲しい……んですが」
おや、言葉使いが丁寧になっていますぞ。
女王の所為ですかな?
俺達はくさりかたびらが昼間お義父さんが購入したという話を聞きましたぞ。
しかし、赤豚の顔はうろ覚えで女王の方はしっかりと覚えているのですな。
「俺も自分の店の物が犯罪に使われたとあっちゃ良い気分にはならねぇな。ま、アンちゃん達が返してくれるんなら次に来た時、少しくらいならサービスしとくぜ」
次来た時は閉店していましたぞ。
これは伝えるべきですかな?
きっと違う未来になるのですから大丈夫でしょうな。
後は武器屋の親父さんに隕鉄シリーズを頼みこみましたぞ。
女王が居るからか素早く倉庫から持ってきてくれました。
「このような珍品すら取り揃えているとは……国の専属の鍛冶師に任命すべきでしょうかね」
「み、身に余る光栄……ですが、出来れば俺は一般の冒険者にも武具を売っていきてぇ所存です」
敬語と普段の喋りが混ざっていますぞ。
「じゃあ借りますね」
「ああ」
あー……後は素直に武器のコピー話はするなでしたな。
「では裏も取れたので失礼しますぞ」
「ま、また来る事を待ってるぜ」
こうして俺達は武器屋を後にしました。
もはや錬も樹もこれで信じてくれるでしょうな。
「確かに……あの武器屋にあんな隠し武器があるなんて未来から来ていないとわかりませんね」
「なんで隠していたんだ?」
「最初に話すと俺を含めておと――尚文が殺されかけて国にいられなくなりますからな」
「なるほどな。つまり一番上手く行ったルートを辿っているのか」
「じゃあなんで今回はループしたんですか?」
おお、聞かれましたな。
「何か失敗したか波で負けたんだろ」
「なるほど」
おや?
錬と樹が自己完結してしまいましたぞ。
「わかりませんな。ただ、俺自体にもこの世界にいられる時間があるようですな」
「そうなのか?」
「一定時間を超えると俺はループしてしまう様ですぞ」
「じゃあ全て無意味なんじゃないか? 無かった事になってしまうんだろ?」
錬が若干やる気の無い様な表情で言います。
「俺は諦めませんぞ」
「錬さん、それは早計という物ですよ。元康さんだけ何処かへ転移してしまうのかもしれませんよ。諦めない様にしましょう」
「むう……確かに、今のお前の努力は無意味だと言われたら信じたくないな」
それなら良いですな。
前回のお義父さん達はとても仲が良かったですぞ。
俺がいなくても仲良くしていてくれると良いですな。
「証拠はある程度揃いました。ですがオルトクレイの尻尾を掴むには……」
「今から尚文さんを起こして話すんですか?」
「いや、今起こしたら尚文的に俺達が犯人という事にならないか?」
「そうですな。今までのループ知識を頼るに、冤罪を掛けられた際に助けに入ると良いと思いますぞ」
「……そうですね。騙されたと気付いた尚文さんを僕達が庇えば、尚文さんも信用してくれる可能性が高いですよね」
「前回も俺達は騙された振りをして現場を押さえました。前回の女王からも聞いていますな」
こうして俺達は翌朝の事を打ち合わせしましたぞ。
クズ、そして赤豚。
お前等はもう包囲されているのですぞ。
「ちなみにループする時の関係で俺は後々、錬や樹……尚文に信じられないかもしれない話を色々しますぞ」
「わかった」
「ええ、これは状況的に見て信じた方が良さそうですし」
「前回の錬と樹はそれでも信じられない等色々と言いましたな。特に俺が……おと――尚文を本当はどう呼びたいか。その経緯に関して」
「な、何かあるんですか?」
樹が恐る恐る聞いてきますぞ。
「それは……錬と樹自身に明日、冤罪を晴らして解決させてからが良いと言われてますな」
ここで話したい衝動に駆られますが、お義父さんも一緒にいた方が良いと言うので我慢ですぞ。
その案に前回の錬も樹も頷いていましたからな。
「とにかく、俺達は国の陰謀を退ける事をするべきなんだな?」
「ですな。仮に無言で国を立ち去ろうものなら執拗に国に戻る様に三勇教が追ってくるそうですぞ」
「厄介な話ですね。信じられるか、ですが」
樹が苦虫を噛んだような表情を致しました。
「どちらにしろ、明日全てが判明する。その時に元康が教えてくれるなら、少しは話に乗ってみる価値はあるだろ」
「……ですね」
「それでは勇者の皆さま、明日に会いましょう」
女王が一礼をしましたぞ。
その後、女王は婚約者の元へと戻り、一晩中屋根裏で待機するとの話でした。
証拠をちゃんと確保したいと言う事らしいですぞ。
「それでは明日」
「ああ」
俺達は前回と同じく解散しました。
後は前回とほぼ同じですぞ。
朝方に赤豚が俺の所へノコノコとやってきてありもしない冤罪話をし、俺が騙された振りをして城へ行きクズに話をするのですな。
