原因不明
フォーブレイの豚王にこの事を報告して一週間、メルロマルクの波が後一日と近付きつつある頃。
お義父さん達と一緒にフィーロたんの卵を捜索していた矢先の事ですぞ。
ちなみにメルロマルクの波は女王が鎮める事が決まっておりました。
女王も城の兵士達と共に波を鎮める経験をしたいとの話でした。
そんな時、バキンと俺の視界に青い砂時計の表示が現れたのですぞ。
「……え?」
お義父さんが俺と錬と樹を交互に見ております。
俺も、錬も樹も唖然とした表情でお互いを見ますぞ。
おかしいですな。
錬も樹も目の前に居るにもかかわらず封印が解けましたぞ。
「い、一体どういう事だ?」
「僕達は何もしてませんよ?」
「期限だってもっとあったはずだ」
「まさか、錬や樹みたいにゲーム知識で霊亀の封印を解いた転生者がいた、とか?」
「……ありえない話じゃないですね」
「他にも、ゲームの頃と期限に差があった可能性もある」
なんと、錬や樹が行かなくても封印が解けるのですかな?
お義父さん達の話では転生者が起こしたのではないかと推理している様ですぞ。
「数字と元康くんの説明からして霊亀だけど……」
「元々外交を兼ねて行く予定だった場所です。王と女王に話を通している最中だったんですよ?」
そうでしたぞ。
錬と樹さえ押さえておけば霊亀復活は抑えられると思っていたのに、何処かの転生者が起こしたのですかな?
いい加減にして欲しいですぞ。
「被害を最小限に抑えるためにせめて僅かな時間だけでも避難させられるよう調整するって日程だったはず……」
「ちょっと待ってください。避難も無い状態で霊亀が復活したという事ですよね?」
「とにかく! 俺達がやらなきゃいけない事は霊亀を倒す事で決定だ」
「だな。しかし……場所が場所だ。ポータル類は取っていたか?」
「鳳凰の方はありますぞ。後は前回の周回で霊亀に向かっている最中の所で取ったポータルが……残ってますな」
霊亀の方へ向かったと思われる錬と樹を追いかけていた時の残りですぞ。
危うく消す所でしたが役に立ちますな。
「それは良いね!」
「ただ、それでも霊亀までは二日は掛るでしょうな」
何だかんだでこの世界は広いですからな。
フィロリアル様が不眠不休で走れば一日で辿り着けるかもしれませんが、お義父さん達のコンディションを考えると難しいでしょう。
「フォーブレイの飛行機を使うのとどっちが早いだろうか……?」
「飛行機の発着場が問題ですよ。フォーブレイからの出発ではポータルの方が早いと思いますよ?」
「そうだね。霊亀の攻撃で飛行機が落とされたら困るしね」
「あらー? どうしたのー?」
などと話をしているとお姉さんのお姉さんとパンダが話しかけてきました。
ちなみにお姉さんのお姉さんとパンダはクラスアップ後にLv上げをしていた様ですな。
その配下達も順調にLv上げをしたらしいですぞ。
お姉さんのお姉さんの能力の伸びが良いそうでお義父さんが驚いておりました。
ただ、エクレアの様に細かい調整が出来ないとも仰ってましたな。
何が理由なのですかな?
「イワタニ殿、その様子……勇者しかわからない何かがあったのではないか?」
俺を含めてお義父さん達との話にエクレアも事態を察した様ですな。
「ああエクレールさん、サディナさん。実は――」
お義父さんは霊亀が復活した事をみんなに伝えました。
「そんな化け物を相手にしなくちゃいけないのかい?」
パンダが逃げる算段をするかのような目をしていますな。
逃亡は許しませんぞ?
