盾の勇者が見た幽霊
「あらー?」
「な、なんだい? 勇者同士の争いの後は難しい話かい?」
お姉さんのお姉さんとパンダが何やら俺たちを交互に見ておりますぞ。
「陰謀を暴いた直後に話しても助けられるの?」
「む、無理ですね。連れ去られた時期が違います」
「かと言って、お前の所の娘は借金のカタに連れ去られるぞ、と注意してどうにかなるのか?」
「……」
樹が黙りこみますぞ。
「下手に注意したりしたら怪しまれるよ。元康くんの話には証拠が無いんだ。普通の人が説明されても信じるかな?」
「無理だな。俺なら信じない」
「アマキ殿……まあ、私もそうだったからな。難しい話だ」
「かと言って勇者として勧誘したいと言ったらそのリーシアさんは来るのかな? むしろそこまで熱心に樹に尽くしてくれる?」
「そう考えたら、まだ今の方が……良いかもしれないぞ。傷物になっても優しくしてくれる男性で勇者様だ」
「な、なるほど……ですが連れ去られた日付さえちゃんと覚えておけば、僕は向かう事が出来るはずです」
「その時の樹は後ろめたい気持ちになりそうだがな」
錬がそう告げると樹は若干仰け反り、しおしおとへたり込みました。
「わかりました……僕の負けで良いですよ。ですが元康さん、ちゃんと日付を教えますからその時にさりげなく僕の背中を押してリーシアさんを助けさせてください」
「お義父さんに注意されましたからな。わかりましたぞ」
「はぁ……どうしてこうなったのか」
「全部元康くんの所為……にするには実は難しい問題だったね。こう、時系列的な意味で」
「勇者ってのは難しい話題をしてるんだねぇ」
「そうねー。でもちょっと気になるわー」
とまあ、話をしてから各々今日の予定をこなす事になったのですな。
そんな昼過ぎですぞ。
お義父さんが青い顔をして昼食を食べている俺達の元へやってきました。
エクレアに始まり、お姉さんのお姉さんやパンダは各々自由行動をして貰っていますぞ。
「みんな! 幽霊を見たんだ!」
すごく緊迫した様な表情をしていますな。
今更幽霊ですかな?
「幽霊って……尚文さん、今まで何度幽霊や亡霊、悪霊と戦ったか覚えていないんですか?」
「そういう訳じゃないよ! こう……俺に何か助けて欲しいって話しかけて来た人が、一瞬目を離したら姿がパッと消えていたんだ!」
「助けて欲しいって、フォーブレイにしろメルロマルクにしろ、ちゃんと手順を踏めば良いんじゃないのか?」
「ですね。もしかしたら転移者の近くにいる裏切り癖のある女かもしれませんよ?」
「確かに何か妖艶な雰囲気を持った女性だったけど、裏切るタイプとは何か違って見えたんだよ!」
その特徴だと記憶の彼方にある赤豚と符号しますぞ。
ですが、お義父さんがそう言っているのですから、何か違いがあるのでしょうな。
「どう違うのですかな?」
「うーん。説明が難しいんだけどさ、本当に困ってる様に見えたんだ。なんか使命を果たせないとか、特例でお願いするとか言って盾の宝石が光ったんだ」
盾の宝石が光った?
お義父さんの盾の中心に付いている宝石部分を見ますぞ。
勇者の武器が反応したという事は何かあるかもしれませんな。
「宝石が光るとなると何かあるのかもしれませんね」
「敵の罠かもしれないぞ? 安易に触らせるなよ」
「そうなんだけどさ!」
お義父さんは俺の方に目を向けますぞ。
「何か元康くんが知ってる事とか無い?」
お義父さんの質問とあらば、深く考えて見ますぞ。
まず、そんな人物に心当たりはありませんな。
もしかしたら最初の世界のお義父さんにならあるかもしれませんが、間違っても俺は知りません。
この時期に何かあるのですかな?
