負けフィロリアル
「エクレールの知り合いか?」
「すまない、よく思い出せん。どこかで会ったかもしれない、と思う程度だ」
まあエクレアは亜人獣人に関しては詳しいですぞ。
そういう経験もあるのではないですかな?
「ちなみに話した限りだと不思議なくらい話をしていられる人だと思うよ。話上手って言うのかな?」
「その割に随分と警戒していたな。尚文らしくないぞ」
「えっと……偽名を使っていた所があの王女と被ってちょっと引っ掛かっただけだよ。次はちゃんとやるからさ」
「そうか。もう大丈夫だと思っていたが、あんな風に裏切られたら簡単に克服は出来ないか……」
錬が心配そうにそう言うと、お義父さん達は揃って俺に視線を向けます。
お義父さん達はお姉さんのお姉さんが気になるのですな?
「で、どんな奴なんだ?」
「お姉さんのお姉さんですな。村ではどちらかと言えば獣人の姿で居て、村の奴隷達の親代わりをしておりました。お義父さんとはまた別の相談役と言った感じで、みんな頼りにしていた様ですぞ。その能力や行動は尊敬出来ますぞ」
何せフィロリアル様さえも信頼して困ったら訪ねて居た位ですからな。
お義父さんとは仲が良かったのかよくわかりませんが、相談をよくしていた覚えがありますぞ。
更に言えば義理とは言え、お姉さんのお姉さんなのですぞ。
様々な意味で尊敬できる人物ですな。
「元康がそこまで言う人物、しかも尚文並みの保育能力の持ち主か……確かに欲しいな。保母として」
「どういう理屈!?」
「……あのフィロリアル達の管理を考えるとな。尚文だけでは心もとない」
「錬、エクレールさんもそうだけど俺に全部丸投げをせずに、錬や樹がみんなの世話をすれば良いだけなんだけど?」
お義父さんが呆れるかのように言いましたな。
その通りですぞ。
錬や樹がもっとお義父さんの負担を減らせれば、世の中もっと良くなりますぞ。
「他に魔法にも詳しくて、龍脈法も習得しているそうですぞ。戦闘時、みんなを連れて儀式魔法や合唱魔法の要役をしておりました」
「相当優秀みたいじゃないか。これからの事を考えて信頼できる相手なら仲間に引き入れるべきだろ?」
「そりゃあね……ゼルトブルに詳しいなら、頼りにしてみるかな」
「うむ。とりあえずイワタニ殿は昼過ぎまで仮眠を取るのだな?」
「そうさせてもらおうかな。その後はイミアちゃんとサクラちゃんを連れてサディナさんに会いに行くよ」
「ガエリオンも行きたいなの!」
黙っていたライバルが自己主張をしましたな。
そう言えば助手は何処ですかな? まだ寝ているのでしょうか?
「その方が良いな。私もアマキ殿と一緒に出来る限りの策を講じてみよう。イミア殿の親族を見つけるのだ」
「俺はどうしますかな?」
「うーん。元康くんはなー……」
おや? お義父さんの反応が鈍いですぞ。
「ユキちゃんのコンディションを整えておいてくれれば良いかな。フィロリアルレースに出るんだしね」
「わかりましたぞ。生産者の話を出来る限り聞いて覚えますぞ」
主治医と話していた難解な論理も覚えるべきでしょうな。
フィーロたんに出会う事が目的ではありますが、フィロリアル様の事をもっともっと俺は知りたいですぞ。
「人探しもするが、コロシアムの観戦もしておくか」
「そうだな。確かゼルトブルでは信用を得るのにコロシアムは良い方法だと聞く。アマキ殿の腕なら余裕で名を轟かせられるであろう」
「勇者だから当然だろうな……どちらにしても国の連中と話を通してみるか」
「お願いするね。じゃあ……後で」
お義父さんが本当に眠そうにのそのそと歩いて行って、部屋のベッドで寝てしまいましたぞ。
「樹はこれから仲間を探すだろうし、尚文はパンダの勧誘、元康はフィロリアル関係の視察で、俺とエクレールは国の連中に謁見してコロシアムを見る……忙しくなりそうだな」
「ですな」
「元康は本当に調子が良い。お前がもっと説明するのが上手かったらこんな事にはならなかったんだぞ」
と錬が何やら騒いでおりますが、俺は今日の仕事であるフィロリアルレース関連での勉強を始めたのですぞ。
その日、俺はユキちゃんとフィロリアル生産者に色々と聞きました。
