不確定
「うあ……う……」
お義父さんが限界を超えて青ざめていました。
お姉さんのお姉さんは絶句してへたりこんでいます。
「奴隷紋の主登録を解消後、遺体の引き取りは私の所で致しました。メルロマルクの奴隷販売法に基づき、近隣の森に用意された奴隷墓地に埋葬を致しましたです」
「お、思われる。ってだけだし、サディナさんも気を強く持って! その……念の為に確認に行ってみようよ!」
「そう……ね」
お義父さんがそうお姉さんのお姉さんを慰めるのですが、お姉さんのお姉さんの方は若干震えている様に見えますぞ。
「ただー……」
魔物商が何やら申し訳なさそうに汗を拭っております。
どうしたのですかな?
お義父さんがそれを聞いて眉を寄せながら魔物商に視線を移します。
「四聖勇者様方がメルロマルクの大事件の解決をなさった際に墓地から無数の遺体がアンデッド化しましたので、遺体の確認は困難を要するかと思いますです。ハイ」
今度はお義父さんが限界を迎えた様に仰け反り、ふらふらとお義父さんは俺の方へ歩いて来て肩を掴みました。
さすがの俺だって空気を読みますぞ。
「うん。ループってこういう展開があるのは知ってる……けど、きついね。多分、そのラフタリアって子は凄く勇ましかったんだと思う。だから元康くんも間違えちゃったのかもね」
「そうですな。お姉さんはとても勇敢でお義父さんの頼れる相棒でした」
今でも覚えていますぞ。
タクトに追い詰められた時、お姉さんはその身を以って俺を含めてみんなを逃がそうとしてくださるほどの方でした。
あの時は、老婆がお姉さんを庇って逃がしてくれたのでしたな。
フィーロたんも酷いダメージを受けていたのを覚えていますぞ。
あの老婆も勇敢でしたな。確かお姉さんの師匠だとか。
まさかお姉さんがこんな末路を歩んでいるとは思いもしませんでした。
いや、まだお姉さんと確証は得られていませんが。
「お義父さん、言わなくてもわかりますぞ。樹の様に、次のループがあったら必ずやお姉さんを助けてみせますぞ」
「本当にお願いするよ! もう、こんな犠牲者は絶対に出さない様に!」
わかっていますぞ。
お姉さんはフィーロたんのお姉さんでもあります。
ストーカー豚とは違って優先すべき存在でしょう。
絶対という文字を何個も付けて俺は脳に焼き付けました。
「ではお姉さんのいる場所を覚えておかねばいけませんな。ここでお義父さんが購入する形にすれば良いのですかな?」
「いや……出来る限り早めに助けて欲しい! 仮にこの情報が間違っているとしてもね」
そうですな。
もしもこの情報が間違っていても、お姉さんがここに来た時期に回収する、という手もありますからな。
足繁くここに通えば見つかるかもしれません。
手段は多い方が良いでしょうな。
それに死体が無い以上、何もお姉さんだと確定した訳ではありません。
希望を捨ててはいけませんな。
お義父さんはお姉さんのお姉さんに気を強く持つように何度も言ってますぞ。
お姉さんのお姉さんの方は大丈夫と答えていますが、ちょっとお疲れに見えますな。
「せめて奴隷紋の追跡とか出来れば良いんだけど、遺体は無理だよね」
「土壌等によってはアンデッド化する事はありますが、あの墓地で発生するとは思いもしませんでしたです。ハイ」
徘徊した死体を一から探すのはそれこそ途方も無い時間が掛りますからな。
挙句、損傷が激しいので判別など出来ますかな?