錬や樹の対応も前回とほぼ差がありません。
女王も後々顔を出す予定ですぞ。
今は玉座の間でお義父さんが連行されるのを待っているのですぞ。
錬と樹、俺とで視線で頷き合いますぞ。
赤豚とクズの嘘にウンザリしてきますな。
事情を知っていると茶番にしか見えなくなってくるので不思議ですな。
やがてお義父さんがインナー姿で連行されて来るのを見て、錬と樹は確信したようですな。
これは陰謀であり、クズと赤豚の方が悪であると。
もちろん、ここまでとんとん拍子に事が起こると、俺が裏で糸を引いているのではないかと言う疑いは出てくる。
と、前回の錬や樹は注意していましたがな。
その辺りのケアをちゃんとするのは忘れませんぞ。
「マイン!」
ああ、おいたわしい。
何度も見るたびに心が疼きます。
くさりかたびらは前回、お義父さんに返却する事が叶いました。
今回も同様に返して見せますぞ。
お義父さん……最初の世界の様に荒れる事無く、みんなに優しく……信じてくれた俺や錬、樹に対して精一杯恩を返そうと手料理を振舞ってくれたお義父さんが思い出されますぞ。
もう、あのお義父さんには会えませんが今度のお義父さんも俺が救って見せます。
お義父さんは人に恩を感じればその分優しくなり、辛く当られれば厳しくなれる方なのでしょう。
ですが厳しさは相手への裏返し、見知らぬ相手ならば疑って掛りはしますが、相手が悪さをしなければ善意で返してくださる方です。
だからこそ、お義父さんは四聖教会の予言で称賛される様な方なのでしょう。
「な、なんだよ。その態度」
お義父さんがその場にいる者達に見つめられて言葉を失っております。
おそらく、詰問されている様な気がしているのでしょうな。
俺や錬、樹は同情の目ですぞ。
知らずに冤罪の罪を被せられそうになっているお義父さん。
今回は……赤豚から失われたお義父さんの服まで返して貰いますぞ!
「本当に身に覚えが無いのですかな?」
絶対に無いですな。
赤豚とクズを泳がせて尻尾を出させる為の演技ですぞ。
前回と同じように、その場の乗りに合わせて近寄る事が出来ると錬と樹には説明しております。
俺の言った通りになって錬と樹は若干引き気味に見えますな。
ですが前回やった出来事なのですぞ。
「身に覚えってなんだよ……って、あー!」
お義父さんの気づくタイミングがまったく変わらないですな。
このくさりかたびらはお義父さんの物ですが、俺は赤豚から奪われたお義父さんの服を返してあげたいですぞ。
前回は忘れていましたが、今回こそ、俺はお義父さんに失われる物など無いと教えたい。
「お前が枕荒らしだったのか!」
「誰が枕荒らしだ! ですぞ。こんな外道な奴等だったとは思いもしませんでしたぞ!」
「複数形? 外道? 何のことだ?」
おっと、口がまた滑りましたぞ。
前回のお義父さんに注意されていた事でした。反省ですぞ。
ですがここまでくればチェックメイトですな。
「して、盾の勇者の罪状は?」
「罪状? 何のことだ?」
「ブヒ……ブヒブヒブヒ!」
「は?」
「ブブブブブブブヒブヒブヒー!」
赤豚が泣き喚いて俺に近寄ってきます。
うげ、反吐がでますぞ。
その汚れ切った汚物が息をして近寄るのではないですぞ。
「ブヒヒヒヒヒブヒヒ!」
「え?」
お義父さんが唖然とした様な表情に代わります。
「何言ってんだ? 昨日、飯を食い終わった後は部屋で寝てただけだぞ」
ええ、そうでしょうな。挙句一晩中、屋根裏で婚約者が見張りをしていたのですぞ。
もはやお義父さんの無実は確実ですな。
婚約者が嘘を言うとは思えませんぞ。
さて、俺も演技をしなくてはなりませんな。
「嘘を吐きやがって、じゃあなんでこんなに泣いてるのですかな?」
「何故お前がマインを庇ってるんだ? というかそのくさりかたびらは何処で手に入れた」
これはお義父さんの物ですぞ。
赤豚から取り返したのです。すぐに返しますぞ。
と言いたくなって表情が若干緩んでしまいました。
「……?」
俺の表情を読んでお義父さんが若干首を傾げます。
お義父さん、貴方は俺のワガママに対して何時も付き合ってくれます。
フィーロたんに出会いたいと願う俺の我がままに錬と樹にまでお願いしてフィーロたんを探してくれました。
今までで最大数のフィロリアル様の育成の恩を俺は忘れませんぞ。
それでもフィーロたんは見つかりませんでしたが、お義父さん、貴方ががんばって調べてくれた事を俺は忘れませんぞ。
今回の周回は前回よりもより多くのフィロリアル様を味方にしてフィーロたんの捜索をしますぞ。
お義父さん、お願いしますぞ。
その為の……これは通過儀礼。
お義父さんの嘆きを俺は全て取りはらって見せますぞ!