「うーん……サディナさん達やラーサさん達はLvとか能力、資質に若干不安が残るから……退避してても良いかもしれない」
「そうですね。下手に一緒に居ては危険かもしれませんし」
ちなみに樹の隣にはストーカー豚が割と元気に座っております。
応答が出来るようになってから三日辺りで歩けるようになって、樹を慕って同行していますぞ。
俺にはブーブーとしか聞こえませんがな。
「ブブェエエエ……」
「大丈夫ですよリーシアさん、貴方も安全な所に居てください」
「ブ、ブブ……」
「気持ちはわかりますがリーシアさん、貴方はまだ立ち直ったばかりですし、これから強くなろうとしている所なんです。今はどうか辛抱してください」
樹が優しく語りかけるとストーカー豚はウットリとした様な表情で頷いた様ですぞ。
空気を作ってますな。
俺もフィーロたんとこんな感じの甘い空気を出したいですぞ。
「尚文の周りも賑やかだが、樹は何かピンクな空気を纏い始めたな」
「錬さん! 茶化さないでください! そもそもそういう貴方はどうなんですか!」
樹の指摘に錬はエクレアと助手を見ますぞ。
まあ無難な選定ですな。
「なんだアマキ殿?」
「ん? なに?」
そして軽い溜め息を吐いてから錬は樹の方に視線を戻しました。
「コイツ等は無いだろ」
「どういう意味だ、アマキ殿!」
「私にはお父さんがいるもん!」
エクレアと助手が憤慨していますな。
何やら樹も若干呆れた様な表情をしていますぞ。
どうやら最初の世界とは違い、錬はエクレアと助手に恋愛感情を抱いていない様ですな。
「霊亀に挑むとしてイミアちゃんの親戚はやっぱ出せないなぁ……まだ底上げの段階だし、戦闘に出られる人数もそこまでいないしなぁ」
「あ、あの……私は一緒でも大丈夫ですよね?」
「イミアちゃんが出たいなら……大丈夫かな?」
「大丈夫なの! イミアちゃんはガエリオンがちゃんと守ってあげるなの」
「ありがとうねガエリオンちゃん。とりあえずメンバーの選定として、サクラちゃん、コウ、フィロリアル達は後方援護を頼めるかな?」
「わかったー」
「コウもー」
ちなみに現在、ユキちゃんはレースに備えた最終調整でゼルトブルのフィロリアルレースの舎におりますぞ。
「ユキちゃんは……いないけど呼び戻すべきかな?」
「レースが控えているのですぞ!」
「世界とレースを天秤に掛けるのはどうなんですか?」
樹が俺に尋ねてきますぞ。
ふむ、そうですな……珍しく樹がまともな事を言っていますな。
その言葉にお義父さんが答えますぞ。
「たぶん、ユキちゃんに言えば二つ返事で来てくれると思うけど、これまでずっと準備していたユキちゃんに言うのは……」
お義父さんの言葉に樹が申し訳無さそうに黙りこみます。
そうですぞ。ユキちゃんはレースを楽しみにしていたのですぞ。
ユキちゃんの気持ちを考えると霊亀風情の雑魚が足枷になるなど、あってはならないのですぞ。
「呼んだ場合レースに出られないかもしれないし、呼ばなかったらユキちゃんは怒るだろうね。呼んでも呼ばなくてもユキちゃんを傷付ける事になると思う。どっちに思いやりを割くかは元康くんが決めるべきだと思う。元康くんは……どうしたい?」
お義父さんが俺に向かって選択を迫ります。
俺はここ二週間の出来事を振り返りますぞ。
フィロリアルレースへのユキちゃんの情熱……俺自身の学習、レースへの備え等、やってきた事は数限りないですぞ。
ユキちゃんはレースに備えて食事制限もしておりますし、運動制限もしています。
足への注意を十分に払っておりました。
レースは間近ですぞ。今、レース準備中のユキちゃんを管理している舎から出せば失格となります。
霊亀が復活したからレースを諦めてくれと言えますかな?
フィロリアル生産者も色々と無理を通してくれたのですぞ。
「人命を考えたら優先すべきなのは、僕達が一刻も早く霊亀を倒す事です。すぐにでもユキさんを呼びもどすべきだと僕は思いますよ」
「待て樹……フィロリアル達は沢山いるんだ。ユキの抜けた穴を埋める事くらいは出来るだろ。ユキの夢の為にも霊亀なんて俺達が仕留めてやれば良い」
錬と樹がそれぞれ主張をぶつけていますな。
人命は確かに重要ですぞ。
ですが、ユキちゃんには夢があります。
きっとユキちゃんは俺が頼めばレースを諦めるでしょうな。
ですがレースの為に必死になっていたユキちゃんの苦労を俺は無駄には出来ません。
心を鬼にしてでも俺はユキちゃんの苦労を水の泡にさせられないのですぞ。
「ユキちゃんは……レースに参加させるべきですぞ。お義父さん、ユキちゃんの為に霊亀へ挑むのを早める事は出来ませんかな?」
「そっか……うん。元康くんが決めたのなら、俺はそれ以上言わないよ」
「例えユキちゃんに怒られたとしても、俺はユキちゃんに告げませんぞ」




