赤豚の関係者
「元康……」
「まあ、守りの勇者が仲間無しじゃ厳しいだろうな」
「どう責任を取るのでしょう? 定員とかで再分配ですかね?」
お? 錬と樹も若干不審がってますな。
で、クズは知らなかったとばかりに不快そうな顔をしながら大臣と耳打ちをしますぞ。
きっとお義父さんの知識が無いとか、ある事無い事言うつもりですな。
まあ昨日、前回と同じく錬と樹には盾は防御という面で最強、と語りましたが。
それ等を含めて、お義父さんに説明した内容を盗み聞きされていたのでしょう。
……わかって話していましたがな。
「ふむ、そんな噂が広まっておるのか……」
「何かあったのですかな?」
もはや茶番ですな。
何が世界の理に疎いですぞ。
その程度なら勇者同士で話し合う機会を設ければ良いだけですぞ。
連携を考えて知識の共有を……とか女王なら言うのではないですかな?
「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾の勇者はこの世界の理に疎いという噂が城内で囁かれているのだそうだ」
「はぁ!?」
「伝承で、勇者とはこの世界の理を理解していると記されている。その条件を満たしていないのではないかとな」
そこで樹がお義父さんの肩を叩いて呟きます。
変わりませんな。
「昨日の会話をきっと聞かれていたのですよ」
お義父さんが頼り無い?
前回のループを見れば、勇者を仲間として上手く運用してくださる方ですぞ。
そもそも勇者同士で戦う事の利点だって十分にあるはずなのに意味も無くバラバラに動いてどうするのですかな?
連携をさせる意図がまったくありませんぞ。
波は勇者に任せれば安心など舐めた考えでいるから被害が増大するのですぞ。
世の中を舐め過ぎですぞ。
お義父さんが錬に向けて怒鳴り、一人旅立たねばならない事に対して不満を述べます。
ここは全く変化はありませんぞ。
俺が豚共を進呈してやりたいですが、下手な行動は失敗を誘発しますぞ。
「元康、どう思うよ! これって酷くないか」
ああ……お義父さんの仲間意識と羨望の混ざったこの時にしか聞けないレアな口調に酔いそうですぞ。
「何トリップしているんですか!」
「興奮が冷めきって無いんじゃないか?」
「女を囲って何嬉しそうにしてんだ。顔が良いからって! この野郎!」
お義父さんが俺を羨ましそうに罵倒しております。
女? コイツ等は豚です。
まったく嬉しくありませんがお義父さんの罵倒が心に響いてきますぞ。
世界を平和に導く厳しい戦いに身なりが良いと思いこんでいる豚を沢山連れて何をするというのですかな?
こんな娼婦のような豚等戦いの邪魔でしかありませんぞ。
この生きているだけで大気を汚し、世界を蝕むゴミを優遇して何になるのですかな?
揃ってフォーブレイの豚王に渡してやりますかな?
勇者権限で与えればきっと抵抗も出来ませんぞ。
「均等に3人ずつ分けたほうが良いんでしょうけど……無理矢理では士気に関わりそうですね」
「だからって、俺は一人で旅立てってか!?」
大丈夫ですぞ。俺は覚えております。
お義父さんは一人じゃありません。
何より俺がついていますし、今回はお姉さんも一緒になりますぞ。
絶対に失敗などさせません。
仮に失敗してもフィロリアル様がお義父さんに付いています。
「ブー!」
む! 俺の思い出を汚す様に赤豚が前に出てきましたぞ。
出ましたな、メルロマルクを壊滅の危機にまで陥れたこの世の害悪、赤豚!
今回はお前を楽に殺したりはしませんぞ。
安易に殺したらメルロマルクが大災害になるようですからな。
ですが絶対に息の根を止めてやりますぞ。
お前はフレオンちゃんの仇なのですからな。
「お? 良いのか?」
「ブー」
お義父さんが若干照れております。
信じてはいけませんぞ!
