霊亀討伐作戦
「元康さん……」
そこで錬は肩を軽く上げ、溜め息交じりに答えました。
「良いんじゃないか? 霊亀なんて今の俺達からしたら雑魚も同然……とまでは言わないが、ユキの手を煩わせる必要も無かった雑魚と言い切れる様に勝てばいい」
「……わかりました。じゃあ元康さん、ユキさんのレースへ間に合う様に霊亀を仕留めましょう。そうすれば問題がなくなります」
「確かユキちゃんが参加するレースは明後日の昼過ぎだったね。じゃあそれまでの間に俺達で霊亀を倒そう!」
「わかりましたぞ! この元康、霊亀を倒してさも当然の様にレースに出るユキちゃんを応援しますぞ!」
期限が設けられましたな。
俺はユキちゃんの為にも、世界の為にも、今まで以上に素早く霊亀に挑む事を決めたのですぞ。
お義父さんが霊亀に挑む人員を選出しました。
今回は女王が同行してくれるそうですぞ。
ただ、連合軍を編成するには時間が足りなかったので、ポータルで連れていけるギリギリの人員になるそうです。
俺達は育てたフィロリアル様が大半ですな。
「サディナさん達やラーサさん達は参加しなくても良いからね」
と、お義父さんが暗に来なくても良いと伝えるとお姉さんのお姉さんが一歩前に出て陽気に答えますぞ。
「何言ってるのーお姉さんは手伝うわよー。ナオフミちゃん達だけに頼っていたら悪いじゃなーい」
「なら、あたい等はやめておこうかね。下手に怪我でもしようものなら困るし、命を掛けるほどかと言うと怪しいからねぇ」
「大丈夫よササちゃん。ナオフミちゃん達なのよー?」
そう言えばお姉さんのお姉さんに連れられてお義父さんは、海でLv上げを始めた様ですな。
お姉さんのお姉さんの伸びが良くて大分面白いとおっしゃってましたな。調整不備が気になりますがな。
同時にサクラちゃんとライバルのLvが相当上がったそうですぞ。
「サディナさんは随分強くなったと思うけど……」
「まああんた等と一緒なら大丈夫かねぇ。報酬も弾むんだろう?」
「それはもちろんだよ。見ての通り俺達のバックにはメルロマルクとフォーブレイ、二つの国がいるからね」
「じゃあ状況次第で逃げるかもしれないが、参加させてもらうよ」
「うん、わかったよ。じゃあラーサさん達に逃げられない様、ちゃんとみんなを守るからね。それしか俺は出来ないから」
そう答えるお義父さんに、お姉さんのお姉さんは何やら真面目そうに頬に手を当てますぞ。
「サ、サディナさん?」
「ナオフミちゃん? あんまり自分を蔑にしちゃダメよ? そりゃあ守ることしかできないと言ってるナオフミちゃんだけど、お姉さんはそんなナオフミちゃんが心配よ」
「は、はぁ……」
「みんなナオフミちゃんの事を大事に思ってるわ。だから、ナオフミちゃん、自らの命を呈してまで私達を守ろうとしちゃダメなのよ?」
「わ、わかってますけど……それじゃあ俺がいる意味が……」
おや?
お義父さんの顔が若干赤くなっているように見えるのは気の所為ですかな?
とはいえ、さすがはお姉さんのお姉さんですぞ。
もちろん俺がそんな状況には絶対にさせません。
お義父さんがピンチになる前に敵共を屠りますからな。
「守られるというのは時に守られた側が苦しくなる事を、ナオフミちゃんは自覚して」
「は、はい……」
「私もナオフミちゃんの力になれる様にがんばるから、一人で前に立っちゃダメよ。魔法というのは何のためにあるのかを考えて。私達は力を合わせてナオフミちゃんを守ることだって出来るんだから」
と、告げてからお姉さんのお姉さんは手を離しました。
「……」
お義父さんはキョトンとした表情でお姉さんのお姉さんを見ておりました。
「という事でお姉さんは儀式魔法でナオフミちゃんの援護をするわよー」
「そういえばお姉さんのお姉さんは魔法が得意でしたな」
確か儀式魔法や合唱魔法の統一をしておりました。
ユキちゃんの抜けた穴はお姉さんのお姉さんがやってくれるのではないですかな?
