お姉さんのお姉さん
俺達はお義父さんの帰りが遅い事を若干心配していた頃でした。
「た、ただいま」
お義父さんが非常に申し訳なさそうに、そして凄く眠そうにあくびを噛み殺して言いましたぞ。
樹は既にメルロマルクに行って居ませんから錬とエクレアが応答しますぞ。
「尚文……話が違うぞ」
「随分と時間が掛ったという指摘は置いておいて……イワタニ殿、その者は何なのだ?」
お義父さんの後ろにはお姉さんのお姉さんが気さくな感じで手を振っております。
ちなみに亜人の姿をしていますな。
俺は知っていますぞ。
フィーロたんすらも頼りにする、とても頼りになるお姉さんのお姉さんが時々亜人の姿で居る事を。
フィーロたんのお姉さんのお姉さんですからな。
俺は当然、言葉がわかりますぞ。
「あらー?」
お姉さんのお姉さんがエクレアの方を眺めていますぞ。
視線に気付いたのか、エクレアが言いました。
「なんだ? 私に何かあるのか?」
「……何も無いわよー。綺麗な人と思っただけよ」
「で、尚文、そいつは亜人にでもなったパンダなのか?」
「い、いや……」
お義父さんが若干困った様に視線を逸らしながら答えますぞ。
錬とエクレアは溜め息を吐きましたな。
「なのー! なおふみが帰ってこないなのー! 探しても……なの?」
「あーナオフミがいたー」
ライバルとサクラちゃんは帰りが遅いお義父さんを探していたのでしたな。
丁度帰って来たらしく、お義父さん達を眺めて不思議そうな顔をしています。
「この国は眠らない国とも言われるほどだし、シルトヴェルトもそうだが夜行性の亜人種もいる。イワタニ殿が遅くなるのは理解するのだが……」
「えっと、あのパンダの人……ラーサさんって言うんだけどね。輪に混ざってさりげなく近づいて話をしていたんだけど……」
「ああ、ナオフミちゃんはササちゃんとお近付きに成りたかったのかしら?」
お姉さんのお姉さんは親しげな様子でお義父さんに声を掛けておりますぞ。
相変わらず陽気な方ですな。
「なんか、気が付いたらラーサさんがいなくて、何故かこの人と飲み交わして世間話とか色々としていたんだよ」
「ナオフミちゃんお酒とっても強いのね。お姉さん張り切っちゃったーえへ!」
すごく陽気な感じですぞ。
そして物凄く酒臭いですな。
錬やエクレアもその辺りは察しているのかちょっと不快そうですぞ。
「尚文、お前はあの王女に罠に掛けられたのに、また変な女と関わったのか」
「そ、そういう言い方をされても……」
「ねえねえ、ナオフミちゃん。お姉さんともっと飲み比べしましょうよー」
「お腹タプンタプンで入らないって……酒場の人も泣いて出てってくれって頼まれたじゃないか。あの後も飲んでたし」
お義父さんの話では酒場でいつの間にかお姉さんのお姉さんと飲み比べをする事になっていた様ですぞ。
酔わないお義父さんはパンダに近づく為に飲んでいたのですが、対戦相手として出てきたお姉さんのお姉さんと終わりのない飲み比べをしてしまっていたと言う事だそうです。
最初は煽っていた観衆も、あまりにも酒に強いお義父さんとお姉さんのお姉さんの勝負にどん引きして行ったそうですな。
それだけでは無く、色々と気が合う感じで話をしていたそうですぞ。
その頃にはまだパンダがいたそうで、お姉さんのお姉さんと一緒に何やら賭博場で軽くギャンブルをしながら酒を飲んでいたら、いつの間にかお姉さんのお姉さんしか残っていなかったとか。
で、日の出の前に綺麗な景色を見ながら飲み明かそうと、海へ出て狩り混じりに小島で飲んでいたそうですぞ。
「海の中は確かに綺麗だったね。魔物も居たけど彼女が凄く強くて俺は何もする必要が無かったよ」
「楽しかったわー今日はササちゃんも連れて行きましょうよ」
「あー……どうしようかな」
お義父さんは困った様に錬の方に目を向けますぞ。
「嫌なら追い払えば良いだろ」
「う、うん」
「いやーん! お姉さんナオフミちゃんとお近づきになりたーい」
お姉さんのお姉さんが悪乗りしてますぞ。
完全に酔いどれになってますな。
「後でササちゃんを紹介するからナオフミちゃん、仲良くしましょうよー」
「うーん、自力で知り合えると思うから御断りをしますよ」
「あらー、守りが硬いわねー」
お姉さんのお姉さんは余裕を見せた態度で微笑んでおります。
