説明はしない
「まあちょっとしか聞いて無いけど、アトラちゃんって言うんだっけ? ユキちゃんと同じく礼儀正しい喋り方だから似てる様に聞こえるんじゃない?」
「そうだろうな。後々差がわかるだろ」
「それで女王様、フォウルさんとアトラさんに何かあるんですか?」
樹が女王に向かって尋ねますぞ。
すると女王は扇で口元を隠しながら若干目を和らげました。
「そうですね。その事を説明するには少々時間が掛りますがよろしいですか?」
「は、はあ……」
了承を受け取った女王が扇を閉じて語り始めました。
「我が亡き夫、オルトクレイは元々、杖の勇者であるルージュ=ランサーローズと言う名前であり、年の離れた目の見えない妹がおりました」
「目の……見えない妹……」
お義父さんを含め、錬と樹が女王からフォウルと妹に視線を移しましたぞ。
なんですかな? クズにはいろんな出生があるのですかな?
何か聞いた様な覚えがありますが、若干忘れ気味ですぞ。
「このルージュの出生は色々と問題はあるのですが、そこはまあ省いても問題ないですかね」
「そうなのか?」
「ではお教えしましょうか。このルージュの本当の名前はルージュ=ランサーズ=フォブレイ。フォーブレイの王位継承権第三十番目の嫡子でした」
「元々はフォーブレイの王子? まあ、アレだけ王族が居るんだからそう言う事があっても不思議じゃないか」
お義父さん達は納得したように頷いておりますぞ。
まあ、フォーブレイでは色々とありましたからな。
「末の者ですが、そうです。ですが彼の王位を剥奪される事件が起こりまして、それがハクコ種によって両親共々親しい者を皆殺しにされた経緯があるのですよ」
「波乱万丈な人生を歩んでいるんですね」
「何かのアニメとかでやってそうな出生だね」
「幸い、ルージュとその妹は現場におらずに助かったのですが、その時の事件の責任をフォーブレイは政治的な理由でシルトヴェルトに追及しませんでした。その所為でルージュはフォーブレイ、シルトヴェルト双方に強い恨みを抱き、亜人と敵対する我が国に名字を変えて移住したのです」
「ああ、だから盾の勇者である尚文の事を憎んでいた訳か」
「今までのループで他にも理由が判明してますな」
前回だったか前々回だったかで婚約者からポロっと聞けた話ですぞ。
シルトヴェルトに息子まで殺されたのですな。
「そういや元康が前に言ってたな」
「で? それとアトラさんが何の関わりが?」
樹が核心を尋ねますぞ。
「そんなルージュには目に入れても痛くない盲目の妹がハクコの手によって……死んだであろう程の血がその場に残されていました。それからルージュは更に復讐心を募らせ、長年の末、シルトヴェルトの王をしていたハクコを打倒しました」
「あー……なるほどな」
錬が納得した様に何度も頷きましたぞ。
「ええ、勇者様方がお察しの通り、アトラさんの顔がルージュの大切な妹であるルシアと瓜二つなのですよ」
おお……そう言えばクズがお義父さんと和解したのはフォウルの妹が死んでからですな。
「とするとフォウルさんとアトラさんはあの王様の妹の子供かもしれませんね」
「そうだな。可能性は高いんじゃないか?」
ここでフォウルとその妹は困った様な表情を浮かべていますぞ。
「いや……そんな事を言われても、俺の母親の出生は詳しく知らん」
「お母様ですか? 私は物心つく前に亡くなられたので、よくわかりませんわ」
クズの親戚だったのですな。そう言えば、確かフォーブレイとの戦争後にクズがフォウルを気に掛けていたのはこれが理由だったのですな。
お義父さんに泣きつくフォウルを覚えていますぞ。
「元康くん、他人事な顔してないでこれも良く覚えて、上手く行けばあの王様を説得出来るんだから」
「そうなのですかな?」
「ええ、もしも生前のオルトクレイがその方を見たら……少しはイワタニ様への風当たりが軟化するでしょうね」
おお、女王やお義父さんからクズの処遇をどうするか頼まれていたので良い機会ですな。
「わかりましたぞ。もしも次があったらこれも覚えておきますぞ」
「あの王様がどんな行動をするかは分かりませんけど、宿命の相手の子供に妹の瓜二つの相手が居たら……杖の勇者として活躍してくれると良いですね」
「そうだな。じゃ無きゃメルロマルクがこんな被害を受けずに済む……か?」
「考えられなくもないですよ。あの王女の事ですからね。王様をどれだけ利用するか……未来の知識を使っても対処できるかどうか」
と、錬と樹は話し合いを始めましたぞ。
まあ、これも覚えておくべきな話なのでしょう。
赤豚ですかな? 絶対に殺しますから、問題は無いですぞ。
「アトラに何をさせる気だお前等!」
ここでお義父さんが事情を説明しようとして一歩下がりました。
あんまり親しくすると掘られると思って警戒しているのでしょう。
嫌がるお義父さんにそんな真似をさせませんぞ!
