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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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教皇

「教皇……ね」


 ずいぶんな挨拶じゃないか。さっきの魔法の威力は憤怒の盾で辛うじて堪えられるという強大な物だった。

 というかフィーロの奴、余計な真似を……元康一行を助ける必要なんて無いじゃないか。

 ラフタリアとメルティさえ守れば良かった。

 まあ、良い。それよりも気になるのは教皇の真意だ。


「あんな威力の魔法を槍の勇者やこの国の王女が居る所で撃つとか……何を考えているんだ?」

「槍の勇者様……ですか」


 確か、コイツ等にとって剣と槍と弓の勇者は信仰の対象。

 こんな巻き込む真似はしないと思っていたのだが……。

 教皇の奴、笑みを絶やさずこちらを見ている。

 なんだろう。不気味な印象を受ける。

 人が目の前で死んでも同じ表情で居るかのような、仮面のような笑みと表現すれば良いのだろうか。

 顔色というか、そういう微細な変化はあれど根底がわからないというか。そんな感じだ。


「私共が信仰いたしておりますのは人々を救い、波から世界を救う三つの勇者の事です。各地で問題を起こし、ましてや信者を貶めるような勇者は偽者なのですよ」

「なん、だと」


 それは平坦に、まるで日常会話をするかのように教皇は答えた。

 元康の奴、唖然とした表情で教皇を見る。


「次期女王候補の方々は正義の為に、いえ、既に盾の悪魔によって殺されているのです。今、そこに居るのは生きる屍なので、気にする必要はありません」

「なんとも……まあ」


 ラフタリアも酷い暴論に怒りを通り越して呆れていた。

 この教皇、前に会った時は温和で公正な人物に見えたが俺の思い込みだったようだな。


「神の慈悲に感謝をしなければいけないのに盾の悪魔は侵略行為をしました。ですから私が神の代弁者として浄化に来たのです」


 すげぇ理屈。つまり俺に聖水を正しい値段で提供したのは余裕のある施しで、脅威になったから殺すとか言うのか。

 あの時はまだ全貌を解明できていなかった……のか?

 怪しまれないようにしていたという可能性もある。


「ふざけるんじゃないわよ! 私は次期女王よ! 盾になんて殺されるはずが無いじゃない!」

「いえいえ、こちらでは既にそう決まっているのですよ。ご安心ください、マルティ王女。貴女の代わりに国を継いでくれる者はこちらで準備しております。全ては神のお導きです」


 ビッチの奴、自分がピンチだからって凄い剣幕で言い放っていたが、教皇の陰謀に会話は無意味と察したのか、みるみる表情が青く変わる。


「嘘……よね……」

「ははは、まさか」

「ふざけるな!」


 ボロボロの元康が槍を教皇に向けて怒鳴る。


「俺達はメルティ王女とこの国を救うために戦っていたんじゃないのか!?」

「ええ、そうですよ。全てはこの国、果ては世界の為の聖戦です。人々を誘惑し先導する盾の悪魔と人々の信仰を揺らがせる三人の偽勇者を我が教会が駆逐し、権威と威信を確固たる物にする為の戦いですよ」

「偽勇者ね……」


 俺の呟きに仮面を若干歪ませて教皇は不愉快そうに答える。


「ええ……各地でそれぞれ問題を起こす偽勇者によってこの国の信仰が揺らいでいるのです。剣の偽勇者は疫病を蔓延させ、生態系を狂わし、槍の偽勇者は封印された化け物を解き放ち、弓の偽勇者は権威を示さず我が教徒を苦しめる」


 どれも俺が尻拭いをしたものばかりだ。

 弓、樹のやった行いが今一分からないが……税率の高い悪い領主は総じて金持ちだからなぁ。寄付に力を注いでいたのかもしれない。


「ですから要らぬ調査を始めた偽者の剣と弓は処分させてもらいました」


 さも平然と教皇は答える。


「何!?」

「盾の悪魔には通じないようですが、それぞれ剣と弓は信者に指定した場所に呼び寄せ『裁き』によって存在ごと抹消させました。これも神のお導きです」


 錬と樹の奴……どうやら今回の事件が余りにも強引だからと独自に調査をしていた様だな。

 樹は……さすがに錬の言う事は信じたという所か。

 こんな真似を仕出かす連中だ。その腹黒さに感づいた樹なら正義の為とかで行動するだろう。

 ま、先を越されて不意打ちを受けたか……。

 となるとあの二人は……。


「殺したのか!? この世界の為に戦って来た、皆を……錬を! 樹を!」


 元康の奴、すごい剣幕で捲し立てる。

 お前等、そんなに仲良かったっけ?

 二人には悪いが、俺は同情とか何も感じないぞ。


「殺すなんて滅相も無い。我々を騙した偽者の悪魔を浄化したと言ってもらいたいですね」

「な……」

「そして王と女王にはこう言って置きましょう。偽者の勇者達によってこの国は支配されかかっていました、ですが私達が救いましたが、残念ながら姫達は……とね」


 すげぇ……なんという屁理屈。信じる奴がいるのか?

