貫通撃破
「あらー……?」
そこでお姉さんのお姉さんが地に手を付けて目を細め、心臓のある場所を凝視していますな。
どうしたのですかな?
それからバチッと雷の魔法を作動させましたぞ。
「な、なの? 今……変な流れが見えたなの」
「ガエリオンちゃんもわかったみたいね」
「何かあるの?」
お姉さんのお姉さんが心臓のある場所より僅かにしたを指差しますぞ。
「心臓に何処からか力が流れているなの」
「再生させる為のもう一つの心臓とか? もしかしたらここ以外の本当の心臓があるのかも!」
お義父さんが閃いた様に言いましたぞ。
というかお姉さんのお姉さんは良く気付きましたな。
きっと雷の魔法を使うから電気信号とかに敏感なのですな。
魔力の流れまで感知するとは……凄いですぞ。
「こっちがダミーだとして……じゃあどうやってその道に行けばいいのかな?」
お義父さんがマッピングしていた地図を広げますぞ。
色々と複雑な場所ですな。
改めて確認すると覚えるのが面倒な場所の様ですぞ。
「ありそうなのは……んー……」
「なの! 魔力の流れからしてきっとあっちなの!」
「そうね。間違いないわ」
お姉さんのお姉さんとライバルは俺達が戦っている心臓の下の方を指差しますぞ。
これはアレですな。
最初の世界でお義父さんがやったと言われる作業を俺がやれば良いのですな。
「お義父さん」
「何? 元康くん」
「こういう時は道を探すのではなく作った方が早いですぞ。ついでに本当の心臓をぶち抜くのはどうですかな?」
俺の意図を察したのかお義父さんがにやりと笑いました。
「なるほど、方角が特定できているなら良い手だね。元康くん、お願い出来る?」
「もちろんですぞ!」
元からやるか検討していたのですから、良いでしょうな。
俺は心臓を流星槍でぶち抜いてから槍に力を込めますぞ。
既にお義父さんから援護魔法が掛っています。
きっと外では樹がダウンを掛けているでしょうな。
何処にあるかもわからない本当の心臓への道を探すくらいなら……その心臓諸共道を切り開いて見せますぞ。
ただ、言われてから気づいた訳ではありませんが、かすかに光る何かが見えた気がしますぞ。
俺の槍の先が光り輝き、全てを貫く閃光へと変貌して行きます。
「ブリューナクⅩ!」
意識を集中し、例え外したとしても心臓への道を作る為の穴を作り出して見せますぞ。
再生させるには時間が掛る程の力を込め、今、全てをぶち抜いてやりましょう!
「喰らえ! ですぞ!」
最大出力のブリューナクが霊亀の偽心臓の下目掛けて発射されました。
肉を焼き焦がし、本当の心臓目掛けて俺の放ったブリューナクは飛んで行きましたな。
「おおー……凄いなー」
お義父さんがその穴を見て呟きます。
やがてカッと強い光が穴から溢れだし……霊亀がドスンと静かに倒れ込んだ様ですぞ。
心臓の再生も止まっていますな。
視界に浮かぶ青い砂時計も七から八に切り替わりました。
ふわりと何か淡い光が穴から出て来て消えていきますぞ。
その中で一つ、大きな光が抜け出て行ったのが印象的ですな。
アレはなんですかな? チラッと見えたのですが本ですかな?