強引にお義父さんを狙っているようなら命を以って償って貰いますがな。
「問題ないですよフォウルさん。今回のフォウルさんではないので」
「はあ?」
フォウルは妹を背負ったままずっと首を傾げていましたな。
詳しい事情を話すかと口を開こうとした樹にお義父さんが止めて小声で囁きますぞ。
「詳しく説明するともっとフォウルくんは怒ると思う。説明はしない方が良いよ」
「なるほど、確かにそうですね」
「妹を見知らぬ相手に見せろと言う様なモノだものな。しかも今は既に死人だ。事情を信じるとは思えない」
「そう言う事、その時には親戚に見せてあげるとか言えば良いよ。ね。元康くん」
「わかりましたぞ」
と言う事で、クズにフォウルの妹を見せるのですな。
それだけでクズは最初の世界のようにお義父さんと和解をするのですかな?
少々疑問ですぞ。
「大分話が逸れちゃったけど、錬、樹……俺はノースフェラト大森林へ遠征に行くまでの間はメルロマルクで色々と仕事があるからフォウルくん達のLv上げとかお願いするね」
「もちろんですよ。ついでにフォーブレイからの依頼とかもやっておきます」
そんなこんなで一週間、フィーロたんの卵の捜索を並行しながらお姉さん探しを続行しました。
お義父さんの話ではノースフェラト大森林を使って一気に引き上げるという事で、まだ孵化させておりませんぞ。
カルミラ島の時と同じですな。
それで、お姉さんの捜索ですが、やはりその後は音沙汰がありませんな。
お義父さんが管理していた奴隷達も僅かに集める事が出来ましたがやはり赤豚の怨霊事件の所為か、発見率は伸び悩んでいますぞ。
むしろ貴族も奴隷も民間人も赤豚の所為でかなりの数が死んでいますからなぁ。
全ての原因は赤豚ですぞ。
「……」
お義父さんが何やら真剣そうな表情でお姉さんのお姉さんを見つめております。
現在、俺達は女王が用意した部屋に泊っておりますぞ。
「サディナさん、最近無茶し過ぎだよ。気を付けてね!」
お姉さんのお姉さんは見つかった奴隷達の世話というか、ケアをなさっておりますぞ。
どうやらお姉さんのお姉さんはお義父さんと一緒に軽く狩りに行って、無茶な突撃をしたそうですな。
「あらー、お姉さん怒られちゃった。ケホ」
ただ、お姉さんのお姉さんは最近風邪気味だそうで時々咳をする様になっていますな。
「まったく……海の魔物の経験値が思いのほか多いのは良いけど……その分、強いんだから」
お義父さんがそれから何度か打ち合わせとばかりに海中での話し合いをしておりました。
お姉さんのお姉さんは海中での機動力は目を見張るモノがありますからな。
今回、お姉さんのお姉さんは鬱憤を晴らすかのような突撃をしていたとの話の様ですぞ。
「ねえ……」
「ん?」
そこに助手がお義父さんの裾を摘まんで尋ねてきました。
「どうしたの? ウィンディアちゃん」
「後少しでまた遠出するんだよね?」
「そうだね。ウィンディアちゃん達にはサディナさんの村の子や各国の兵士達のLv上げを手伝ってもらおうと思ってるよ」
「うん、それは良いんだけど……」
助手は何やら目線を外へと向けていますな。
「どうしたの?」




