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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 槍の勇者のやり直し
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未来の知識

「え? え?」


 樹がお辞儀をする女王を見て驚きの表情を浮かべています。

 逆に錬は驚きを隠す様に腕を組んで成り行きを見守る姿勢を取っております。


「此度は四聖勇者様達を勝手に召喚し、お手を煩わせてしまい、申し訳なく思います」

「ど、どう言う事なんですか? 王様が城にいて、当たり前の様に僕達に自己紹介して世界を救ってくれと頼んで来たじゃないですか」

「にも関わらず実は国の長ではなく、女王がいる? どういう事なんだ?」


 ここでは言葉使いを注意しないと信じてもらえないとみんなが注意していましたぞ。

 だから細心の注意を払って説明して行きますかな。


「我が国は女王制であり、オルトクレイは私が外交で留守をしている時にいる代理の王なのです。本来は有能な部下が国の維持をしているのですが……波で亡くなってしまったとの伝達が数日前に私の元に届いた次第です」

「外交?」

「樹、日本でもあるだろ。首相が他国へ会議に出ると言う奴だ。それだろ」

「なるほど、その間に代理をしてくださる方が王様のフリをしていたと」


 樹の問いに女王が頷きますぞ。

 おお、俺が説明するよりスムーズですな。

 若干悔しい様な気もしますが、女王に任せましょう。


「どっちの言い分が本当かは半信半疑だがな。そんな女王が何故ここにいるんだ?」

「私は本来、遠方の地で波に関する会議、勇者召喚の立ち会いをしていたのですが、槍の勇者であるキタムラ様の転移の力でメルロマルクに帰還し、事の成り行きを見て欲しいと頼まれたのです」

「ふむ……確かに元康は転移スキルを使って俺を城下町に案内した。筋は通っているな」

「この方が女王だというのはわかりました。本当かどうかは保留しましょう。では次の質問です。何故、元康さんは起こる事件が分かるのですか?」

「私もその件に関してお尋ねしたいと思っていました。キタムラ様は異なる世界から来たからとても強いとの話、それに理由があるのでしょう?」


 錬と樹、そして女王が俺をまっすぐ見つめておりますぞ。

 前回は説明に若干失敗しましたが、今回は錬と樹の監修の元、台詞は覚えていますぞ。


「信じられないかもしれませんが、俺はこの世界の未来から来たのですぞ。だから何が起こるのか知っているのです」


 その返答に、錬は再度深く考え込み、樹は少し首を傾げます。

 前と同じ反応ですな。

 女王も錬と同様に考え込んでいます。


「もちろん、未来から召喚される前は異世界の日本から召喚されたのですぞ」

「少々信じがたいですが……」


 錬の話では次の部分は変えなくても良いそうですぞ。

 樹もこれを言われたのが信用する理由だったとか言っていた気がします。


「何なら俺の知る未来の知識をお教えしますぞ。例えば樹の世界は異能力があるとかですかな」

「何をそんな当たり前の事を……」

「はぁ!?」


 錬が呆気に取られた表情を浮かべますぞ。

 前回もこれで確信を得たと言っておりました。


「樹、確認を取る。その異能力というのは事実か?」

「え、ええ……」

「その話をこの世界に来てから誰かに話したか?」

「いえ、話していませんね。というか、そんな当たり前の事を話したりしませんよ」

「……」

「その反応……まさか錬さんの世界に異能力は存在しないんですか?」

「ああ、存在しない。異能力なんてあったとしても創作物での話だ」

「そ、そうですか……」

「まあ、絶対音感の様な物を異能力と呼ぶのならあるとも言えるが、そういうのとは違うだろう?」

「はい、異能力は先天性が大半ですから、後天性の絶対音感は違います」


 これは補足すべきですかな?

