酸味
「この方法の取っ掛かりは、槍の勇者が言ってた前回のガエリオンが苦肉の策として槍に込めていた事でもあるなの」
「え?」
お義父さんが眉を寄せながら俺の言葉を代弁してくれました。
俺は自身が汚されて行く様な不吉な気配が纏わりついて離れませんぞ!
「僅かな竜帝の欠片で、辛うじて記憶だけを槍に込める事しか出来なかった前回のガエリオンの記憶……野蛮な冒険者が巣穴に乗り込んできて、お姉ちゃんが泣いている時、なおふみが助けてくれた事、それからの日々が鮮明に残されていたなのぉ……」
ウットリとする様にライバルは言いますぞ。
ぶっとばしてやりたいですぞ……。
「もしもこの想いが無くなってしまうならと秘めた想いを込めて前回のガエリオンも槍に接触し、強固な防壁を突破して記憶スペースを確保していたなの。同じ志で挑戦するガエリオンに意志を託して、それは叶ったなの!」
「うわあああ! 汚い! 死ねですぞ!」
俺の槍にライバルの記憶が収まっているですと!
そんな背筋が凍りついた挙句、全身が汚れた様な気色の悪い事がありえるはずありませんぞ!
「も、元康くん落ちついて!」
お義父さんが俺を後ろから抑え込みますぞ。
ですが我慢など出来るはずもないですぞ!
「落ちつけ元康!」
「あらー……」
お姉さんのお姉さんは困った様な声を出しましたが俺はもっと困ってますぞ。
そんな汚らわしい物が俺の槍の中にあるのですぞ!
どうやったらそんな気持ち悪い物を出せますかな!
「ガエリオンは前回のガエリオンの記憶を引き継いでなおふみの事がもっと好きになったのに、この仕打ち! だからループしたいなの!」
「死ねですぞ! この外道!」
「外道でもガエリオンはなおふみの事が好きなの!」
「ですが、これはある意味チャンスかも知れませんね」
「何が!?」
お義父さんが俺を抑えつけながら樹に尋ねますぞ。
「だって元康さんって物凄く説明が下手で、しかも忘れる事があるじゃないですか。ガエリオンさんがその辺りの説明も確実にしてくれるんじゃないですか?」
「その程度造作も無いなの! 任せるなの!」
「だが、ガエリオンだぞ?」
錬が言いますぞ。
そうですぞ。
このクソ竜が俺の代わりにお義父さん達に説明?
鼻で笑いますぞ!
「何か文句があるなの!? ある程度、竜帝の欠片があれば限界突破のクラスアップも出来るなの!」
そこでライバルはポカーンとしている助手に顔を向けて、優雅を気取りながら手を振ってますぞ。
「という事なの。お姉ちゃんは次のループではお父さんと悠々自適に巣穴と縄張りに閉じこもっているなの。ガエリオンはなおふみ達と世界平和の戦いに参加するなの。なのなのなの!」
何か小馬鹿にしている様に感じますな。
それ以前に、何故こやつはこんなに投げやりなのですかな?
「むう……お父さんと一緒に居られるのは良いけど、何か釈然としない」
助手がムッとしてライバルを睨みますぞ。
「なんて言うか、これは本性を現したと言うんですかね……便利そうではありますけど」
「いや、記憶力とかそういう点だけじゃなくてガエリオンの主観もあって、わかり辛いんじゃないか? しかもガエリオン、お前の事だから尚文に条件とか提示しそうだ」
「ああ、未来の知識を教えるから童貞をもらう。みたいな感じですね」
「当たり前なの! ガエリオンは諦めないなの! 槍の勇者の様に!」
「うわー……」
お義父さんもドン引きしていますぞ。
俺はもっと絶望していますぞ。
今すぐコイツを殺したいですぞ!
いや、殺しても死なないのでしたな。
ではどうしたらよいのですかな?
そうですぞ。
次の周回でライバルが現れるよりも早くお義父さんが誰かと関係を結ばせる事が俺の出来る唯一の方法ではないですかな?
次も助手と最弱竜帝を勧誘しない手はありませんぞ!
ですが、この考えに至るまでに俺は錯乱を続けましたぞ。
「元康様、落ちついてください!」
ユキちゃんやコウ、フィロリアル様達が俺を宥める事でやっと落ちつく事が出来ました。
ですがこの汚れた槍で、俺はどうやって世界を救って行けばよいのですかな?
