お姉さんの消息
ポータルでメルロマルクに到着した俺達は就寝中の女王に無理言って会いましたぞ。
「……イワタニ様とキタムラ様、こんな夜遅くに何のご用でしょうか?」
女王が若干眠そうであるのはしょうがないでしょうな。
時間が時間なので。
「夜分遅く申し訳ありません。城の人達に尋ねれば良いかと思ったのですが……」
「そうでしたね。イワタニ様達の謁見の場合、まずは私を通す様に手配していたので問題はありません」
お義父さんはペコペコと何度も頭を下げていますぞ。
女王に遠慮など必要なのですかな?
「それで今晩は何のご用でしょう? なんとなくですがカワスミ様と同様にキタムラ様から話を聞いて来たと言う様に見受けられますが」
「あ……はい。実は――」
お義父さんは女王に先ほど、俺から聞いた話を説明しました。
主に最初の世界における村の連中についてですぞ。
「何処かで見た事があると思ったら……父の領地の民であったのか」
エクレアがお姉さんのお姉さんを見て言いますぞ。
どうやらお姉さんのお姉さんに何か言いたい事でもあるみたいですな。
「何故すぐに言わなかったのだ」
「あらー幾ら領主の娘さんと言っても混乱するメルロマルクで、お父さんの様に立ち回っているように見えなかったから、悪いと思っちゃったのよ」
お姉さんのお姉さんはどこ吹く風と言った様子でさらりと返します。
しかも獣化してエクレアに確信を持たせましたぞ。
「信用が置けなかったという事か……」
「あらー?」
エクレアが諦めるかのように呟きますな。
お姉さんのお姉さんは違うと言うかのように手を振ってますが、逆に肯定している様に見えるのは俺の気のせいでは無いと思いますぞ。
「つまり我が国にいる亜人奴隷の保護をしたいという事で間違い無いですね?」
「そうなります」
女王の言葉にお義父さんが頷きますぞ。
「時間的にはちょうど良いのでしょうね。奴隷商人というのは夜こそ稼ぎ時だと聞きます」
「一応、人目を気にする職種ですからね。ですから女王様のツテでどうにか出来ないでしょうか?」
「少々お待ち下さい」
女王が配下の者に色々と命じている様ですぞ。
きっとすぐに話が付くでしょう。
「何分、三勇教と我が娘の亡霊の影響で国の被害が大きい現在、目当ての方が見つかる保証はありませんが、国の者に手配をいたしましょう」
「助かります」
そうしてお義父さんと俺達は女王が手配した者の案内で城下町内にある奴隷商人組合を回る事になったのですぞ。
お姉さんのお姉さんが村の者達の名前、種族を逐一メモした物を渡しておりました。
「はぁー……セーアエットのあの村出身の奴隷達ねー……取引されたのもいるとなると追跡調査になるが、時間が掛ると思いますよ」
ただ、その日は奴隷商人達も探すという事に終始する方向で終わってしまいました。
名前を聞かずに記号で取引しているのも多いそうですぞ。
武器や防具の様にナンバー登録をやれ、ですな。
しかもお姉さんと同族のラクーン種は地味に数が居るそうで、探し当てるのは難しいのだとか。
そういう意味では魔物商でキールを取り寄せた時は奇跡的な状況に思えます。
いや、あの魔物商自体が実は有能なのではないですかな?
「ハイハイ。勇者様から直接の依頼ですね。ハイ」
「よ、よろしく」
お義父さんは若干引き気味ですな。
前回のループが思い出されますぞ。
それから俺の耳元で小声で四聖教の教皇みたいな人と呟きました。
やはりそう思いますかな?
きっと遠縁なのは間違いないですぞ。
「ちなみにお義父さん。最初の世界でお義父さんと良く話をしていたのはこの魔物商人ですぞ」
「そうなの? じゃあもしかしたらこの人の所で買った可能性が高いかも?」
俺の言葉にお義父さんが頷いて魔物商に聞いていますぞ。
おや? こやつと会った事が無いのですかな?
