親心
「な、な……な!? なんだぁあああ!?」
フィロリアル生産者は驚きで転びそうになって、辛うじて連れていたフィロリアルに寄りかかって体勢を整えましたぞ。
「なんだこの骨格は!? フィロリアル……なのか?」
生産者はヨロヨロとユキちゃんに近づき、コウとサクラちゃんを交互に見ますぞ。
そして、手慣れた手つきでユキちゃんのくちばしや首筋、胸、そして羽辺りを触診し、足首を入念に調べております。
「かなり体型が変わっちゃいるがフィロリアルの特徴は持っている。匂いも……これはまさか……いやいや、伝説のフィロリアルの主だとでも言うのか!?」
「あ、即座にその結論に辿り付くという事はさすが元康さんが認めた人ですね」
「知識面じゃメルティちゃんとあまり差が無いかもしれないね」
不機嫌な俺に反して生産者は驚きで目を丸くしておりますぞ。
「どうして一目でわからないのですかな?」
「人化する魔物と言うのを聞いた事が無いわけじゃないが、人化するフィロリアルなんておとぎ話の世界の話だ!」
「俺達からすれば、異世界であるこの世界で何を言ってもな……」
「現代社会から転移した俺達と比べてもなー」
「僕達にはわかりませんが、何処かで境界線があるんですよきっと」
「気持ちは……わかる」
何故かエクレアがフィロリアル生産者の驚きに同意しております。
どういう事ですかな?
「ああ、例えばこんな話があるとか? 商人が行商の為に大事に育てたフィロリアルは必ず異なる性別にすべきとか」
「なんですかそれ?」
「昔読んだラノベであったんだよ。もちろんおとぎ話なんだけど、人化してお嫁さんになるとかそう言う話」
「聞いた事があるな。ただ、フィロリアルだけではなくドラゴンやグリフィンの亜種パターンが数多く存在するぞ」
「鳥繋がりでフィロリアルの恩返しとか」
「ある」
エクレアは何だかんだでおとぎ話とかの知識はあるようですな。
子供の時に聞いていたとかですかな?
「異類婚姻譚系は網羅してそうですね。ここはファンタジーな訳ですし」
「人化可能な魔物が実際に存在する訳だからな。むしろ亜人や獣人が居るんだから何を不思議がっているんだって話だ」
錬が何故か締めをしました。
その視線の先にはサクラちゃんやモグラがありますぞ。
「初めましてですわ。私は元康様の配下として馬車を引くフィロリアルのユキと申しますわ。そして他に一緒に居るフィロリアルはコウとサクラですわ」
ユキちゃんが礼儀正しく生産者に自己紹介を致しましたぞ。
「人化も出来る挙句喋るのか……もしかしてコイツは俺が売りつけた卵から……?」
生産者の問いに俺は頷きますぞ。
「高めの卵から生まれたのがユキちゃんですぞ。他の二つがコウとサクラちゃんですな」
「はー……」
生産者はユキちゃんを始め、コウとサクラちゃんをマジマジと見つめております。
「この前、伝説のフィロリアルにして見せると言って買っていった奴が本当に連れてくるとは……お前は一体……」
「愛の狩人、北村元康ですぞ!」
「えーっと、自己紹介をせずに購入していた様なので説明すると、俺達は四聖勇者でして、ここには召喚されて数日中、フィロリアルを購入する際にお世話になったそうなんですよ」
生産者はとても驚いた表情で俺達を見つめますぞ。
「じゃ、じゃあ噂になっている四聖勇者一行と、同行する神鳥ってのは……」
「はい。俺達の事で、フィロリアルは実はここで購入した物だったんです」
「ですぞ!」
俺の言葉に生産者は何やら呆れ半分、驚き半分のような表情をしております。
「フィロリアルへの熱意があると思って感心したもんだが……すげーなー……」
と、ユキちゃんをかなり入念に触診しております。
「健康体その物じゃねえか。ちょっと病弱になるか不安だった組み合わせだってのに」
「病などに負けませんわ!」
胸を張るユキちゃんですぞ。
すごく誇らしいですな。
「知らぬ間に神鳥の輩出牧場だったってかー……ほう……」
生産者は何度か頷いておりますぞ。
「もしかして勇者が責任者として育てると特別な成長をするとか……か?」
「おお! そうですぞ。勇者が育てる事によってフィロリアル様はこのように天使の姿になれるようになるのですぞ」
「気付くのが早いね。色々と話が早そうで助かる」
お義父さんが呟くと生産者と目があった様ですぞ。
「……」
「そうですね。ここからはちょっと商売の話になりますし、色々と長くなります。一枚、大きな話に噛みませんか?」
お義父さんがにやりと不敵に相手をしておりますぞ。
何をしているのですかな? フィロリアル様を育てる大いなる使命を共有する同士ですぞ?
