マジカルハザード
「ち! みんな――」
「もうこれで実質四度目ですからね、遠慮はしませんよ。パラライズショット!」
樹はフォーブレイで手に入れたショットガンに変化させて麻痺の弾を放ちましたぞ。
俺のエイミングランサーの様に弾丸が別れて豚と貴族を撃ち抜きました。
「ぐあああああああああああ!?」
「ついでだ。エアストバッシュ!」
錬が素早く近づいて貴族の仲間に追い打ちをかましますぞ。
「俺の出番が無いですぞ」
「元康くんに任せたら全滅させちゃうでしょ」
お義父さんに注意されてしまいましたぞ。
何を言うのですかな? 奴等は追いこまれると暴れるから仕留めるまでですぞ。
「し、四聖勇者様!? 家の息子に何を?」
貴族の親に向かってお義父さんは申し訳なさそうに応じますぞ。
「失礼。どうやら、貴方の息子は七星勇者の武器を何かしらの手段で手に入れて秘匿していた様なんですよ。その捜索を自分達はしていましてね。動かぬ証拠がここにある事を確認してください」
「ま、まさか……」
とは言いつつ、浮かぶ斧を見て貴族の親は弁護のしようが無いのを理解した様ですぞ。
「自慢の息子なのかもしれませんが、彼は……おそらく貴方の誇れる息子ではありません。叩けばきっと埃が出てきます」
「……そ、そういえば」
心当たりがある様ですぞ。
とはいえ、面倒な作業もこれで終わりですな。
「尚文、どうするんだ?」
「勇者殺しは重罪、仮に別の者から奪ったとしても、勇者として波に挑む等をしなかった罪は重いだろうね。連行して白状してもらうのが一番穏便に済むかな? あと、世界をより良くさせようという意志があるのなら――」
「だ、誰がお前ら何かに従うか! 俺は勇者なんかよりも――」
「サイレンスショット」
樹が作業の様に貴族を撃ち抜きました。
「何でしょうね。正体を暴かれると暴れる。協力を強要したら逆らう。勇者よりも自分は強いんだからと抵抗する。どの方もワンパターン過ぎませんか?」
「ブブブー!」
と、そこで自己保身に走ったらしい豚が駆け寄ろうとしたのを、樹は迷いなく眉間に弾丸を撃ち込みました。
早撃ちですな。
最近、錬も樹も容赦が無くなって来てますぞ。
良い傾向ですな。
「ちょっ――」
お義父さんだけが驚愕の表情を浮かべていますぞ。
樹が迷い無く撃った事に驚いているみたいですな。
とはいえ、ちょっと前に共通点の話をしていたので、しばらく考えてから頷きました。
「貴方のような方は見飽きてます。大切な恋人よりも、その相手を倒した強者に取り入ろうとする様な方を信用する事は絶対にありません」
死んだのですかな?
俺は豚を見ると、死んではいない様ですぞ。
麻痺しております。
「あの王様に渡す事に対して何の罪悪感も無くなってきました。危険な兆候ですよね」
「まあ……だけど、これで一応は斧の七星武器も見つかったし、仕事は終わりなんじゃない?」
「……ですね」
「後は頭角を現す危険な奴は慎重に監視をして、下手な動きを見せたら権力剥奪の指名手配で抑えよう。こんな奴等を相手にしていたら波で戦っていられない」
錬の言葉にお義父さん達は頷きました。
「後は……サクラちゃんやイミアちゃん達の育成をがんばろうよ。信頼できそうな人のLv上げもしてさ」
「そう、ですね」
「イミアやエクレール達の育成を考えると心が洗われる気がするな。元康の気持ちがわかってきたぞ」
「お? 俺の気持ちがわかるのですかな? 錬も成長しましたな」
「……引っ掛かるが、まあいい。話を続けるが、どいつが裏切るかわからないからな。元康の記憶を頼りに信頼できる奴を集めるのは良いかもしれない」
なんと! 錬と樹が俺の気持ちをわかってくれる日が来るとは思いませんでしたぞ。
これはますますフィロリアル様達の育成計画を推進しなければなりませんな!