さすがはフィーロたんのお姉さんのお姉さんですな。
余裕の塊ですぞ。
「お義父さん、この方はお姉さんのお姉さんですぞ」
「ん? 元康、知っているのか?」
「はいですぞ。お姉さんのお姉さんで、中々に優秀な方なのですぞ」
「あら?」
お姉さんがキョトンとした表情で俺達を見渡しますぞ。
表情こそ崩しておりませんが、何か思う所がありそうですな。
「一応、当たりか。元康、コイツはどんな奴なんだ?」
「お姉さんのお姉さんで、お義父さんが管理していた村で色々と補佐をしてくれていたそうですぞ。フィーロたんも頼りにしている逸材だと記憶にありますな」
お義父さんが前に奴隷育成などに関する注意事項を話していたのを覚えていますぞ。
お姉さんのお姉さんを実験に資質上昇でどれだけ強くなるのかを説明なさっていました。
曰く、お姉さんのお姉さんはかなりの腕前で伸びも良いとかなんとか。
勇者を除けばフィーロたんと同等、あるいはそれ以上だとも言っていました。
まあそれを話していたのは、フィーロたんがツメの勇者に選ばれる前ですがな。
「確か……サディナとかいう名前ですぞ」
「え?」
お義父さんがお姉さんのお姉さんを見ますぞ。
お姉さんのお姉さんは若干驚いた様に目を開いておりました。
が、すぐに微笑みを浮かべておりますぞ。
「あらー、お姉さんの名前を知ってるなんて驚きねーこの国じゃ偽名を名乗ってたのにー」
「へ、へー……サディナさんって言うんだ?」
「そうよー」
お姉さんのお姉さんがお義父さんの腕に腕をからませましたぞ。
スキンシップですな。
最初の世界でもお義父さん相手にしていましたぞ。
「それでナオフミちゃん、この人達はどんな人なのかしら? ナオフミちゃんの友達?」
「あー……まあ、そんな所かな」
お義父さんは言葉を選ぶように言いましたぞ。
自己紹介をしませんな。
警戒していると言った様子ですぞ。
錬は何やら悟った様にお義父さんの様子を見ています。
どうしたのですかな?
「で、ナオフミちゃん達はどうしてササちゃんと仲良くなりたいのかしら? 事情次第じゃお姉さんも協力するわよー」
「元康が知っている奴なら良いんじゃないか? 尚文、どうせゼルトブルで色々とやらなきゃならない事もあるだろ。サディナと言ったか。お前はゼルトブルに関してそれなりに詳しいのか?」
「私もここに来てそこまで長い訳じゃないけど、多少は知ってるわよー」
錬とエクレアが頷きますぞ。
どうやら意見がまとまった様ですな。
「ちょうど良いんじゃないか?」
「うむ。正直に言えば私達だけではゼルトブルでイミア殿の親族を見つけるのは困難だ。キタムラ殿が信用できる人物だと言うのなら頼んではどうだ」
「まあ……そうだね。とりあえずサディナさん。あなたも徹夜だった訳だし、一度家や宿に戻って休んでからでどうでしょうか?」
お義父さんの提案にお姉さんは頬に手を当ててから声を出しますぞ。
「あらー……まあ、そうよね。さすがにお姉さんもちょっと眠いし、じゃあおやつ時辺りにナオフミちゃんと出会った酒場で落ち合いましょうか?」
「よ、よろしくお願いします」
「はいはーい。じゃあまた会いましょーう。お姉さんも楽しみにしてるわー」
と、お姉さんのお姉さんは気楽な様子で立ち去りましたぞ。
お義父さんは見送った後、盛大にあくびをしましたな。
「眠い……」
「それなら途中で帰れば良かっただろ」
「いやぁ、なんて言うかサディナさんの話のテンポが良くてね。召喚される前、たまーに飲み会とかで朝まで話しこんじゃう事があったんだけど、そんな感じかな」
帰るのを切り出せなかった感じですかな?
「まあ見た感じ、顔は広そうな女だったしこの国で人探しをするには良いんじゃないか? ついでにあのパンダを勧誘して来ればいい」
錬がお義父さんにそう言うとお義父さんは微妙な顔をしましたな。
やがてお義父さんは俺の方を向き、聞いてきました。
「そう、だね。とはいえ元康くん、あの人ってどんな人なんだっけ? もう一度確認させて」
「元康は説明が下手だからな。樹の仲間とやらの説明も中途半端だったし、詳しく聞く必要があるだろ」
「私もそう思うぞ。あの者は本当に信用できるのか? いや……あの女、どこかで見た様な……」
エクレアが考え込んでいますな。
獣人形態なら気付いたでしょうね。




