助手の挑戦
「なの?」
空気を察してライバルがやってきました。
どんな話が始まるのですかな?
正直、助手とライバルの話よりフィロリアル様の話の方が良いのですが。
「私、大分強くなったよね」
「そうだね。Lv基準で言えば相当強くなったと思うよ。いろんな魔法も使えるし、みんなと一緒に体も鍛えてるもんね」
「うん。だから、その……」
「なんですかな? お義父さんの手を煩わせるのですかな? 今はフィロリアル様の卵を集める時ですぞ」
「元康くん、とりあえず話を聞こうよ」
助手はムッとしながら俺を睨みましたが、お義父さんが俺を宥めると再度お義父さんを見つめました。
「あのね……お父さんの所で腕試しに行きたい」
「なの!?」
ライバルが驚いて目を見開いていますぞ。
そういえばそんな話がありましたな。
「それはどうして?」
「お父さんに私の力がどれだけ通じるか試したいの」
おお……ついに下剋上をしに行くと言う事なのですかな?
「ふむ、そういう事なら手伝いますぞ!」
「元康くんは却下ね」
お義父さんにダメだと言われてしまいました。
それならしょうがないですな。
助手の方も俺を完全に無視していますぞ。
「鞭の勇者になってからじゃダメなの?」
「……」
「ホームシック?」
「違う。お父さんがどれだけ強いのか……知りたいの。命の危険があるのは百も承知だけど……」
なんと! あの最弱の竜帝に今の助手が挑むのですかな?
あの当時のライバルでは、助手に手も足も出ないのではないですかな?
「うーん……」
お義父さんはそれとなくライバルに視線を移しますぞ。
「お姉ちゃん、まだ時期じゃないなの。諦めるなの」
「諦めない。これだけは譲れないし、ダメって言っても行く」
「うーん……わかったよ。じゃあ俺が同行するから――」
そう言い終わる前に助手はお義父さんに向けて拒否するように手をパーにしてみせます。
「盾の勇者はあの人の心配をして」
助手はお姉さんのお姉さんを指差しますぞ。
お義父さんはお姉さんのお姉さんに視線を移します。
お姉さんのお姉さんは寝付けない村の奴隷を優しく寝かしつけている最中の様ですぞ。
そうですな。お姉さんのお姉さんは最近調子が良くないですからな。
「かと言ってウィンディアちゃんのお父さんにウィンディアちゃんを会わせたら……とても危険だしなぁ。元康くんはアレだし……」
「なの! 行かない方が良いなの!」
ライバルは必死ですな。
何せ中にいますからな、空気とばかりに見ているだけの親が。
そんな親の何処が良いのですかな?
とはいえ助手は引かないとばかりにお義父さんと見つめ合いますぞ。
「どうしても誰かが付いて来なきゃいけないのなら剣か弓の勇者に頼んで」
「錬か樹に? まあ、頼めばやってくれるかな? フォウル君のLv上げとか色々としてくれてるし」
「お願い」
「わかったよ。じゃあ錬と樹に聞いてくるね」
そう言ってお義父さんは錬と樹に会いに行って直ぐに帰ってきました。
ちなみにパンダは次の狩りまでゼルトブルで好き勝手やるそうですぞ。
で、来たのは錬でした。
「話は聞いたが……ウィンディア、親に会いたいのか?」
「うん。お父さんに私一人でどれだけ通じるのか試したいの!」
「……」
錬は困った様にお義父さんとライバルに視線を移しましたが、諦めたかのように溜息をもらします。
既に事情はお義父さんから聞いている様ですな。
「わかった。だが、絶対に無茶をするなよ」
「なの!? 納得しちゃうなの!? 止めないなの?」
「止めたら勝手に行きそうだからね。ガエリオンちゃん、お願いするよ」
「なのー……わかったなの。途中まで送るなの。それから剣の勇者がちゃんと見張るなの」
「ああ、わかっている」
「じゃあ明日の朝には出発かな?」
「うん。じゃあ……おやすみなさい」
「まったく……しょうがないな」
という事で錬から了承を得た助手は明日、ライバルと出かける事になった様ですぞ。
助手は言付けを終えた後にモグラが就寝している部屋へと戻って行きました。
ちなみにモグラも村の奴隷達のケアをしている様ですぞ。