生産者の方もお義父さんの眼力に負けじとにやりと笑って握手を求めておりますぞ?
「面白い……色々な意味で話を聞いておかねばならなそうだ」
「元康、こういう話は尚文に任せるのが一番なのはお前が一番知っているだろ?」
「ええ、尚文さんに任せて、僕達は見守るのが良いでしょう」
「ここにはフィロリアル様を買い占めに来たんですぞ!?」
何やら商売の匂いがするのは俺の気の所為じゃないと思いますぞ。
ですが、重要なのはフィロリアル様、そしてフィーロたんなのです。
お義父さん、そこの所は理解してほしいのですぞ。
「大丈夫だって、何もお金だけじゃないのは貴方も理解していますよね? フィロリアルという生き物を調べたいと話す、俺の知り合いに錬金術師がおります。是非とも責任者としてお話をしようと……ね」
「ああ、金よりも重要な物がある。いや、金で買えない価値が目の前に転がっている。上手く行けば病弱なフィロリアルも健康に、より速く、より個性的な……新たな時代の幕開けの鍵に……」
生産者は目を閉じて、空想の世界にいる様ですぞ。
なんとも良い顔ですな。
俺もフィロリアル様の愛では負けませんぞ!
むしろここは語る場面ですな!
「く……元康! 下がれ!」
「尚文さんに任せておいた方が楽ですよ」
「フハハハハ! これだけは引き下がれませんぞ!」
この件に関してはお義父さんにだけ任せているだけなんて出来ません。
俺は錬や樹の制止では止まりませんぞ。
そんなこんなで生産者は大きな家に案内してくださいました。
前来た時よりも研究色の強い部屋ですな。
血統図っぽいのが何枚も部屋の隅の箱に転がっておりますぞ。
「それで、我が牧場には何の用で?」
「色々とありますが……まずそちらは何を望んでいらっしゃいますか?」
「そうだな……健康で有能なフィロリアルの血筋の確保……か?」
なんとなくギロリとユキちゃん達を生産者は見た様な気がしますな。
ユキちゃんが視線に気づいて俺の背に隠れますぞ。
サクラちゃんも同様にお義父さんの背に隠れきれてませんが隠れますぞ。
コウはー……キョロキョロと辺りを見ているだけですな。
「コウ以外は乗り気じゃないみたいですね」
「何かあるのー?」
「お見合いでわかるかな? コウ」
「交尾?」
「コ、コウさん?」
「意味がわかっているのか?」
樹と錬がコウに確認を取りますぞ。
フィロリアル様は本能的な所は理解しておりますからな。
く……まさかコウに恋の季節が来ているとは……良いお嫁さんを確保してあげないといけないのですかな?
「繁殖でしょー? ユキとサクラはイヤだってー。コウのお歌とダンスで出来るかなー?」
「こ、この辺りがやはり認識が人とは違うという事なんでしょうか?」
「何だろうか、激しく見たくないし聞きたくない。これが親心って奴なのか?」
「元康さんはどう思っているんですか?」
「コウ、良いお嫁さんを見つけるのですぞ……」
「理解してる……」
「元康の基準がわからん! 息子や娘を嫁に出す親の心境かと思ったのに!」
何やら錬が呻いておりますぞ。
わかっておりませんな。
息子や娘の幸せを願ってこその親ですぞ。




