男色
「え? タクトの側近達は?」
「ブフフフ、新しい女が欲しいのじゃ」
錬がお義父さんに耳打ちしますぞ。
樹も参加するようですぞ。
「あれだけ居たのにまだ妾が欲しいのか?」
「補充しておきたいとかじゃないの? 勇者殺しをした悪女をさ」
「エクレールさんの話では罪人貴族の女性が好みなんでしたっけ? 変わった嗜好ですけど、好みのタイプならしょうがないですよ」
「あの王様に犯されるのが嫌でかなりの人数が自害したのかもよ? で、新たな世継ぎが欲しいから……とか?」
「単純に飽きたとかなのでは? 同じ女を犯すのは趣味じゃないとか言いそうですよ?」
「どっちにしてもこの世界じゃ勇者殺しは重罪なんだろ? 雄太の女共を見る限り擁護する意味もない」
「まあ……仲間にトドメを刺したあんな人には良い末路かもね」
お義父さん達は話を終えた様ですな。
豚王に向き直ると結論を言いました。
「わかりました。王様が望むのなら……」
「ブフ! ところで剣と弓の勇者二人はワシと楽しまんか? 男色家なのではないかと言う話を聞いたのじゃが」
またですかな?
……今なんと言ったのですかな?
錬と樹が男色家?
そんな事実、俺も知りません。
考えてみれば錬と樹は恋愛に疎い気がしますぞ。
フィロリアル様に恋愛感情を抱かないのは、ホモだったからなのですか。
コウやみどりが錬と樹を好きだと言うなら、紹介してやっても良いですぞ。
「女共の様な扱いはせんから安心して良いぞ?」
「全力でお断りします! そもそも誰が男色家ですか! 後、元康さん、なんで頷いているんですか!」
「誰だ! そんな話をした奴は! 今すぐ殺せ!」
樹と錬が本気に近い怒りを見せて城の連中を睨みつけますぞ。
どうやらホモでは無い様ですな。
「ブフフ、一緒に居る女とは城内で楽しんだ形跡が無いと聞くのでな」
「それなら尚文さんや元康さんはどうなんですか!」
「ブフフフフ」
豚王は樹の問いに答えません。
いや、少し考えておりますな。
「タイプでは無いし、それぞれ女を囲っておるではないか。それに引き換え……」
豚王の舐める様な視線に錬と樹が仰け反りますぞ。
蛇に睨まれた蛙の様な感じですな。
「尚文さん、僕はそろそろ新しい仲間を手に入れるべきだと思います。出来れば僕専属の仲間が欲しいです!」
「俺もだ! このままじゃホモだと思われる!」
「あはは……かと言って、信頼が置ける仲間となると難しいね」
「この際フィロリアルでも何でも良い! 専属の仲間……そうだ、エクレール! 俺の専属の仲間になれ!」
「……アマキ殿の言葉に性奴隷になれと言う意図が聞こえるのだが?」
「ち、ちが――」
「まあまあ、王様、錬も樹も男色では無く、召喚された時のメルロマルクで仲間に裏切られて慎重になっているだけなんです。王様の望む様な嗜好をしていないので、大目に見てくれませんか?」
お義父さんが纏めるように豚王に言いました。
すると豚王は渋々引き下がりました。
「ふむ……それならばしょうがない。だが剣と弓の勇者よ。ワシはいつでも待っておるぞ」
「世界が終わろうともありえないので、待たなくて結構です」
「ああ! そんな事は何度世界が繰り返されても起こらないし阻止する」
「では勇者達よ。斧の七星武器の捜索を任せたぞ」
こうして豚王との話を終えて俺達は斧の七星武器の捜索任務を請ける事になりましたぞ。
とはいってもやる事は少ないですな。
国やギルドがパーティーと称して人を招集し、その場で俺達が姿を隠して剥奪を小声で唱えるだけですからな。
「愛の狩人が命ずる。眷属器よ、愛の狩人の呼び声に応じ、愚かなる力の束縛を解き、目覚めるのですぞ!」
これを何度唱えたかわかりませんな。
各地で人を集めてはお義父さんの頼み通りに使いました。
後はそんな祝いの席に出席した後、誘き出す訳ではありませんが、四聖勇者が一人になる様に人通りの少ない夜道を歩いたり、貴族の屋敷に案内され、他者の目が届かない所へ来ると襲いかかってくる輩がそれなりにいましたな。
「なんて言うか……俺は戦えないから相手出来ないけど、みんな大変じゃない?」
お義父さんが手料理を振舞いながら俺達を労ってますぞ。
俺も錬も樹も揃って呆れたように溜息をしました。
「まったくだ。勇者から武器を奪えると踏んで女共と徒党を組んで奇襲してくる連中があまりにも多い」
「しかも大体、態度が気にくわなかったとか因縁を付けてくるんですよ? ウンザリですよ」
「ですな。俺達の言う事の言葉尻を掴んでは喧嘩腰ですぞ。なので怒った振りをして武器を握りしめると『それ見た事か! お前なんかよりも俺が正しい事を証明してやる!』と、襲って来るのですぞ」
馬鹿の一つ覚えでは無いのですかな?
