水中訓練
「あらーお姉さんもうちょっとナオフミちゃんと楽しみたいわーささ、もう一杯」
とまあ、お姉さんのお姉さんはお義父さんに酒を飲ませようとしてますぞ。
「まだ飲ませようとするの? またタプンタプンでお腹壊し気味なんだけど」
「だってナオフミちゃん、全然酔わないじゃない」
「酔わないらしいからねー」
「あらー……」
どうやらお姉さんのお姉さんはお義父さんを酔わせるために同行しているように見えるのは気の所為ですかな?
ですがきっと飲み比べ勝負をしたいのですな。
「ま、サディナさんも大分酔ってる様だし、明日は狩りに出かけるなら帰った方が良いでしょ」
「わかったわーじゃあねー」
「はぁ……やっと解放された」
パンダも疲れ切った様子で酒場から出て行きます。
お義父さんは会計を持っていたのか、それとも事前に割り勘をしていたのか勘定を支払っている様でしたぞ。
「じゃあみんなー、眠いだろうけど帰ろうか」
「はーい」
「なんか楽しかったなのー」
「そう? ちょっと退屈だった。いろんな人種が見れたけど」
「あの、その……力になれたでしょうか?」
「うん、皆が居てとっても助かったよ。さあ元康くん、帰ろうか。サディナさんも家に帰って寝た方が良いよ」
「そうねー」
「そういえばサディナさんは何処で寝てるの?」
お義父さんがお姉さんのお姉さんに聞きますぞ。
そこ等辺の宿でしょうな。
「な・い・しょ」
そう言ってお姉さんのお姉さんはお義父さんに手を振ってゼルトブルの人混みの中へと消えて行きました。
「いろんな意味で謎の多い人だなー」
「そうなのですかな?」
村ではみんなに頼りにされるお姉さんのお姉さんでした。
確かに強いし頼りになるとは思いますが、そういう感覚はありませんが。
「奴隷関連には顔が利いてる感じだったし……何をしてる人なんだろう?」
「わかりませんな。最初の世界でも俺がお姉さんのお姉さんに会ったのは既に村でしたからな」
「へぇ……ポロっと聞いた感じだと奴隷狩りとか物騒な話も知ってる感じだったね。以前はメルロマルクに居たみたいだし」
確かお姉さんの村に居た猛者だったのではないですかな?
俺もその辺りは詳しくないですぞ。
「イミアちゃん達への反応から俺と同じ感じで、誰か保護してるんじゃないかな?」
「お義父さんは勘が良いですからな。それとなく聞くのも手ですぞ」
「そうだね。後、最初会った時、胸の辺りに僅かだけど奴隷紋が見えた……ただ、今日会った時には見えなくなってたんだ」
よく見ていますな。
俺は完全にお姉さんのお姉さんなど視界の外でしたぞ。
ずっとユキちゃんやサクラちゃん達を見ていましたからな。
「この国じゃ奴隷兼傭兵とかも居るらしいから不思議じゃないみたいだけどね。サディナさん……アレで結構やり手な印象を受けるよ」
「みんなの頼れるお姉さんをしていたそうですからな」
「うん、そんな感じだね……話を聞いた感じだと、エクレールさんやメルロマルクの女王様に聞いてみた方が良いかもね」
「わかるのですかな?」
「メルロマルクの亜人だったみたいだから……有名人かもよ?」
「なるほどですぞ」
お姉さんのお姉さんはどんな経緯でお義父さんの配下になったのか、俺は気にはなりませんが知って置いた方が良いとお義父さんは認識した様ですぞ。
まあお義父さんの命令とあらば、俺は労力を惜しみませんがな。
「まあ良いや、みんな眠くなってるよね。早く帰って寝ようか」
「サクラ眠い……ここで寝たいー」
「もう少しだけ待ってね」
「早く帰ろう。ガエリオン」
「なおふみと夜のお散歩を楽しむなの」
「……眠い」
「お姉ちゃんはガエリオンの背中に乗って寝てて良いなの。イミアも乗って寝るなの?」
ライバルが竜化しましたぞ。
モグラは顔の前で手を振ってますな。
「大丈夫」
「じゃあ……帰ろうか」
「わかりましたぞ」
こうして割と早めに俺達は宿舎に戻って眠る事になったのですぞ。
明日にはお義父さんはパンダを勧誘させる事を成功させますかな?
