別人
「二つ隣の町では……そのようです」
「ギルドは町単位で情報管理があるからね。アレかな、無名のこの町に来て仕事をしようって所かな?」
「それなら尚更有名にならなきゃいけないのに、何故勇者から逃げる?」
「冒険者としてはおかしな話ですね。むしろ媚を売った方が良いのでは?」
「言われて見れば確かに……」
何やらお義父さん達が首を傾げています。
そんなに不思議な事ですかな?
「気にし過ぎではないですかな?」
「そうなんだけどねー……って注目してもらおうとして、交渉に巻きこまれてる? 実際、俺達が気になっている訳だし」
「かもしれませんね」
「だな。あんな騒ぎは、冒険者なら良くあるだろ」
お義父さん達はあの冒険者の事は意識の範疇外に置こうと思っている様ですな。
しかし錬が複雑そうな顔で、話を続けました。
「ただ……あのユータとかいう男、タクトと似てないか?」
「……まあなんとなく」
「僕もそう思います。三人しか連れてませんが、周りに複数の女性がいると言う点が気になります」
おや? そう言えば確かにその辺りは似ていますな。
豚を引き連れている所は同じように見えますぞ。
「いくらなんでもそれだけで疑うのはどうかと思うけど……」
「アレじゃないですか? 彼が投擲具の勇者という可能性ですよ」
「どうなんだろう? さっきの人が投擲具の勇者であってますか?」
お義父さんが顔を知っている者に尋ねますぞ。
こやつ、居たのですか。
「完全に別人だと思います。声すらも異なりますので」
まあ本人だったら、既に言っているはずですぞ。
違うから何も言わなかったという事でしょうな。
「かといって魔法で顔も声も誤魔化せそうですよね」
「それを言ったら元も子もないだろ」
「何でも魔法で誤魔化せそうなのが問題だね。七星勇者を見つけるのに苦労しそうだ」
「元康さんがタクトから七星武器を奪った時の様に唱えたら良いんじゃないんですか?」
「アレは正式に選ばれた相手には効きませんが?」
前回の周回でクズに使った時に判明した事ですぞ。
おそらくは、不正な力で得た七星武器だからこそ出来る芸当なのでしょう。
もしくは最初の世界のお義父さんが仰っていたのを思い出すと、七星武器に見限られでもしない限り資格はく奪は無理だとか。
「となると潜伏している相手には効かない?」
「波に参加せず、世界を守らない勇者に資格があるんですか?」
「では今度試してみますかな?」
「いや、そもそもだ。アイツは白だろ」
錬がズバリとばかりに言い切りましたぞ。
「それはなんで?」
「良く考えろ尚文。俺達を含めて、勇者の特性を」
「あー……そうだね。各々選ばれた武器以外を戦闘じゃ使用できないんだ。さっきの試合を見る限りじゃ片手剣だったね」
「投擲具だからグレーゾーンじゃないのですか? 範囲広そうですよ」
「投げナイフなら聞いたことがあるけど、あんなに長めの剣を投擲具と呼ぶのは難しくない?」
「解釈次第ですが……」
基準が曖昧な種類の武器もありますからな。
例えば俺の場合はハルバートが槍か斧、どちらなのか? と言う物がありますぞ。
ちなみに槍のカテゴリーに入るようですな。
どちらかと言うと俺の槍は柄が長い武器と言うのが正しいですかな?
