里帰り
翌日ですぞ。
「今日はサディナさん達、村の人達と一緒に村へ一度里帰りに行ってみようって話になったよ」
「おお、わかりましたぞ。俺も特に予定はありませんからな、一緒に行きますぞ」
お姉さんの捜索はまだ諦めておりません。
絶対に何処かで生きていると信じてお姉さんのお姉さんやお義父さんは探し続けるのですな。
その決意を強めるためにきっと一度村へとみんなを連れていくのですな。
「という訳でお弁当を準備してみんなで出発だね」
お義父さんは城のキッチンを借りて、みんなの料理を作っていたのですぞ。
結構な量の弁当が用意された様ですな。
中には村の奴隷達も協力して作った物もあるとか。
そんなお義父さんはまだキッチンで料理中ですな。
出発準備をしているとお姉さんのお姉さんが村の奴隷達に元気を見せております。
「お姉さんも全快よー!」
村の奴隷達もお姉さんのお姉さんが元気になった事を理解したのか暗かった顔が明るくなっているように感じますな。
やはりお姉さんのお姉さんの存在が皆に与える影響は計り知れないという事でしょう。
「後でイミアちゃんの親族がいる村にもよらなきゃね」
「あ……はい。みんな元気にやってるって聞きました。盾の勇者様が来てくだされば喜ぶと思います」
モグラはチラチラとお姉さんのお姉さんを時々見つめている様ですぞ。
「あらー? イミアちゃんは何か気になるのかしら?」
「え、えっと……」
モグラはアタフタと慌てた様子をしてますぞ。
どうしたのですかな?
「元気になって良かったです」
「うん! ナオフミちゃんのお陰でお姉さんがんばれる様になったわ」
「はい……わかります」
「あらーイミアちゃんも?」
「はい」
モグラは恥ずかしそうに俯いているとお姉さんのお姉さんはとても楽しげに微笑んでおりました。
「じゃあ仲間ね。これからがんばって行きましょうね」
「えっと……はい」
「イミアちゃんも楽しみにしてるのよー」
「え? えーっと?」
モグラはお姉さんのお姉さんの言葉に首を傾げておりました。
お姉さんのお姉さんは時々訳が分からない事を言いますな。
そんなこんなでフィロリアル様に馬車を引かせて俺達は村へと向かったのですぞ。
思えば最初の世界で俺が厄介になっていたお義父さんが開拓した村……話には聞いておりましたが、やはり廃村になっている様ですぞ。
ここまで荒廃した村を開拓した最初の世界のお義父さんはやはりすごい方なのですな。
ゆっくりと俺達は廃村となった村に辿り着いて馬車を降りました。
村の奴隷達が駆けまわっていた広場、お義父さんの家、錬、樹、そして俺の家の幻が浮かんでいるように見えるのはきっと錯覚なのでしょうな。
村の端の方ではフィロリアル様が住処にしていた舎……バイオプラントの畑。
その違いを思い出すだけで何やら物悲しい気持ちになってきますぞ。
お義父さんは村の奴隷達に目を向けます。
メルロマルクは現在、三勇教と赤豚の暴走の爪痕が酷いですぞ。
何だかんだで領地の汚染が若干残っているとか聞きますな。
村出身の奴隷も数える程度しかいないこんな状況ではモグラの村の方がまだ人がいますぞ。
「みんな、墓参りに行くわよ」
「「「はーい」」」
最初の世界とは違う事が俺は十分に理解出来ましたぞ。
赤豚や三勇教はとてつもない害悪でしかないのですな。
で、お義父さんとお姉さんのお姉さんは馬車に乗せた花束を奴隷達にも持たせてから墓らしき場所に供えました。
「次はこっちよ」
お姉さんのお姉さんは海岸沿いにある崖に積まれた墓らしき所を指差し、お義父さんと供え物をしました。
手を合わせて祈りますぞ。
きっと元々この村の者達の墓なのですな。
「……」
物悲しい空気が漂っている気がしますぞ。
そんな中でお姉さんのお姉さんが手を上げますぞ。
「じゃあみんな、景色の良い場所でナオフミちゃんが用意したお弁当を食べましょー」
「「「はーい!」」」
フィロリアル様達を初め、奴隷達が揃って頷きました。
みんなでお義父さんの用意したお弁当を思い思いに食べ始めました。
先ほどの物悲しい雰囲気は大分散った気がしますな。
「お姉さん息が詰まってきちゃってたのよー。村のみんなも暗い顔をして墓参りに来ちゃ嫌よね?」
「まあ……節度は必要だけどね」
お姉さんのお姉さんはお義父さんの隣に座りながら村の奴隷達と顔を合わせます。
そして優しげな笑みを浮かべますぞ。
「とても悲しい事だけど、乗り越えて行きましょう? ここには生き残ったみんながいるんだから」
「「「うん!」」」
和気あいあいな空気にフィロリアル様達も楽しげな声を上げていますぞ。
俺も楽しくなってまいりましたな。
「さーてと、じゃあこれからどうしようかしら?」
墓参りは終わった様ですからな。
後にすべきことなど帰るくらいしかないのではないですかな?