今すぐ助けたくなる衝動にかられるのは今までと同じですな。
俺は絶対にお義父さんを助けますぞ。
しかし……赤豚のこの時の態度とお姉さんのお姉さんがお義父さんをリードする姿が若干被りますぞ。
ああ、お義父さんは守ってくれる人に弱いみたいな事を前回、お姉さんのお姉さんに告白していましたな。
きっと赤豚の態度に心を動かされているのでしょう。
という事はこの時にそいつを信じてはいけないと弾劾しようものならお義父さんは信じてくれなくなるでしょうな。
いや、赤豚の事ですから俺を警戒して変な動きをしかねません。
十分に注意すべきでしょう。
「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか?」
赤豚、お前の企みと身勝手な行動は今日までですぞ。
ふふふふふ。
「しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ、月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」
「は、はい!」
この世界の悪意を知らないお義父さんが頷きました。
金など後で腐るほど調達しますぞ。
こんな小遣い程度の金で心を躍らせる必要はまったくありません。
というか、やはりフォーブレイと比べると金額がしょぼいですな。
「ナオフミ殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い」
「「「「は!」」」」
「「「ブー!」」」
豚は絶対に殺すと決意を込めて敬礼してやりますぞ。
さて、今日は色々とやらねばならない事が山積みですぞ。
まあ、錬も樹も何処で泊るかに関しては変化が無いのがわかりましたから、別の……前回のループで頼まれた行動を重視して行きましょう。
もちろん、その為にはユキちゃん達を購入するのは後回しですな。
ああ、本当はここで空いた時間を使って今すぐ買いに行きたいのですが、頼まれたのですからしょうがないですぞ。
何分、色々と面倒な状況ですからな。
覚えている範囲で行動しなくてはいけませんし、信じてもらう為には必要な手順なのですぞ。
「「「ブブー!」」」
毎度思いますが豚共が何か言ってますぞ。
まったくわかりませんな。
前回と同じく錬の真似をしますぞ。
少し残念感を出した方が錬っぽいですかな?
ま、そんな気遣いを豚にする必要は無いでしょうな。
さーて、錬と樹は……前回と全く変わらない行動をしていますぞ。
錬はスタートダッシュが何よりも好きですな。
ま、俺はと言うと毎度おなじみ人ごみにまぎれて曲がり角でポータルを使いますぞ!
それから俺はとある場所に飛んで……少々信用してもらうのに時間を掛けてしまいました。
戻って来た頃には日が傾いて夕方になっていました。
「では後ほど……そうですな。あの酒場の前で待って居て欲しいですぞ」
コクリとローブを羽織った方々が頷きましたな。
俺はその足でクールタイムが終了するまでの間に宿を取りました。
こうしないと赤豚が俺の所在を掴めませんからな。
やがて血相を変えた豚共が何処からともなく集まってきました。
「何処へ行っていたのですかな? 王に注意しますぞ?」
「「「ブブブー!」」」
何やら言っておりますが、まったくわかりませんな。
ま、お前等の立場も明日までですがな。
ともあれ、準備は出来てきました。
俺が取った宿の情報はすぐに赤豚に届くはずですぞ。
なので備え付けの酒場に赤豚はきっと来るでしょう。
さて、とりあえず錬の確保を優先すべきですな。
樹も割と直ぐに酒場に来るでしょう。
……とはいえ帰りのポータルのクールタイムもありますから豚共を撒いてから走って迎えに行きますかな。
「錬ですぞー」
「ん? 元康?」
やはり錬は相変わらず植物型の魔物と戦っていましたな。
お約束通りで楽が出来ますぞ。
前回は必死に探しましたが居ると分かれば直ぐに見つけられました。
後は前回と同じ言葉や行動を選んでいけば問題無いはずですぞ。
というのも、お義父さん達に前回と同じ様に行動するのが良いと言われています。
錬や樹も賛同していたので、これが一番でしょうな。
「どうしたんだ? こんな所まで来て」
「その理由を説明するには色々と手順を踏む必要があるのですぞ」
「何を言っているんだ?」
「まずは」
俺は錬にパーティーの勧誘を飛ばしますぞ。
「いきなりどうしたんだ? 勇者同士は一緒に戦うと反発するんだろ?」
「狩りをするつもりはないですぞ。それよりも錬には一緒に来てほしいのですぞ」
「何故だ?」
「知っていた方が……良い情報なのですぞ」
前回と同じ問答ですな。
こうすれば信じてくれると分かっているからこそ出来る事ですぞ。
ま、通過儀礼と言う奴ですな。
「悪いがもう少し狩りをしていたい所なんだが?」
おや? 前回と反応が異なりますぞ。
ああ、そういえば前回とはタイミングが微妙にずれていますからな。
少し早かったのかもしれません。
「まあ、後30分程度狩りをする程度だったから良いか……」
若干恩着せがましい気がしましたが、錬は勧誘を了承しました。
掛りましたな!
