生きる意味
え?
今、なんと言いましたかな?
「え?」
疑問符が頭に沢山湧きますぞ。
俺がお義父さんを殺すのですかな?
「な、何故ですかな?」
「ナオフミちゃん!?」
「そこに居たという事は俺達の会話を何処からか聞いていたはず。だから元康くん、お願いだからループして……今度は俺達を含め、ラフタリアって子を助けて欲しいんだ」
「だからってなんでお義父さんが死なねばならないのですかな?」
「それはね――」
説明しようとしたお義父さんの盾から何やら黒いオーラが立ち上った様な気がしますぞ。
「ぐっ……なんだ……? 伝説の武器は自殺防止まで付いてるのか……何処までも丁寧な作りをしてる……」
黒い力が滲み出てきている盾を抱えてお義父さんは言いました。
何かの浸食をお義父さんは抑えているのですな。
これは……カースシリーズ……?
だとしても、何故この様なタイミングで?
いえ、お義父さんが自殺防止と言っています。
おそらくカースシリーズにはそういった役割もあるのかもしれません。
勇者は死んではいけない、と最初の世界のお義父さんが言っていました。
それは伝説の武器が宿命付けたモノなのでしょう。
「元康くん……理由は簡単だよ。君から聞いたループ条件だ。四聖勇者の死亡、もしくは四霊による結界の生成……錬や樹を殺させる訳にはいかないし、それなら俺が……死ねば良いと思ってさ」
強引にループを作動させようとお義父さんは命じている!?
そんなにもこの世界はダメなのですかな?
「凄く身勝手だし、錬や樹は元より、沢山の人の、元康くんの苦労を踏み躙る酷い事だって俺も思ってる。だけど……それで救われる人達がいるなら……俺は喜んで……ぐ……」
盾の黒いオーラがさらに光を強めていきますぞ。
そしてお義父さんは如何にも弱そうな盾に変化させて俺に頭を上げます。
俺は……今までで一番、手が震えている気がしました。
全身の震えが止まりませんぞ。
お義父さんが殺して欲しいと願っている。
今の世界では救われない者達が多過ぎるからと。
世界の為にその身を犠牲にしようとしている。
カースに侵食される程に気を病んでいる。
俺がすべきことはなんですかな?
フィーロたんに会う事ですぞ。暗にこの世界にフィーロたんはいないとお義父さんが言っている気がします。
ですが、俺は諦めたくないですぞ。
より良い未来を掴むために、今の世界を犠牲にして良いのか?
そんな言葉がズシリとのしかかった様な気がしますぞ。
前回、俺は迷うことなくフィーロたんに会いたいが為にループする選択を選びました。
ですが、この決断が果たして正しいのかと思わせますぞ!
「ダメよ、ナオフミちゃん! そんな事をしては、ナオフミちゃんは勇者で世界の希望なのよ」
「死を受け入れている……死にたがっているサディナさんがそれを言うの?」
「え……」
「まだ、ラフタリアちゃんって子が確実に死んだと決まった訳じゃないのに! 後を追おうとしてるサディナさんが俺を……止める権利は無い」
「ナオフミちゃん!」
「大丈夫。今の俺は死ぬかもしれないけどループした俺が……いるから。次の俺が、きっとなんとかしてくれるから!」
「ナオフミちゃんはなんでそんなにも必死なの!」
俺はどうしたら良いのでしょうか?
頭から煙が出そうですぞ。
ですが、そんな風に逃げていい場所では無いですぞ。
お義父さんが呪いに抗いつつ、俯きながらお姉さんのお姉さんを見つめます。
「『守られるというのは時に守られた側が苦しくなる事を、ナオフミちゃんは自覚して』ってサディナさんに言われた時、サディナさんみたいな人がいるからこそ、本当にがんばりたいと思えたんだ」
それからお義父さんは俺の方に視線を向けます。
「俺は元康くんを始め、錬や樹に信じてもらえた。守ってもらえた。だからこそ、その信頼に応えたい。みんなに信じてもらえた分、俺は誰かを守れる様になりたかった。だけどサディナさんはそんな俺に守られる側の苦痛を教えてくれた。意図せず昨日も俺を守ろうと前に出て無茶をしていた」
おお……盾の勇者であるお義父さんなりの苦悩ですぞ。
盾という守る事に特化したお義父さんだからこそ、みんな力になりたいと思う原動力。
そんなお義父さんを守ろうとする者達は俺を含めて沢山おりますぞ。
お姉さんのお姉さんが言っていた……守られた側の苦しみも皆、知っていると思います。
フィーロたんもお義父さんが傷を負う度に複雑な表情をしていました。
例えそれが役目であり、しょうがない事でも、心を否定する事は出来ないのですぞ。
「サディナさん、さっき貴方は生きる意味って言葉を使ったよね?」
「え、ええ」
「その意味に、俺は入れない?」
「え?」
「もしも、本当にラフタリアちゃんが死んでいると確定してしまった時、サディナさんの生きる理由に……俺はなれないかな?」
お義父さんの言葉にお姉さんのお姉さんは唖然とした様な、珍しい表情をしておりました。
「俺はサディナさん、貴方を守りたい。俺を守ろうとしてくれた様に……守ることしか出来ないからこそ! 貴方を冥府の誘いから救いたい。それが叶わないなら、例えこの命、記憶、想いを犠牲にしてでも、それを成し遂げたい!」
と言い切ったその時、お義父さんの盾が一際黒いオーラを立ち上らせました。
く……この力、やはり覚えがありますぞ。
俺がまだ赤豚に騙されていた頃、教皇と戦う前にお義父さんと戦いました。
その時に受けたカースの力と酷似しています。
ただ、力の本流はあの時と違うと思いますぞ。
「も、元康くん! 早く、俺を――」
……わかりました。
勇者としてではなく一人の人間として、お姉さんのお姉さんを守りたいと決めたのですな!