 知っている知識を語れば信用度は増すかもしれません。


「ちなみに樹は楽器の演奏がとても上手なのですぞ。能力関係無しの才能ですな」

「そうなのか?」

「前回のループではおと……尚文や錬が絶賛する位には上手でしたな」

「自覚はありませんが……それに異能力のある世界では評価されない項目です」


 必ずその態度ですな。

 かなりウンザリする態度ですぞ。

 若干錬がイラっとしているのが理解できますな。


「樹、元康が言っている事はきっと真実だ。俺のいた日本に異能力なんて存在しない。そしてその事実を知っているのは……樹だけのはずだし、樹と元康が同じ世界の出身なら樹の反応が正しくて疑問を持たない」

「確かに……」

「更に元康はポータルスキルや魔法を習得している。未来から来たという話が事実なら持っていてもおかしくはない。そして元康は俺や樹の居場所を知っていた。確かに突飛な話だが、辻褄は合う。で、あの女だ」

「我が娘ながら誠に申し訳なく思います……」


 女王が謝罪しますぞ。

 上手く信じてくれたようですな。

 前回も分析では転移直後ならば信じてくれるとの話でした。


「まだまだ話は出来ますぞ。これでも信じられないのですかな?」

「では、尚文さんの仲間……姫でしたっけ? あの方はどうしてあんな真似をしたんですか?」

「あの子は人が苦しむ所を見て楽しむ外道です。そこに理由があるかというと怪しいですね。息をする様に迷惑を掛けます」


 女王がきっぱりと言いましたぞ。

 錬と樹が絶句していますぞ。

 ちょっと女王が俺の説明の邪魔をしていますぞ。


「とりあえずあの姫は先兵だと思って良いですぞ。まだまだ黒幕が暗躍していますからな」


 俺は一度女王の出した結論を遮りますぞ。


「奴等の目的は勇者同士の不和を招くことですぞ。この国は盾の勇者が宗教的に敵の国……なのが理由であり、おと――尚文を犯罪者に仕立て上げて、最終的に俺達に倒させる目論見があるのですぞ」

「宗教的に敵!? じゃあ僕達に尚文さんを殺させようとしているんですか?」

「なるほど。俺達が……というより剣、槍、弓の勇者がこの国にとって宗教的な神で、悪魔である尚文を犯罪者に仕立て上げて殺す事で自分達の欲求を満たそうとしているのか」

「嘘だと思うのなら広場の方から見える教会のシンボルを見るのですぞ。あそこには剣、槍、弓の三つしか無いですからな」


 ある意味、証拠をぶら提げている様なものですな。

 錬も樹も今日の内に一度位は目にしたはずですぞ。


「確かに、我が国の国教は三勇教と言う、ここにいる勇者様方を信仰する宗教です。その点で言えばシルトヴェルトが筆頭となる盾の勇者を信仰する宗教とは敵対関係にありますね。ですが……温和な宗教だったはずなのですが……」