数は少ないですが色々とトラウマを抱えているとか何とか。
やがて奴隷達が寝入った後、お姉さんのお姉さんがお義父さんと俺の元へとやってきました。
「今日はお疲れ様、ナオフミちゃん……」
「それはお互い様だよ、サディナさん」
お義父さんはテーブルの上に乗せていた酒を持ってお姉さん用のグラスに注ぎますぞ。
「……ごめんなさいね。ちょっと今日は飲む気になれなくて」
「サディナさん……」
お姉さんのお姉さんはグラスを拒否するようにテーブルの真ん中に置き直しました。
なんと信じられない光景ですぞ。
お姉さんのお姉さんが酒を拒むなど……。
「じゃあ……今日は休ませてもらうわね」
「うん……ゆっくり休んで元気になってください」
お姉さんのお姉さんはそう言うとお義父さんと俺に手を振って部屋へと帰って行きました。
「もう一週間か……」
「何がですかな?」
「サディナさんが酒を飲まなくなってからだよ」
「そうなのですかな?」
フィーロたんがいつ見つかるか心を弾ませていたので全く気づきませんでした。
つまり俺が驚いていた光景は既に何度も繰り返されていたのですな。
「しかも徐々に体調も崩してるし……少しなら良いかと思った俺が悪かった。薬も万能じゃないね」
「薬をお義父さんが処方しているので大丈夫なのではないですかな?」
「そうなんだけど……あんまり効果が出ている様には見えないんだよね。なんて言うか日に日に弱ってる様に見えるんだ。今日は元気になった様に見せて隠しきれなかったって感じだよ。認識が甘かった……」
やがてお姉さんのお姉さんが寝ている部屋の方から咳が聞こえてきました。
おかしいですな。
中度の風邪なら治療薬を飲めばすぐに良くなるはずですぞ。
何か悪い病にでも掛っているならイグドラシル薬剤があるので万事解決ですぞ。
「元気になって欲しいんだけど……ね」
「そうですな。もしかしたら酒を飲まずにいるから逆に体調が悪くなっているのではないですかな?」
お義父さんは俺の疑問に苦笑いを浮かべますぞ。
ふむ……これではお義父さんまで体調を崩されてしまうのではないですかな?
「……出来ればラフタリアちゃんって子が亡くなっているって話が誤報であって欲しいんだけど、アレだけの被害があった地で生存している事に期待するのは……難しいのかもしれない」
お義父さんはお姉さんのお姉さんが飲まずに置いたグラスの酒を飲み干します。
……おや? お義父さんは酒で酔わないのでは?
「村の子達の発見率も元康くんの報告よりも少ないし」
「絶対に次こそはお姉さんを救いだして見せますぞ」
「うん。それは絶対にお願いするよ」
既に俺のポータルにお姉さんが捕えられていたとされる場所の前を登録していますぞ。
ループ後はいつでも助けに行けますな。
無論、緊急で助けるつもりですが。
「ただ、まずはループよりも前を向いて行かなきゃいけない。サディナさん、みんなの前では元気に見せているんだけどさ、咳とか酷くなってる様に感じるんだ」
「そうですかな?」
お義父さんはお姉さんのお姉さんの部屋を見つめます。
「元々自分の弱い部分を見せない様にしてる人みたいだから、気づかない人も多いと思う。ラフタリアちゃんや村の子が死んでいるかもって時ぐらいしか、うろたえている所を見た事が無いし」
お姉さんのお姉さんは俺の記憶の中でも元気な方でした。
その点で考えれば、確かに少々元気がありませんな。
「……なんて言うかサディナさん、死んだ村の子達の後を追う様に弱って行ってるみたいで、見ていて辛いんだ」
お義父さんは遠い目をしながら呟きました。
「捜索を続けて見つければ良いですぞ。お姉さんの事ですからきっとひょんな所で見つかるかもしれませんぞ」
あのお姉さんですぞ。
幾ら子供であっても瞳に宿る意志の強さが俺の記憶に刻まれています。
俺にガミガミと勇者として人を導く事の大事さを説いた出来事が思い出されますぞ。
俺がお姉さんにナンパした時の記憶ですな。
きっとお姉さんがいたからこそ、フィーロたんはあそこまでのびのびと育ったのだと今なら思えますぞ。