「勝った……?」
「上手く当たったんじゃないかしらー?」
「そうなのかな? とりあえず潜って確認してみようか」
「これだけ大きい穴ならガエリオンが飛んで確認するなの!」
「サクラもー」
「コウも行くー」
「はいはい。じゃあみんなで確認しようか」
と言う事で俺達は俺が開けた穴の中に潜って行き、本当の心臓部があったと思わしき空間へと辿り着いたのですぞ。
ですが、俺のお陰で部屋はほぼ、風穴があいていて、僅かに何かあった程度しか認識できませんでした。
「やりすぎちゃったけど、これで倒せたんだから良いよね」
「ですな」
「じゃあ、帰ろうか」
「やっと霊亀を倒せましたぞ!」
俺はこの世界に来て、やっとお義父さんと霊亀を倒す事が出来た感動を噛み締めておりました。
前回のお義父さんが出来なかった無念を、やっと叶える事が出来たのですな。
ちなみにお義父さんは翌日になってまた幽霊を見たと騒ぐのをここに記載しますぞ。
ありがとうと言われたらしいですな。
目の前でパアっと消えてしまったそうで、ソウルバキューマーの盾でも見えなくなってしまったとか。
何か霊亀に恨みでもある過去の悪霊だったのではないかと錬と樹が言っていたのは別の話ですな。
「まったく! 仲間はずれだなんて酷いですわ!」
ユキちゃんがプリプリと怒っております。
霊亀を倒した後、俺達は当たり前の様にユキちゃんが出場するフィロリアルレースを観戦し、応援しました。
レースはもちろん、ユキちゃんの圧勝でしたぞ。
パンダはユキちゃんが勝つというのを半信半疑で賭けた影響か、儲けられなかった様ですな。
お義父さんが同額をユキちゃんに賭けて儲けた万羽券をパンダにあげていました。
大興奮でパンダはお義父さんに抱きついてましたな。
勝利に喜ぶユキちゃんは全身を使って観客席で見ている俺達にアピールしておりました。
ですが、その後、サクラちゃんやコウ、更に他のフィロリアル様達から実はユキちゃんをメンバーから外して霊亀に挑んだ事を知り、俺達へ異議を言いに来たのですぞ。
現在、俺達はゼルトブルのフィロリアル関連施設が用意した宿舎で休んでおります。
サクラちゃんやライバル、その他の幼いとお義父さんが思った者達は既に部屋の方で休ませております。
エクレアは女王の補佐を自発的にすると言う事で霊亀の処理を手伝いに行きました。
霊亀の処理は女王に任せたのですぞ。
「俺はユキちゃんの夢を叶えたいと思って、心を鬼にして内緒にしたのですぞ」
「仲間はずれは嫌なのですわ!」
責任感が強く、ワガママを余り言わないユキちゃんが珍しく地団駄を踏んでおります。
可愛らしいですな。
「まあ……元康くんもユキちゃんの事を考えて内緒にしていたんだから、ユキちゃんも……って難しいよね」
お義父さんが困った様にユキちゃんを宥めますぞ。
その光景を錬も樹も温かく見守っています。
ユキちゃんを怒らせてしまいましたが、みんなの優しさを感じられる結果になりましたな。
「あらー」
お姉さんのお姉さんも騒ぎを聞きつけてやってきます。
そしてお姉さんのお姉さんはユキちゃんに話しかけました。
「ユキちゃん、だったかしら? モトヤスちゃんもユキちゃんの事を考えての事なのはわかってるわよね?」
「レースは世界が続く限りは出られる機会はありますわ! ですがこのような重大な事件に外されたのは我慢なりませんわ!」
「一理あるわねー」
お姉さんのお姉さんも納得して俺の方を見ていますぞ。
いいえ、俺は間違ってなんていませんぞ!
「わかってはいたが、元康はどう答えるか」
「ですね。尚文さん、貴方が無理を言ってユキさんに伝えれば良かったんじゃないですか?」
「え? 俺の責任になるの? 幾らなんでもそれは暴論じゃない? それに俺は、元康くんのユキちゃんにレースをさせてあげたいって気持ちを悪いとは思わないよ」
そうですぞ。お義父さんは俺に決断を委ねました。
ユキちゃんにレースを優先させたのは俺の決断で間違いはありませんぞ。
俺は全てのフィロリアル様の願いを優先する使命があるのですぞ。
ユキちゃんがどれだけレースに備えた努力をしているか、知らない訳じゃありません。
元々ユキちゃんはサラブレッドのフィロリアル様、負けず嫌いで走る事に関しては普通のフィロリアル様には譲れない想いがあるのですぞ。
そんなユキちゃんに夢を諦めろ等、言えるはずもありません。
次がある? ユキちゃんの今を守れなくて何が次なのですかな?
俺は過去に豚にやっていた誘惑的な手つきでユキちゃんの頬に触れ、優しげな瞳で呟きます。
イメージは桃色吐息が出そうな程、甘い声音で囁くように答えるのですぞ。
「ユキちゃん。良く覚えておくのですぞ。霊亀なんてユキちゃんの手を煩わせるほども無い、道の小石も同然なのですぞ」