一部の棒なども扱う事が出来るのですぞ。
「投げれば何でも良いのならそうだが、元康、最初の世界とやらで投擲具の勇者はどんな武器を使っていた?」
確か樹と一緒に居たヤンデレ豚ですな。
前回のループではユキちゃんが投擲具に選ばれていました。
しかし、あれは応竜の復活という非常事態でしたからな。
更にユキちゃんが投擲具に選ばれてから、ずっと別行動をしていたので、どう使っていたのかを知りません。
なので、ヤンデレ豚を参考に話しますぞ。
「ブーメラン、投げナイフ、円月輪などですぞ。近接だと投げナイフで戦っておりましたな。投げ槍もあった様ですぞ」
「で、さっきの彼は片手剣でしたね。普通に振り回していましたし……見た感じだと投擲用の武器には見えませんでした」
「そう言う事だ。投げれれば何でも良いと言う物じゃないんだろ。それなら盾だろうと石だろうと何でも良い万能武器だ」
「そもそも彼が勝った時に一緒に居た女の子に剣を預けていたじゃないか」
錬と樹がポンと手を叩きましたぞ。
そう言えばそうでしたな。勇者の武器は基本的に体から離れません。
なので、あのコーラが勇者であるという可能性は無くなりましたな。
「あー……そうですね。つまり彼は武器を借りていたと言う事になりますね」
「自身で携帯しないのはなんでだ?」
「荷物持ち的なポジションか、ラフな格好で……とか?」
「鍛冶屋に研いでもらおうとしていたのかもしれませんよ?」
「どっちにしても手元から武器を外すことが出来るのなら白だろうね。タクトが武器を隠し持つ事が出来たから一概に言えないけどさ」
「アイツは武器を出す時に何処からともなく魔法のような力で呼び出していたよな」
「うん。だけど他人に受け渡ししてる時点で違うだろうし、あんまりしつこく考え過ぎるのもね。疑わしいと言うよりも、注目しろって雰囲気になってるから、話題を変えようよ」
お義父さんの指摘に錬と樹は頷きましたぞ。
そうですな。
もう二度と会う事も無いでしょうし、コーラなど覚える必要も無いですぞ。
「……そうだな。縁があればまた会えるだろ。別に害がある訳じゃないし、強い奴が多ければ世界の為にもなる。それに俺達はやらなきゃいけない事もあるしな」
「ですね。早く七星勇者を見つけなきゃいけませんからね」
「最初の世界だとタクトに殺された七星勇者を助けられたら良いね。召喚された勇者らしいし、話せばわかりあえると思いたいよ」
お義父さんは前回のお義父さんが、世界を見たいと言った時と同じ表情をしておりますぞ。
「錬や樹、元康くんに信じてもらえた様に、勇者同士はわかりあえると七星勇者に教えたいんだ」
「尚文さんは優しいですね」
「もう一人の錬だと思ったら親近感がね」
「そこから入るのか……まあ、良いだろう」
錬も若干呆れながら答えますぞ。
「お話長いなの」
「ながーい」
ライバルとサクラちゃんが言いましたぞ。
おっと、そんなに長話をしていましたかな?
「時間、大丈夫?」
助手がお義父さんに心配そうに尋ねます。
そうですな。何だかんだで俺達は日々波との戦いもあって忙しいのですぞ。
勇者探しという面倒な仕事をササっと終わらせて……よくよく考えて見ればフィロリアル様を沢山育てたいですぞ。
忘れていた訳じゃないのですが、フィロリアル様の育成計画をそろそろ始動するべきではないですかな?
「勇者探しは諦めてフィロリアル様をもっと沢山育てて波に挑むのはどうですかな? そう……100人でも1000人でも俺は育てますぞ!」
「素晴らしい考えですわ、元康様!」
「楽しそうー」
ユキちゃんとコウが俺の意見に賛同しますぞ。
対照的に錬と樹が不服そうな顔になりました。
「やめてください! 尚文さんが過労で死んでしまいます!」
「そうだ! 尚文を育児ノイローゼで殺す気か!」
「二人ともその意見はどうなの!?」
錬と樹の言葉にお義父さんがツッコミを入れますぞ。
「千匹のフィロリアルなの? ならガエリオンはなおふみと万匹の子供を産むなの!」
「ガエリオンちゃん、いい加減にしないと怒るよ?」
お義父さんが空気を読まないライバルをゆらりと睨みましたぞ。
「な、なの! フィロリアルがそんなに居ても迷惑なの!」
「うん。食費とか大変」
「楽しそうだけど、フィロリアルを育てるのと勇者を探すのって両立出来ないと思う……」
モグラと助手もですかな?
ええい! 俺はフィーロたんを見つけるまで諦めないのですぞ!
「と、とりあえず……この話は保留にしておこうか。元康くんも計画的に運用してね?」
「わかりましたぞ!」
なんて感じで俺達は次の……コーラが有名らしい町の方向へと移動したのですぞ。




