潜む者
ではすぐに行動ですな。
「という訳でユキちゃん、林の方を調べてから村へ戻りますぞ」
「わかりましたわ! では探しますわ!」
お義父さんとお姉さんのお姉さんは洞窟の方へ、俺とユキちゃんはそれぞれ食料になる物がないか林の方へと行きました。
パッと見ではそこまで深い林ではありませんな。
木々の合間から反対側が見えますぞ。
「何か食べられる実は無いですかな?」
そう思いながらユキちゃんと一緒に見上げておりました。
その時、ザザっと藪の方で音がしましたぞ。
何かが潜んでいるのですかな?
「魔物ですかな?」
槍を構えようとした時、藪の方から逃げるように何かが姿を現しました。
なんですかな?
青白い様な陽炎のような物で構成された……イタチですかな?
ゴースト系の魔物かもしれません。
俺はすぐにソウルイータースピアに変化させました。
ですが、青白いイタチに変化はありません。
ゆらっと僅かに魔物は立ち止まってこちらを振り返ります。
するとイタチは姿を変えました。
立ち止まった瞬間から、タヌキのような外見になりました。
ちょっと大きめですな。
……?
これは実体がありますぞ。
陽炎の中に人影の様な何かが見える気がします。
幽霊系の魔物とは違うのですかな?
追い掛けて仕留めるか考えたその時、タヌキは既に背中を見せて走りだしておりました。
しかも陽炎と共に何匹にも増えております。
魔物ならばとりあえず滅殺、ですぞ!
「エイミング――」
槍を投擲するよりも早く、走りだした事で更に姿を変えたイタチが海へと飛び込んで全部姿を消してしまいました。
「なんだったのですかな?」
逃げる獲物を追い掛けるのも手ではありますが、食料向きには見えませんでしたから無視しても良さそうですな。
また出てきたら仕留めれば良いだけですぞ。
俺は林の中で食べられそうな実を探すのを再開してからユキちゃんと一緒にフィロリアル様と奴隷達を迎えに行ったのでしたぞ。
その後、結局その魔物が戻って来る様子はありませんでした。
奴隷達もフィロリアル様達もお姉さんのお姉さんの隠れ家のある島で海水浴をした後、城の方へと帰還しました。
翌日の昼ですぞ。
若干くたびれた様子の助手が錬とライバルに連れられて帰ってきました。
「ただいま」
「おかえり」
フィーロたんを探索している合間の休み、俺とお義父さんが出迎えますぞ。
「どうだった?」
「うん、お父さん凄く強かった。大分強くなったと思ったけど、まだ敵いそうにない。だけどガエリオンと似た力を持ってるのはなんでだろ?」
「な、なの!」
ライバルは助手を心配するように鳴いておりますぞ。
どう考えてもライバルの能力を利用して助手に勝っただけでは無いのですかな?