「ああ、昨日、一人で飲んでいる酒場に来て、しばらく飲み交わしていると、俺にプレゼントってこのくさりかたびらをくれたのですぞ」
「は?」
もう少しで打ち合わせ通りの時間ですな。
「そうだ! 王様! 俺、枕荒らし、寝込みに全財産と盾以外の装備品を全部盗まれてしまいました! どうか犯人を捕まえてください」
「黙れ外道!」
クズが怒鳴りますぞ。
ふ……後少しでお前は終わりですぞ。
お義父さんを罠に掛けたつもりで、お前は妻に罠に掛けられるのですな。
未来から来るお前の妻の罠を受けるが良いですぞ。
「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行、勇者でなければ即刻処刑物だ!」
「だから誤解だって言ってるじゃないですか! 俺はやってない!」
前回、ここで俺はお義父さんにのみ意識を集中していましたが錬と樹の方に視線を向けてみましょう。
おお……錬も樹も意外と役者ですな。
凄い含み笑いを浮かべたゲス顔ですぞ。
なんて言うかわかっていて演技をしているのですな。
表情が普段の錬や樹では見せない顔をしていますぞ。
俺と錬と樹の輪がお義父さんの目の前に、お義父さんを足蹴にさせるように兵士がお義父さんの頭を強引に下げます。
「お前! まさか支度金と装備が目当てで有らぬ罪を擦り付けたんだな!」
ああ、最初の世界のお義父さんが懐かしく思える声の響きですぞ。
偉大な最初の世界のお義父さん。見て下さっていますか、俺はお義父さんを何度だって助けて見せますぞ。
「ふざけんじゃねえ! どうせ最初から俺の金が目当てだったんだろ。仲間の装備を行き渡らせる為に打ち合わせしたんだ!」
俺はふっとお義父さんへ向ける表情を優しげな顔にして見せます。
「何百面相してるんだ!」
おや、お義父さんに誤解されてしまいました。
「ブブブー」
赤豚が何やら野次を飛ばしましたぞ。
ウザいですな。
視線に殺意を向けてやりますぞ。
「……?」
お義父さんもそこで首を傾げていますな。
「異世界に来て、仲間がそんな事をするなんてクズだな」
「そうですね。僕も同情の余地は無いと思います。半信半疑でしたが、間違いないですね」
「その通りですな。お義父さん――今、助けますぞ!」
俺はくさりかたびらを片手で脱ぎ、お義父さんを拘束している兵士を槍で薙ぎ払います。
突き殺したくなる笑みを浮かべていましたな。
殺してやりますかな?
前回のお義父さん達が揃ってやめろと言っている気がしますぞ。
「うわぁああああ!」
自由になったお義父さんに俺は手を差し出して立ち上がらせます。
「もう大丈夫ですぞ。さ、これは返しますぞ」
そしてお義父さんにくさりかたびらを手渡ししますぞ。
「え……? え?」
「モトヤス殿!?」
クズは想像していた未来とは異なる結果になって驚きの表情を浮かべていますな。
いずれお前も分かる時が来ますぞ。
赤豚に良い様に利用されて死して尚、大事な国が滅んで行く様を見せつけられたのですからな。
ま、今回は殺さない様にと言われていますがな。
どう転がって行くのか見物ですぞ。
「これは陰謀ですぞ。おと――尚文はやっていません。俺は信じていますぞ」
「ええ、尚文さんは無実です。僕達を騙そうとしたってそうはいきませんよ」
「仲違いさせて自分達の思い通りに俺達を利用しようとしているみたいだが、お前等の思い通りになるつもりはない」
錬、樹がそれぞれ武器をクズと赤豚、国の兵士達に向けますぞ。
「鬼の居ぬ間にやりたい放題なのでしょうが、今のこの国を見て女王がなんと言いますかな?」
「く……貴様!」
さーて、後少しでその鬼が殺気を放ちながらやってきますぞー。
完全に勝利は我にありですな。
後は女王が来るまで時間を稼げば良いだけですな。
錬も樹もお前を信じず、しかも女王がやってくる。
完全にお前等は罠に掛った獲物なのですぞ。
罠に掛けたつもりで掛けられたとは……実に滑稽ですな。
「ここでお義父さんを庇うのはこれで……四度目ですぞ。これは俺の信念。例え注意されていたとしても変える事は絶対にしません」
そう、俺の決意、俺の願い、そしてフィーロたんへの忠誠心。
これ等全てが込められているのですぞ。
「未来からあなたに恩を返しに来ました。お義父さん」
……。
何故か空気が若干凍りましたな。
「なんで尚文さんをお義父さんと?」
「だな。説明してくれるんだよな?」
「後でしますぞ」
「え? え? え?」
お義父さんが唖然とした表情で俺達を見つめますぞ。
「驚くのも無理はありませんね。僕も元康さんに証拠を見せられるまで信じていませんでしたからね」
「ああ、危うく道化にさせられそうになっていたんだからな」
「ところで……ちゃんと来るんですよね? タイミング的に、どこに隠れているのでしょう?」
「わかりませんな。ですがきっとすぐですぞ」
錬と樹は仲間と出来る限り距離を取っていますぞ。
何せ裏切るとわかっていますからな。