そんなこんなで俺達は豚王への手土産を連日送りつけて、斧の七星武器を奪還したのですぞ。
「えーっと……これで何人目?」
お義父さんがウンザリする口調で俺達に尋ねますぞ。
今回の周回に入って三ヶ月目に入った頃ですな。
「僕が覚えている限りじゃ13人目でしょうか?」
現在、俺達が居るのは七星武器が安置されている神殿ですぞ。
所持者が居ない七星武器に、連日挑戦者が後を絶たない状況ですな。
そんな中で、七星武器に選ばれた!
と、高らかに掲げた者が出てくる事が何度かあったのですぞ。
ですが、お義父さんの忠告通りに俺が剥奪を掛けるとアッサリと武器は手元から外れる様でしたぞ。
もちろん、正しい所有者ではないので厳罰に処しますがな。
最近では七星武器を手に取ると同時に、武器が抵抗しているかのように震えるので、誰の目から見ても明らかな状況になっておりますぞ。
「どれだけ居るんだろうね……」
「いい加減ウンザリしてきますね」
「まったくだ」
「ですが最近ではさすがに数が減ってきましたな」
「七星武器も抵抗の方法を掴んだんじゃないのか?」
「あー……そういや凄く怪しい挑戦者の中に『あれ? 抜けない! おかしい』とか言ってる人いたもんね」
「手に入る前提じゃないと出て来ない台詞ですよね」
「しかし……さすがにメルロマルクの女王以外で世界中で起こる波に挑む勇者が俺達だけと言うのは厳しいな」
実際、フォーブレイに到着してから世界各地で波が起こっておりますからな。
とりあえず近くに居る冒険者や騎士団が辛うじて対処する事で波を鎮める事は出来ている様ですが、徐々に波が強力になっていくのですぞ。
どんな辺境で波が起こっても対処できるようにするのが課題ですな。
「サクラちゃん達のLvも後少しで100だし、そろそろ七星武器に正しく選ばれる時期になるかもね?」
「そうなる事を祈りたいな。ただ、ここまで不正な所持者に持たれていると誰も持ち主にしない様にしているかもしれないな」
「かもしれないね……それだと困るんだけどさ」
確かに、前回の周回では既に選ばれても良いLvにまでユキちゃん達のLvが上がっていました。
「どちらにしても今は戦力増強をして行かないといけませんね」
などと話をしていると神殿の扉を大急ぎで開かれましたぞ。
「ゆ、勇者様方! 大変です!」
見れば兵士の様ですぞ。
何やら切迫した様な雰囲気がありますな。
「何か問題でも起こった?」
「魔物の研究所で研究中の物が暴走し、マジカルハザードを起こし、勇者様方に事態の鎮圧の願いが出ております」
マジカルハザードですかな?
初めて聞く言葉ですぞ。
「マジカルハザードってなんですか?」
俺と同じく、樹がピンとこない様子でお義父さんと兵士を見ますぞ。
「俺も知らない。なんか言葉の捩りから魔法災害って事なのはわかるけど……」
「なの!」
そこでライバルが手を上げますぞ。
知っているのですかな?
「人間共が時々起こす魔法災害なの。大体が錬金術の暴走なの!」
「あー……やっぱりそんな感じか」
「禁忌と言うのは失敗から生まれる物なの。きっとあの錬金術師が起こした事件なの」
「ラトさんが? まあ、やりそうな人ではあるけど……意外と真摯に研究していたから大丈夫だと思ったんだけどな」
「しかし、物騒な事件が立て続けに起こるもんだ」
「とはいえ、とりあえず行くしかないでしょ」
「わかりましたぞ!」
俺達は何でも屋の如く、事件解決に使われている気がしてきましたぞ。
それでもやるしかないのですな。
「しょうがありませんね」
「ホラー体験VRゲームに似た様なタイトルがあった気がするが……」
「俺の世界だと生物災害だったかな」
「お義父さんの方にもありましたか。俺の世界もありましたな」
などと話をしました。
ところでホラーVRゲームとはなんですかな?
 