「先ほどの出来事で信じられませんかな?」


 女王の態度が半信半疑と言った様子ですぞ。

 ああ、裏で暗躍しているので、まだ正体を見せていないのですな。

 ですが女王は何度か納得するように頷きました。


「確かに、少々過激である部分も無いわけではありませんね。四聖勇者召喚に必要な機材のすり替えをしているのなら……弁護のしようがないでしょう」

「他に勇者の武器のコピーと言われる武器を隠し持っていますぞ」


 教皇が必ず持ち出す武器ですな。

 今の俺からすれば雑魚その物ですが、危険な代物なのは変わりませんぞ。


「何処に隠し持っているかわかりませんが、調べれば埃が腐るほど出ますぞ。挙句、亜人との友好を築く事に力を注ぐ貴族を左遷したり幽閉したり監禁したりしていますぞ」


 エクレアが代表例ですな。

 お義父さん達や本人から助ける様に頼まれています。


「……わかりました。事が片付いたら調査いたしましょう」

「異世界、勇者に続いて陰謀、未来人と来たか。雲行きが怪しくなってきたな……」


 確信を得るように錬は静かに頷きました。


「ですが、まだ信じられるかわかりませんが、真の国王である女王様が確認したと言う事は早く片付くのではないですか?」

「そうだな。俺達の出番は無いかもしれない」

「僕達に尚文さんを殺させようとしている……まるでネットで読んだことのある小説の様な展開になるかと思ったのですけどね」


 前も言っていましたな。

 ですが、少々結末が違いそうで残念そうですぞ。


「小説? なんだそれは?」

「異世界に召喚されたけれど、気に食わないからと国や召喚者に捨てられて成り上がるという話があるのですよ」

「ほう……」

「他にゲームのシナリオなんかにありそうなシチュエーションですね」

「そういえば、俺も知り合いからベータテストでそんなストーリーのゲームがあると聞いたことがあるな」

「前にもここで言いましたな。ゲームでも何でもないのですぞ」

「尚文さんがそんな目に遭いそうな瀬戸際だと言う事ですか。ちなみに真実を知らない未来での僕達はこの後何をするんですか?」

「それは前回ですかな? それとも初めてですかな?」


 この辺りから錬と樹に入念に注意されていますぞ。


「前回……ループしているという事ですね」

「ですぞ」

「つまり似た問答をしているんだな?」


 錬と樹が俺に確認を取りました。


「ではそうですね……最初の世界から順を追って説明して欲しいです」

「じゃあ話しますぞ。最初の世界……何も知らない俺はあの女……いえ、髪の色から赤豚と呼びますぞ。奴に騙されて、おと――尚文を強姦魔として糾弾してしまったのですぞ」

「確かに情報だけで嘘泣きでもされようものなら、尚文を蔑んで見るだろうな」

「強姦ですか……そういえば僕の仲間になった女性が露骨に誘惑をしてきましたね。少々浮かれていました。しかし豚ですか……」


 樹が女王に目を向けますぞ。

 むむ、そういえば女王は赤豚の親でしたな。

 言葉は選ぶべきでしたかな?


「元康、アイツの母親がいるのに豚は無いだろ」

「いえ、豚と呼んでも良いですよ。あの愚かな娘にはそのくらいがちょうどいいでしょう」


 女王の殺気が冷気となって辺りに漂い始めましたぞ。

 おお! 女王公認ですな!

 ここで俺がお義父さんと呼ぶ経緯を飛ばしてしまったのが余計な事だそうですぞ。


「俺達は各々冒険とLv上げをしながら国の依頼を解決して行きます。ですが、尚文にはそんな援助はまったくありません」

「……だろうな」

「まあ冤罪とはいえ、強姦魔という事になっている訳ですからね」

「勝手に召喚しておいて身勝手な連中だ」

「許せませんね」


 フィロリアル様の事を説明したいですが、ここでは余計だからと注意されました。

 なので簡略した、尚且つ錬と樹を説得できる内容で語ります。

 前回の周回では数日に一回は注意されていたので、スラスラ出てきますぞ。


「まず、俺達が各地で好き勝手した所為で、国にいる魔物の生態系に変化が起こって問題があったそうですぞ」

「リポップするんじゃないのか?」

「魔物も生物ですからな。殺せば減りますぞ」

「……そ、そうだよな。それで?」

「他にギルドの仕事を中途半端に達成した所為で更なる災厄をばらまいてしまったようですな。俺の場合、ゲームの知識を元に封印されていた植物の種の封印を解いて飢饉で困っていた村を救ったのですが、その植物が暴走してとんだ災害になったそうですぞ。もちろん、錬や樹も同じような失敗をしますな」

