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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 槍の勇者のやり直し
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謙遜

「わー! 楽しそうー」

「素晴らしい音色ですわね」

「コウも歌いたいー」


 フィロリアル様が樹の演奏に興味を持って楽団の方に近寄っていきますぞ。

 樹は演奏をしながらフィロリアル様達の方を見て微笑み、何度もループする曲を引き始めました。

 最初は聞き入っていたフィロリアル様達でしたが、やがてみんなしてハミングし始めましたぞ。

 やがて音程を上げながら樹の演奏とフィロリアル様達の美声がオーケストラとなって行きます。

 辺りの魔力が活性化して行くのを感じますぞ。


「そういえば、複数人で唱える魔法って合唱魔法って言うんだよね」

「もしかしたら語源はそこから来ているのかもしれないな。今の樹を中心にフィロリアル共と楽団の連中が魔法を唱えたら、凄い魔法が飛びだしそうだ」


 魔法の活性化によって辺りに漂う龍脈から光り輝く粒子が瞬いております。


「龍脈が輝いているなの!」

「綺麗……」

「音色も凄いな。合成音で聞きなれたはずなのに、生演奏を聞いた時は別の感動があった」

「この世界に来てから酒場で結構、生演奏とか歌声とか聞いていたけど、樹の演奏ってそのどれよりも質が高いんじゃない?」


 それほどまでに樹の演奏する曲に周りの者たちは魅入られていましたぞ。

 曲は終わりにさしかかり、超絶技巧と呼ばれるような複雑な指の動きを樹はした後、一際強くバイオリンみたいな楽器を弾いて終わらせました。

 最初は誰もが沈黙しておりましたが、やがて拍手喝采が巻き起こりましたぞ。

 樹は楽団の人に楽器を返却したあと俺達の元に戻ってきました。


「食事は終えましたか?」

「いや……樹の演奏がすごくて魅入っていたけど……」

「なんでですか……僕の演奏なんか聞いて、魅入るなんて御世辞言わなくても良いですよ」

「いやいや、樹、お前楽器の演奏が得意だったのか?」

「何を言っているんですか?」


 この反応、見覚えがありますぞ。

 錬も心当たりがあるのかお義父さんを睨みますぞ。


「無自覚な戦闘以外の才能……間違いなく尚文の料理と同じじゃないか!」

「言われないと分からないと言うのはそうかもね。樹ってもしかして一度聞いた曲とか再現出来る?」

「そんな簡単な事を何不思議がっているんですか?」


 さも当然の様に樹は答えました。

 こやつ、まさか……ですぞ。


「いやいや、普通は出来ないだろ! ああもう! 樹、お前は仲間だと思っていたが違ったんだな」

「なんで錬さんが怒っているのか理解できないんですが……」

「とっても楽しかったー」

「ですわ!」

「また歌おー」


 樹にフィロリアル様達が楽しげに声を掛けますぞ。


「ねえ樹、もしかして樹って音楽の才能があるんじゃないの?」

「そういう話は聞きませんが……ああ、昔は趣味で少しやってましたけどね」

「完全に尚文の料理と同等だと自覚しろ」


 錬のうらみがましい視線が気になりますな。

 俺はどうなのですかな?

 特に目に見えた才能がありますかな?

 とは思うのですが、今の錬に言うのは逆効果とかお義父さんに怒られそうなので黙っていましょう。


「樹、その楽器を弾く才能は、もしかして異能力の次元なんじゃないの?」

「いえいえ、才能と異能力は違いますよ。皆さんは知らないでしょうが、音を司る異能力はランクが低い物でもこんな次元じゃありませんから」


 樹は頑なに、不自然なほど謙虚にそう答えました。


「それに、異能力者は該当能力で評価されるものです。仮に皆さんの言う才能が僕にあったとしても、僕の異能力では評価されない才能ですよ」


 そうさわやかに答える樹に、若干イラっとしたのは俺だけじゃないと思いますぞ。

 謎の謙遜ですぞ。今までの樹からは想像も出来ません。

 何故自身の才能にだけそんなに控えめな態度なのか、理解できませんな。

 能力があるだけマシですぞ。

 俺の様に顔しか取り得が無い奴よりマシですぞ!


