お姉さん
「そうですぞ」
俺の言葉に錬や樹、お義父さんが脱力する様にそれぞれ見合いますぞ。
「ああ、錬もそう思った? サディナさんと知り合ってからそうなんじゃないかと俺も思ったんだけど元康くんがあの時否定しなかったからさ」
「錬さんがフィロリアルが三羽と言った時ですね」
「ああ、元康が特に反応しなかったから疑問に思わなかったんだが……元康の話の中で矛盾と言うか違和感があってな。フィーロって奴が尚文の最初のフィロリアルっぽい事を言っておきながらお姉さんだろ? 前々から気にはなっていたんだが、事件が立て続けに起きたし、元康も否定しなかったから聞かなかったんだがな」
「てっきり年下のフィロリアルが成長してフィーロさんって子の姉としての役割を演じていたのかも……? と無理矢理辻褄を合せていましたよ」
「確かにフィロリアルは個体差があるからね」
と言う所でお姉さんのお姉さんがお義父さんの腕を掴んで身を乗り出す様に聞いてきますぞ。
何故お姉さんのお姉さんがそんなにノリ気なのですかな?
「あらーじゃあその私の妹分の子の名前はなんて言うのかしら?」
お姉さんですかな? お姉さんはとても元気で意志の強い方ですぞ、お姉さんはメルロマルクで奴隷をしていましたが、パンダやハクコ種の奴隷の様にきっと戦闘奴隷とかでゼルトブルに流れ着くのではないですかな?
もしくはお姉さんのお姉さんの様に上手く立ち回っていると思いますぞ。
とは思いますが、お姉さんは俺が愚かにも助けようとした時に、弱りきった奴隷に手当てをして戦うすべを教えられるか、と聞いてきたのが印象的ですぞ。
やろうとして失敗したからトンチか何かだと思ったのですが違うのですかな?
てっきり、この国は亜人差別をしているから気づきなさいという、俺が気付かなかったメッセージだと思ったのですが。
そもそもお姉さんの名前を忘れる事など出来ません。
なんせフィーロたんのお姉さんですからな。
「ラフタリアお姉さんですぞ。フィーロたんのお姉さんにして、最初の世界ではお義父さんの右腕として頼りにしていた方ですぞ」
お義父さんがくらっと額に手を当てて、お姉さんのお姉さんが支えながらも目を細めております。
「元康くん……」
お義父さんが何やら呆れた様な声を出しました。
おや? 俺はまた何か失敗をしてしまったのですかな?
「尚文さん」
樹が腕を組み、それから手招きします。
「ウェルカムです」
ガクッとお義父さんは脱力しましたな。
そして錬が大きな声で言いました。
「元康、またか!」
「本当、いい加減にしてくださいよ!」
「ちゃんと聞かなかった俺達の所為でもあるけど……これは……」
脱力するお義父さんとは異なりお姉さんのお姉さんは興味ありげに俺を見ておりますぞ。
「で、元康。そのラフタリアという奴は何処で仲間にしたか知らないか?」
「わかりませんな。そもそも最初の世界以外で会った事がありませんぞ」
「ええ!?」
「おいおい……」
「尚文さん、きっとリーシアさん並みに探すのが難しいのを覚悟すべきですよ」
「うう……今度は俺の番なのね。元康くん、そのラフタリアってどんな子なの?」
お姉さんですか?
ラフタリアお姉さんはとてもスタイルの整った美少女ですぞ。
タヌキ系の亜人で、髪の毛の色は茶色。背中まで伸ばしていました。
戦えないお義父さんの剣を自称し、修行を頻繁に行なっていましたな。
カルミラ島で腕立て伏せなどのトレーニングをしていたのが懐かしいですぞ。
なんとか、という流派を覚えてからは、それに拍車が掛かり特に戦闘面で強くなっていましたな。
そこでお姉さんのお姉さんが思わせぶりに人差し指を立てながらお義父さん達に答えますぞ。
「ラフタリアちゃんはそうねー……ナオフミちゃん達が面倒を見ている子達、サクラちゃんくらいの背格好の女の子よ?」
「違いますぞ。エクレアくらいの背をした女性ですぞ」
何を言っているのですかな?
俺の知るお姉さんはそんな感じの容姿をしておりましたぞ。
「サディナさん、知り合いなの?」
「ええ、私が探している子の……一人よ」
「そうなんだ。で、元康くんの知識と外見が違う。元康くん、続きを聞かせて」
「耳と尻尾は狸のような……種族名はなんて言いましたかな? ああ、確かラクーンとか聞いた様な気がしますぞ」
赤豚が愚痴っていたのを覚えておりますな。
「ラクーン種かい? じゃあそれなりにふくよかな体型をした奴なんだろうね」
パンダが何やら種族的な説明をしているのですかな?
お姉さんはぽっちゃり系ではありませんでしたぞ?
「いえ、顔の良さで言えばお姉さんのお姉さんと負けない程ですな。体型も太ってませんぞ?」
「太りやすい種族だけど、それとは異なる感じ?」
「……そうね。ラフタリアちゃんはどっちかと言うと痩せてる方ねー」
「確か亜人はLv上昇で肉体成長も加速するんでしたよね。僕達の仲間になっているウィンディアさんやイミアさんはどちらかと言うと小柄な方ですけど」
「フィロリアル共の成長程では無いだろうがな」
「多分、元康くんが見たのは成長後の姿だと思って問題ないだろうね」
「ナオフミちゃん、お姉さんからもお願いできないかしら? 私も探したのだけれど、ゼルトブルじゃ見た事が無いのよ」
おや? お姉さんのお姉さんが普段よりも熱の籠った感じでお義父さんに頼んでいますぞ。
何かあるのですかな?
