ラーなんとか種
「なるほど、竜帝というのはそういう生態を持っていると。後で説明できるかしら?」
「その点は大丈夫だと思います。ただ、一緒にいたウィンディアちゃんと言う子にはこの事を知らせない様にしてください。親の方のガエリオンの教育方針らしくて」
「面倒な教育をしているのね。わかったわ。私の研究にも一役買いそうだし」
主治医はそう言ってお義父さんの願いを聞き入れてくれました。
さすが主治医。物分りが良いですな。
「で、ここから先は世間話になるけど、未来を知ると言う槍の勇者は私がどんな研究をしているか知っているのかしら?」
「また聞きですが知ってますぞ」
お義父さんやフィロリアル様から聞いておりますぞ。
「波にも役に立つ、最強の魔物を作るのが目的なのですな」
「なんかすごい目標が出てきた!?」
お義父さんが主治医の顔を見て言いました。
そんなに驚く事ですかな?
俺としてもフィロリアル様が強くなりたい、というのであれば最強のフィロリアル様を目指すのもやぶさかではないですぞ。
なので、気持ちは理解出来ます。
「……間違ってはいないわね。そうよ、私の夢は魔物の地位向上と強い新種の魔物の創造よ」
「フィロリアルやドラゴンみたいな有名になる魔物を作りたいとか聞きましたな」
「大体間違っていないわね」
「ゲームとかだとやり込んだ覚えがあるけど……」
お義父さんも主治医の研究には大分協力していたそうですぞ。
研究もかなり進んでいたと思います。
実際、あの頃の俺達は戦力が充実していましたからな。
「で? 未来ではどんなモノを私は作ったのかしら?」
「お義父さんと一緒にバイオプラントの研究をしておりましたな」
「そんなマッドな研究を俺もしてたのか……概要だけしか聞いてなかったよ」
お義父さんから何やら新事実的な顔をされましたぞ。
前に話しませんでしたかな?
「他にも色々とやっていたのを覚えていますぞ」
なんでしたかな?
背景くらいの認識でしたが、お義父さんが作り出した魔物を主治医が色々と研究していた様な気がしますぞ。
「後は、確か新種の魔物が存在しましたな」
「へー……どんな魔物だったのよ? なんて名前になったの?」
主治医が身を乗りだして聞いていますな。
外見は思い出せますが、名前の方は記憶が混濁していて良く思い出せません。
そもそも種類も多く、沢山名前があった覚えがあり、覚えていませんな。
「ラー……なんとか種、ですぞ」
「元康くん……ほとんど覚えてないんだね……」
「お義父さんが作り出したのは覚えていますぞ。性能面ではフィロリアル様達と同等だとか聞いた気がします」
お姉さんを参考に作り出したのでしたかな?
城の様な大きなバイオプラントの中で一週間も掛けて作られたのですぞ。
あんまり詳しく知りませんでしたがフィロリアル様とはとても仲が良かった覚えがあります。
総じて大人しい生き物だったはずですぞ。
「俺が? どんな生き物だったの?」
「一見するとタヌキのようなアライグマのような、それでありながら変身してクマの様になったりと中々に強かった覚えがあります」
「へー……」
「幻術とかを使いこなす様でしたな。ただ、あんまりフィロリアル様のような天使……ライバル等も含め、人化まではしませんでした」
俺はスケッチでお義父さんが作り出した魔物を描いてみせますぞ。
フィロリアル様ではないので、若干やる気と画力が低下しますがな。
「わー、なんか可愛いデザインだね。こう……隣に住む妖怪みたいな感じで」
「お義父さんが気に入っていたのを知っていますぞ。お義父さんがその魔物を可愛がる姿を見て、フィーロたんは羨ましそうにしておりました」
「それを聞くとなんか悪い気がするね……」
お義父さんはサクラちゃんを手招きして撫でますぞ。
サクラちゃんは嬉しそうにしております。
「こんな生き物をねー」
「ちなみに主治医の大事にしている魔物もこれになっていましたな。液状化したり、換装したりと汎用性があったようですぞ。独自に生体戦車を作っておりました」
大きなフィロリアル様の武器としても使われていた様な覚えがありますぞ。