その為に、今を犠牲にしなくてはいけない。
より良い未来の為、この元康……覚悟を決めました。
お義父さんの覚悟、俺はしかと受け止めましたぞ!
「わかりましたぞ! お義父さん、俺は――」
槍を前に向けて構える前にお義父さんにお姉さんのお姉さんが抱きつきました。
「もう良いの……もう良いわ。ナオフミちゃん、モトヤスちゃん」
お姉さんのお姉さんは泣いておりますぞ。
そして俯いて支えなしで立ち上がれないお義父さんを抱き起こします。
「……わかったわ。お姉さん、生きる事を諦めないから。例えラフタリアちゃんがこの世に居なくても……こんなにも一生懸命なナオフミちゃんやみんなの為にがんばるから!」
「く……う……」
お義父さんは盾の支配に抗おうと頭を振るっております。
やがてお姉さんのお姉さんの言葉を聞いて、カースの力が弱まっていきますぞ。
「サディナさ……ん。約束、だからね。俺は、貴方のそのノリの良い所と、仲間思いの所を……その……素敵な所だと思うんで……生きる事を辞めないで」
「うん……うん……」
お姉さんのお姉さんがお義父さんに抱擁しております。
やがてお姉さんのお姉さんは盾の力を押さえつけたお義父さんと共に微笑みました。
「何か少し体が楽になった気がするわー」
普段の様子を取り戻したお姉さんのお姉さんが陽気にお義父さんに言いました。
「お酒飲みたくなっちゃった。ナオフミちゃん、お酒飲まない?」
「あはは、やっとサディナさんらしくなったね」
「あらー? そう?」
お姉さんのお姉さんはお義父さんの腕に腕をからませますぞ。
「だけど、程々にね。まだ風邪が治って無いんだから」
「あらー……ゲホ、そう言えばそうね。でもお酒ー」
「はいはい。少しだけだからね」
「お義父さん、どうしますかな? ループさせますかな?」
お義父さんの言葉も一理ありますぞ。
「それも手だね……より良い未来の為に……ね。色々と、悪くなってしまっている所があるのは事実だ。俺達の所為で死んでいった人を思うなら、それも手だと思う。だから元康くんには決める権利がきっとある」
「ナオフミちゃん」
お姉さんのお姉さんが若干厳しい目をしております。
そうですな。
俺もお姉さんのお姉さんの意見に同意ですぞ。
「今はまだ良いのではないですかな?」
俺はまだ、今を諦めたくありませんぞ。
幾ら今が悪かったとしても決断の時まで俺は諦めません。
きっとこの空の何処かでフィーロたんが俺を待っているのですぞ。
「わかったよ。元康くん、無理を言ってごめんね」
「問題ないですぞ。フィーロたんもお姉さんも、俺は諦めませんぞ」
きっとお姉さんのお姉さんが死にたがっていたのを止めるのに必要な手順だったのでしょう。
魔法は色々と便利な反面、お姉さんのお姉さんクラスになると自身すらも苦しめる事が出来るのでしょう。
ハッ! 俺の愛の炎は俺の身を焼き焦がす事はありません!
つまり俺の想いはまだ足りないという証ですかな!?
これは今一度、フィーロたんに届ける想いの修行をしないといけませんな!
「あらーモトヤスちゃんも意志が強いわねー。お姉さん、ナオフミちゃんとモトヤスちゃんの意志の強さに負けない様にしなきゃいけないわね」
「はい……サディナ、さん。お願いするね」
「はいはーい。お姉さんは、もう諦めないわよー。ナオフミちゃんも覚悟しなさいよー」
「ええ」
何やらお義父さんとお姉さんのお姉さんが見つめ合っていますぞ。
気の所為ですかな?
先ほどよりも熱がこもっている気がします。
「それじゃあナオフミちゃん、お姉さん元気になる為に英気を養うわ」
「じゃあ後で差し入れを持っていくね」
「楽しみにしてるわよ。後……夜にお話したいからみんなが寝静まったら来てね。こなかったらお姉さんが遊びに行くわ」
「う、うん!」
と言った感じにお姉さんのお姉さんは割と元気になった様で、ベッドで寝始めたようですぞ。
先ほどのような荒い咳はもうしていませんな。
あれですな。病は気から、という奴ですな。
「サディナさん、元気になってくれそうで良かった」
「お義父さんの説得のお陰ですな」
「そうだといいな。じゃあ元康くん、みんなの所へ戻ろうか。それからサディナさんが元気になる様な料理を作ってあげないとね」
「わかりましたぞ!」
こうして俺達は村の奴隷達の居る場所へと戻って行ったのですぞ。
その日の夜、お義父さんが若干、陽気な感じでお姉さんのお姉さんの部屋へと遊びに行きました。
きっと楽しく酒を飲み交わしているのでしょう。
最初の世界でお義父さんの機嫌が良い時、お姉さんのお姉さんと話をしていた様に。
設定はあったけど使わなかった設定『自殺防止機能』
対象の精神状態が極めて異常になった際に発動する世界防衛機能。