 うーむ……でもあのクズなら信じそう。既に俺に殺されていたとか言えば呆気なく信じるかもしれない。

 仮にここで俺たちが志半ばで力尽きたとしたら……。

 俺の居た世界でも実は――とか後で真相が明らかになった哀れな権力者とか居るだろうなぁ。

 大量殺戮兵器を作ってもいないのに隠している、とか弾劾されて無理やり戦争を仕掛けられた挙句、処刑された権力者とか。

 真実は俺も分からないがこれだけは言える。奴等は自分勝手な理屈で俺達を処分しようとしている。

 絶句する元康、そして徐に俺に向って振り向く。


「尚文、休戦だ。力を貸して欲しい」

「随分と虫の良い話だな。直前までお前が俺にしていた事を忘れたとは言わせないぞ」


 一方的に攻撃できる状況を作って、バカスカ攻撃スキルを撃ってきた事を水には流させはしない。

 そもそもほんの少し前まで洗脳の盾が本当に存在すると信じていたくせに、この男は。


「そこを頼む! 俺は……あいつ等の弔いをしなきゃいけない。奴を絶対に許すわけにはいかないんだ!」

「はいはい。お前一人で勝てるだろ」


 あの強力な魔法が次に撃つまで時間が掛かるのなら。だけどな。


「力を貸してくれないのか? お前はあいつに何とも思わないのか!」

「思う所は多々ある。最終的には血祭りに上げるつもりだ。だが元康、貴様に力を貸す義理は無い」


 なんていうか、檻も壊れたし、フィーロに乗って全力で逃げれば大丈夫そうだ。


「つーか」


 俺は元康に親指を下に向け笑みを浮かべつつ。


「死ね♪」

「てめぇええええええ!」


 元康の奴、ふらふらになりつつ、俺に拳を向ける。


「殴って良いのか?」


 今、殴るとセルフカースバーニングが作動して殺せる。


「ぐ……」


 まあ、ラフタリアやフィーロ、メルティに当たるから抑えるけど。


「仲間同士で争いとは、さすがは盾の悪魔と偽者ですな」

「誰がコイツの仲間だ」

「うるさい! もうお前には頼らない! 俺は一人でもアイツを倒す!」

「ふふふ、果たして私を倒せるとお思いかな」


 教皇が何か笑いながら部下に武器を持ってこさせる。

 何だろう。大きな剣みたいな……。

 白銀で彩られた装飾用の剣みたいな印象を受ける。

 よくゲームで後半の武器になるような……喋りそうな神聖な剣?

 複雑な装飾で……何ともカッコ良い。真ん中にはなーんか嫌な感じの宝石が埋め込まれている。


「な……あれは――」


 ビッチとメルティが揃って表情を青くさせる。


「ナオフミ! 気をつけて、あれは――」

「まずは盾の悪魔からです。神の裁きを受けるが良い」


 教皇が高らかに剣を振りかぶり、離れているにも関わらず振り下ろす。

 直後、衝撃波が地面を通じて俺に向って飛んでくる。

 咄嗟に盾を構え、受け止める。


「ぐふ……」


 吹き飛ばされそうになるほどの強力な衝撃だった。元康の流星槍の比じゃない程のダメージに意識が遠のきそうになる。

 地面には大きな亀裂がありありと刻まれている。

 ちょっと待て、今、俺が装備しているのは憤怒の盾だぞ!?

 元康の必殺スキルを受けても余裕だったのにこんなにダメージを受けるってどんな武器なんだ。


「ナオフミ、あれはね。伝説の勇者が持つ武器をどうにか複製しようとした過去の遺物なの」

「複製品か?」


 どう見ても本家より強いだろ!

 まあ、剣の形をしているから錬と比べているけど……さすがに元康よりは強いだろうけど、あそこまでとは思えない。

 だってグラスに元康と一緒にやられていたような程度の強さだぞ!?

 良くて1、5倍くらいだろう。

 それなら憤怒の盾でまだ防御できるはずだ。

 だけどさっきの攻撃はそれを遥かに凌駕している。


「なんであんなものが……確か数百年も前に紛失したって……」

「紛失じゃなくて、盗難だったんだろ。盗んだ組織が三勇教会だった訳だ」


 なんか第二次世界大戦中、大量に作られたはずなのに紛失して現在どこにあるのか解らない某国の爆弾陰謀説みたいだな。

 というか伝説の武器の複製品という事は、錬の剣は最終的にアレ位強くなったという事か。

 盾の勇者である俺が言うのはアレかもしれないが、個人にあんな力を持たせて、この世界大丈夫か?

 そもそもが複製品とはいえあの威力だ、勇者を召還する必要性があったのかすら怪しい。

 そこの所どうなんだよ。


「あんな物があるなら、勇者なんて召還するなよ。あれを量産でもすれば波にだって勝てるはずだろ」


 俺の返答にメルティは首を振る。


「単純な出力なら伝説の武器に匹敵するかもしれないけど……それに見合う燃料が膨大すぎるはずなの」

「そうなのか?」

「ええ、一回振るうのに数百人の一月分の魔力が必要なの。しかも量産なんて今では無理……アレも伝承の時代から存在する。言わば伝説の武器なのよ」

「そりゃあすげえ」


 アニメで見たことがあるな。一発撃つのに日本の電気の殆どが必要とかそういう巨大ロボットの狙撃の話。

 それみたいなものか?


「教徒たちが日々、命がけで力を注いできた物でしてね。聖戦の為に引っ張り出してきたのですよ」


 なんとまあ、準備万端な事で。

 伝承の勇者……剣の最終武器の劣化コピーとかそんな所か?

 数百年前に紛失とか言っていたな。

 長年溜め込んでいた魔力をここ一番で使ってきたという事か。

 くそっ! 厄介な物を持ち出してくる。


 ……いや、それだけ相手が追い詰められている証拠だ。

 ここさえ乗り越えられれば幾らでも反撃の機会はある。

 今が正念場だ。

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