姉御の幸せ
時間になるとお義父さんとサクラちゃん、助手にライバル、そしてモグラが各々荷物を纏めて出かけようとしております。
俺ももちろん、準備は万端ですぞ。
「じゃあ待ち合わせをした場所に行こう」
「行きますぞー!」
「元康くん何処行くのー!」
走りだしたいこの衝動を誰も止められませんぞ!
なんてやっている内に待ち合わせの場所らしき、海沿いの海岸へと到着しました。
港とはちょっと離れた場所ですぞ。
船がチラホラ見えますなー。
遠くには島もある様ですぞ。
「ここで待ち合わせの予定なんだけどー」
「ナーオーフーミーちゃーん!」
お姉さんのお姉さんが陽気なステップでお義父さんを呼びますぞ。
お? 隣にはパンダも居ますな。
既に頭にはリボンが巻いてありますぞ。
「やあ、サディナさんにラーサさん。二日酔いとかしてない? してるなら薬を処方するよ?」
「問題ねえよ。お前等にからかわれて酒を楽しむ余裕が無かったからな」
「「「姐御の水着!」」」
パンダの配下が血走った目で映像水晶を握りしめております。
事前準備が出来ている様ですぞ。
と言うか、モテモテですな。
「ああ、あの恥じらう姐御の表情……凄く微笑ましい!」
「悔しいがあの兄貴と姉貴に感謝しなきゃな!」
「そうだな。悔しいが姐御を譲ってやっても良いぜ」
「お前等! ふざけんな!」
パンダが配下にゲンコツを与えていますぞ。
なんとも騒がしい連中ですな。
「君達はどうしてそう言う話を?」
さすがのお義父さんも呆れ気味ですぞ。
「まったく……何処をどうしたら、あたいがそんな浮ついた話を……」
「あら? ササちゃんの夢は白い屋根の家で旦那さんと幸せな家庭を築く事なんでしょ? もちろん、可愛らしい格好も込みで」
「な、あ!?」
パンダの声が裏返っていますぞ。
アレですな。
きっとお姉さんのお姉さんに酔いつぶされて暴露したとかですぞきっと。
「ギャップ萌えだね。しかし君達はラーサさんを誰かに取られて良いの?」
「姐御の幸せこそ、俺達の幸せ!」
「例え、闇に大きく足を踏み込んだ厄介者でも、姐御のハートを射止めたのなら、俺達は涙を飲んで受け入れる!」
「そう! 姐御の幸せな笑顔さえ見えれば良い!」
なんとも共感出来る発想の持ち主達ですな。
俺もフィーロたんのおっかけをしている時に同士と知り合いましたぞ。
大切な人の幸せを願うのは至極当然の事なのですぞ。
もちろん、俺はフィーロたんを幸せにする自信も覚悟も決意もありますがな。
「お前等……いい加減にしないと殺すぞ」
ボキボキとパンダが拳を鳴らしながら殺気を放っている様ですな。
「特にギャップ萌えと言ったお前!」
「俺? そうだ、お弁当の食材を探しに市場に行った帰りにラーサさんに似合いそうなカチューシャを見つけたんだった。後で付けてよ。他に毛を柔らかくする薬も手に入れたから今晩からでも使ってね」
と、気楽な感じにお義父さんはパンダに色々と手渡しましたぞ。
で、何やら呆れているのか放心しているのか怒りが飛んだっぽいパンダはキョトンと目を点にしてますぞ。
パンダの手を握ってからお義父さんは微笑みました。
「可愛らしいマスコットみたいになれるように、がんばってね。完成したらハグさせてね」
「あー……」
パンダは返答に困った様に、目を点にしたままお姉さんのお姉さんに毛並みをみられておりますな。
「あらあら、確かにちょっとごわごわね」
「うん」
「ササちゃんの毛並みが良くても、この二の腕とかはちょっとぬいぐるみっぽくは出来ないわ。筋肉質な所はどうするのかしら?」
「大丈夫でしょ、これくらいなら許容範囲。最悪衣装で誤魔化そう。ね? イミアちゃん」
「え? あ、はい」
モグラはお義父さんが何を言いたいのか察して、パンダの前でくるりと一周しましたぞ。
「ガエリオンも混ざるなの! なの!」
ライバルが負けじと何やらくるくる回ってポーズを取っております。
お前はどうでもいいですぞ。
で、モグラもライバルも既に水着を着用していて、ちょっと着飾り気味ですぞ。
もちろん、その上に鎧を着るのですがな。
「こんな感じで愛嬌を取れば気にならないもんだよ。ラーサさんはなんて言うか愛嬌さえあれば俺の知るリアルなパンダよりももっと可愛く出来るはず!」
「ササちゃんもイミアちゃんやガエリオンちゃんに負けないようにポーズ。ほら、恥ずかしがっちゃダメよ」
「お、おう! ――じゃねえ!」
パンダは乗りかけてお義父さんとお姉さんのお姉さんの手を弾きました。
「出かけるならさっさと出かけるんだよ! あたいを着飾る為に呼んだのかい?」