「とりあえず、次の周回があるとしたら尚文さんの受難は約束されましたね」
「良かったのか悪かったのか……」
「次はボインボインの年上お姉さんキャラでなおふみを絶対に落として見せるなの!」
と、ライバルが決意を胸に言った言葉が俺の脳裏にこびり付きました。
そんな俺の精神に多大なダメージを残したまま平和にも忙しい日々は過ぎて行きました。
ノースフェラト大森林でもフィーロたんは見つからず、鳳凰はお義父さん達と容易く撃破、麒麟も同様に即日撃破を終え、波が再開。
お姉さんのお姉さんの引率の下、その後も奴隷やフィロリアル様の育成を続行して行きましたが、やはりフィーロたんは見つかる事はありませんでした。
そんな……最初の世界の知識も当てに出来なくなった頃ですぞ。
日数を計算すると、最初の世界に近付いているのではないですかな?
ただ、最初の世界の様に七星武器に選ばれた者が殆どおりません。
一応、お義父さん達が各国の兵士やフィロリアル様を極限まで育て上げたお陰で波を簡単に鎮める事が出来るようになっておりました。
「元康くんの未来の知識も出しきった感じだね」
「ですな」
「それは何よりですね」
「もう元康の知識に振りまわされる事は無くなったか」
ですが……何でしょう。
先へ進めば進むほど、記憶がぼんやりとしている箇所が増えていますぞ。
確かフィロリアル様の聖域とかに行った様な覚えがあるのですが……曖昧ですな。
どうやったら行けるのでしょう。
ちなみに後数時間で今日は波が起こりますぞ。
覚えている中で最後の波ですが……心配ですな。
現在、俺達はフォーブレイが用意した勇者用の住居で休んでおります。
「ナオフミちゃん酔い止めくれないかしら? 飲みすぎちゃった。ちょっと気持ち悪いのよー」
「サディナさん、昨日はラーサさんと随分と飲んでたもんね」
若干酔いどれのお姉さんのお姉さんがお義父さんに寄りかかりながら言いますぞ。
「うえ……気持ちわりぃ……」
パンダも同様の様ですな。
吐きに行ってましたぞ。
ちなみにパンダは着飾っていて、村の奴隷達に可愛いと言われているそうですな。
完全にお義父さんとお姉さんのお姉さんによる改造が終わった様ですぞ。
「あー今日はこの前作ってくれたあの酸味の強い奴が食いたいねぇ。二日酔いに効く気がする」
「了解。じゃあすぐに準備するよ。今日は波が控えてるからちゃんと戦えるようにね」
お義父さんが食事の準備を始めますぞ。
フォーブレイの用意した新鮮な食材で毎日お義父さんが料理を作ってくれる環境ですな。
という所で、錬と樹がパンダとお姉さんのお姉さんを見ながらひそひそと話を始めましたぞ。
それから恐る恐るパンダに声を掛けます。
「なあ」
「ん? なんだい?」
「連日二日酔いで尚文に二日酔いに効く料理を作ってもらっているが……それって」
「酒に強いサディナさんもですよね?」
「あらー?」
「え? な、なんだってんだい?」
「連日尚文と宴をしていたら無い方がおかしいんじゃないか?」
お姉さんのお姉さんが照れたように頬に手を当て、パンダが真っ青になって行きました。
「「「最近姐御が色っぽく、優しくなってきたと思ったらやっぱりそうだったのか!」」」
久しぶりにパンダの配下が騒ぎ始めましたぞ。
まあ、よく騒いではいたのですが俺の耳には届かなかったのですがな。
何故か錬と樹が拍手を始め、音を聞きつけてきたエクレアや助手、モグラ等、一緒に生活している連中が囲むようにやってきました。
「おめでとう」
「おめでとうございます」
「おめでとう。何を祝っているのだ?」
「サディナさんとラーサズサさんが懐妊ですよ」
「おお! そうなのか! おめでとう!」
「勝手に祝うんじゃないよ! ええい、偶々二日酔いが激しいだけだ!」
俺も便乗しますかな?
お義父さんが凄く幸せそうに照れていますからな。
「おめでとうですぞ!」
「だーかーらー、勝手に祝うな!」
「あらー? どうしましょうかナオフミちゃん」
「うーん。じゃあこれからサディナさんとラーサさんは一線から引いて体を大事にして行こうか?」
「まだ完全にわかって無いから大丈夫よーそりゃあ来る物が来てないけど」
という所でパンダは更に真っ青になってますぞ。
「そういやあたいも来てない! まさか本当に……?」
ですがパンダはその後、すぐに平静を取り戻しました。
「ち……仮にそうだとしたらしょうがないのかねぇ……勇者の子供ってんなら悪い話じゃねえし」
「とりあえず確定してないけど名前とかどうしましょうかねー?」
「サディナさんはどうしたい? ラーサさんも」
「そうねー。ラフタリアちゃんから名前を拝借しちゃおうかしら?」
「それも良いかもね」
「あたいは、その時になったら決めさせようかね」
なんて感じにのどかな時は過ぎて行ったのですぞ。