そういう意味ではかなり有能な研究者なのですな。
タクトとの大きな戦いにて、三つの主戦場があったのですが、その一つで活躍したそうですぞ。
「……へー、みーくんの事を知ってるんだ? じゃあ未来から来たって話もありえるのかもしれないわね」
「とはいえ、どうやってこんなの作り出したんだろ? 全然想像できないや」
あの時のお義父さんはカースシリーズに浸食されておかしくなっていたそうですからな。
主治医も舌を巻くほどの偉業を色々とやったそうですぞ。
ですから今は出来ないでしょうな。
「ま、無いモノを望んだってしょうがないわね。実現するには材料が足りないだろうしね」
「だよね。見当もつかないし」
「研究結果もそうだけど、なんで私が盾の勇者と会っていたのか経緯が知りたいわね」
「俺もそこまで知りませんな」
主治医は俺が村に来た頃には既にいましたからな。
経緯に関しても詳しくは知りません。
「フィールドワークのついでに俺の領地を見て押し掛けたとか?」
「そんな感じではなかったかと思いますぞ」
「後は……何かしらの理由だね。ラトさんには何か心当たりない? もしかしたら……とかの可能性」
「そうねー……近々ホムンクルス研究所と研究内容で勝負、と言うかコンクールがあるわね。ただ、それが原因とは考え難いし……」
うーん、主治医がフォーブレイからお義父さんの領地に来た理由が思い当たりませんな。
これだけ優秀な主治医がフォーブレイからまだ発展途上だったお義父さんの領土へ来る理由が想像できません。
「待って、ホムンクルス研究所? 確か元康くんがフォーブレイの豚――失礼、王様にしたよね?」
「おお! そうですな」
「あー……そうね。ホム研は王様の命で取り潰しになったんだっけ」
主治医は面倒そうに頭を掻きながら遠くを見つめていますぞ。
「あっちには私程じゃないけど有能な子がいてね。毎回勝負するのが楽しみだったんだけど……」
「うわー……」
お義父さんが申し訳なさそうに声を漏らしますぞ。
良いのではないですかな?
どうせタクト一派の連中が生息していた場所ですぞ。
赤豚の偽者を作って死を偽装までした部署ですからな、潰れて当たり前ですな。
「少し前の合同研究で、あいつの研究が予想よりも全然進展していなかったんだもの。呆れたわ」
「あいつ?」
「ホム研の方にいる私が認めた子よ。いつも研究内容で争うのを楽しみにしていたんだけどね。ここ最近、恋愛に現を抜かしてたみたいで、檄を飛ばした所だったのよ」
恋愛?
俺の疑問と同じく、お義父さんがなんとなく察した様ですぞ。
「わかった。本来、何が起こったのかなんとなくわかったよ」
「ん? 何が?」
「ラトさんが俺の領地に来た経緯とその原因かな」
お義父さんは何度も頷いてから俺と主治医に説明しますぞ。
「その子って女の子で、恋愛の相手って……七星の鞭の勇者じゃないですか?」
「あら? 良くわかったわね。半年くらい前、アイツと一緒にフォーブレイの錬金術シンポジウムで顔合わせしたのよね。私の研究内容を見て懐疑的な見解を出すと同時に、妙にキザったらしく声を掛けてきたのを覚えてるわ」
「やっぱりね。元康くんの話を参考に、タクトの行動を想像すると……」
お義父さんはブツブツと考えを呟きながら纏めた様ですぞ。
おお、段々と見えてきましたな。
俺も大体わかってきました。
「タクトの発明品を押収した俺達だから言えるけど、ミリタリー的な物が多いんだ。で、未来の話を聞くとラトさんは生体戦車なんて物を作ってる。間違いなく研究者として敵になる可能性が高い」
「何? じゃあ鞭の勇者の一声で私は追い出されたの?」
「ううん。アレだけ美女を集めたタクトの事だから、ラトさんに声を掛けてどうにかして口説こうとはしたと思うよ」
「あー……」
主治医が何やら頷いておりますぞ。
心当たりがある様ですな。
「妙にここに足繁く通っていた時期があったわね」
「で、ホムンクルスの研究所の子とは上手く恋愛していた。そしてコンクールではラトさんが優位に立ちそうとなったら……」
タクトの事ですからな。
権力を使って強引に主治医を追い出すのは容易く想像できますぞ。