翌日の朝。
錬が報告とばかりにポータルでやってきましたぞ。
「おはよう」
「ああ、錬。おはよう。樹やイミアちゃんの親戚の調子はどう? 何か問題とか無い?」
「イミアの仲間達の方は問題ない。今日はエクレールと一緒に住処にしていた村へ行くつもりだ。上手く行けば良いが、ダメなら別の場所を確保する事になるだろうな」
「そう、だよね……樹の方は?」
「一応、女王が調べた所だと、何処の誰かの候補が上っている。時々樹が城に顔を出しに来るから来たら報告する予定だ。上手く行けば今夜、もしくは明日辺りに見つけるかもしれないな」
「そう……だね。上手く保護出来れば良いけど……」
「そうですな」
錬とお義父さんが溜め息交じりに俺を見ていますぞ?
なんですかな?
「で、尚文。そっちはどうなんだ?」
「ある程度話を付けているけど、もう少し信用が必要だね。今日はみんなで狩りに出かけるから、そこで上手く友好を育んでから傭兵として雇うつもりだよ」
錬が腕を組みながら何度も頷きました。
「順調と言った所か」
「まあね。とりあえず錬、上手く勧誘出来たとして、一緒に戦う仲間になるんだけど……思考は多分、結構異なるから喧嘩になるかもしれない。その辺りはちゃんと理解してよ?」
「わかっている。もう何人目の仲間だと思っているんだ」
「全部俺に丸投げしておいて……まあいいや。今日はそんな感じだから帰りは夕方くらいになると思うよ」
「ああ、俺もすぐに戻る。元康は……まあ、やりたいようにしていろ」
「ははは、俺はフィーロたんとお義父さんの為に戦うまでですぞ」
世界が真の平和になるその時まで、俺は前を向いて戦い続けるのですぞ。
とはいえ、今、俺がしなくてはいけないのはユキちゃんのコンディションとレースへの備えですな。
「じゃあ元康くん、ユキちゃん。またね」
「では行ってまいりますわ!」
「行きますぞ!」
俺とユキちゃんはお義父さん達に手を振って生産者の居るフィロリアルレースの関係の建物へと行きました。
が、すぐにお義父さんの元へと戻ったのですぞ。
「あれ? 元康くん、忘れ物?」
お義父さんは今日、予定通りに海へ出かける為に色々と準備をしている様ですぞ。
サクラちゃんにライバル、助手にモグラにと、水着を用意している様ですな。
「違いますぞ」
「ええ、違いますわ。あの牧場主様から言付けですわ」
そう、俺があの生産者の元へ行くと、生産者はユキちゃんにある程度訓練……運動をさせろと命じてきたのです。
なので言われた通りの事をしようと思っているのですぞ。
「今日はユキちゃんにプールの訓練をさせる予定だったそうですぞ。それを任されました」
「へー……脚部に負担を掛けずに訓練出来るから、とかかな?」
「そう仰ってましたわ。私の足は問題ないのに……ですわ」
「レース前の大事な時期だから、無理な事はさせられないって事かな? じゃあプールで泳ぐの?」
「ユキちゃんが泳げれば何でも良いそうですぞ」
どれくらいの距離までとか細かく指示はされていますがな。
とはいえ、ユキちゃんなら問題ないですぞ。
「水路を走らせても良いのですが、出来れば人の居ない所でやって欲しいと頼まれました。レースまでは隠したいそうですぞ」
生産者も色々と策を巡らせている様ですぞ。
関係者にユキちゃんを見せる時はフィロリアルの姿に成る様に命じて喋らない様に指示しておりました。
「じゃあ俺達と一緒に来る?」
「ですな! ユキちゃんの訓練にピッタリですぞ」
「良いですわね。途中で御暇する事になりますが、御一緒しますわ」
まあ、ユキちゃんはカルミラ島で十分に泳ぎを覚えているので、問題は無いと思いますがな。
「了解、じゃあ時間まで待っててね。俺はお弁当作っているからさ」
そう言えばお義父さんは泊った建物の厨房を借りて料理をしていた様ですぞ。
人数分の料理を運んで弁当箱に詰めております。
とまあ、俺達はお義父さんと一緒に海へと泳ぎに行く事になったのですぞ。