「じゃあお姉さんのお姉さん、フィロリアル様達の儀式魔法の指揮をお願いできますかな?」
「任せて! お姉さんがんばるわよ。ササちゃんは必殺攻撃を放てば良いんじゃないかしら?」
「余裕があるならやってやるよ。しかし、このピリピリした感じの方があたいには合ってるねぇ」
パンダも乗り気なようですな。
傭兵というのは刺激を求める生き物なのでしょう。
「後は女王か」
配下の兵士達と打ち合わせをしていた女王がこちらにやってきましたな。
「キタムラ様……霊亀はキタムラ様の話ではどのように討伐されたか、もう一度確認の為にお教えください」
「そうですな。最初の世界で戦った霊亀は頭と体内にある心臓を同時に倒す事で討伐出来た、そうですぞ」
実際はお義父さんがどうにか倒したというのが正しいですな。
この頃の俺は霊亀から逃げて潜伏している最中だったのですぞ。
豚共に逃げられたショックもありますがな。
「ただ、前回はそれでは倒せませんでした。何でも鳳凰の封印が解けていた所為で、倒す条件が増えたとお義父さんが分析していました」
「ふむ……改めて確認すると、鳳凰と霊亀の同時討伐をしなきゃいけないとは……」
「今の僕達なら辛うじて出来そうではありますね」
「そうだな。だが、まだ鳳凰の封印は解けていない。封印が解けるのならやるしかないだろうがな」
「頭と心臓の同時撃破……とりあえず外側がどれくらいの敵なのかを判断したいね」
「今の俺達からすれば雑魚ですぞ」
前回も俺は霊亀の頭を何度も消し飛ばしましたから間違いありませんな。
むしろ錬と樹がいる今、負ける方が難しいですぞ。
「わかっている。じゃあ……ここから霊亀に向かって出発するぞ。決戦はいつ頃になる?」
錬の言葉に女王が配下の者から聞きますぞ。
「このまま進軍すれば明後日の朝方には遭遇すると思われます。ただ……各地で潜伏していた霊亀の使い魔による襲撃が発生し、各国が対処に追われている状況です」
そういえば傷だらけの竜騎兵が女王の元へやってきましたな。
隣国だったかの兵士で、メルロマルクに伝令をする最中、霊亀の使い魔にやられた様ですぞ。
通信設備が麻痺気味らしいですな。
「その問題も兼ねて霊亀をさっさと倒すべきだな。元康、霊亀の使い魔は霊亀を倒せば死ぬんだろ?」
「わかりませんな。ですが、お義父さんが霊亀を倒した最初の世界ではその後は見ていませんぞ」
「推測の域を出ないのが歯がゆいですね」
「しょうがないだろ。どちらにしても俺達がやる事は一つしかない」
「そうだね。だけど最初の世界とは大きく違うよ」
お義父さんが前に出て錬と樹に言いますぞ。
「俺達が揃ってる。俺が勇者として一人で戦ったのとは違うんだ。錬、樹、そして元康くん。今度こそみんなで霊亀を倒そう!」
そう告げるお義父さんの盾の宝石がピカッと光った様に、俺は見えました。
「だな。それじゃあ、出発するとしよう」
「ええ……ではリーシアさん、留守を任せます」
「ブブェ……! ブブブー!」
ストーカー豚が樹に全力で手を振ってますぞ。
もう完全に最初の世界のストーカー豚なのではないですかな?
「では出発ですぞ! ポータルスピア!」
俺達は各々転移スキルで連れていける最大人員を連れてポータルで出発したのですぞ。
翌日の深夜……。
霊亀がどのように動いているのかが霊亀の封印された国の隣接した国からの伝令で判明しました。
封印が解けた後は国内の命を狩りつくさんと動きまわっていた様ですぞ。
この辺りは前回も変わらないのではないですかな?
その後は西に向かって進路を取るのは変わりません。
まだ遭遇までには時間がありますな。
「凄く遠くから足音が聞こえる様な気がしない?」
「そうだな……間違いない」
「もう少しで見えるようになるかもしれませんね」
現在、俺達は霊亀の進軍先である方角をさかのぼる様に進み、途中の草原で野営をしております。
ポータルで帰って休むのも手なのですが、何時でも戦えるようにとの事でここでする事になりました。
まあ、霊亀の近くではポータルが使えませんからな。
翌日の朝に出発と言う所で移動不可になったら目も当てられませんぞ。
そしてお義父さん達の会話を聞いて、俺は耳を澄ましました。
遥か遠くから時々ドシーンと音が聞こえてきますぞ。
「今日はフィーロたんのチョコを買いに行く日ですぞ!」
と、言って元康は出かけていった。




