牧場
俺達はメルロマルクから少し離れた牧場地帯に来ていますぞ。
「ここがサクラちゃん達の生まれ故郷……と言う事になるのかな?」
お義父さんが辺りを見渡しながら呟きました。
そうですな。
のどかで良い牧場ですぞ。
「確かに……凄くのどかな牧草地帯って感じですね」
「牧場とかをイメージしたら出てくる光景が続いている感じだな」
毎回ループして数日以内に必ずここを訪れてユキちゃん達を購入しますからな。
「毎度思いますが、血統にはかなり力を注いでいる牧場なのですぞ」
「へー……確かに、なんて言うか普通のフィロリアルと言うのかな? にしては毛並みとかに微妙な光沢があると言うか……」
「足が妙に細い奴がいるな。乗ったら折れそうで怖いぞ」
「アレは乗用ではありませんな。乗ったら脚部に問題が起こるかもしれませんぞ?」
錬が指差したフィロリアル様に関して俺は説明を致します。
こんな時こそ、俺の知識が活躍する場面ですぞ。
「フィダーメオと言う走る事に関してのみ特化している種の、特に足が速い者を選別したサラブレッドだと思いますぞ」
「なんか複雑な血統とかあるんだねー……俺も馬を育てるゲームとかやった事があるからわからなくもないけど……」
「難しいのか?」
「そりゃあ……チョ○ボで似た様なゲームがあるんだけど、物凄く血統に拘らないと対人じゃ勝てないだろうね。錬に簡単に説明するとなると――」
お義父さんが何やら難しそうな家系図っぽいのを地面に描いて行きますぞ。
そうですな。
ここに居るフィロリアル様はお義父さんが描く物よりも難しい血統管理で育成されているのは確かでしょう。
「インブリード……近親交配とアウトブリード、異系交配と言うのを複雑に組み合わせるんだけどね。相性の良い血筋とかそういう複雑な要素が介在していて、正直真面目にシミュレートをしていたら日が暮れるだろうね」
「そ、そうなのか……尚文も詳しいな」
「あくまでゲームでの話だし、俺もそこまでやりこんでいた訳じゃないけどね。もしもフィロリアルにもこういう要素が介在するんだとしたら一秒を競う為に育てられた子とかもいるだろうね」
「なの……結構面倒な事をフィロリアル達はしているなの」
「「「グアアアアア!」」」
ライバルが喋った瞬間、牧場内のフィロリアル様達がざわめきました。
やはりライバルは邪魔という事でしょうな。
「あー……ガエリオンちゃん、ここってフィロリアルの縄張りだし、ドラゴンがいると牧場の人に迷惑が掛ると思うよ」
「え……ガエリオンはダメなの?」
助手が当たり前の事を言っておりますぞ。
「なの、ガエリオンがフィロリアルとの縄張り争いに勝つなの」
「迷惑が掛るって言ってるでしょ。あんまり騒ぐと元康くんを俺が宥められないから……」
ですぞ。
いい加減、フィロリアル様を騒がせるなら一度バラしますぞ。
死なないのでしたな。
と睨んでおきますぞ。
「ポータルで飛ばすか?」
「敵を知りたいなの。フィロリアルの事は知らない事は無いけど、まだ知らない事があるかもしれないなの」
「んー……じゃあサクラちゃん」
「なーに?」
「イヤかもしれないけどガエリオンちゃんを抱えて、目立たない様にしてて」
「えー……わかったー」
お義父さんがサクラちゃんに無理難題を頼みましたぞ。
おっとりのサクラちゃんは渋々と言った様子でフィロリアル姿になって翼を前に出しておりますぞ。
「ガエリオンちゃんは出来る限り小さくなってね」
「うー……わかったなの。フィロリアルに抱き締められるなんて苦痛だけど、なおふみの為なの」
ライバルは小さくなってサクラちゃんに抱えられる形で羽毛の下に隠れました。
かなり器用な体勢ですな。
ライバルの頭がサクラちゃんの胸からちょこんとはみ出して見えますぞ。
何がお義父さんの為なのですかな?