「では行きますぞ。ポータルスピア!」
「は?」
一瞬にして登録していたメルロマルクの樹が泊っていた宿の前に飛びました。
今の所支障なく前回と同じ展開ですな。
「転移スキル? 習得するのはまだまだ先のはずなのに何故使えるんだ?」
「必ず後で話しますが、今はまだ話す時ではないのですぞ。少しここで待っていて欲しいのです」
「まあ、それ位なら……」
これで錬の興味を引けたでしょうな。
さて……酒場の方を確認すると……まだ樹が来たばかりなのか楽しげに雑談をしている様ですな。
「少し早く来すぎましたかな?」
あの時は樹が俺に気づいてやってきたのですが、気づく気配がありません。
「樹じゃないか。樹にも用があるのか?」
錬が不審そうに酒場内を見渡しますぞ。
「そうなのですが、ちょっと早すぎた様ですな?」
「???」
錬は首を何度も傾げています。
とりあえず錬を連れて少し時間をつぶしますぞ。
錬は俺に何度もポータルはどうやって手に入るんだと聞いてきますぞ。
知らない事に対する欲求が強いのは良いですが落ちつけですぞ。
で、30分くらいし樹達が雑談をした頃、俺に樹が気付きました。
手招きするとやってきますぞ。
「おや? 元康さん、それに錬さんまで。どうしたんですか?」
「いや、俺も元康にここに連れて来られて驚いているんだ」
「はぁ……」
樹が俺の方を見ますぞ。
「ちょっと勇者だけで話があるので付いて来て欲しいですぞ」
「何を話すのですか?」
「そうだ。ここで話が出来ない事なのか? いい加減説明しろ。樹を呼ぶのに30分くらい待たされたんだぞ」
「論より証拠と言います。錬も樹も見た方が早いと思い、呼んだのですぞ」
「はぁ?」
「何をしたいのか知らないが、転移スキルをどうやって習得したかを説明してくれるなら良いだろう」
「転移スキル?」
この辺りは前回と同じですな。
転移スキルについて説明していますぞ。
「付いて来たら教えますぞ」
「わかった」
「そうですね。悪い話じゃなさそうですし」
樹は仲間達に少しだけ勇者同士で親睦を深めてくると告げて酒場から出ました。
「後は……」
酒場の前で座っていたローブを羽織った二人組を俺は手招きしました。
「この方々も一緒に行きますぞ」
「勇者だけじゃないのですか?」
「まあまあ、黙って付いて来て欲しいのですぞ。俺も最初は驚きましたからな」
「な、なんだ?」
「不正な事じゃないですよね?」
樹の疑いに俺は真っすぐな目で応じますぞ。
この頃の樹は正義オタクですからな。
「むしろ不正な事を正す事が出来るのですぞ」
「は?」
「罠じゃないよな? 俺達を何処かに連れて行って殺すとか」
「ありませんぞ。異なるとは言え同じ日本出身の日本人ではないですかな?」
海外で、同じ日本人と知れば若干警戒が解ける心理を利用して俺は錬と樹を案内します。
さて、俺は前回をなぞるように裏路地で魔法を唱えてから隠れるように進んで行きました。
その最中、錬と樹は前回と同じように裏路地の談義をしていましたぞ。
それから俺はお義父さんが休んでいる宿の近くに辿り着きました。
「錬、樹、少し失礼しますぞ」
「え? うわ」
「な――」
前回と同じように錬と樹を掴んで俺は思い切り飛び上がり、建物の屋根に飛び乗ります。
怪我をしない様に錬と樹を降ろしました。
お? ローブを羽織った二人は魔法を使って昇って来てくれましたぞ。
「なんだ!?」
「しー……ですぞ。じゃないと見張りに気付かれますぞ」
「気付かれるって、何を警戒しているんだ? この先に何があるんだ?」
「おと――尚文が泊っている宿ですぞ」
「は? 尚文も呼ぶのか?」
「まあ……勇者同士なんですから当たり前ですよね。そんな事よりも僕達を掴んで屋根まで飛びあがるなんて、どうやったんですか?」
「それも順を追って説明して行きますぞ」
この頃の樹は謎があると直ぐに聞いてきますな。
やはりまだ確信を得て居なかったと言う事なのでしょう。