「あ? なんだ?」
「手続きは終わりましたかな?」
「盾の勇者から聞いてないのか?」
「昨日は聞きませんでしたな」
「ああ、そういや会ってなかったか。で、なんなんだ?」
「俺もフィロリアルレースに興味がありますぞ」
ズイっと俺は生産者に顔を近づけて聞きますぞ。
生産者は困った様な顔を浮かべて二、三歩下がりました。
「そ、そうか。で、何が知りたいんだ?」
「一から十まで、フィロリアル様の知る全ての知識を一から学びたいのですぞ」
フィロリアルレースにはいろんな種類があって騎手が乗るパターンから乗らないパターン、更には障害物競争、芝、ダート等色々とあるようですからな。
あくまで俺はフィロリアル様の品種と特徴くらいしか知りませんぞ。
もっと、必要な事を学ばねばならないと痛感しました。
「とは言ってもな、お前の熱意以上に教える事なんてあるか……」
「そういえば勇者の育成したフィロリアル様の変化を調べているのですな」
「ああ、盾の勇者が連れてきた研究者と一緒にな。アイツは優秀な奴だ。俺には無い目と考えを持っている」
生産者は満足げですぞ。
機嫌も良さそうですな。
どうやら主治医の事を気に入っている様ですぞ。
まあ主治医はフィーロたんの主治医ですから当然ですな。
「そのユキってフィロリアルが重賞レースに出る事を考えるとワクワクが止まらねえ」
「がんばりますわ! ですが昨日見た感じだと遅く感じますわよ?」
「それで良いんだよ。最初はきっと面白くないと思う程余裕だろうさ」
生産者は未来のビジョンと言う物を見ていると語り始めました。
何でも勇者が育てたお陰で今までのフィロリアル様達を一新する様な改革的な出来事になると見ている様ですぞ。
勇者の元で育てられたフィロリアル様、そのフィロリアル様達による長きフィロリアルレースの歴史の改変期。
やがてフィロリアルブリーダーは挙って勇者達に各々が作り出した最高のフィロリアル様を預けて育てさせる。
そうなれば最初の一匹として名を馳せるユキちゃんは後ろから様々な俊足のフィロリアル達が追いつけ追い越せとなると語りました。
「なるほど……最初はみんな遅く感じるのですわね」
「最初の一年くらいは出場する全てのレースが拍子抜けするほど余裕だと思うぜ」
「ですが、次は歯ごたえのある戦いになるのですわよね?」
「ああ、そこからが本番だ。後続の……お前の育ての親である勇者達が関わったフィロリアル達が追いかけてくる」
ユキちゃんが期待に胸を躍らせるように手を震えさせますぞ。
楽しみなのですな。
「賞を取るというのも重要なのですわね。ユキは……フィロリアル界の歴史に名を残せる様にがんばりますわ!」
「生産者の野望もわかりましたぞ」
フィロリアル様の管理は俺もしておりましたが、早く走るという事をもっと学ばねばならない様ですぞ。
しかも馬車の走るとはまた違った、レースとしての走るですからな。
「後はそうだな。本来なら色々と訓練する事になるのだが……勇者がマンツーマンで育てたフィロリアルなら問題はきっとねえだろうな。それでもやるか?」
「やりますわ!」
「やりますぞ!」
「じゃあ教えて行くぞ。槍の勇者、お前はフィロリアルへの愛が強いから受け入れ難いかもしれないが、負けフィロリアルという行為があってだな――」
フィロリアル生産者はフィロリアルレースの闇に関して教えてくださいました。
勝者を作り出す為に敢えて負ける事を強いられるフィロリアル様や脚部が故障した所為で殺処分されるという話ですぞ。
負ける役割を前提に育てられたフィロリアル様なんだとか。
勝者は自信と勝利への渇望を覚えるそうですぞ。
正直に言えば発狂しそうな事ではありましたが、これもフィロリアル様の歴史なのですな。
歌や踊りが上手くないと異性にモテない様に、足が速い事こそが存在価値の世界という事でしょう。
「色々と勉強になりますぞ。酷い話も存在するのですな」
考えてみればユキちゃん達は駆けっこを時々しておりました。
基本的に勝つのはユキちゃんですが、コウやサクラちゃんがこの場合は負けフィロリアル様と言う事になるのでしょう。