まあカルミラ島の活性化が終わる頃ですから、最初の世界の俺達が愚かな蛮行を始める頃ですぞ。
この頃は事件が起こり過ぎて記憶が混濁気味ですな。
前回のループでも錬と樹が霊亀を復活させて困った時期なので、そんな幽霊が現れても気にもしなかったはずですぞ。
「ありませんな」
「ほら、元康さんもループ知識で心当たりが無いと言う事は、初めての出来事なんでしょう」
「うーん……俺の気の所為だったのかなー?」
「そんなに気になるんだったらラトさんにルーペを借りたらどうですか?」
「そうだね。幽霊が見えるって不気味過ぎるから使わない様にしてたけど、借りておこうかな」
「元康の持ってるソウルイーターの武器を上手く使いこなせるようになれば、ルーペ無しでも見えるんじゃないか?」
「見えますぞ?」
あの後、ソウルイータースピアで出来る事は無いかと色々と実験していたら魂が見えるという発見がありました。
きっとソウルイートという専用効果の真髄ですな。
伝説の武器の奥は深いですぞ。
「僕達からしたらソウルバキューマーですかね?」
「そもそもソウルイーターはいつ波から出現した魔物なんだ?」
「メルロマルクの二度目の波ですな。時期的にはもう一カ月くらい前ですぞ」
お義父さん達がゆっくりと、若干呆れ気味に俺を見ますな。
「えーっと、確かメルロマルクの女王様が解決させたんじゃなかったっけ?」
「そういう事を言っていましたね。となるとその時に出て来ていたんでしょうね」
「前回の周回で俺は参加しましたぞ。樹を生け捕りにしましたな」
「確か僕は王女に利用されていたんでしたよね? 僕を生け捕り……元康さんに生け捕りにされたとなるとどんな拷問をされたんでしょうね?」
拷問とは失礼ですな。
水をぶっかけたり、食事を無理矢理口に捻じ込む程度ですぞ。
「仲間に殺されない様に捕えたのですぞ」
「リーシアさんを見捨てた人が何を……」
「樹、根に持つのはわかるが脱線してるぞ」
「リーシアさん以外は碌な人が居なかったみたいですから……まあ、気持ちはわかりますけどね」
「捕えた樹がお義父さん特製の食事を『悪からの施しは受けません』と言うので、強引に口にねじ込んだだけですぞ。他はうるさかったのでスリープスピアで眠らせていましたな」
「監禁拷問か……前回の樹の苦痛が手に取る様にわかるな」
「今も十分に苦しんでますよ!」
樹はどうもストーカー豚の事を根に持ちますな。
ストーカーなど理解できませんぞ!
「でもリーシアさん、思ったよりも元気そうだったね。俺も驚いたよ」
「悪いのは元康さんと僕であるのはわかってますけど……それが唯一の救いですね」
「このまま元気になってくれるといいな」
「ええ……」
「話を戻すけど、樹はあの王女と王様、それと三勇教に良い様に利用されていたらしいからね。確か革命まで起こったんだっけ」
「そう考えると恐ろしいですね。正義の味方面して、悪行三昧……もはや何が正しいのかわかりませんよ。その中でもリーシアさんの様に困っている方を救えたり……本当に正義とは難しい事ですね」
樹はゾッとするかのような顔をしてから何度も頷いていますぞ。
そうでしょうとも。
前回の樹はウザかったですからな。
「実際、生け捕りにした元康くんにも大きな問題があったと思うんだけどね」
「ですが三勇教が婚約者をお義父さんの目の前で殺そうとした揚句、誘拐疑惑を出して罪をでっち上げたのですぞ? 樹は正義面をして俺の話など全く聞き入れませんでした」
「自業自得……なのでしょうけど、少しくらい相手の話に耳を傾けて欲しいですよね。前回の僕は」
「とまあ、お義父さんの名声が高過ぎた所為で革命は元より、シルトヴェルト軍が攻めて来て、大変だったのですぞ」
「それでループしたんだったか?」
「違いますぞ。その時はお義父さんがシルトヴェルト軍からメルロマルクを守るために前に立って交渉をしたのですぞ」
「……やっている事だけを見ると尚文さんはいつでも英雄みたいな行動してますね」
「実際は調子が良い、面倒見の良いオタクなのにな」
「な、なんで俺が蔑まれる展開?」
「まあ元康さんの証言ですし、尚文さんが輝いて聞こえるのはしょうがないですね」
「確かその時の俺はゼルトブルの方へ逃げてて、女王率いる連合軍と一緒に凱旋して勇者面をしていたんだったか」
概ね間違っていないので俺は頷きますぞ。
まあ錬は錬で役に立ったと思いますぞ?
今回の錬は何故か自己評価が低いみたいですがな。
「勝ち馬に乗ったみたいだな。変わって樹は悲惨だったろうな」
「でしょうね」
「何かあると揚げ足を探していましたな。まるで自分は悪くないとばかりでしたぞ」
樹が何やら苦々しい表情をしておりますぞ。
まあ俺からすれば見てきた事ですが、樹からすれば謂れの無い事ですからな。