「そう言えばそうだったね。もっと時間を掛けて肉体改造って訳じゃないけど、ラーサさんを可愛くして行こうか」
「お姉さん楽しみだわー。ササちゃんが蝶として羽ばたく瞬間! まあ、じゃあ今日は色々と知り合う為に出発するわよー」
とまあ、お義父さんとお姉さんのお姉さんが用意した小舟二隻で海へと出発したのですぞ。
お姉さんのお姉さんは早速獣人の姿に変身して、船を引っ張って行きます。
中々の怪力ですな。
「サディナさん、大丈夫ー?」
「大丈夫よー」
「とはいえ、サディナさんの案内で沖に行く事になったけど……」
お義父さんはお姉さんのお姉さんが船を引いている事が気になるようですな。
「何なら櫂で漕ぎますかな? 俺が漕げば容易いですぞ」
ちゃんとバランス良く漕がないと大変な事になりますがな。
それでも無いよりは良いでしょう。
「そうだね。サディナさんの負担を少しでも軽減しようか。ついでに援護魔法も掛けるかな」
お義父さんはお姉さんのお姉さんとパンダ達を若干気にするように言いますぞ。
アレですな。勇者であるのをパンダに気づかれて大丈夫かと思っているのですな。
「ナオフミーサクラもお舟を引っ張るー? それとも魔法使うー?」
「サクラがやるならガエリオンもやるなの!」
「おっと」
助手が舟の上でバランスを崩しそうになったのをモグラが支えますぞ。
「まあ、風魔法で推進力を得るのは良さそうだけど、サディナさん、どうする?」
「下手にやると転覆するから気にしなくても大丈夫よー? まあ、一緒に引っ張ってくれた方が嬉しいわねー」
「私はやりますわ! 訓練になりますわよね?」
「ですな! ユキちゃん、がんばるのですぞ」
「そうだね。うん、魔法で援護をかけるね」
と、お義父さんは魔法に意識を集中しますぞ。
「リベレイション・オーラ!」
手始めに特に強化していない援護魔法をお姉さんのお姉さんに掛けた様ですな。
「あらー?」
それだけでぐいぐいとお姉さんが引っ張る舟の速度が上がって行きますぞ。
「次はユキちゃん」
まだ、お義父さんは複数形の魔法の習得が遅れ気味で失敗する危険性がありますからな。
特に警戒する必要が無いのなら順番に唱えるつもりなのでしょう。
しかし……リベレイションの部分が随分と小声でした。
どうしたのですかな?
「では行きますわ!」
ユキちゃんは舟から飛び出すとフィロリアル様の姿に変身しました。
そして水面を蹴って水鳥の様にお姉さんのお姉さんが引く縄を掴もうと……して、水面を走り始めましたぞ。
「あらま! ですわ!」
ユキちゃんが驚いた声を出して、縄を掴み損ねますぞ。
「な、な!?」
パンダとその配下が驚きの声を出していますぞ。
なんですかな? さっきから、驚いてばかりですぞ。
「羽生えたガキが変わった魔物に! それに水面を走ってる!」
「元康様ー見てくださってますかー?」
ユキちゃんが若干興奮気味に俺に手を振っていますぞ。
おお……なんとも懐かしい光景ですな。
お義父さんの機嫌が良い時、フィーロたんがお義父さんの援護魔法を掛けて貰って海の上を走っていた光景を思い出しますぞ。
そんな様子でユキちゃんが楽しげにしております。
「ササちゃん、水面を走るのは魔法があれば出来るじゃない。何を驚いているのかしらー?」
縄を引きながらお姉さんのお姉さんは言いますぞ。
「そういう意味じゃなく、単純にアレは肉体能力で海の上を走ってるだろ!」
パンダがユキちゃんを指差します。
「あ―……そうだね。ユキちゃんは特に魔法を唱えている訳じゃないし、俺の援護魔法以外は干渉を受けている気配は無いね」
むしろ、とお義父さんはユキちゃんを、何やら遠くを見る目で呟きます。
「右足が沈む前に左足を前に、左足が沈む前に右足を前に出して走ってるんだろうね。すごいなー」
「どんだけお前の援護魔法は強力なんだ!」
パンダの鋭いツッコミがお義父さんに決まりました。
「なんか楽しそー、ナオフミー、サクラもアレやりたいー」
サクラちゃんが羨ましそうに海の上を走っていくユキちゃんを目で追いかけて行きますぞ。
「ユキちゃんも本能で水面を強く蹴ったら凄い事になるのを知ってるみたいだしー……凄いね。そのうち空気を足場とかにして空を走れたりするかも」
「空を走れるのー? ならサクラに掛けてーガエリオンに負けたくない」
「負けないなの! なおふみを背に乗せて飛ぶのはガエリオンの仕事なの!」
助手は呆れたように溜息を漏らしていますぞ。
ところで俺が櫂で漕ぐ話はどうなったのですかな?