「ゼルトブルの奴隷市場で頼めば取り寄せとか出来るかもしれないけど……見つからないとなると、サディナさんが本来居たって言うメルロマルクにまだいる可能性が高いかも」
お義父さんは分析を始めましたぞ。
「急いで探しに行った方が良いか……」
「ですね。尚文さん、僕もリーシアさんを見つける時に苦労しました。女王に協力を仰いだ方が良いと思いますよ」
「そうだね。どうせメルロマルクでフィーロって子を探す予定だったから丁度良い」
「ナオフミちゃん、お姉さんも一緒して良いわよね?」
「サディナさんの知り合いならもちろんだよ。元康くん、他にいない? 仲間で足りない子は」
「そうですなー……」
俺の記憶の範囲だと、もう大体は仲間にしたのではないですかな?
実際、お姉さんくらいだと思いますぞ。
ああ、他にも居ましたな。
「ハクコの奴隷の妹も村にいましたな」
当初俺は問題のあるハクコ種の奴隷の妹だと思っていましたが認識を改める出来事があったのですぞ。
奴は鳳凰の爆発からお義父さんやフィーロたん、さらにはフィロリアル様の命をその身を以って庇ったのですぞ。
「フォウルという奴の妹も一緒に探せば良いのか」
「他には?」
「お義父さんが得た領地は元々エクレアの親の物だったそうで、お姉さんの故郷だったとか聞いた様な気がしますな。そこ出身の奴隷をお義父さんは集めたとか聞きました」
キールとかもそうですな。
ああ、そう言えばキールの事をすっかり忘れていましたぞ。
あの豚に変身する犬が居ませんな。
モグラと仲が良かった覚えがありますが、今回はキールが、前回はモグラが居ませんでした。
「その辺りの連中の名前までは覚えていませんが、キールなどがそれですぞ」
「サディナさん、そのキールって子は知っている子?」
「ええ、ラフタリアちゃんと仲の良い子よ」
「つまり……サディナさんにとって知り合いばかり俺の仲間になっていたって事ね」
「あらー。じゃあちょうどいいわね。ナオフミちゃん、村の子をみんな助ける事が出来ないかしら?」
「もはや、ここまで来たらね。サディナさんも色々としてくれてるし、良いんじゃないかな。エクレールさんも領地の復興とかさせたいだろうし」
そうですな。
最初の世界の様に、拠点があると色々と楽ですぞ。
お義父さんの村の様に。
という所でお姉さんのお姉さんは若干視線を逸らし気味に答えますぞ。
「領主様ねー……あの方が亡くならなかったら、もう少し結果は良かったかもしれないわね」
「知ってるの?」
「あら? 言わなかったかしらー?」
「初耳だよ! と言うかエクレールさんの事も知ってるんじゃないの? あの人は領地の再建を夢にしてる人なんだよ?」
「それはどうかしらねー? 見た感じだとエクレールちゃん、どっちかと言うと武術にしか興味無さそうよ」
「……そうだな。エクレールは俺達の仲間として活動する事を女王に命じられて復興の方は後回しにしているな」
確かに、最近では霊亀との戦いなどに備えて修行をしているイメージの方が強いですぞ。
鳳凰の話をしたら、更に訓練を積むとかなんとか。
「その辺りを察して黙っていたんですか?」
「何でも人頼りにするのはお姉さんもちょっとと思ったのよ」
「しかし……なんでエクレールはサディナの事に気付かなかったんだ?」
「確か見覚えがあるとか言ってたよね? サディナさんと接点があまり無かったんじゃないの?」
それは考えられますな。
お姉さんのお姉さんと言えど、領主の娘と村人ですからな。
と言う所でお姉さんのお姉さんが朗らかに答えますぞ。
「お姉さん、エクレールちゃんのお父さんが管理していた領地に居た時は常時獣人の姿だったし、エクレールちゃんは気づかなかったんじゃない?」
「どうしてそんな隠れる様な真似を……」
「あんな事があったばかりだったし、娘ってだけで信用するには難しいとナオフミちゃんならわかるんじゃないかしら?」
「まあ……ね。イミアちゃんの親戚の村の復興も順調とは言い難いしね……」
そうなのですかな?
錬や樹が復興の手伝いと称して何かしている様でしたが、上手く行っていないのですか。
お義父さんは納得した様ですぞ。
「とりあえず、歴史通りに村を復興させるとかは期日の関係で難しいかもしれないけど、サディナさんの助けたい子達の保護に乗りだそう。まずはその、ラフタリアって子の捜索だね」
「俺と樹はフォウルって奴とその妹を探す。見つけたら合流して手伝うから待っていてくれ」
「俺もお義父さんに着いて行きますぞ」
フィーロたんを見つけなければいけませんからな。
それにお姉さんがいればフィーロたんも見つかるかもしれません。
姉妹の絆という奴ですな。
「了解……という事で俺達は急いでメルロマルクに行こうか」
「わかりましたぞ」
「サクラちゃん達やガエリオンちゃん達は……うん。明日の朝になったら迎えに来れば良いか」
「ナオフミちゃん」
「ん? サディナさん、どうしたの?」
「メルロマルクは亜人にはとても厳しい国なの。だからお願いね。ラフタリアちゃんや村の子達を見つけましょう」
お姉さんのお姉さんがお義父さんに頼みこみました。
「うん、そうだね。最悪の結果になっていない事を祈って行こう」
という事で俺達はサクラちゃん達を置いてメルロマルクへとポータルで飛んだのですぞ。