当然返り討ちですぞ。
「でも、大体わかってきましたよ。大抵、何かしらの分野で成功を収めた貴族の子供や冒険者が大半ですね」
「フォーブレイの連中も把握し始めたみたいだ。ここ二十年以内は天才が多く排出されているそうで、筆頭はタクトだったらしい」
「で、大体がその天才と呼ばれる貴族と最近、頭角を現した出自不明の突然姿を現した冒険者の様ですぞ」
「どこかで聞いた様な話だね。ただ……そんな主人公にしても色々と足りない様に感じるよ」
「どう違うんだ?」
錬がお義父さんに尋ねると樹がお義父さんと視線を合わせてから説明しますぞ。
何が違うのですかな?
「分析力ですね。自分が何を仕出かしているのかの自覚が無いんですよ。世界が大変だという状況で波に挑む事なんて考えず、自分勝手に行動し、気にくわない奴をどうにかして排除する事ばかりなんです」
「勇者に協力して世界の為に戦うという考えが無いのはちょっと小説とかの類とは違うと思うんだ」
「分析力があっても困りそうな要素だな」
「まあね。土壇場で裏切られたらどれだけ困るか……多分、そういう人も居そうだね」
「ですが目安が無い訳じゃありませんよ。だいぶわかってきました」
「え? 樹は心当たりがあるの?」
「それは俺もわかってきたぞ」
「俺はわかりませんな。来るものはデストロイですぞ!」
俺の返答に錬と樹は呆れた様な声を出しました。
なんですかな? その反応は。
最初の俺や錬、樹も似た様な物なのでデストロイしても良いですぞ。
「仮に外れで、勇者に因縁を吹っ掛けただけの貴族も居ない事は無いんですよ。ですが、そういう方には共通点があるんです」
「共通点?」
「そうだ。喧嘩を売ってきた、異世界人や黒だと思う貴族の子供の場合は、間違いなく近くにいる」
「それって……」
お義父さんも何か気付いた様ですぞ。
誰の事ですかな?
「ああ、風向きが悪くなると裏切って取り入ろうとしてくるクズが必ず出てくる。それが証拠だと思う」
「元康さんの話す、最初の世界の尚文さんじゃありませんが……女性が怖く感じますね」
「状況から考えてメルロマルクのあの王女もそれと同等だったんだろうな」
「……なんだろうね。この共通項。そして神を自称する者の暗躍……ドンドン臭くなってくるよ」
「波とはどんな現象なのか……その謎の解ける日が来る事を祈るしかない」
「どっちにしても斧の七星武器の捜索をしてから……ちゃんとした所持者を見つけていくしかない」
「そうですね。僕達が信じられる……相手に七星武器が渡る事を祈りましょう」
そんな矢先でした。
フォーブレイの地方に集められた貴族の子息と冒険者を集めた会場での事ですぞ。
フッと光が俺達の方向へと飛んできました。
「な、何!?」
「奴ですぞ!」
俺が斧の七星武器を剥奪し、その持ち主であった貴族の息子を指差しました。
タクトと似た様な経歴をしている、最近領地の経営が上手くなりつつあった者の三男坊だったそうですぞ。
「ブブー!」
やはり何匹か豚を囲っている様ですな。
「七星勇者殺害の容疑で……逮捕します!」
樹が斧の七星武器を隠し持っていた貴族に対し、銃口を向けました。
 