「とはいえ、皆さんがそう言うのでしたら尚文さんみたいにアピールしてみましょうか。これで一歩リードですね」


 何やら樹が不敵な笑みを俺と錬に向けますぞ。

 アレですな。フォーブレイへ向かった最中にお義父さんに色々と負けていると言う所に対して、切り口を見つけた顔ですな。


「上手く使えば魔法の威力が向上するなの! 龍脈の活性化もあってきっと魔物も強くなるけど経験値も沢山手に入るなの!」


 ライバルもご機嫌に答えます。

 そのまま樹に懐けですぞ。


「じゃあ樹は仲間のLv上げをする時はずっと演奏だな。フィロリアル共に乗って射撃をしながら、楽器を弾け」

「なんという西部劇」

「では俺はロープを持ってきますぞ」

「なんでですか! そもそも、そんな状態で弾ける訳ないじゃないですか!」


 とまあ、食事を終えて寝室に戻るまで錬と樹は言い争っていましたぞ。



「さ、ガエリオンちゃんは竜舎で休むんだよ」


 寝室に戻った所でお義父さんが助手と一緒にライバルを外の竜舎に送ろうとしています。

 しかしライバルが不満そうに言いました。


「ガエリオンだけなんで竜舎で寝なきゃいけないなの!」


 ライバルは毎度駄々をこねますぞ。

 その度にお義父さんはライバルが寝つくまでは竜舎などで待っているようですな。


「あんまりワガママ言わないでガエリオン。私も一緒に寝て上げるから我慢して」

「うー……とは言いつつ、ここ最近、がんばって覚えて設定した魔法をなおふみ達に見せるなの!」


 そう言うとライバルは羽を大きく広げてから何やら魔法を唱えている様ですな。

 やがて光の繭となって輝いておりますぞ。


「え? な、何をする気?」

「もう晩いのに元気な奴等だな……」

「ですね」

「騒がしいな。何をしているのだ?」


 部屋の外で見張りをしていたエクレアが騒ぎを聞きつけて入ってきますぞ。

 問題が起これば駆け付ける。

 騎士として殊勝な心がけですな。


「いやね。ガエリオンちゃんが駄々をこねちゃって……何か仕出かそうとしてるみたいなんだ」

「ウィンディア殿、どうにかならないのか?」

「どうにかしようと思っているんだけどー……」


 助手も対応に困っていると言う状況ですな。

 モグラに関して言えばベッドの上でオロオロとしております。

 ユキちゃん達フィロリアル様はその様子を目を細めておりますな。


「元康様! ガエリオンがやらかしましたわ!」

「では仕留めますかな?」

「どうしてそんな物騒な方向に考えが向かう訳? と言うかユキちゃんはガエリオンちゃんが何をしているか分かるの?」

「サクラもわかるよー?」

「じゃあ何をしているの?」


 お義父さんがサクラちゃんに尋ねるのとほぼ同時でしたかな?


「なのー!」


 ライバルが光の繭を消し飛ばして姿を現しましたぞ。

 そこに立っていたのは……サクラちゃんと似た背格好をした竜の羽を生やした子供でした。

 髪は赤く、長い髪ですな。

 なんとなくですが纏まり方からして尻尾を連想しますぞ。

 そんな長い髪です。

 顔の作りは悔しいですがフィロリアル様達に匹敵するでしょう。

 羽の形状が悪魔っぽいので悪魔っ子とでも言うのでしょうか。


「やったなの! なおふみ! ガエリオンは人化の魔法で変身出来たなの!」


 ご機嫌にライバルはくるくると回りながらアピールしますぞ。

 助手はその様子をパクパクと何度も口を開け締めしながら指差しております。

 お義父さんを含めた錬、樹はそこまで驚いている様子はありませんな。


「ユキさん達の前例がありましたし、タクトの竜帝は人化していましたからね。想像できない事ではありませんよ」

「だな。もはや人化程度で驚いたりはしない」

「まあ……しかし、なんで幼女?」

「お姉ちゃん、ガエリオンの姿どう? これでなおふみを悩殺出来るかなー? なの!」


 ライバルは謎の悩殺ポーズを取って助手に聞いておりますぞ。

 助手の方は理解の範疇から超えているのか、それとも呆れているのかと言った表情になっておりますぞ。


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