「あの……もう少し、村を見ていたい」
奴隷達が提案しますぞ。
するとお義父さんとお姉さんのお姉さんは頷きます。
「そうだね。来てすぐに帰っちゃうのもなんだし、少しの間自由に村を見て回るのはどうかな?」
「宜しくお願いします」
何か気になるのでしょうか?
村の奴隷達は揃ってお願いしている様ですぞ。
「フィロリアルのみんな。この子達が危険な目に遭わない様に注意してて」
「「「はーい!」」」
廃村なので、特に何があるか良くわかりませんが、怪我などされたら大変ですからな。
俺達が見張る必要があるのでしょう。
「お姉さんは今の内に秘密基地にでも行って来ようかしら? 色々と隠してたのもあるし」
「サディナさんの家?」
お姉さんのお姉さんは海を指差しました。
「ちょっと村から離れた所に島があってね。お姉さんの秘密基地なのよ」
そう言えばお姉さんのお姉さんの秘密基地が近くの島にあるのでしたな。
最初の世界でお義父さんが世界征服の野望に燃えた時にその島を拠点にしていたのを思い出しましたぞ。
「珍しいお酒も隠してたから取ってきたいわね。ナオフミちゃんやモトヤスちゃんも来るかしら?」
「だけど、この子達は大丈夫かな?」
お義父さんの心配を察したのか奴隷達が笑顔で応じますぞ。
「大丈夫!」
「まだ病み上がりのサディナお姉さんに勇者様は付いてって」
「そうそう! フィロリアルのみんながいればこっちは大丈夫!」
「うん。サクラが守るー」
「そ、そう? じゃあ少しの間出かけて来るね」
「じゃあ行ってくるわよー」
「俺も行きますぞ」
「行きますわ!」
ユキちゃんも同席してくれる様ですぞ。
「あらーじゃあナオフミちゃんはお姉さんの背に乗って行くと良いわよー」
「わ、わかりました」
「ささ、元康様、背に乗ってくださいませ」
「わかりましたぞー!」
俺とお義父さん、ユキちゃんはお姉さんのお姉さんの案内で秘密基地のある島へと移動を開始しました。
奴隷達は廃村で思い思い、思い出に耽っていた様ですぞ。
「ここがお姉さんの秘密基地よー」
と、お姉さんのお姉さんに案内された島を俺は見渡しました。
確か、最初の世界でお義父さんも招かれた事がある場所でしたな。
割と浅瀬っぽい三日月形の島ですな。大きさはそこまでありませんぞ。
ロマンチックな島ですな。
その三日月形の端の方に洞窟がある様ですぞ。
そして三日月形の真ん中等辺には僅かですが林があるようですな。
夜にライトアップしたらムード満載ですぞ。
フィーロたんとのデートスポットに使えそうな素敵な島ですな。
「夜に来ると良さそうですぞ」
「そ、そうだね」
お義父さんも俺と同じ考えの様ですな。
「素敵な島ですわ」
ユキちゃんが優雅に浅瀬を泳いでおります。
おお……透明な海面と白い砂浜に俺も豚に招待された海外旅行の思い出が蘇ります。
豚はどうでもよいですがその島に匹敵するほどですぞ。
「村にいるフィロリアル様や奴隷達も招待するのは良いのではないですかな?」
「それも良いかもしれないわね。海水浴を楽しむのも良いわね」
「そうだね。こんな穴場があるなら今日はみんなで楽しむのも手かもね。元康くんの火の魔法を使って魚を焼いて食べたりしたら美味しそうだし」
「名案ね。じゃあナオフミちゃん、お姉さんの秘密基地でお酒や道具を出すのを手伝ってくれないかしら?」
「もちろん」
「では俺はついでに何か食べられる物も探しますかな? それからみんなを呼んできますぞ」
「お願い出来る?」
「ですぞ!」
俺はお義父さんの頼みに頷きました。