まあ……考えてみれば今回は会う機会が無い様な気もします。
しかしメルロマルクでフィロリアル様の卵を購入したと聞いたのですが。
「あの、それでラフタリアという子やキールって名前の子を探しているんですが……」
「ハイ。メルロマルクの奴隷商人が総動員で追跡調査をしていますです。ハイ」
「あ、そうですか……」
耳が早いですな。
そんなこんなでお姉さんや村の奴等の捜索は始まったのですぞ。
女王の口添え等もあり、奴隷商人達は村の連中を血眼で探した様ですな。
出せば高額で買い取ってくれるのでしょう。
奴隷商人達はお得意の貴族等にも掛けあって探したのですが、偽者がかなりの数集まったらしいですぞ。
翌日から三日程、お義父さんとお姉さんのお姉さんが定期的に奴隷商人の所へ行っては脱力して返ってきました。
「人間逞しいと言うけど、見知った人がいるにも関わらず偽者を掴ませようとしてくる商人に絶句だね」
「罰として見せしめに殺しますかな?」
「なんで殺す方向になる訳? あと……奴隷を購入して助けてあげたくもなるけど、それをしたらキリが無くなっちゃうしなぁ。凄く困ったよ」
「ナオフミちゃん、ごめんなさいね」
お姉さんのお姉さんの言葉にお義父さんは首を振ります。
そうですぞ。お姉さんのお姉さんが謝罪する必要は無いですぞ。
全ては偽者を持ってくる役立たずな商人が原因ですぞ。
やはり殺しますかな?
「良いの良いの。俺がやりたかった事だし、サディナさんの守りたい人達だからね」
「ナオフミちゃん、ありがとう」
お姉さんのお姉さんは心から礼を述べている様に見えますな。
それとは別にお義父さんの顔色は暗いですな。
「お義父さん、顔色が悪いですぞ」
「ま、まあね。なんて言うか……あの王女が怨霊化した事件でかなりの被害者が出ててさ。亜人も人間も、貴族すらも関係なくね」
なんと、これは嫌な感じがしますな。
あの時の事件がここでも尾を引くのですかな?
メルロマルクの国土の半分近くまで被害が広がりましたぞ。
まさに赤豚はこの世界の害悪でしかありませんな。
そんなこんなで村の奴隷達の中で当たりが見つかり始めましたが……俺が覚えている、村出身と言う奴隷の四分の一くらいしか見つかっていませんな。
すぐに見つかりそうなキールすら消息が掴めないとは、随分といろんな所で取引されている様ですぞ。
「捜索範囲を近隣国まで伸ばして見るしかないかもしれない。あの事件前に結構な数の奴隷商人が移動していたみたいなんだ」
「捜索は難航している様ですな」
ちなみに錬と樹、パンダは割と直ぐにフォウルを見つけたそうですぞ。
その妹も一緒に見つけたそうで、一安心ですな。
ただ、お義父さんはあんまり近寄りたくないと言うので会いに行ってませんぞ。
ホモ疑惑がトラウマになっているのですかな?
そんなこんなで四日目になりかかった頃ですぞ。
「えー……盾の勇者様が探していたラフタリアという者の追跡調査が終わりましたです。ハイ」
魔物商人が汗を拭いながら答えますぞ。
雰囲気からあんまりよくないとお義父さんは思っているのか震え気味ですな。
しかもお姉さんのお姉さんに至っては普段の陽気な空気は何処へ行ったのか、凄く真面目な顔をして魔物商を見ています。
「そ、そう。じゃ、じゃあ教えてくれない?」
「ハイ」
魔物商は資料を広げながら説明を始めました。
「その奴隷、ラフタリアと思われる奴隷は捕えられた後に複数の奴隷商人と貴族などに渡った様です。何度も取引された記録があります。帳簿によると私の所でも一度、買い取りをしていました。ハイ」
「そうなの!? じゃあ貴方の所に?」
お義父さんの問いに魔物商人は首を横に振りました。
「残念ですが、買い取り後、五日経過した所で新たな客に購入されて行きました。その時点で大分衰弱していたのを記憶しております。病を患っていたので、割引で売却致しましたです。ハイ」
「そんな――」
と言い切る前にお義父さんは堪えた様ですぞ。
お姉さんのお姉さんは若干パリッと雷を体に纏わせている様に見えますな。
おお、お姉さんのお姉さんが怒っている様ですな。
珍しい光景ですぞ。
ですが堪えた様です。
黙って見つめておりますぞ。
「その後、購入した貴族が鞭で打ってすぐに容体が急変し……」