後は屋根伝いに進んで行きお義父さんの部屋の上までやってきました。
もちろん、屋根裏ですぞ。
屋根裏に入ると助っ人が火の魔法で明かりを灯してくれますぞ。
「あ、ありがとうございます」
樹が礼を言うと気にするなとばかりに助っ人は手を振ります。
「さてと……」
俺はお義父さんの部屋の屋根に何個か穴を開けました。
錬と樹、助っ人達は揃って室内を確認します。
「尚文さんが休んでいるだけじゃないですか」
「あとー……30分くらいの辛抱ですぞ」
前回のループ時はそれくらい待ちましたぞ。
きっと間違いないですな。
「あのですね……僕達は元康さんの忍者ごっこに付き合うつもりはないんですよ?」
樹が若干不快そうに小声で言うのと同じくらいにお義父さんが立ち上がって仕込みをしてから就寝しました。
「もう、尚文さんが寝てしまったじゃないですか」
「俺もそろそろ休みたいんだが……」
「僕だって仲間と一緒にもう少し騒ぐ予定だったんですよ」
「この後の出来事を見てからなら幾らでも抗議は聞きますし、それでも納得できないのなら俺の持つ金を全額渡しても良いですぞ」
「まあ……そこまで自信があるのでしたら……」
「だな……そんなに時間が掛らないなら、良いか」
それから20分くらい経過した頃ですぞ。
「ちょっとこの体勢は厳しいですね。腰が痛くなってきました」
「暗い所でも見える魔法を使いますかな? 腰も回復魔法を掛けますぞ?」
「そんな魔法を何処で習得したんだ?」
「きっとこの先の出来事をーとかですよ。黙ってましょう」
助っ人がさりげなく樹と錬に暗くても見える魔法を施しますぞ。
「あ、なんか良く見えてきましたね」
俺は魔法で音が漏れないように辺りに気を使いますぞ。
「しかしこの方々は誰なんですか?」
「樹、どうせ出来事をーだろ?」
「今すぐ教えても良いですぞ? ですが声を漏らしてはいけませんぞ?」
ゆっくりと錬と樹は俺に顔を向けました。
「なら教えてください」
「ああ」
ではしょうがありませんな。
俺は助っ人二人に手を向けますぞ。
「それは――」
という所でガチャッと音がしました。
俺達が見ているとも知らずにノコノコと赤豚がやって来ましたな。
「あれ? 確か尚文さんの仲間ですよね?」
「仲間なんだから一緒の部屋で寝るのは当たり前だろ」
「ですが、鍵が開く音がしましたよ。尚文さんが寝る時にテーブルに鍵があるのを確認しました」
「仲間とは別室……? じゃあどうやって入ったんだ? いや、スペアキーとかか」
「確かにそれなら……ですが、何か様子がおかしいですね」
ふ……赤豚。お前はノコノコと罠に引っ掛かりましたな。
赤豚が寝ているお義父さんを物色し、テーブルに乗った金袋やくさりかたびら、お義父さんが着ていた服を取って行きます。
錬と樹は食い入るように覗き穴を見つめていますぞ。
「姉上……」
半ば呆れる様に額に手を当てて、助っ人の……婚約者が声を漏らしました。
「あれ、内緒で洗濯するとかのサプライズでしょうか?」
「なら金まで持って行くのか? あれはどう見ても……」
くくく……ですぞ。
赤豚よ、そのまま己の容姿と同じく、豚の様に穢れた心を曝け出せ、ですぞ。
ここにはお前の悪事を暴く者が沢山いるのです。
お前はもう……包囲された、ですぞ!
「ブブ、ブブブブ……」
やがて決定的な証拠を呟いたかと思うと赤豚は部屋を出て行きましたな。
しばらく錬と樹が硬直したまま動きませんでした。
「今、尚文さんの仲間が言った言葉を聞きました?」
「ああ、アレじゃあまるで……泥棒みたいだぞ」
「理解していただけましたかな?」
「いや、尚文の仲間が泥棒をする所を見せられたからなんだって言うんだ? まあ……可哀想だとは思うし、誰が犯人か教えてやろうとは思っているが」
錬と樹はこれでOKですな。
というよりも前回と同じです。
後は……と俺は助っ人の方を見ます。
ふるふると、助っ人である赤豚の関係者……女王が怒りを押し殺して震えておりました。