お義父さんもライバルの台詞は無視しておりますぞ。
「まあ、それである程度は……誤魔化せそうだね」
ライバルの威圧感がこれで大分緩和されたのか牧場内のフィロリアル達が静かになりましたぞ。
ですが、それは仮初の平和のような物ですな。
隙あらばライバルをポータルで飛ばしてやりましょう。
「とりあえず、ここの牧場主に……何をするんだ?」
「元康さんの好きなフィロリアルの情報を聞くんですか? それとも新しくフィロリアルを大口で買い占めるんですか?」
「一応、元康くんの目的を考えるに両方かな? 元康くんも楽しみに来たんでしょ?」
「ですぞ!」
俺は軽い歩調で、毎度ユキちゃん達を買いに来ている牧場の生産者に会いに行きますぞ。
そして事務所とばかりの建物の扉を俺は軽快に叩きますぞ。
「何度も購入しに来ては見せに来るのを忘れた、北村元康が会いに来ましたぞー」
「そういう自己紹介はどうなんだろう?」
お義父さんが何やら突っ込みを入れていますな。
錬も樹も何故か同意していますぞ。
……しかし反応がありませんな。
「大方、近くのフィロリアル舎で世話でもしているのでしょうな」
「相手からすると殆ど会った事が無いのに、どういった行動をしているのか理解されると言うのは気持ちが悪そうですね」
「俺達が言うのか? 元康は俺達の行動の殆どを一応は理解していたぞ」
「そういう意味で元康くんを見ると違った見え方になっちゃうね」
俺はスキップ交じりにフィロリアル生産者が居るであろう建物へと行きますぞ。
「ここはフィロリアルが沢山ですわ」
ユキちゃん達の気配に沢山のフィロリアル様達が若干緊張して見ている様な気がしますぞ。
その気配を察したのか、フィロリアル生産者が舎から出て来て俺達を見ます。
先頭で手を振る俺に気付いて若干警戒が緩んだ様ですぞ。
「ああ、お前か」
「おお、覚えているのですかな?」
「アレだけ個性的なお前をどうやって忘れろって言うんだ」
「そりゃあ……」
「だね……元康くんを忘れろってのはかなり無理な相談だと思うよ」
フィロリアル生産者は俺達の方へフィロリアルを一匹連れてやってきますな。
何か作業をしている最中だったのですかな?
そして徐にフィロリアル姿のサクラちゃんを見ますぞ。
どうですかな?
「で? 久しぶりだがフィロリアルを見せに来たのか? 何処にいる?」
おや? サクラちゃんはフィロリアルに入らないのですかな?
いや、目つきがなんとなくサクラちゃんに釘付けの様ですぞ。
そうでしょう、そうでしょう。
わかる者にはわかるのですぞ。
「前に言った通り伝説のフィロリアルにまで成長してここにおりますぞ」
俺はユキちゃんとコウの背後に回り込んでフィロリアル生産者に見せつけます。
何故、サクラちゃんだけ見ているのですかな?
「何を言ってんだお前? ふざけてるのか? まあ、そっちの桜色の妙に羽毛の多いフィロリアルはわかるが……」
フィロリアル生産者はユキちゃんとコウを見て、不愉快そうに眉を寄せました。
そうしてコウの背中の羽根に気が付いた様ですが、表情はあまり変わりませんな。
「この羽は……フィロリアルを上手く模しているな……かなり精巧に作ってある……だが、それまでだ!」
なんですと!
天使となったフィロリアル様のお姿が一目でわからないとでも言うのですかな?
それでもフィロリアル様の生産者と言うのですかな?
「元康くん、それじゃあわからないと思うよ」
「何故ですかな?」
「あーすいません。この人、説明するのが物凄く下手なんで」
「ああ、それはわかる。だが、熱意だけはわかっていたつもりだったんだが――」
何やらフィロリアル生産者は俺を蔑む様な目で見ている様な気がしますぞ。
「心外ですぞ! 一目でわからないのですかな!」
フィロリアル生産者なら一目で理解するはずなのですぞ!
じゃなければ生産者としての資格はないですぞ!
「だから元康、ちゃんと説明しろ!」
「ああもう……確かに信じられないのは事実ですし、詳しく教えないといけないと……例え目の前で見せられても信じるのに時間が要りますよ」
「ユキちゃん、目の前の人の中で元康くんの評価を下げたくないなら、百聞は一見にしかず、フィロリアルの姿に変身」
「わかりましたわ!」
ボフンとユキちゃんが生産者の前でフィロリアルクイーンの姿になってしまいました。
俺は腕を組んで生産者を蔑んでみますぞ。
一目でどんな姿になってもフィロリアル様だと思えないとは……呆れて物も言えませんな。