「ふむ……具体的な内容はわからないが、そうなるのか」

「僕もですか……ゲーム知識で行動すると失敗するという事ですね」

「信じたくない話だな。だが、一考の余地はある」

「そんな中で俺達の身勝手をやがてこの国の宗教、三勇教は疎ましく思い、同時にその尻拭いを尚文達はやって国民の信頼を勝ち取るのですぞ」

「好き勝手やっている俺達と冤罪を受けてどん底からがんばった尚文とでは大きな違いが出る訳か」

「僕達が悪人扱いの嫌な未来ですね……」


 最初の世界は総じて失敗ばかりですな。

 お義父さんががんばったお陰で今の俺があるのですぞ。

 ああ、フィーロたん……。

 まあ、その後は三勇教の陰謀による道化と終焉の説明をしました。


「そんな役割は嫌だと思いませんか? ですぞ」

「ああ」

「正直、この国からさっさと脱出したい所ですね」

「……申し訳ありません。出来れば他の国へ行く事を勧めます」

「あー……はい」


 女王がここにいる事を忘れていたのか樹が申し訳なさそうに頭を下げます。


「それで元康さん、前回というのはどうなんですか?」

「前回は今回と同じく説明をしましたが、女王が何処にいるのか知らず、ここにいなかったのですぞ」

「はぁ……」

「なるほど、女王がここにいると言う事はとても心強いんだな?」


 ですな。

 論より証拠、女王が目撃する事で言い逃れ出来ない様にしているのですぞ。


「で? 元康、お前はなんで未来から来たんだ? ループしているという事は何かしらの条件とかがあるんだろ?」

「そうですな。俺の敗北条件は複数ありますが、その中に錬、樹、尚文が死ぬことで俺は召喚された日に巻き戻ってしまうというモノがあります。時に樹が仲間に殺されるという結末もありましたな」

「僕がですか!?」


 毎度驚く事ばかりですな。

 そういえば前回のループ条件を話す必要がありますかな?

 無い様な気がしますな。

 俺の目的はフィーロたんに出会う事ですからな。


「あの方々に?」

「樹の仲間を俺はよく知りませんが、錬の仲間になっている鎧を着た男が樹の仲間になって、最終的に手を上げるのですぞ」

「そう、か」

「本当なんですか? 正直、まだ信じきれないのですが……いえ、どちらかと言えば、信じたくない未来と例えた方が良いんでしょうか……」


 論より証拠その2ですな。


「このまま樹が信じてくれて、明日、赤豚が冤罪を尚文に被せたのを暴露すると王が宣言して俺達を殺そうとしてきますぞ。前回はそれで一悶着ありましたからな」

「な、なんですって!?」

「試してみるのが良いが……ここに女王がいるなら起こらない出来事なんじゃないか?」


 錬がそう言うと女王が扇を閉じて言いますぞ。


「いえ、その方向で行きましょう。我が夫、オルトクレイの尻尾を抑えたいので、その状況になった時に私が現場を押さえましょう。発言権は私の方が上ですから取り押さえられるはずです」

「出来なければ俺が返り討ちにしてやりますぞ」

「……わかりました」

「本当にそんな事が起こるんですかね」

「試してみれば良いだろ。それが当たれば元康の話は本物だ」


 錬の言葉に樹はしばし沈黙した後、頷きました。

 必ず起こりますぞ。


「……しょうがないですね」

「ではこのくさりかたびらが盗品である証拠を聞きに行くのはどうですかな? 未来では証拠を改竄されてしまうのですが、今なら大丈夫ですな」

「ええ、是非とも証拠が欲しい所ですね。是非とも聞きたい所です」


 女王が含みのある言い回しで確認を取ろうとしますぞ。


「どうも元康さんを信じさせるために国が主導で行っている茶番……でないと言いきれなくないと思えてきました」

「気持ちはわかるが無理があるだろ。態々異世界まで召喚して演技とか……どれだけの手間が掛かると思っていたんだ」

「そうですよね……女王様も信じられるかどうか怪しいです」


 ここまで状況が揃っていると怪しみますかな?

 まあ今はそれでも良いですぞ。

 とりあえず錬と樹の思考を別の物に向けさせましょう。


「前回、ここで証拠を確認した報酬で錬と樹は隕鉄の武器を入手出来ましたな。優秀なスキルである流星シリーズがでますぞ」

「何!?」

「た、試してみるのは悪くないですね」


 相変わらず錬と樹は現金ですな。


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