既にアレから二カ月は経過しております。
腐敗も進んでいるでしょうし、メルロマルクの復興の為にゾンビ類の死体は一ヶ所に集められて処理されたと聞きますぞ。
見つけるのは不可能でしょうな。
「ではお姉さんだと思われる奴隷の持ち主を時系列で教えて欲しいですぞ」
「こちらが調査した結果の資料となりますです。ハイ」
と、魔物商の渡した資料に俺は目を通しました。
どうやら俺が召喚された日から一週間前後はとある貴族の元にいた様ですぞ。
これは移動も含めています。
それから一週間程、ここの魔物商の所におり、次の主の所へ行って容体が急変して死んだ……みたいですな。
ちなみにこの貴族は赤豚怨霊化の被害を受けて既に死んでいる様ですぞ。
死んでいなかったら殺しに行く所ですな。
「ではその現地のポータルを取って、少しでも早く助けられるようにしておきますぞ」
「お願いするね。仮に間違っていたとしても、絶対にその子を見つけてあげて」
「ですぞ!」
お義父さんの願いに俺は強く記憶に刻み込みました。
死んでいる確証が無いというのは希望ですな。
俺もフィーロたんが見つからない身、お義父さん達がますます近くに感じております。
そんな折、ポータルで樹と錬達がメルロマルクの城にいる俺達へ会いに来ました。
お義父さんは樹達に事情を説明しました。
「あの……尚文さん、気を強く持ってくださいね」
見つからず、死んだのではないかと思われるお姉さんの話を聞いて、樹がお義父さんを慰めています。
樹と錬の方はフォウルの育成をしたりした様ですな。
で、フォウルの妹にも強力な薬、イグドラシル薬剤を使用して元気にさせたそうですぞ。
「俺の方はまだ大丈夫だけどサディナさんは気が気じゃないんじゃないかな……村出身の子も死亡報告が多くてさ……」
俺の目にはお姉さんのお姉さんは普段通りに見えます。
ですがお義父さん曰く、相当まいっているようですな。
まあ、追跡調査で村の奴隷達は少しだけですが保護出来ていますぞ。
ただ、赤豚が怨霊化した時の事件の影響で死んだという者がかなりいるみたいですがな。
「そうですか……」
「ただ……きついね。こう、元康くんの話では俺の頼れる相棒だったって言うじゃないか。そんな子が死んでるかもしれないと思うとさ」
「……お前が盾の勇者か?」
そこにフォウルがやって来て挨拶とばかりに手を差し出しますぞ。
ふむ、中々に礼儀がなっているではありませんか。
最初の世界のこいつとは少し違いますな。
「アトラを助けてくれた分、俺は戦う。以後世話になる」
そう手を差し出すフォウルにお義父さんは軽く握手を交わした後に微妙な表情を浮かべました。
「えっと、これからよろしくね。出来れば錬や樹達の指示を受けるようにお願い」
「ん? わかった」
フォウルは首を傾げていますぞ。
違和感は持った感じですな。
「さ、アトラ、行こうか」
「はい、お兄様」
おお、妹の方も元気な様ですぞ。
まだフォウルに背負われている様ですがな。
しかし背負われる程能力が低下している様には見えません。
あれならきっと歩けると思いますぞ。
などと考えていると、そこに女王がやってきました。
「これはアマキ様、カワスミ様……此度の報告、残念な結果になり申し訳ありません」
「いえいえ、まだ尚文さんの仲間が亡くなったと確定した訳じゃないので」
「そうだな。出来る限りの情報網を駆使して頼む」
「承知しております。セーアエット領の亜人達が早く元の生活に戻れるよう、女王として尽力を注ぐ限りです」
という所で女王はフォウルとその妹を見ますぞ。
「おや? そちらの者は新たな仲間でしょうか?」
「ええ……ハクコ種というメルロマルクでは因縁の深い種族だそうで……」
「悪いとは思ったんだがな。上手く加入させられた事を尚文と元康に報告しようとこうして直接な」
女王がフォウルとその妹をマジマジと見つめますぞ。
何かあるのですかな?
「これは……なるほど」
「な、なんだ?」
「何かありましたか? 私、よくわかりませんわ」
「そういえばアトラさんはユキさんと似た口調ですよね」
空気にトーンダウンしていたユキちゃんがそこで首を傾げました。
隠れていた訳ではなく、慎ましく俺の傍にいたのですぞ。
「そうかしら?」
「お兄様、似ていますか?」
そこでフォウルは首を振りますぞ。
「似てるはず無いだろ。アトラはアトラだ」
「元康様、私、あの方に似ていますか?」
ユキちゃんが俺に聞いてきますぞ。
全然似て無いと思いますぞ。
言ってはなんですが、最初の世界の記憶を紐解く限り、あの妹は割とお義父さんが煙たがるほどで錬や樹も手を焼いていた暴れん坊だと思っております。
最後こそ、素晴らしい人物でしたがそれ以外で言えば豚と俺は思っていたでしょうな。
ちなみにあの頃、何度か本気でスキルを放ちましたぞ。
器用に受け流されてしまいましたがな。
「俺も似て無いと思いますぞ」
ユキちゃんの方が優雅さや品があると思いますな。
野蛮人みたいなフォウルの妹ですぞ。
最初の世界でも割と血の気が多いと聞いた気がしますから絶対に似てません。