「親子なんだから似るのは当たり前じゃないの?」
「うーん……記憶の中のお父さんには勝ててたんだけどなー……」
きっとそれは間違いないですぞ。
何せ強化方法が中途半端の錬に負ける程度の強さですからな。
今のライバルの足元にも及ばない雑魚ですぞ。
しかも助手は結構Lvを上げているので、楽に倒せるでしょう。
にも関わらず勝てないのは間違いなくライバルの力を借りているのは間違いないですな。
「記憶と実際は違う物だよ。簡単そうに見えて実際にやってみると難しいみたいにさ」
「うん。お父さんはやっぱり強かったんだよね。剣の勇者も同じ事を言ってた」
助手もそこで頷いていますぞ。
親が強くて誇らしげに見えるのはきっと気のせいじゃないでしょうな。
ですが助手は何やら前髪の影が目に被る様に俯いてニヤリと笑いました。
「もっと強くなったら、また挑戦する。今度こそお父さんを超えてみせる」
フフフフフフ……と不敵な笑みを浮かべていますぞ。
逆にライバルはその様子に震えているように見えますな。
お義父さんと錬が呆れたように助手とライバルを見ております。
「錬もお疲れ様」
「ああ、別に問題は無い。どうせ波に備えたLv上げとか勉学や修業ばかりだからな。気分転換になった」
「それは何より」
「そっちの方はどうなんだ?」
「ん? ああ……まだ見つかってはいないよ。だけど諦めるつもりもないよ」
「いや、そうじゃなくて」
錬はお義父さんと俺を交互に見ますぞ。
「フィーロたんの卵は見つかっていませんぞ」
「ああ、元康はな。尚文の方も聞いたな。だが尚文、サディナの調子はどうだ?」
その問いにお義父さんは若干咳をしながら、口を開こうとした時。
「あらー? ウィンディアちゃん帰ってきたのかしらー?」
お姉さんのお姉さんが奴隷たちを連れてやってきました。
「レンちゃんもお帰りなさい」
「あ、ああ」
錬はお姉さんのお姉さんを指差してからお義父さんに視線を向けますぞ。
お義父さんは頷きました。
「風邪も良くなってサディナさんも元気になったよ」
「そうか。それは良かったな」
「うん」
「さて、俺も仕事に行くとするか。近々ノースフェラト大森林に遠征に行くしな」
と、錬が背伸びをしながら言いますぞ。
「前準備はしておかないとね。四霊や波に備えた戦力の増強も兼ねて」
「ああ、事前準備をしておかないとな……フィロリアルの育成もして行くだろ?」
「元康くんの為だからね」
「ルナちゃんの卵は確保しましたぞ!」
お義父さんが改めて実験したいと言いましたからな。
ああ、あの可愛いモノ好きのルナちゃんと再会出来るのですな。
ですが残念な事にキールはいませんぞ?
モグラで我慢してくれますかな?
「なの?」
そこでライバルがクンクンと鼻を鳴らしながらドラゴンの姿になりました。
それから更に匂いを辿るかの様にお義父さん、それからお姉さんのお姉さんの方を辿って行きます。
「な、なの……?」
「あら? どうしたのかしら?」
お姉さんのお姉さんがライバルに視線を合わせる様に座り、撫でる様に手を差し出します。
ライバルはお姉さんのお姉さんの撫でる手を無視して匂いを嗅ぎました。
やがてライバルは大きく目を見開くと……。
「なのぉおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーー!」
両手を頬に合わせてから絶叫しましたぞ。
まるで絵画のようなポーズでしたな。
「ガエリオン……ループしたいなの……」
それからバタンと倒れ込みました。
「ガエリオン!?」
「ガエリオンちゃん!?」
「い、一体どうしたんだ?」
「どうしたのかしら?」
お姉さんのお姉さんは倒れたライバルを抱き起こしますが、ライバルは意識が戻らず、失神したままですぞ。
訳のわからないドラゴンですな。
「とりあえずガエリオンちゃんに何かあったのかもしれないからラトさんの所に連れて行こうか」
「わかった! すぐに連れて行く!」
錬がライバルと助手を連れてポータルで飛びました。
「一体……何が?」
「お姉さんの飲んでるお酒が強過ぎたのかしらねー? 昨日は良いお酒を飲んでたし」
「ガエリオンちゃんはドラゴンだからお酒に強いらしいけど……」
「ライバルは奇病でも発症したのですかな? ならざまあないですな」
「ですわ」
「「「わー!」」」
フィロリアル様みんなで楽しげに笑いますぞ。
俺も楽しくなってきました。
「あのね……みんな、誰かの病気を笑うのはさすがに怒るよ?」
お義父さんの睨みでフィロリアル様達は笑うのをやめました。
俺もこのくらいにしておきましょう。
ちなみにライバルは翌日には意識を取り戻しましたが、特に病気ではない、むしろ非常に健康体だと主治医から診断されたそうですぞ。
何か精神的な要因と分析し尋ねたのですが口を割らなかったとか。
一体何で情緒不安定になっているのですかな?
※狸の特技は何でしょうか?




